Ares を覚えていますか
B級SFゲーム分科会の原点

#1 ワールドキラー
Aresを覚えていますか?

1980年に,シミュレーションゲーム界の巨人SPI社が創刊したSF/Fゲームの専門誌です。

ヒストリカルシミュレーションゲームの専門誌として,毎号,付録ゲーム付きで刊行されていたS&T誌に習って,SF/Fの付録付きの専門誌として登場しました。以来,SPIの崩壊までに12冊を刊行しました。
広告 SPIゲームズ
TSRの手でディストリビュートされた12号を最後に,13号からはSPIのマークが消え,その後,TSR−SPIの手で17号まで刊行されました。最後の号には,「最終号」とだけ記載されているため正確にはわかりませんが,1984年の春が最後ではなかったかと思われます。

4年間,17冊という歴史は,決して長いものではありません。けれども,SF/Fゲームというジャンルが,ヒストリカルシミュレーションと,ファミリーゲームの間で,確固とした位置を築いたことがないことを考えれば,堂々とSF/Fの専門誌が4年も続き,幾多のゲームを世に出したことは記憶しておくべきでしょう。B級SFゲーム分科会の発起人であるわたし自身は,Aresこそは「B級SFゲーム分科会」にとっての原点であると思っています。
#2 生物探査船パンドラ号の遭難
SPIというメーカーを20年の歳月を経て振りかえったときに,他のシミュレーションゲームメーカーと比較してSF/Fゲームについて次のようなことが言えるように思います。

1:SPIは,近未来架空戦とSF/Fゲームに非常に力を入れていた
2:SPIは,ボードウォーゲームからRPGへの端境期に位置していた
#3 バーバリアンキングス
1があってこそ,Aresという雑誌が登場しました。
2の事情があって,SPIのSF/Fゲームはボードゲーム,RPGゲーム,両者の中間的な実験形態など,多様なタイプのゲームを含んでいます。

雑誌の付録ゲームというのは,その性格上,実験的な作品が付きやすいものです。それに加えて新しいタイプのゲームの勃興期と重なったことで,Aresの付録ゲームは実験的なものが特に多くなりました。特にパラグラフ式のソリテアイベントをボードゲームの要素として組み込んだのは革新的だったと言えます。
#4 死のアリーナ
創刊号の付録ゲームは,SPIの重鎮サイモンセンのデザインした「ワールドキラー」でした。三次元宇宙空間戦闘のシンプルなゲームです。サイモンセンというとマップアートで有名ですが,抽象性の高い独特のゲームを作るデザイナーとしての側面も見逃せません。
この時点での「Ares」の規格はクォーターサイズマップ,100ユニットといったものでした。この規格は,スタッフの熱意によって徐々に拡大していき,ルールが別冊になったり,フルマップ,フルカウンターシート(200)のゲームが登場したりしていきました。また創刊号の巻末の広告には,SPIのSF/Fゲームがずらりと並んでおり壮観です。

創刊2号の付録ゲームは,SPIの社長であるダニガンのデザインした「生物探査船パンドラ号の遭難」でした。種々のBEMを捕獲して帰路についたパンドラ号が遭難し,BEMが徘徊する船内でエマージェンシーに対応するという設定です。まさにB級SFと言うべきでしょう。当時,スタートレックが放映されていた時期でもあり,ある意味でこの設定は当時のトレンドだったと言えるかも知れません。
#5 血の城砦
3号にはSF/Fゲームの歴史においてもっとも重要なデザイナーの一人,コスティキャンが登場します。この作品「バーバリアンキングス」はコンパクトながらもファンタジー戦争の要素が要領よく盛りこまれている傑作です。先日もプレイしたのですが,プレイアビリティを上げる工夫などの面では古さを感じところもあるものの,今でもなお輝きを持っている作品と思いました。TACTICSの付録にも付きましたので,持っている方も多いと思います。死蔵しているようでしたら,騙されたと思って一度プレイしてみてください。20年の歳月を越えて,第2版が出るという噂も出ています。

