去りにし日々,今ひとたびの幻
B級SFゲーム分科会の原点

SFマガジン 1982/4
SF小説からSFゲームへ

わたし自身がSFゲームに強く惹きつけられるようになったのは,SFマガジンがキッカケでした。

1982年の4月号に,当時「海外SF情報」という連載を持っていた安田均さんが,その第4回として「ウォーゲームじゃないよ,SFゲームだよ」という記事を書いています。

折りからウォーゲームブームで,日本でもタクティクス誌が創刊されたところでした。こうしたウォーゲームブームに対して,歴史上の戦争を扱ったゲームばかりでなく「SFゲーム」にも面白いものがあるのだよというトーンで紹介記事は書かれています。

この回では,「クワークス」,「デューン」,「火星の大元帥カーター」などのボードゲームが中心に紹介されています(「クワークス」をボードゲームと言うかどうかは微妙ですが‥‥)。次の回ではRPGが中心に紹介され,「海外SF情報」の枠であるため,主として海外ゲームの状況を魅力たっぷりに紹介しています。

画像はこの記念すべき号の表紙で,当時は加藤直之さんが描いていました。また,連載としては栗本薫の「レダ」と,萩尾望都の「銀の三角」という80年代のSFマガジン,と言うより80年代のSF全体の収穫と言っても良い活字,コミックの大作が掲載されていました。
SFゲームへの招待
「SFゲームへの招待」のカバーした広範なSFゲーム

この2回の記事は好評だったと見えて,翌年の1983年の8月号から「SFゲームへの招待」が連載開始されます。この新連載は表紙に惹句入りで刷り込まれました。いわく「今いちばんホットなSFシーン」。「SFゲーム」という存在が,彗星の如き突如として現れた魅惑的な存在であったことが窺われます。

今回,これを書くにあたってパラパラとめくってみて,自分の追憶の中にあった「SFゲームへの招待」が実態とはズレていたことに気づきました。本分科会を見ていただけばわかりますが,わたし自身は「SFゲーム」の中でも,ボードゲーム,カードゲームの部分に興味の中心があります。ところが,「SFゲームへの招待」は,そこに限定されずもっと幅広い範囲をカバーしていました。

そもそも,「SFゲーム」というサブジャンルは,他の多くのサブジャンルとは,コンセプト的に性質を異にしています。たとえばシミュレーションゲームという言葉は,「シミュレーション」の手法を用いて作られたゲームです。RPGゲームは,「ロールプレイング」の手法を用いたゲームです。ボードゲームは,「ボード」のあるゲームです。これらはゲームの仕組みや形態による分類です。

ところが,「SFゲーム」は,「SF」を題材にしたゲーム,「SF」的な要素を含んだゲームであって,ゲームの形態を問わないコンセプトです。ですから,SFゲームの中には,シミュレーションの手法で作られたもの(と言っても題材自体が架空のものなのですが‥‥),ロールプレイング,ボードゲーム,カードゲーム,コンピューターゲーム,ネットワークゲームなど,種々の形態のものがあります。

「SFゲームへの招待」は,そうした多様なゲームを幅広く,またバランス良く取り扱っていました。わたし自身は自分の関心のあったところの記憶ばかりが鮮明で,もっとシミュレーション系のボードゲームが中心だったように思っていました。

また,前身の「海外SFゲーム情報」と異なり,「海外」に縛られる必然性がなくなりました。そのため,国産ゲームにも思ったより誌面を割いていたのも,記憶から抜け落ちていました。
国産ゲームの活況
画像は,第2回の「キャラクターゲームの一部です。SPIの「シーボイガン市を食った怪物」もありますが,それ以外はツクダやバンダイのゲームが並んでいます。この前のページには,ツクダの初期ガンダム三部作や,スターウォーズのシリーズなども並んでおり,当時の国産メーカーの活況が良くわかります。

本物より面白かった「SFゲームへの招待」

SFマガジンの古くからの海外小説新作の紹介コーナーに「SFスキャナー」というのがありました。しばしばSFスキャナーの紹介は,紹介されている作品の本物よりも面白かったりしました。これと同様に,この「SFゲームへの招待」も,後になって実際に入手してプレイした本物よりも面白かったという記憶があります。
イルミナティ リプレイ記事
わたし自身は当時は学生でした。学生にとっては当時のゲームはとても高価なものでした。ですから,おいそれと買えるものではありませんでした。また,多くの海外ゲームは容易に入手できない時代でもありました。そんな時代背景もあって,憧れをもって読む「SFゲームへの招待」は,素晴らしく魅惑的な記事でした。

そんな中でも,第9回の「イルミナティ」のリプレイ記事は,素晴らしく面白かったのを鮮明に覚えています。

画像は,その中のプレイ風景のページです。テーブルの上で怪しげなカードを組織化してプレイしている手だけ写っているプレイヤーたち。この写真に,「いったいどんなに面白いゲームなのだろう?」と心を躍らせて読んだものです。

