指輪物語:コンフロンテイション
Lord of the Ring: The Confrontation / FFG
ショートコメント
●すべてを統べる一つの指輪を持ったフロドは、その指輪を葬り去るため闇の地の果てまで旅せねばならない
●指輪物語の主要キャラクターのエッセンスを上手に詰め込んだコンパクト軍人将棋
Frodo must travel through the dark land to eliminate the ring which can rule all of the world.
Compact Stratego-type game in which every important character of the story has its own role and essence.
published designed players time
2001 Reiner Knizia 2 1-2 hours
クニッツアの才能発揮
 クニッツァと言えば、ドイツのボードゲーム界の大物デザイナーの一人であり、とりわけジレンマが悩ましいシンプルなアブストラクトゲームを作らせると天下一品との印象があります。
 そういう意味では彼のゲームはシンプルであり、特別ルールなどは少なく、1枚1枚のカードやユニットに個性のあるトレーディングカードゲームやウォーゲームとは反対に位置するゲームデザイナーという気がしていました。
 そんな評価に少々修整を掛けねばならないと感じさせたのが、同じFFGから登場した一連の多人数協力ゲーム「指輪物語」とその後の拡張キット群です。そこでは、決して煩雑ではないもののキャラクターの個性や、登場する数多のガジェットが描き出されていて、上手くゲームシステムの中に取り込まれていました。
 この「ザ・コンフロンテイション」は、そうした方向性でのクニッツアの現時点での最高傑作なのではないかと思います。
 基本的なシステムは日本では御馴染みの軍人将棋(ストラテゴ)でごくシンプルです。けれどもそこに登場するユニットは指輪物語の重要なキャラクターや敵ばかりで、みな一癖ある強烈な能力を持っているのです。
 この個性がキャラのストーリー中でのイメージと合致していること、そしてそれを使ってプレイするゲームの最終目標がストーリーに沿っていることが本作品を成功させているのでしょう。
 
ファイナル・コメント

 「ザ・コンフロンテイション」は、指輪物語のゲームとしても、クニッツアのゲームとしても出色の出来栄えではないかと思います。
 小箱の小品ということで過小に評価されかねないのですが、ここでは強く推薦しておきます。
関連ゲーム
指輪物語
ウォーオブザリング
●指輪物語:デュエル
●指輪物語:探索
●ストラテゴ
ザ・コンフロンテイションのゲームシステム
 「ザ・コンフロンテイション」は、前にしか進むことのできない軍人将棋だと思ってもらえれば基本的な説明は終了です。四角いボードを45°傾けて使用し、両軍の本拠地がいちばん奥になります。フロドはモルドールの奥まで辿りつければ勝利します。サウロンはフロドを葬ることで勝利します。また、シャイアに闇の陣営の3ユニットが辿り付くことでも勝てるようになっています。
 同じマスに敵味方が入ると戦闘になり、ユニットの戦力に手持ちのカードからプレイした戦力を加算して大きいほうが勝利します。同点なら相打ちです。
 ただしユニットには様々な特殊能力があり、カードにも数字のカードの他に特殊なカードがあります。これによって陣営ごとの作戦、ユニットごとの個性が形作られています。このあたりはどのユニットをとってもカードの構成をとっても実にスパイスが効いていて説明し始めるとキリがありません。かなり細かいちょっとしたテキストの記述までプレイや作戦に影響してきており、冗長な特別ルールなどはほとんどありません。
旅の仲間たち
 とは言えその全てを紹介することはできませんが、一部なりとも紹介して魅力のありかを読みってもらうこととしましょう。
