BQSF_GAME

ウェブ アンド スターシップ
Web and Starship / Westend Games


一言で言えば‥‥

二つの巨大星間帝国にはさまれた弱小な地球の命運やいかに?

鳥と土竜,互いに異なり噛み合わない文明間の不思議な星間戦争

こんなゲーマーにお薦めしたい

SFマインドに満ちた中級SFウォーゲームを楽しめる方に

3人という危ういバランスの多人数プレイが上手く成立する面子に

プレイ人数 3人
プレイ時間 2〜4時間
ルール難度 中級ウォーゲーム
デザイナー グレッグ コスティキャン
入手状況 絶版,英語版よりも日本語版の押入死蔵品を探すべきか

ウェブ アンド スターシップの興味深いシチュエーション
ウェブアンドスターシップのボックス
「ウェブ アンド スターシップ」は,B級SFゲームデザインの第一人者,コスティキャンの,1986年の作品です。

コスティキャンは,着眼点の良さで面白いアイテムを,ユニークな切り口でデザインすることで定評があります。この作品は,そうしたコスティキャンの持ち味が良く出たデザインになっています。

まず,ゲームとして興味深いのは,プレイバランスが非常に難しい三人での対戦プレイを前提としていることです。一人の強者に対する二人の同盟者というシチュエーションのゲームは時々あります。しかし,このゲームの目指しているのは,三人の間で流動的な同盟が組まれては組みなおされていくような展開です。

そのために,コスティキャンは思い切って,強大な既成星間帝国を両端に置いて,その中央にゲーム開始時点では弱者である地球を置きました。いずれの帝国も地球を手に入れたいが,同時に相手には決して渡したくないという状況を作ったのです。このため,地球は常に危機に晒されますが,その一方で眼前の危機に当たっては常にもう一方の帝国の助力を仰ぎやすくなっています。こうしてタイトロープを渡ることで地球を軸に勢力関係が流動化することを狙ったのです。

けれども,これだけでは地球は翻弄される木の葉の船のようなものでしかありません。そこにまた一工夫があります。地球は成長途上にあり,どんどん発展していくのです。経済の規模もどんどん拡大し,技術も向上していくシステムになっています。このため,ロープから落ちずに渡っていければ,やがて未来は拓けていくのです。

また,ロープから落ちて地球がいずれかの帝国の軍靴に踏みにじられることになっても,地下活動を続けて再起を図ることができるようになっています。もう一方の帝国の外部圧力と呼応して蜂起すれば,再び独立を手にすることも夢ではないのです。

銀河の舞台に踊り出た未熟な地球,けれどもその未来の可能性のポテンシャルは‥‥というのは,SFとして非常に魅力的な設定です。三人用ゲームという題材への挑戦ともマッチングして,興味深い作品になっています。

BQSF_GAME

ウェブ アンド スターシップのシステム
ウェブアンドスターシップのマップ
ウェブ アンド スターシップのもう一つの特徴は,実際の星図を使ってプレイするところです。多くの星間戦争のゲームでは,二次元のマップを使っており,その星図は多分にゲーム向けのアブストラクトです。

ところが,このゲームでは実際の太陽系付近の星図を利用した三次元マップでプレイします。左が地球付近の中央部分です。ヘクスやグリッドはなく,銀河天頂から見た平面位置に各恒星が描かれています。そして,平面と垂直な高さ方向については,銀河天頂に近いものほど大きく,遠いものほど小さく描かれています。つまり,遠近法のアナロジーで高さを表現しているのです。

実際の移動も,平面での距離と,高さの違いを使ってピタゴラス定理の表を使って算出して実施します。その意味で,非常にハードSF的な部分をもったゲームシステムになっています。

各恒星には居住可能な惑星があるかどうかで最大の植民規模を規定する数値が与えられており,これも太陽類似のG系列恒星を中心に評価しているようです。

理解し合えない文明,噛み合わない戦闘
ウェブアンドスターシップのカウンター
「ウェブ アンド スターシップ」のもう一つの着想の鋭さは,二大星間帝国に対してまったく異なる文明を与え,その間の齟齬を描き出していることです。

ボックスアートの左側に写っている鳥型のグインハイファール族は,「宇宙空間を飛行する」文明を築き上げています。彼らは高速の宇宙船で自在に星星の間を行き来します。機動性に富んでおり,彼らの版図の拡張速度は迅速です。緑色のコマがグインハイファールのもので,左から彼らの誇る大規模艦隊,中規模艦隊,小規模艦隊です。

その一方で,彼らの地上部隊の投入能力は船団の輸送能力によって厳しく制限されており,地上部隊を特定の方面から他の方面へと転戦させるには,船団の航行により数ターンを要することになります。右端の2つが彼らの輸送艦隊と降下兵団です。