おそらく今に至るまで,この記事はわたしがもっとも数多く繰り返して読んだゲームリプレイ記事であることは間違いありません。

「B級SFゲーム分科会」と「SFゲームへの招待」のヴェクトルの違い

最終回となった1984年8月号の記事には,当時の時点でのSFゲームの年表のようなものが付けられています。ただ,この年表や最終回の記事を読み直してみると,「SFゲームへの招待」と,当「B級SFゲーム分科会」の間にギャップがあることも感じられてきます。
SFゲームへの招待 最終回年表
たとえば,この記事では「結局,こうしたことを考えるなら,RPGを中心としたSFゲームは,SFの楽しさ,エンターテイメント性の新しい分野を切り開いているといってよいと思う。‥‥」とあって,ヒストリカルシミュレーションの自己完結性に対するSFならではの発散性の証として,またSFゲームの当時時点での主軸としてRPGを考えていることが窺えます。

わたし自身としては,SFゲームの主軸がボードゲームからRPGへと移ったのは,ウォーゲームからRPGへというゲーム界での主流サブジャンルが移ったからであって,別段「SFゲーム」というサブジャンル自体がRPGという形態と強くリンキングしているということはないように思います。

近年の状況を見れば,SF/Fゲームの中心的な形態はRPGからさらにトレーディングカードゲームへと移った感もあったりした訳で(近い将来,また別のところへ移るかも知れませんが‥‥),元来,「SFゲーム」は「SFを題材とする」という題材でのみ規定されたサブジャンルで,形態から区分するサブジャンルの議論とは次元が違って相容れないように思うのです。

また,「SFゲーム」の中でも,ボードゲーム,カードゲームという形態を主として取り扱う当「B級SFゲーム分科会」は,RPGを主体として見る「SFゲームへの招待」の立場とはヴェクトルが明らかに違います。そのため,各論の個々のゲーム評価は,今となっては合致しないことの方が多くなってしまいました。

とは言え,それでもわたし自身にとって,ゲームというホビーの中でも特に「SFゲーム」に深くはまり込んだキッカケは,「SFゲームへの招待」にありました。今もなお,わたし自身にとって「SFゲーム」の原点の一角がここにあったことは確かと思っています。

HJによる海外SFゲームの紹介
TACTICS 3号
SFマガジンでの紹介記事とは別に,ゲームそのものもどんどん日本に入ってくるようになり,また国産ゲームも作られるようになったのがこの時代でした。その中でも,特に最初の「海外SFゲーム情報」以来,垂涎の的であった海外ゲームの上陸は素晴らしいできごとでした。

こうした海外ゲームの導入に力があったのはHJ社でした。HJによるシミュレーションゲーム雑誌「TACTICS」が創刊されたのは,1981年の暮れです。翌年の3号では,早速「SFゲーム」を特集した号が発行されました。

巻頭では,それまでに既にHJが紹介していたAH,SPIに加えて,新たにGDWが日本に上陸することが書かれていました。GDWの「インペリウム」や「アステロイド」を初めとしたSFゲームのラインナップが魅力たっぷりに紹介されています。

そのほかのSFゲームの記事としては,AH,SPIのほかにツクダのゲームの記事も載っています。また,「D&D」の記事が載っていて,付録ゲームがRPGの「ドンキーコマンド」(今となってはRPGとは呼ばないかも知れませんが‥‥)だったりするのは,後の経緯を知るものとしては感慨深いものがあります。
GDWのカタログ
余談になりますが,この時期の「TACTICS誌」は非常に渋い記事が多く,ヒストリカルシミュレーションの方の記事としては「セントラルフロントシリーズ」や「TITO」あたりの有用な記事がこの号にも載っています。特に「セントラルフロントシリーズ」の記事は,「訳者が大勘違いをして,全然ちがうゲームシステムを勝手にこしらえている」と言われた絶不評の日本語ルールブックをリセットしてくれる重要なものでした。

次の画像は,HJ社が上陸させた最初のGDW社のゲームのカタログです。小さいのでわかりにくいかも知れません。いちばん上の列の左から,「インペリウム」,「ダブルスター」,「ベルター」です。その次の列の左側の2つが「ブラットツリーレベリオン」と,「トリプラネタリー」です。

その下は,GDW社のコンパクトゲームシリーズ「120シリーズ」です。いちばん下の段の左から2番目が「ダークネビュラ」,4番目が「アステロイド」です。

最後の画像は,同様にHJが発行していたSPIのカタログのF&SFゲームのページです。
SPIのカタログ
いちばん上の段は,左から「スターフォース」,「フリーダムインザギャラクシー」,「シーボイガン市を食った怪物」,「デーモン」です。
次の段は,「デスメイズ」,「タイムトリッパー」,「バーバリアンキングス」,「死霊の夜明け」です。最後の段は,「ソーズアンドスターズ」になります。

いずれも懐かしい資料です。ここらへんのゲームは,シミュレーションゲーム全盛時のもので,出版時の発行部数が非常に大きかったため,米国の中古ショップあたりまで当たるつもりがあれば今でも手に入るものが少なくありません。

おかしな話しですが,むしろこれより数年後のウェストエンド社やメイフェア社のものの方が今となっては入手難のものが多かったりもします。

とまぁ,そんなこんなで雑駁に書き連ねてきましたが,1980年代の前半というのは,こんな時代でした。B級SFゲーム分科会の原点は,この時代にあるのです。

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