ウォー・オブ・ザ・リング
War of the Ring / SPI games
ショートコメント
●指輪物語の全容とガジェットの双方を上手に再現した傑作ウォーゲーム
●このスタイルで指輪物語を再現するものとしてはいまもベストか? SPIファンタジーボードゲーム中でもベストか?
Excellent war game which perfectly describes the whole story and every details of "Lord of the Ring".
Even now, this game seems to be the best of this type of "Ring" game, and also to be the best of SPI's fantasy game.
published designed players time
1977 Howard Barasch, Richard Berg 2 or 3 2-5 hours
決定版「指輪物語」ウォーゲーム

 ファンタジーの金字塔として余りに有名な「指輪物語」は、幾度もボードゲーム化されています。とりわけ扱う題材が指輪戦争であることからウォーゲームとしてデザインされたものが少なくありません。
 その中で当時のウォーゲーム界のビッグ2の一方、SPIゲームズから出た「ウォーオブザリング」は発売以来、長きに渡って決定版指輪戦争ゲームの位置を占め続けてきました。
 近年の三部作映画化でまた新たなブームとなり、クニッツアーの多人数協力型のファミリーゲームのような新しいタイプのゲームで傑作も登場してきました。しかし、ウォーゲームスタイルの指輪と言えば、依然としてこのSPIの指輪の存在感は大きいのではないかと思います。

 ゲームは大きく3つに分かれています。
 いちばん簡単なキャラクターゲームは、名前の通りにキャラクターの行動に絞ったボードゲームです。フェロウシップ側は指輪を運ぶホビットを秘匿した状態でエルロンドの館から滅びの山まで指輪を運んで火口へと投げ込むと勝利します。対するサウロン側はフェロウシップのキャラたちを発見し、指輪の持ち主から指輪を奪ってサウロンにもたらすことで勝利します。部隊行動はごく抽象的に扱われ、ナズグルとオークによる捜索と捕獲、行く手を阻むサウロンの使い(トロール、バルログ、ウィッチキング、シェロブ)などのルールが中心になります。
ファイナル・コメント

 「ウォー・オブ・ザ・リング」は、原作の全体的な雰囲気をよく再現していて、なおかつ細かいガジェットを網羅しています。長年、決定版指輪戦争のゲームの地位を維持しているのもむべなるかなと思います。
 こうしたキャラクターの行動と部隊行動の双方をカバーするSPIのファンタジーゲームには、「ソーズ・アンド・ソーサリー」や、「アルビオン」などもありますが、プレイアブルでまとまりが良く、なおかつプレイして面白いという点で「ウォー・オブ・ザ・リング」に軍配が上がります。

 ただし、このゲームは「指輪物語」を読んで内容を十分把握している人がターゲットだと思います。わたし自身、未読の段階でプレイしたことがあるのですが、あまり良い記憶がありません。理由は、豊富なガジェットは愛読者にとってはルール説明されると「ああ、あれか」と容易に頭に入るのに、そうでない人には結構、分量が多くてしんどいからです。
 また強烈な効果のアイテムやイベントも、愛読者にとっては「こうでなくっちゃ」と思うのですが、ウォーゲームとしてプレイしていると折角の軍事行動の努力が一瞬にして覆されてしまう「理不尽なできごと」と感じられかねないからです。
 あくまでこのゲームは「指輪物語」の傑作シミュレーションであって、原作とは不可分な気がします。逆に言えば、そうした魅力的な原作のアシストを受けていない「ソーズ・アンド・ソーサリー」や「アルビオン」がこのゲームに及ばないのは無理ないかも知れません。
 このゲームといろいろな意味で比肩できるのは、スターウォーズという原典イメージを持っている「フリーダム・イン・ザ・ギャラクシー」かも知れません。
関連ゲーム

