蘭の会

+5月号+

◆今月のおてがみ 和合亮一さんより

蘭の会のみなさま はじめまして

 和合亮一です。お招きいただきましてありがとうございます。

 現在、詩の時評を「現代詩手帖」と「週間読書人」の二誌で、また並行して、詩のワークショップや地元で詩の投稿番組(ラジオ)などをやり始めたので、たくさんの詩と向き合いつつ、毎日を送っています。そうですね、一ヶ月で三千篇ぐらいは軽く超えちゃうぐらいの量でしょうかね。それら一つ一つに何らかの感想を瞬時に形作り、文章にしたり話したりしなければいけない、という仕事をしています。そのような中で勿論、自分の詩の原稿も書いていますので、一ケ月に何度か修羅場が来ますね。詩について読んだり書いたりしない日は、現在はありません。みなさんは、どうですか? サイトの作品熱を見ると、テンションとしてはみなさんも僕も同じじゃないかなあと共感を常々抱いております。

 僕は、二十歳の頃に突然に、周りの人たちに「詩人になりたい」と言い始めました。友達にはハイハイと呆れられ、大学の教官には「そういうこと言う奴、懐かしいな」と呟かれ、両親には真剣に心配されました。

 「詩人」になるにはどうすりゃいいんだ? ていうか、なり方ってあんのか? 煩悶の日々でした。とりあえず、@スーパーの駐車場の警備のアルバイトをしながら、お金を溜めてワープロを購入。A一生懸命に一本指で、これまで書き溜めていた詩のメモを打ち込みながら何篇かの詩を完成。Bそれを次の日大量にコピーして、大学内で配布。C帰り道に自分のコピー誌が、道端で靴跡を付けられて捨てられてあるのを見て、絶句。そんなこんなで、途中で、めげてきてしまいました。

 そんな時に大学のある先生に、詩の添削指導をしてあげるから持って来なさいと言われました。自分を鍛えなおすつもりで、研究室の門を叩きました。いやあ、これが手厳しい。そのうちに相手にされなくなってしまいました。でもでも、この先生に見捨てられたらもうおしまいだと思って、この一篇に賭けてみようと思って徹夜で書いたものを持っていきました。なんというか、先生に持っていく時には、張り詰めた殺気のようなものがありましたね。先生は初めて詩らしいものを読んだ、とおっしゃってその一篇をおおむね褒めて下さいました。ここからが本当の弟子入りでしたね。 
 これが人生最後の一篇だと思って書いていたら、不思議な力を感じたんですね。こうなんというか、体験したことのないものがばーっと前に広がっていく、見えないのによく見えるビジョン。遺伝子や細胞が思考している(笑)といったら変ですけれど。これまでこんなこと、感じたことも考えたこともない、というものが死に物狂いで出来上がった。この時に、なんというか自分自身を構成しているもののレベルまで感覚が進んでいかないと、見えてこないものがあると確信したのですね。

 しばらくして、「飾粽」という同人誌を手に入れました。その雑誌に投稿欄があったのです。鈴木志郎康、藤井貞和、清水哲男、清水昶、阿部岩男、新井豊美…。どうしてもその雑誌の同人になりたくて、必死で投稿しましたが、一回目は落選。ああ、やっぱ駄目かと思った瞬間に、やっぱり来たんですね、ぐぐっと。さっき話したような映像と殺気みたいなものが。これだ、これぐらいのこと書かないと駄目だったんだ。新しいものの構想はすぐに出来て、その下書きを六十回ぐらいは手直ししましたかね。最初にイメージしたものとは大きく変わっちゃって、出来上がると思わず笑っちゃうぐらいでした。紙面に、とても気力がみなぎっている。大丈夫だと思いました。この作品は掲載してもらうことが出来ました。これぐらい自身が持てるレベルじゃなくちゃ駄目なんだな。それから半年後、ずっと送り続けていた何篇かの作品を気に入ってもらえて、同人になることが出来ました。実質的にはこれが自分のデビューでありました。

 どうして詩を書くのかと良くいろんな人に聞かれます。ここまで話してきたような体験を繰り返しているうちに、自分ではない自分が、遠くの方からやってきて、現在の自分を超えていこうとする感じといえばいいんでしょうか、そういうものが、物書きとして追い詰められてぼろぼろになった先で自分を、自分の生の先へと連れていってくれる。やみくもにそれを信じているから、書こうとするのだと思います。