4号の付録ゲーム「死のアリーナ」は,SPI社がRPGという新ジャンルで出した二本柱の内のファンタジー側の柱「ドラゴンクエスト」の戦闘システムを独立させたものです。単体でプレイできるようなのですが,当時,RPGに関心のなかったわたしはプレイするキッカケを逃してしまい,今に至るまでプレイしていません。
#6 生物探査船パンドラ号の航海
5号の付録ゲームは,スミスの「チタデルオブブラッド」です。スミスは,後にVG社で南北戦争の傑作ゲーム「THE CIVIL WAR」をデザインした人物と思われます。彼もまた若き日にSPIにいて,こんなゲームをデザインしていたのです。
この「チタデルオブブラッド」は,コスティキャンの大作ボックスゲーム「ソーズ&ソーサリー」のマップの一角に実在しています。SPIのゲームの中には,背景史を共有しているケースが見られますが,その一例です。ゲームはランダムに引くチットで構成される城砦に入って行き,未知の男Xの邪悪な陰謀を阻止するというもので,姉妹作とも言うべき「デスメイズ」と同じシステムです。
#7 エスケープフロムハイブ
6号には生物探査船パンドラ号が再登場します。バターフィールドのデザインした「生物探査船パンドラ号の航海」は,後にイギリスの方のスティーブジャクソン(アメリカにいる方が有名な方のスティーブジャクソン)らがブレークさせるパラグラフブック形式を採っています。このゲームではヘクスマップとパラグラフを組み合わせており,プレイヤーに状況を提示する仕組みを作り上げています。このゲームでは,探検表と,探検対象の地形の組合せで分岐させるという比較的単純な仕組みを取っています。
これをソリテアの対戦相手として進化させた形が,後にVG社から出た二次大戦戦術級ゲーム「アンブッシュ」です。逆にRPG的な冒険を語るシステムとして進化させた形が,WESTEND社から「テールズオブアラビアンナイト」として登場します。
ラグナロク
7号では,SPIのSFゲームにおける常連敵役とも言うべきハイブが登場する「レスキュー・フロム・ザ・ハイブ」です。一糸乱れぬ集団意思行動を取る昆虫型エイリアンハイブは,当時,アメリカと冷戦関係にあったソヴィエト連邦のカリカチュアでしょう。デザイナーは,後にVG社でヴェトナム戦争の決定版ゲームと言われる「VIETNAM」をデザインしたカープです。
カープは,スミスと共に個人的には「世間での評価が実力に対して不当に低いデザイナー」と思います。ゲーム内容的には、カープらしいシステマティックな相互作用が悩ましい面白い小品となっています。惜しむらくは重要な部分も含めて全体にルールの書きが甘いところです。

8号はエサコフという他であまり聞かないデザイナーの作品です。「ラグナロク」は北欧神話の独特の名高いエピソード、神々の黄昏のゲームです。TACTICSにも付きましたのでプレイされた方も少なくないかも知れません。ラグナロクのシミュレーションとして良くできているので、北欧神話に興味があれば神話エピソードと対比しながらプレイすると良いかも知れません。ゲーム的には少し単調な嫌いがあります。
#10 ステンレススチールラットの帰還
9号は,「ドラゴンクエスト」と並ぶSPI社のRPGの柱「ユニヴァース」の戦闘システムが独立ゲームとして登場します。「デルタヴィー」です。この号では,ルールブックが別冊になっていて,しかもフルカラーの表紙を使っていました。Ares誌の価格などを考えると,かなり奮発したという気がします。
とまれ,これで,ファンタジーRPGの「ドラゴンクエスト」と,SFRPGの「ユニヴァース」の両方の戦闘システムがAres誌でカバーされました。SPIというとボードゲームメーカーという印象が強いですが,ファンタジー,SFの双方で柱となる作品を打ち上げており,Ares誌もそのサポートをしていたのです。残念ながら時流を掴めませんでしたが‥‥。
もう一つ指摘すると,皮肉というか,SPIのもっとも商業的に成功したゲームはRPGだったとダニガンが述懐していました。これは意外にもSFでもファンタジーでもなく,当時,大人気だったTVドラマ「ダラス」のRPGです。
#11 アルビオン
10号は,「ステンレススチールラットの帰還」です。デザイナーは,鬼才コスティキャン。ゲームとしては,パラグラフとボードの併用という「生物探査船パンドラ号の航海」と同系列のシステムを採用しています。ただし,こちらはマップがフルマップで,ルールは二色カラーの別冊子と,大幅にパワーアップしています。
「ステンレススチールラット」シリーズは,ハリーハリスンの宇宙版鼠小僧とも言うべきニュータイプスペオペだそうです。このシリーズはサンリオSF文庫から翻訳が出ていました。推理ゲームの要素を盛り込んだ新機軸ですが、成功のほどは今ひとつというところでしょうか。
#12 スタートレーダー
11号はリッチーの「アルビオン」です。このゲームはサイモンセンが手がけたマップのグラフィックアートの素晴らしさで著名かも知れません。サイモンセンがSPI末期にデザインしたマップ,特に「セントラルフロントシリーズ」の出来映えは有名です。この「アルビオン」は,「セントラルフロントシリーズ」と同等以上の出来で,特に海を含んだ大スケールマップであるため,非常に印象的なものとなっています。
ゲーム内容がマップに追いつかなかったのが残念です。