指輪物語
●指輪物語:サウロン
指輪物語コンフロンテイション
●ソーズ・アンド・ソーサリー
アルビオン
フリーダム インザ ギャラクシー
●バトル・オブ・ザ・ファイブ・アーミーズ
●サウロン
●ゴンドール
サンプルリプレイを紹介しながら
 右の最初の図はサウロン陣営の初期メンバーを示すカードと、サウロンの本拠地周辺です。このゲームではキャンペーンゲームでさえキャラクターがプレイの中心となります。
 サウロン陣営は、ロードオブナズグルを筆頭とする9人のナズグルとサルマン、そしてサウロンの手先の人間のトップであるサウロンの口がいます。彼らはユニットで表されており盤上を動き回って指輪を持って旅をしている敵のキャラを捜索することが主任務となります。ナズグルはフライングビーストに載っているので盤上のどこにでも行けます。
 またサウロン側の部隊は圧倒的な兵力を持っており、部隊行動でも恐るべきポテンシャルを持っています。けれども弱点もあります。サウロンは指輪を失っているため不完全な存在です。そのためダークパワーに限りがあり、毎ターン決められたダークパワーしか使えません。このためナズグルの移動や、部隊の移動・戦闘などを行える数が制限されています。 
 次のゲームが本線のキャンペーンゲームです。
 キャンペーンゲームでは部隊行動がきちんとウォーゲームとして扱われます。ヘクスマップに部隊コマが置かれ、同一へクス戦闘のマストストップ、マストアタックのルールで戦闘が行われます。部隊はキャラクターを保護することができ、逆にキャラが指揮官として軍事行動を指揮することもできます。逆に部隊で捜索や捕獲ができ、軍事行動による勝利条件というのも別に用意されています(達成されることは稀で、大抵の場合は指輪の破壊か捕獲で勝敗は決すると思いますが‥)。
 最後のゲームはキャンペーンゲームの変形で3人キャンペーンです。
 3人でプレイするときには、サルマンの部隊がサウロンとは別に扱われます。サルマンはサウロンの同盟者ではありますが、実のところ自分で指輪を手にすることができれば自らが世界を制することもできるのでは‥という野望を持っているわけです。
 左の画像は第1ターンを終了したところです。
 右が北側になります。画面右側を上下に横切っている道路が山脈を通過しているところが、霧降山脈のミスティパスです。
 フェロウシップ側は「ミスティパスが開く」というイベントカードがないと此処を通過できません。そこで止むを得ずモリアの坑道の入り口へと南下しています。中央の黄色のユニットのスタックが旅の仲間たちで、現在はサウロンに発見されていないため裏返されています。このためサウロンはどれが誰だかわかりません。
 山脈の反対側、画像中央下に待ち受けているのがナズグルです。ゲームルールでナズグルは発見していない敵のヘクスには移動できません。けれども相手の側が逆に自分の場所に入ってくると発見の試みができます。そのため出口周辺を飛び回って見張っているのです。
 ナズグルの群れの左下の緑のスタックはエルフたちで、此処がロスロリエンです。
 画像の左端中央の赤いユニットがいるところがサルマンの本拠、アイゼンガルドです。
 右の画像は第2ターンに、モリアの坑道でフェロウシップがサウロンの僕の一つウィッチキングと遭遇したところです。
 史実(?)ではバルログがいたのですが、ゲームでは6枚(内2枚はダミーで噂だけで何もいない)の僕カードが6箇所の重要ポイントにランダムに配置されています。モリアはその一つですが、このゲームでは山脈は通過不能なのでどこかで越えねばならずいやおうなしに運試しすることになります。
 ここでは灰色のガンダルフが立ち向かっています。こうした個人戦闘がゲームでは重要です。このためキャラにはそれぞれシルエット付きのカードが用意されていて様々なパラメーターや能力が準備されています。
