トラベラー
Traveller / GDW/HJ
ショートコメント
●SFRPGの草分けにして今に至るも代替わりして連綿と語り続けられる壮大な未来史
The first great sci-fi RPG which is still alive and retold in an unbroken line.
published designed players time
1977 M. Miller, 4+ dependin on scenario
マーク・ミラーの偉大な未来史構造物

 わたし自身はRPGとしての「トラベラー」自体をプレイしたことがないので、本来であればこうしたレビューを書く資格はないでしょう。

 その一方で、RPG本体「トラベラー」を軸とするマーク・ミラーの巨大な未来史については、そのボードゲームの多くをプレイしたものとして、どこかでまとめて語っておきたいと思っていました。

 しばらく前にRPGamer5号で「トラベラー大特集」が組まれたことでもあり、この機会に「トラベラー」を軸にその派生ボードゲームの系譜をレビューしてみることにしました。

1973:トリプラネタリー

 「トリプラネタリー」は、1973年と他の作品よりかなり早くに出版されました。この段階では慣性移動という宇宙空間特有の移動システムを持つSFのシミュレーションゲームとしての位置付けだったと思われます。
 この段階では後の巨大な未来史はまだ構想されていなかったことでしょう。
 未来史的に見ても「トリプラネタリー」のシナリオ群は系統立てて整理されているとは言えず、後に構成された未来史との整合性もあまり高くありません。
ファイナル・コメント
 わたし自身、RPGを全くやらない訳ではなく、近年になって「パラノイア」のゲームマスターをやったりもしています。「トラベラー」を今に至るまでやらなかったのは、たまたま縁がなかったという他はありません。
 特に、最近、レビューを書くために「アザンティハイライトニング」や、「メイデイ」を改めて眺めて見ると、冊子を読んでいるだけでもとても楽しいことに改めて気付きました。

 マーク・ミラーのゲームデザインは、率直に言って玉石混交というのが妥当なところだと思います。けれども、その全体を通して「トラベラー」世界を構築した偉業は、やはりゲーム界では「ルーンクエスト」のグローランサと双璧であると思います。
 個々のボードゲームとしての評価はいろいろですが、そのどれをプレイするときにも背景に連綿と続く未来史のイメージがあることは重要です。このバックボーンが一本しっかりと通ってることで、プレイヤーの作品へのモティベーションは大きく上がり、多少の説明不足は他の作品との関連で補われてしまうのです。

 逆にそのことが個々のゲームの独立したゲームとしてのデベロップメントを甘くしたり、他との整合性を保つという制約を加えたりしている部分もあるかも知れません。
 良くも悪くもこの偉大な構造物は、マーク・ミラー自身をも、それをプレイする私たちをも捉えて強い影響下に置いていると思います。
関連ゲーム
トリプラネタリー
インペリウム
メイデイ
●スナップショット
ダブルスター
ベルター
●ブラッドツリー解放戦争
アザンティ・ハイライトニング
●アステロイド
●ダークネビュラ
●第五次辺境戦争
インベージョンアース
1977:インペリウムとトラベラー

 この年を「トラベラー」元年と呼んでも良いでしょう。
 「トラベラー」の初版が出版され、マーク・ミラーのボードゲームでも最高傑作と思われる「インペリウム」が発売されました。
 両者の間の位置関係はこの時点では確固としたものではなかったかも知れませんが、壮大な銀河帝国の未来史と、そこで冒険する冒険者の活躍というリンケージは意識されていたと思われます。

1978:メイデイ

 「トラベラー」のサプリメントとして発売されたボードゲームの最初のものは、120シリーズの「メイデイ」でした。
 ゲームシステム的には「トリプラネタリー」を、ビーム兵器とミサイル兵器の位置関係は「インペリウム」からの流れを受けており、別々のスケールではあっても一つの背景世界を描き出しているということが強く提示されました。
1979:スナップショット、
  ダブルスター、ベルター、ブラッドツリー解放戦争

 1979年には、フラットボックスの「ダブルスター」、「ベルター」、「ブラッドツリー解放戦争」の諸作品が登場しました。この辺りの作品はHJから訳付きで日本でも十分に流通したので印象に残っているゲーマーも多いでしょう。これに「トリプラネタリー」と、「インペリウム」を加えたフラットボックスのSFボードゲームのラインナップは、当時のSFゲーマーには目映いばかりの輝きを持っていました。

 「トラベラー」の日本語出版計画があったためか、前年の「メイデイ」と、「トラベラー」の船内戦闘システム部分である「スナップショット」はこの時の訳付き輸入のラインナップには入っていませんでした。

1980:アザンティハイライトニング
               アステロイド、ダークネビュラ
 1980年には120シリーズの2つの傑作SFゲーム「アステロイド」と「ダークネビュラ」が発売されています。この2つは、前述した5つのフラットボックスと共に訳付き輸入され日本でも大いに人気を博しました。

 「トラベラー」のサプリメントゲームとしては、「アザンティハイライトニング」が登場しました。
1981:第5次辺境戦争、インベージョンアース

 1981年は、第1期のトラベラー関連ボードゲームの最後の年と言うことになるかと思います。
 この年の目玉は何と言っても「第5次辺境戦争」でしょう。インペリウムの流れを汲むゲームシステムで、トラベラー世界の大戦争を再現するボードゲームです。
 そして、この作品はスピンワードマーチという「トラベラー」の舞台の全容をダイナミックに表現する最大規模のモジュールでもありました。

 もう一作は「インベージョンアース」です。ソロマニ辺境戦争のクライマックス、地球攻防戦を描くボードゲームです。
 「第5次辺境戦争」はトラベラーのモジュールとして日本語ライセンス版が出ましたが、「インベージョンアース」の方は訳付き販売に乗り遅れ、かと言って日本語ライセンス版が出ることもありませんでした。このため、日本語ライセンス版が出ないままに終わった「スナップショット」と共に「インベージョンアース」はGDWのSFゲームの中で日本では一番見かけないゲームになってしまいました。
 トラベラーでお馴染みの正20面体に投射した惑星マップになった地球で戦う本土防衛決戦は、SFゲーマーのマインドを熱くする題材だっただけに残念です。