 どんなに楽しいものでも悲しいものでも、作品として形にしようとする作り手のエネルギーが必ずそこに注ぎ込まれていきます。そこには書き手の命の躍動の時間があります。
誰の手に渡るのかも、作品として成立するのかも見当つかない。だけど、そこに賭けてみる、一か八か人生を勝負してみる。そういうのって、他にはないんじゃないのでしょうか。

 たくさんの人の手に渡ることは勿論大事ですが、「難しい」「売れない」などありきたりな尺度でここまで否定的に詩が語られてきたことは、他の時代と比較してみたとしても特徴的だったといえるでしょう。一つの時代的な偏見を受け続けてきたといえるでしょう。カンタンなもの、良く売れるものが良いことだ、という基準で進んできた八十・九十年代のひずみは現在も依然として主流となって続いています。しかし、その潮流が私たちに何も生み出さなかったといことに気づき始めているのも事実です。

 自分たちに根付くここまでの大量消費社会の思想から抜け出さなければ、本当の意味で、詩人の社会的な役割はありません。詩が「難しい」とか「売れない」という見方自体、もう古いよ、と特に若い人たちが軽く言ってのけてしまうようなムードを詩を書く現在の我々で作らなくてはなりません。ムーブメントを起こすためにはある程度、大人数で動かなければなりませんね。

 作家は職業ですが、詩人は職業ではありません。詩人と呼ばれている人はこれまでも、みな違う仕事で食べています。適職(糧を得る有償の仕事)と天職(糧を得ない無償の仕事)が別であることは、それだけ詩に自分の筆を独占させることができます。このようにもはっきりと、自分の生活から切り抜かれている時間と空間。消費社会に消化されない何ものかを引き継いで、受け継いでいくのは、詩の唯一の仕事なのかもしれません。詩人であるおかげで、本当の意味で純粋なクリエイターであり続けられる。僕はそこに自信を持っていきたいと思っています。

 何か行動を起こそうとする詩精神を「アクション・ポエジー」といいます(僕の造語です)。詩の未来は変わりつつあります。常にサイトも書物も、詩のフィールドとして何ら区別のあるものではないと思います。詩に向かう情熱を、ほとばしらせてみなさんも僕も生きています。機会を作っていつか、いろんなことを蘭の会のみなさんとお話しすることが出来れば、とても幸せです。       

◆和合亮一さん情報 

プロフィール

1968年 福島生まれ。98年に発表した第一詩集『AFTER』で第四回中原中也賞を受賞。現代に生きる青年の生理的な衝動の表現と、その将来性が高く評価された。99年には音楽性を重視した第二詩集『RAINBOW』を発表。本年初夏にはよりドラマ性を追求した、第三詩集を刊行予定。執筆以外にも、詩に関心のない人たちをも積極的に巻き込み、現代詩を活性化させることを目的とした『アクションポエジィ』と題する運動を展開し、朗読活動やワークショップなどを幅広く全国的に行っている。若手詩人たちを集めた雑誌「ウルトラ」の編集長を務める。歴程同人。
 
<主な経歴>

1992 現代詩手帖新鋭詩人に選ばれる。

1992〜1994 参加詩誌数十冊。朗読公演三十本以上。

1995 「詩の外出」(天王洲アイル)イベントに参加。

1996 7 「月光式螺子」公演(神田デルタミラージュ)

     11「詩の声」公演(原町市) 

1997 世界詩人会議(前橋市開催)にパネラーとして参加。

1999 第4回中原中也賞受賞(第一詩集「AFTER」)。

2000 湯田小学校(山口市・中原中也記念館主催)小学生にワークショップ。

2001 2「現代詩手帖」詩連載開始(2002.1まで)

     5 CSチャンネルEdge〜未来を探す〜にて、
       ドキュメンタリー番組放映(「未だ来たらざるもの」)。

     7 ジャパンエキスポ山口きらら博にて、朗読招待公演。

9 ジャパンエキスポうつくしま未来博閉会式歌「つかむ虹のかなた」
                        作詞担当。(作曲服部克久)

  11(〜) 草野心平記念文学館主催 詩のワークショップ講師
 
2002 2 湯田小学校(山口市) 小学生にワークショップ

     2 「ユリイカ」長編詩「BIRTHDAY」発表
     
     5(〜) ラジオ福島パーソナリティー(詩の投稿番組)

       連載誌

「現代詩手帖」で詩誌時評を、「週刊読書人」で時評(コラム)を、「プチタンファン」「STAGE」でエッセイを、美術ギャラリー機関誌「Infans」で若手美術作家との連続対談を連載中。

第一詩集「AFTER」(思潮社)

第二詩集「RAINBOW」(思潮社)

第三詩集 今夏予定

和合さんにお会いしたければ、ここに行け!ちぇきら!