12号は,「スタートレーダー」です。少し遅れてSJG社から「アシモフのスタートレーダー」というボックスゲームが出版されたため,混同している方が少なくないようです。
#13 ダモクレスミッションAresの「スタートレーダー」は,カープがデザインしたもので,基本的には星間貿易のマネージメントゲームです。このゲームの星間貿易システムは,非常に良くできていて,この部分だけで本格的なマネージメントゲームにして出すべきではないかと思うほどです。けれども,Ares誌にSFゲームとして出てしまい,色物のように見られてしまってカープのデザインは正当な評価を今に至るまで受けていません。

13号は,「ダモクレスミッション」です。デザイナーは聞き慣れないゲーリー・クラッグ。ファーストコンタクトもののパラグラフ形式のゲームです。マップがなくなり,代わりにカウンターシートが2枚になっています。パラグラフの規模は,Ares誌のものとしては最大でした。
実際の内容は、クラークの「宇宙のランデブー」を彷彿とさせます。未知の文明が作ったアーティファクトに乗り込み、内部のシステムを探索し、可能なら解き明かして再起動しようというのです。
#14 オメガウォー
14号は,リッチーのデザインした「オメガウォー」です。いわゆるアフターホローコーストものです。アメリカは大国間核戦争で壊滅した後,国連の管理下におかれ,世界を破壊した愚行のために国連勢力に隷属させられているという設定です。
SPIのルールブックが,「まるで法律の条文のようだ」というのは,日米を問わず言われていたらしく,この号のルールブックは自然体での表記を目指しています。上手く行ったとは思えず,すぐに元に戻ったようですが‥‥。
#15 ナイトメアハウス
15号は,ゴシックホラーボードゲーム「ナイトメアハウス」です。デザイナーは,マーシャルという聞かない名前です。RPG色の強いゲームですが,意外にもパラグラフブックではなく,歴としたボードゲームでした。
このゲームは,S&T誌の「ワルシャワライジング」と共に,わたし自身が初めて完訳したゲームという意味で個人的には懐かしいものです。世の中は狭いもので,どこをどう巡ったか日本に3部しかないはずの訳本の持ち主に近年,逢うこととなりました。世界は狭いというか,このホビーがシュリンクしたというか‥‥。

16号は,「天翔ける十字軍」です。デザイナーは,クックです。原作は,ポールアンダースンの「天翔ける十字軍」です。ゲームは原作そのままの痛快なボードウォーゲームで,ある意味,B級SFゲームの原点に帰ったAresの最後の遺作と言えるかも知れません。フルマップ,フルカウンターシートの作品でした。
#16 天翔ける十字軍
17号は,「マングース&コブラ」です。これは独立したゲームではなく,SPI社のSFRPG「ユニヴァース」のモジュールでした。わたしは,「ユニヴァース」本体を持っていないので当時は購入そのものをせず,近年,全部の号を揃えて置きたいと思い直して購入しました。

最初に書いた通り,創刊当時のAresでは巻末広告はSPIの自分のところのSF/Fゲームでした。しかし,晩年は,FASAの「スタートレックRPG」の広告が巻末を飾るなど,SPIの状況を反映したものとなりました。また,単に他社品というだけでなく,RPGの広告であったことも象徴的でした。そして,最後の号がRPGのモジュールであったこともゲーム界の当時の流れを映していたと言えましょう。
#17 マングース&コブラ
最後の17号の巻末広告は,WESTEND社の「BEM」でした。「BEM」は,コスティキャンのデザインした傑作B級SFボードゲームです。しかし,これが(当時)新興のWESTEND社から出たというあたりにAresの,そして既にこの時はTSRの1ブランドになっていたSPIの終焉を感じさせます。

とは言え,17作の内容を振りかえってみると,その多様さに驚きます。SF,ファンタジー,ホラーなど題材も多様なら,ゲームシステム的にも作戦級のウォーゲーム,戦術級のウォーゲーム,パラグラフゲーム,RPGモジュール,RPG風のボードゲームなど種々雑多です。
広告 BEM
とかく雑誌の付録ゲームは,刊行ペースに追われてシリーズ化や,同じシステムの使い回しに走りがちです。けれども,Aresは短命であったためでもありますが,その全歴史において,いつも「今までの号でやったことがないこと」を目指しつづけていたように思います。

試みのあるものは成功し,あるものは失敗に終わりました。そのため,玉石混交であるのは否めません。けれども,SF/Fゲームに真正面から取り組み,その可能性を広く実験したAresの存在は,SF/Fゲームというサブジャンルの礎として多くの遺産を残したと思います。

ゲームシステムとして後に完成体を生んだものもあります。デザイナーとして後に歴史的な傑作を生んだ人もいます。振りかえってみたとき,AresはやはりSF/Fゲームの黄金時代だったと言って良いと思います。

B級SFゲーム分科会の原点は,ここにあるのです。

トップへのボタン
この記事と対の「去りにし日々,今ひとたびの幻」は読まれましたか?