ダモクレス・ミッション
Damocles Mission / SPI - Ares
ショートコメント
●Aresパラグラフゲーム中、最後で最大の力作
●まさに「宇宙のランデブー」、太陽系内に進入してきたアーティファクト内部に入り探査する

The last and biggest paragraph-game of Ares-magazine game.
Like "Rendezvous with Rama", board onto the Artifact which visits our solar system.
published designed players time
1983 Gerry Klug 1 1-4 hours
 アーティファクトの外郭にハッチとおぼしきものが発見され、われわれはそこにシャトルを着けて進入した。そこにはなんと巨大なフリコが揺れており行く手を阻んでいた。ルイーズが工具を使ってフリコを停止させる乱暴な試みをしたところ、目的は荒っぽいやり方で達成された。アーティファクト全体が激しく揺れフリコは停止した。けれども激しい振動のために停泊していたスペースシャトルはアーティファクトを離れて浮遊してしまった。自動操縦による試みも空しくシャトルは星の海に消えて見えなくなり、われわれが地球に戻る術はこのアーティファクトの謎を解明して、可能ならば操縦することしかなくなってしまった。
 フリコの間を越えて進んでいくと、配管系統に満ちた部屋に入った。そこは薄暗く、うっかりなにかにつまずいてしまったところ、かすかに響いていた唸りが失われ静謐が部屋に満ちた。なにかの動力系統をうっかり停止させてしまったのでなければ良いのだが。
 さらに進むとそこに奇妙なものがあった。透明な台座が部屋の中央に置かれ、そこにボタンがあったのだ。それを押してみると、半透明の三次元立体地図が空中に現れた。このセクションの付近と思われるところを、我々は慌てて書き取った。これを有効に役立てられれば、このセクションの探索の助けになることだろう。
 地図を頼りに進んだ新たな部屋では奇妙な格子模様が床に描かれていた。偶然格子模様のある位置に立ってしまったせいなのか、船内の唸りが再び大きくなってきたような気がしてならない。船内のなにかの動力が活動を開始したのかも知れない。
 進入して10日目、球体が鎮座している部屋に入った。この球体はわれわれのマグネットメーターの発する時期でコントロールができることがわかった。この球体をコントロールすることで、さらに船内のなにがしかの機能がコントロールできると思われるが、まだアーティファクトの全容が見えないため、この制御機構を有効に使うことができない。けれども、これは大きな前進で、アーティファクトの謎の解明と、さらには制御、いや操縦して帰還する可能性を大きく膨らませてくれた。
 その二日後に今度は驚くべきものを発見した。コンソールと、その前に並んだキーボードだ。そして、キーボードにはなんと古書体ではあるものアルファベットが書かれていたのだ。このアーティファクトは人類文明となんらかの関係があるらしい。
 その先のブロックは強力な磁場のため人間には通過できそうになく、われわれは進路を変えざるを得なくなった。新たな進路では、巨大なジャイロスタビライザーが回転していた。その次のブロックで、われわれは三重螺旋の構造体を発見した。この構造体を工具で分解しようとしたルイーズは、強烈な放電で重傷を負い、われわれの任務で最初の事故被害者となった。放電はマクドウェルの機転で止められたので、われわれは幸いにも前進を続けることができるようになった。しかし、ルイーズを連れていくことはできたものの、破損した工具までは残りの3人では持参しきれなかった。われわれは止むを得ず工具を三重螺旋の部屋に置いていくことにした。必要なら戻ってくれば良いだろう。戻ってこれるならだが。実際、いくつかの通路はわれわれが通過した後に閉じてしまい、逆戻りできなくなったことがあるのだ。
 そして23日目にして、われわれは再び謎のキーボードに遭遇した。今度のキーボードは未知の文字が描かれていた。しかし、わたしは地球上のどこかでこの文字に似たものを見たような気がしてならなかった。「試しにどれかを押させてみてくれ」。メンバーは誰も反対しなかった。なにもしないでいてもこのアーティファクトの中で朽ち果てるだけなのだから。
 いくつかのキーを試すことで、別のキーが活性化するのがわかった。それによりキーの意味が多少なりとも理解できてきた。どうやらこのブロックはアーティファクトの全体を制御する重要な部屋のようだ。ただし、それを把握するためには天文学の知識が必要なようだ。わたしには理解不能な概念を示す数式やモチーフがいくつも出てきたからだ。また、このブロックの機能をフルに使うためには、このブロックに動力を供給するブロックをいくつか起動してやらねば、動力不足のようでもあった。
 しかし、われわれのアーティファクトに対する知識は確実に増えている。この新たな理解をベースに、さらに前進していくしかない。
ミッション・ログ