ボックスアートの右側に写っている土竜型のペリーン族は,「宇宙空間を結ぶトンネルを掘る」文明を築き上げています。彼らの文明は,ドラえもんのどこでもドアの銀河版とも言うべきウェブネクサスという装置に依存しています。このウェブネクサスの設置された成形同士は,あたかも陸続きであるかのように自在に行き来することができるのです。

このため,ウェブネクサスのネットワークの範囲内では,彼らの地上部隊は瞬時に自在に動き回ることができ,事実上,すべての地上部隊がすべての惑星をまとめて守っているのと同じなのです。彼らの居住惑星における彼らの地上軍の圧倒的な優位は,なにものによっても揺るがされないでしょう。赤のコマがペリーンのもので,左からウェブネクサス,装甲兵団,歩兵兵団,対軌道光線砲,そして工兵部隊です。

その一方で,まず目的の星系にウェブネクサスを設置するためには,彼らは鈍足の亜光速船を使って,恒星間の距離を何ターンも掛けて渡っていかなければなりません。また,この亜光速船は武装を持っておらず,もし目的地に着いたときにそこに敵性艦隊が待ちうけていれば,数十年の努力も空しく星屑となって消えてしまうかも知れません。そうすれば,彼らは数十年の道程を再びやり直さねばならないのです。

このため,グインハイファールは,自在に星星を飛びまわり,容易にペリーンの亜光速船を撃墜できます。しかし,一旦,ペリーンがウェブネクサスに組み入れてしまった星に対しては,彼らの弱小な降下兵団では,手をこまねくばかりです。

ペリーンは一旦入手した星系では頑強な防衛網を築き上げグインハイファールを寄せ付けませんが,新たな星系を確保するためには数ターン掛かる航路をのろのろと進むしかなく,いつも到着地に破局が待ちうけているのではないかという不安と戦いつづけねばなりません。

異なる文明は,異なるシステムを築き上げ,それらの戦いは,とても噛み合わないものになるかも知れない。これは,銀河戦争が単なる地球内の同種の兵器の激突のアナロジーではないといういかにも本格SF的なデザインと言えるでしょう。ただし,コスティキャンは,この着想を古代戦から得ているようですが‥‥。

地球は,双方の文明の長所を取り入れた総合的な技術を作り上げていくことができます。最初は,どちらの分野でも未熟ですが,順調に発展していけばいずれか一方,あるいは双方を凌駕することもあり得るのです。地球は青いコマを使います。戦闘艦隊,輸送艦隊,降下兵団,ウェブネクサス,装甲兵団など両方の技術を反映した軍備を持つことが可能です。

BQSF_GAME

ウェブ アンド スターシップの難点

このゲームは,着想が面白く,ルールの難易度やプレイ時間も適切で半日でプレイできます。そうした意味では非常に良いゲームなのですが,それほどには評価されていません。

その理由は,まず「3人ゲーム」で3人でしかできないというところにあるようです。一応,2人対戦用のルールも入っているのですが,真髄は3人ゲームでしょう。

もう一つの理由として,プレイバランスが特に地球にとって険しいということがあります。ウォーゲーマーはタフネゴシエーターが多いので,どうしても地球がタイトロープの上で上手く既成の2大帝国のパワーバランスに乗って行こうとしても,交渉が上手くまとまりにくいようです。このため,往々にして地球は大きなダメージを被り,序盤で厳しい展開となってしまいます。ここで地球プレイヤーのモラルがもたなくなると,ゲームは消化不良で終わってしまい,地球プレイヤーはもちろん他のプレイヤーにもフラストレーションが残ってしまうのです。

地球人の可能性を信じて最後まで戦いつづけられるような友人をお持ちか,あるいは貴方自身がそうであるなら,このゲームはお薦めです。

けれども,そうでない場合には,ゲームが中盤で破局に陥ってしまう可能性があるということを覚悟した上でプレイした方が無難でしょう。ただ,たとえ破局に陥るにしても,異文明の対決という興味深い設定は,SFゲーマーであれば一見の価値があります。

関連ゲーム / 類似ゲーム

銀河帝国と戦う苦境の地球というシチュエーションのゲームとしては,GDWの古典的名作インペリウムがあります。このほか星間帝国の激突を扱ったゲームは枚挙に暇がありませんが,地球を中心とした立体的な星系図で戦うものとしては,SPIのスターフォースや,ミレニアムがあります。

また,グレッグ コスティキャンのデザインし地球中心とした星図を使うほかのゲームとしては,メタゲーミングの
トレイルブレイザーがあります。ただし,これは開拓&貿易志向のゲームのようです。

あとゲームの雰囲気は全然ちがいますが,地球を狙うBEMのゲームとしてコスティキャンは同じウェストエエンドゲームから
バグアイドモンスターを出しています。このゲームもB級SFゲームマインドの溢れる佳作です。

トップへのボタン

BQSF_GAME