アザンティ・ハイライトニング
Azhanti Highlightning / GDW/HJ
ショートコメント
●1980オリジン賞SF部門受賞、船内戦闘システムと、ライトニング級巡洋艦の全てを解説したトラベラーモジュール
1980 Origin Award Winner. Traveller's module which covers combat inside spaceship and whole detail of Lightning class cruiser.
published designed players time
1980 M. Miller, F. Chadwick 2+ dependin on scenario
トラベラー宇宙をある巡洋艦クラスを切口に
  詳細に描き出す大モジュール

 「アザンティ・ハイライトニング」は、1980年のオリジン賞SF部門を受賞した傑作SFゲームです。
 このゲームは「トラベラー」のモジュールであると同時に、その船内戦闘システム部分として独立したボードゲームとしても遊べると言う触れ込みになっています。
 ただ、「トラベラー」プレイヤーでないわたしの目から見ると、独立したボードゲームとしては点数はかなり辛くなります。
 やはり、このゲームの最大の魅力は、「トラベラー」のモジュールとしてのそれでしょう。

 ゲームボックスを開けると、中にはいろいろなものが入っています。先ず「トラベラー」の上級個人戦闘ルールにあたる「アザンティハイライトニングのルールブック」が入っています。1マス1.5mのスクエア式のマップと、1ターン15秒のターンを使用してプレイする戦闘ルールです。標準的なルールのほかに、特別ルールや上級ルールまで用意されており、ボードゲームとしては複雑多岐に渡っており、その記述や明確度は十分とは言いがたいところもあります。
 その一方でRPGで要求される多様な選択行動の全てをカバーするにはもちろん十分ではなく、人間の行動はもっともっと多様です。そこは、やはりゲームマスターのジャッジに基づくアドリブでのRPG的な処理を必要とするところです。
 ルールブックの巻末には、「アザンティハイライトニング」としてのシナリオが何種類も採録されています。これについて後述しましょう。
ファイナル・コメント
 冒頭に書いた通り単体のボードゲームとしては、評点は辛くなります。
 理由は、ルールのクリアさが不足している、シナリオの規模が大きくプレイアビリティが悪い‥という2点に尽きると思います。

 その一方で、RPGのモジュールであるということを考えると、評点は非常に高くなります。オリジン賞を受賞したのも理解できます。
 理由は、ライトニング級巡洋艦という独自の切口で、背景世界の大きさや多様さを物語ることに成功しているからです。幾多の同型艦が建造され、それぞれの運命を遂げていきました。大活躍したものもあれば、悲運に泣いた艦もあります。活躍した艦の物語を読めば、そのクライマックス部分をこのゲームを補助ツールとしてRPG的に体験して再現して見たくなります。
 さらに、幾多の詳細に語られることのない同型艦のリストを見ていると、そこには各自の独自の物語を作り出す余地がたっぷりとあるのです。

 某所のコメントにもありますが、単体のボードゲームとしてはもっと小型艦を扱った「スナップショット」の方が良いというのはなるほどと思います。

 その一方で、この「アザンティ・ハイライトニング」には、「トラベラー」世界の物語の夢や涙がたっぷりと詰まっていて、背景の広がりがあるのです。
 RPGのモジュールというものが、ゲームマスターのイマジネーションを喚起し、プレイの盛り上がりをアシストするツールを提供するものだとするならば、この「アザンティ・ハイライトニング」は、やはり傑作だと言って良いと思います。
関連ゲーム
●トラベラー
●スナップショット
メイデイ
●第五次辺境戦争
インペリウム
●アステロイド
ライトニング級物語

 ゲームボックスのハードウェアとしては、14枚のデックパターン平面図が圧巻です。ライトニング級巡洋艦は、かなり巨大な宇宙艦で、84層のデックからなります。これを目的別に15種類に仕訳してマップ化してあるのです。
 ですから何層もある貨物デックや居住デックは1枚のマップを使いまわして表現するようになっています。
 このボード上に配置してプレイに使用するコマやマーカーが一式用意されており、この巨大な艦内で戦闘はもちろん、他の様々なアクションをして駆け回ります。
 戦闘ルールなどのチャートをまとめたプレイエイドもあります。

 そしてなによりこのゲームをトラベラーのモジュールとして位置付け、このゲームを単なるボードゲーム以上の存在にしているのが冊子サプリメント5「ライトニング型巡洋艦」です。
 このクラスの巡洋艦が活躍した時代を説明し、艦の仕様を説明し、建造された全ての同クラス艦のリストが載っています。さらに、特筆すべき活躍をした数隻の物語が語られ、その筆頭がゲームタイトルの「アザンティ・ハイライトニング」という訳です。
 最後に上述した船内の構造説明が、デックプランを用いて詳細にされています。 
 ライトニング級の船の構造や、その活躍した時代、代表的な艦の物語を理解した上で、最初のルールブックに載っているシナリオに戻りましょう。
 シナリオは、大枠の状況設定として6種類が用意されています。バード・エンディヴァー号のカグカサッガン2での戦闘、海賊の侵入を受けたローサム・レヴェリー号、皇帝献上品のワインを運ぶインペリアル・ローマー号船内でのワインを廻る幕間劇などです。
 しかし、上述したようにライトニング級巡洋艦は84層から構成される巨大な艦です。そのため、大枠の状況設定が、さらに焦点となるいくつかのデックでの小シナリオに分割されているのです。
 分割されたシナリオを連結してプレイする中で、その艦の運命は形成されていくというボードゲームとしても一種のキャンペーン級のような大きさを持っているのです。