 首尾よくガンダルフが勝利しフェロウシップはモリアの坑道を抜けることになりました。実は灰色のガンダルフは小説の通りに一度敗れ去っても白のガンダルフになって再登場できるので、ガンダルフが矢面に立つのは定石となっています。モリアの坑道を抜けたところからサウロン側の探索が激しくなります。パーティーが大きいほど見つかりやすいのと、ボロミアが寝返って指輪を狙ってくることがあるので、ここでパーティーは二手に分かれる展開が多いようです。
 もちろんサウロンにはどう分かれたかわかりません。
 ロスロリエンで再合流するために分かれた一行ですが、運悪くリングベアラーのフロドがいる側のパーティーがゴスモグ(ナズグルのナンバー2)たちに捕捉されてしまいました。
 アラゴルン、レゴラス、ギムリ、そしてフロドとサムの5人です。激しい戦闘となり、結局、レゴラスが戦死してしまいました。アラゴルンはエルフの剣を使ってゴスモグに完全に止めを刺すことに成功しましたが自身も傷を負ってしまいました。
 続くサウロン側の手番でチャンスと見たサウロンはナズグルをさらに3体送り込んできます(発見しているとナズグルを送り込んで戦闘を仕掛けられる)。さらに激しい戦闘が繰り広げられ、ギムリ、サムが倒れ、そしてとうとうフロドまで倒れました。残ったアラゴルンはナズグルを全て返り討ちにして、フロドから指輪を預かり一人、もう一方のパーティーと合流するべくロスロリエンへと進みます。
 サウロンの僕とは逆に、マップ上の重要なポイントには作品に出てきた様々な有用なガジェットが魔法アイテムカードとして置かれています。リーベンデールやロスロリエンにもあり、ここでプレイヤーはアイテムを補充して体制を立て直すことができます。ロスロリエンのガラドリエルには治癒能力もあります。
 ガンダルフとアラゴルンは傷を癒し、さらに南を目指します。
 右の画像はロスロリエンを旅立つとき、エルフのボートを利用させてもらって、一気にサウロンの追っ手を出し抜いて南へ川を下ったところです。
 ゲームでは史実(?)に従ったイベントカードが多数用意されています。プレイヤーは毎ターン1毎ずつを引き、3枚までキープし、都合の良いタイミングで使うことができます。魔法アイテムカードやサウロンの僕と合わせて、こうした強烈なイベントカードが、小説の劇的な展開をボード上で再現してくれます。
 とは言えそこはカード次第ですから史実(?)と異なる展開になることもしばしばで、盤上にはそのとき対戦しているプレイヤーだけの指輪物語が再現されることになります。
 けれども展開が正確に史実をトレースすることはなくとも、そこで展開される物語の醍醐味や、プレイヤーが感じる悩みは指輪物語のテイストを再現しています。
 これがこの「ウォー・オブ・ザ・リング」を決定版指輪戦争ゲームにしているポイントなのです。
 左の画像は一気に南下したフェロウシップを追いかけるため、サルマンが業を煮やしてアイゼンガルドからオークと人間の連合部隊を繰り出して進路上のヘルムズディープを襲っているところです。
 このようにキャラクターのアクションと連動して部隊アクションも展開されるところがキャンペーンゲームの妙味です。
 このゲームの野戦はラウンド式で一方が撤退もしくは全滅するまで何ラウンドでもやります。それに対して攻城戦は、1ラウンドだけが義務で防衛側は中止する選択権があります。このため弱敵であっても1ラウンドで全滅させられないと次のターンに持ち越してしまいます。
 先にも書いた通りサウロンプレイヤーはダークパワーという制約があるので、何ターンも攻撃させられるのは辛いです。このため軍事的な勝利条件の達成は容易でないのです。
 このプレイでは、この後、一行がミナスティリスに入り、ガンダルフがデネソールを説得しゴンドールを動かします。サルマンの攻撃を受けたローハンも動き出し、展開は一気にクライマックスを迎えました。ミナス・ティリスで装備を立て直した一行は、潜在的な裏切り者であるボロミアを部隊司令官として切り離し、残るメンバーでミナス・モルグルの秘密階段を抜けます。レンバスという強行軍が可能になる扱いのマジックアイテムで一気に通り抜け、通路にいたトロールをガンダルフが倒し、出口で待つナズグルの目を盗んで一気に火口まで進みました。そして、アラゴルンが指輪を火口に投げ込み、世界は救われたのです。