ウォーオブザリング 新版
War of the Ring / GDW
ショートコメント
●「指輪物語」のフェローシップの旅と、サウロンの侵略がボード上で同時に進行する一大叙事詩的ボードゲーム
Travel of the fellowship and campaign of evil Sauron proceed on the board
simultaneously. Great epic game.
published |
designed |
players |
time |
2004 |
R.D. Meglio, M. Maggi, F.Nepitello |
2 |
4-6 hours |
新世代「指輪」ゲームの大本命
映画、「指輪物語」三部作は概ね成功に終わったのではないかと思います。その最大の功績は、昔からの原作の熱狂的なファンに対するものではなく、この映画を見る前には「指輪物語」がどんな物語だったかを知らなかった人々に対して物語の全貌を語り伝え、数多のファンタジーの原点が此処にあることを示したことにあるのではないかと思います。
「指輪物語」は、フロドとサムを中心とするフェローシップたちの苦難の旅の物語であり、そして同時に邪悪なサウロンとその僕や同盟者たちが秩序ある世界に侵攻してくる物語でもあります。
この「ウォーオブザリング」は数多く出版された新世代の指輪ゲームの中にあって、この二つの要素をいずれもボード上で同時に再現し、物語の全容を描き出す大作です。
新世代指輪ゲームの大本命とも言うべき存在でしょう。
ファイナル・コメント
先日購入して早速対戦したばかりです。
初見では全容が見えず、特に豊富なカードの内容を把握して使いこなすことなど全くできませんでしたから、プレイしていたときの感想としては絶賛するほどでもないかなと思いました。
しかし、帰宅してからカードの内容を眺めてルールを再読するに付けて、豊富なガジェットが夫々に意味深な形で盛り込まれていて、非常に豊かなゲームであることを感じ始めています。できることならすぐにでも再戦してみたいほどです。
物語の重要な要素はきちんと押さえられていて、それがゲームで大きな意義を発揮するポテンシャルを持つようにデザインされています。
無論ゲーム的な戦略として、物語の史実(?)を知るプレイヤーは、それに対処してマネージメントすることもできるようになっています。その結果として物語とは違う選択をして、違う物語を紡ぎだすことすらできるようになっています。
昔、「歴史のイフを試すのがウォーゲームだ」というキャッチフレーズがありましたが、その意味ではこのゲームは「指輪物語のイフを試せるのがウォーオブザリングだ」というところでしょうか。
フェローシップがモリアを通らなければ、そこでガンダルフを失うことはないかも知れません。けれども、代わりにロスロリエンをオークの大軍勢とバルログが襲ってフェローシップが辿り着く前に陥落させてしまうかも知れません。
その他にも様々な可能性が此処にはあります。貴方が作る「指輪物語」、「指輪戦争」のサーガがこのゲームの箱には詰まっているのです。
ただ個人的な好みを言えば、バルログのフィギュアがないのは大幅減点でしょう。バルログファンとしてはとても残念です。
ゲームはリーベンデールから始まります。
フェローシップの一行は、指輪の担い手であるフロドを守ってマウントドゥームの噴火口を目指して指輪を破壊する旅に出ます。
その一方で、サウロンと、その同盟者であるサルマンは、ゴンドールとローハンへの侵攻を進めており、指輪の奪還と同時に暗黒の秩序をミドルアース全域に広げることを狙っています。
この両者が、美麗な巨大なボードの上で、膨大な量のフィギュアによって再現されるのです。これだけでも十分に魅力的だと言ってよいでしょう。
フィギュアの造形もかなりしっかりしていて、ローハンの騎士と、ゴンドールの騎士と、北方の騎士はみな造形が違います。もちろん、エルフやドワーフが違うのは当然です。サウロン陣営も、サウロンのオークと、サルマンのウルクハイ、東南方の蛮族は違う造形になっています。
フェローシップの面々もそれぞれフィギュアになっているのは言うまでもありません。
このゲームの凄さはマップやフィギュアばかりではありません。
指輪物語の豊富なエピソードやガジェットが、多数のカードとしてプレイに織り込まれているのです。
ウォーゲームで近年流行している「カードドリブン」と呼ばれる手札からカードをプレイすることでゲームを進行させていくシステムがあるのですが、この「ウォーオブザリング」でもその要素を取り入れていてイベントカードアクションでカードをプレイしたり、戦闘時に戦闘カードをプレイしたりすることで物語りにあった様々なエピソードやガジェットの効果を再現することができるようになっています。
カードはフェローシップとサウロンの両陣営に個別に用意されていて、それぞれ48枚ずつ合計96枚です。しかも、個々のカードにはイベントカードとしてプレイした場合と、戦闘カードとしてプレイした場合とで異なる効果が用意されているので、盛り込まれている要素もその分だけ豊富になっています。
サウロン陣営のカードの一例です。左端はサルマンのキャラクターカードです。サルマンは、アイゼンガルド領のオルサンクを離れることができませんが、そこで凶悪なウルクハイを量産することができ、ローハンへの直接的な脅威となります。
次はモリアのバルログなのですが、これは実はイベントカード扱いになっています。このゲームではフェローシップの経路は自由に選べるのでモリアを通るとは限りません。もし通れば、このイベントカードを使うことによって物語と同様に大きな犠牲なくしてはモリアを通さないように働きます。そうでない場合には戦闘カードとして、モリア周辺の軍事的戦闘に姿を現して猛威を揮うようになっているのです。
三番目はナズグルの長であるウィッチキングです。その登場は秩序側に立つ全ての国家の参戦を招くほどに影響力がありますが、そのもたらす猛威も凄まじく戦闘カードを使う度に自動的に補充して常に凶悪な戦闘カードを使い続けることができます。
最後はシェロブですが、これもイベントカード扱いです。このイベントは、フロドたちが最後にモルドールに入ってからの工程を妨害する試練のタイルという形で働きます。
ゲームの大枠は、ボード上に現れずに秘密裏にスゴロク式に進んでいくフェローシップの前進と、リスク的なゲームシステムで進むサウロンの軍事的な侵攻とがどちらが先に目的を達するかで争われます。
ただし、両者の行動はアクションダイスで回数と内容が規定されており、フェローシップ側も一定の軍事行動を取って敵の侵攻を妨害するようになっていますし、サウロン側はフェローシップの居場所を突き止めて旅を妨害するようになっています。
こうして両者のアクションは相互に密接に関連しながら進んでいきます。
サウロンの軍事的侵攻でローハンやゴンドールの拠点が落ちると、フェローシップは旅の途中で回復をする拠点を失ってしまいます。また、フェローシップは発見されるとボード上に姿を現し、そこにナズグルやダークサイドの軍勢がいると、その先の旅でも発見されやすくなります。こうして旅と戦争は互いに繋がりを持っているのです。