 旅の仲間たちはユニットの戦力を見ると、ガンダルフの5とアラゴルンの4を除くと3以下ばかり、中には0だの1のまでいてかなり脆弱です。サウロン陣営には4、5がゴロゴロいることを考えると、本当にこれで勝負になるのだろうかと思ってしまいます。
 けれども旅の仲間たちはフロド一人をモルドールに送り込めば良いという勝利条件上の利点があるのでこれでも勝負になります。一見、0で弱そうに見えるボロミアも、実は必ず相手と相打ちになるという特殊能力があって敵の強力ユニットキラーだったりします。
 ピピンも1で弱いのですが攻撃しに行って相手の正体を見た時点で逃げて帰ってこれるという能力があり偵察要員として良く働いてくれます。なにせ相手のコマの正体を見せない軍人将棋システムですから、この偵察能力の重要性は意外に大きいのです。
 メリーはウィッチキングを、ギムリはオークを、レゴラスはフライングナズガルを倒すことができ、こうしたキラー能力を生かすためにも敵の正体を知ることは重要です。
 また、フロドは攻撃を受けたときにヨコに逃げることができ、サムはフロドを守っているときは2ではなく5の戦力を持ちます。
 こうした能力をフル活用して敵のスキを突いていけばモルドールにフロドを送り込むことは十分にチャンスがあります。
 ただし旅の仲間たちの多くは戦いに倒れ、最後にモルドールの荒れ果てた地に立つのはフロドばかりかも知れませんが。
ヴァリアント
 シンプルな「ザ・コンフロンテイション」ですが、ユニットの個性を活かして戦うには多少の馴れとスキルが必要とされます。
 馴れてきたところでゲームの局面をリフレッシュするためのヴァリアントも用意されています。
 このヴァリアントは一見アンバランスに見えるのですが、実際にプレイしてみると非常に良くできていたので少しコメントして置きましょう。
 ヴァリアントで登場してくるのは白のガンダルフです。
 ガンダルフは旅の仲間たちの主力キャラであり、彼がストーリー同様、灰色から白に変わって復活してくると言うカードです。主力であるガンダルフが二度使えるようになるというのは劇的過ぎるように思えるのですが、ファンゴルンに復活することが指定されていて、そこがサウロン陣営の手にある内は復活できません。ファンゴルンはもともとがサウロン陣営のエリアにあるので、サウロン側は此処を確保するプレッシャーを負わされることになります。
 一見すると白のガンダルフより弱そうに見えてプレイに非常に強く影響するのはシャドウファックスです。この名馬は進路さえ空いていれば旅の仲間の誰かを一気に前進させることができます。この馬の存在でフロドが突然モルドールに肉薄してくる可能性が生まれ、サウロン側は油断のできない状況に追い込まれます。
 サウロン陣営のヴァリアントカードは、水晶球パランティアです。これは特定の地域の旅の仲間の正体を明らかにしてしまうという、ある意味で軍人将棋では反則とも言える凶悪カードです。
 もう一つのモルドールに還れは、悪のキャラ1体をモルドールに戻すことができるというものです。このカードは地味に見えますが、実際にプレイに馴れて来ると有り難味がわかります。熟練してくると、先に動く方が不利であることが多いため、「前にしか進めない」というルールとユニット数の少なさから来る手詰まりで、先に動くことを余儀なくされることが痛いことがわかってきます。このため、いわゆる「手を稼ぐ」ことができるこのカードは実は重要なのです。
 前へしか進めないということは、フロドにとっては通り過ぎたサウロン陣営のキャラはもう相手にしなくて良いということを意味しています。ですからいかにバルログが恐ろしかろうともなんとかしてモリアを抜けさえすればバルログのことはもう考えなくて良いのです。このあたりはストーリーのイメージと合致しているように思います。
 けれどもモルドールに還れは、後にしたはずの敵が再びモルドールで待ち受けているというもので、ある意味では白のガンダルフに匹敵する、あるいはそれ以上に強力なカードであり得るのです。
 ヴァリアントの4枚のカードはいずれもプレイに深刻な影響を与えます。もし本編のプレイに馴れてきたなら、是非とも一度トライしてみて欲しいものです。