 わたしたち4人は人類を代表して謎のアーティファクトへと乗り込むことになった。
 宇宙飛行士のルイーズとマクドウェル、エンジニアのラコブスキ、そして、わたし記号学者のヘラーという顔ぶれだ。与えられた任務期間は50日、これが十分な期間なのかどうか、行く手に潜むものが未知の固まりなだけに誰にも判断は付かない。
ダモクレスミッションの設定とシステム

 「ダモクレスミッション」は、いわゆるパラグラフタイプのボードゲームの一作です。
 こうしたパラグラフ併用型ボードゲームの走りは、同じAresの「パンドラ号の航海」でした。パンドラ号の航海では、未知の惑星で遭遇するイベントがパラグラフにして隠してあり、これが探検する惑星の設定やヘクスの地形によって発動してくるというものでした。
 その後、こうしたパラグラフタイプのボードゲームは発展し、VGの時代に移ってから日本語版も出た第二次大戦戦術級ゲーム「アンブッシュ」を生むこととなります。
 この「ダモクレスミッション」は、「ステンレススティールラットの帰還」とともに、Aresにおけるパラグラフボードゲームの進化の過程を担った作品です。
 特に「ダモクレスミッション」はAresゲームの中で最大数のパラグラフを持ち、システム的にも凝った仕掛けを盛り込んだ野心作でした。
 「ダモクレスミッション」の設定は、1988年、アマチュア天文家が発見した謎のアーティファクトが、太陽系へと進入してくるところから始まります。この人工物とのコンタクトの試みは徒労に終わり、ついにスペースシャトルによるボーディング任務が敢行されることになります。
 全世界が注目する中、まったく未知の人工物に挑むという重圧の掛かる任務は、ダモクレスミッションと呼ばれることとなります。
 この設定を聞くと、クラークの「宇宙のランデブー」を連想する人が多いのではないかと思います。
 ゲームシステム的には、まずメンバーを選抜し、持参する機器を選びます。
 そしてアーティファクトの一角に取り付いて内部に進入し、ランダムに配置されたタイルを手持ちの機器で探索していきます。
 タイルと機器の組み合わせで様々なイベントが発動するようになっています。このときに、タイルはカラーコーディングされていて、ある程度、機能的なブロックごとにまとまっています。また、タイル間にはシステマティックな相互作用があり、探索する中でそのシステムを利用してアーティファクトのコントロールを把握していくことができるようになっています。
 このあたりは、「パンドラ号の航海」あたりより複雑な要素が盛り込まれていて、製作サイドの意欲的な試みが感じられます。Aresの面目躍如といったところでしょう。
 前半のリプレイから感じていただけたかどうかわかりませんが、このゲームは実際にプレイしていても、かなりワクワクさせられます。「パンドラ号の航海」ではどちらかというと、面白いことが起こる確率が少し足りない印象があったのですが、「ダモクレスミッション」ではドキドキワクワクさせてもらえます。
 パラグラフ系ボードゲームが好きな方であれば、「ダモクレスミッション」は是非ともトライしてみて欲しいゲームです。
ネガティブ・コメント

 わたし自身、昔から持っていながら、今回、このレビューを書くために掘り起こすまでプレイしたことがありませんでした。おそらくそういう方は少なくないのではないかと思います。
 理由として、BEMの表紙と、様々なBEMのカウンターが用意されていて、いかにもB級SFマインドを刺激してくれる「パンドラ号の航海」に比べて、「ダモクレスミッション」はいかにも地味で食指が伸びにくいように思います。
 そうした「掴み」の弱さは、このゲームの弱点でしょう。実際にプレイすると、予想を良い方に裏切ってくれるのですが。
 もう一つ挙げるとすれば、パラグラフが多目とは言っても、所詮258しかありませんから、リプレイアビリティには限界があります。とは言え、雑誌の付録ゲームとしては次の号が出るまでリプレイアビリティがあれば十分なわけで、そのガイドラインは満たして余りあると思います。
 なお、ランダムなシステムと戦っている都合上、必ずしも毎回、クリアできるルートがあるということにはなりません。未知の文明が作ったアーティファクトを解くことができずに撤収することになるのもまた「宇宙のランデブー」を彷彿とさせます。
 パラグラフ系のボードゲームはいくつかありますが、題材とプレイ感の異色さでは孤高の存在と言えます。その意味でも貴重なゲームで、SFゲーマーであれば機会があったら一度やってみて欲しいと思います。
関連ゲーム

BSMパンドラ号の航海
●ステンレススティールラットの帰還
●バーバリアンプリンス
スタートレックアドベンチャー
●テイルズ・オブ・アラビアンナイト