「ポエトリアン2002夏 詩のワークショップ」
2002年8月5日(月)6日(火)7日(水) 2泊3日
福島県あづま総合運動公園研修室
詳しくは、ポエトリアン事務局(片野晃司さん)・ホームページまで。
http://po-m.com/wago/

和合さんよりコメント

 「ポエトリアン2002夏 詩のワークショップ」福島の吾妻山のふもとで、二泊三日の詩のワークショップを私が講師をさせてもらって、行います。詩を話す・書く・読む(朗読する)がテーマです。眺めが良くて、格安で、とても綺麗な宿です。夏の思い出を一緒につくりませんか。

◆ふみばこ


2001年

⇒10月号 ヤリタミサコさん

⇒11月号 さいとういんこさん
⇒12月号 いとうさん(poenique-詩の寄り添う場所-)

2002年

⇒新春号 上田假奈代さん(kanayo-net.com)
⇒二月号 寺西幹仁さん(詩学社)
⇒三月号 大村浩一さんGOBLIN黄金夜浩一と詩書き隊
⇒四月号 東直子さん直久

ふみばこよりお知らせ

二月号の寺西さん
詩学社のHPが開設されました
今月より推奨リンクとしてご紹介しておりますので、
ぜひ、詩学社のHPもご覧になってください。

⇒推奨サイトリンク集へ

◆5月号のこんてんつ

+詩集 「笑う」 
 
 初めての「動詞」
 女たちは、どんな顔をして笑うのでしょうか?
 
+Web女流詩人コラム とかげ 「ナイスアンバランス」

 ぽえにくのアカガミ係(笑)とかげさんによるコラム
 彼女の日常が覗けちゃうかもね
 
+批評の部 まな板の上にコイ♪
 
 総評はご好評につき
 幽霊会員撲滅キャンペーン第二弾 会員番号42番 琴生結希
 包丁はピカピカ♪
 
 まなコイ♪5月の特選めにゅう
 
 問い - 浅見 豊さん(忘れられた部屋・捨てられた手紙と詩
 妻→RPG→つよし- いとうさん(over the sin)
 光源 - うーささん(風の間奏曲にて詩作を公開中
 あるく - ちょりさん(world's end super nova)
 桜桃の味 - トノモトショウさん(快楽天使
 木螺子 - nonyaさん(DEKU in the attic)
 潮汐ラジオ - 森 康彰さん (Happy? Hippie!)
 時間 - 洛陽さん (Web自選アンソロジーにて詩作を公開中
 
 作品投稿総数15作品のなかより上記8作品を
 批評を添えて掲載させていただきました。
 選外の作品も、どれも素晴らしく
 皆様に御礼申し上げます
 
  

◆6月号のお知らせ

+詩集 「雨」

シーズンですねぇ、雨はお好きですか?お嫌いですか?

+Web女流詩人コラム

渦巻二三五 「切り取る」

◆批評の部よりお知らせ

まなコイ♪の投稿受付に関しての変更のお知らせ

 皆様に好評をいただいております蘭の会批評の部まな板の上にコイ♪において、毎月たくさんの作品を投稿して頂き誠にありがたく思っております。
 現時点の当会の投稿受付に於ける規程では多くの作品が時間外ということで選外になることが多く、また、投稿していただこうにも、翌日には締め切っているような状況では、多くの作品を読む機会を失っているのではないかと常々残念に思っておりました。
 そこで、来月より蘭の会は投稿期間を設け、その間に投稿していただいた作品の中から選抜れた詩を更新時に5作品から8作品を批評を添えて公開し批評座談会においての討論の対象としせていただきたいと存じます。

投稿期間 毎月15日午前0時より20日午後24時までとする



⇒投稿フォームへ (投稿規定をご確認ください)

◆蘭の会が誇る怪奇派 佐々宝砂の詩集が
 5月25日発売されますよー!

『仮想地下海の物語』 1800円(税別) 
詩の出版社ミッドナイト・プレスから発売されます
初版300部らしいので、急ぐのだ!
お問い合わせはこちらへ http://www.midnightpress.co.jp/


◆当会をご利用にあたって

蘭の会ではご来場の皆様にも
詩作を通して相互に交流していただきたいと思います
相互批判ではなく相互理解を
詩人として詩を愛することを忘れず
詩を読み書く喜びを享受しあえる場であるように

蘭の会るーるぶっく
投稿規定や利用規定などを必ずご確認ください




(ページ及びグラフィック製作 芳賀 梨花子)