渓流釣り

 思い起こせばこの釣りを始めてからすでに40年余りが経ちます。飽きもせずに良く続けてきたと思います。反面、改めてそれほどまでに面白い釣りが渓流釣りであると確信した次第です。
 そもそもヘラ釣りが一番面白い釣りと信じていた頃、僕はこの釣りを知ってカルチャーショックを受けました。丁度その頃ヘラ釣りでは穴あき病や日本列島改造論による河川改修の一環として護岸工事がもてはやされ、ヘラの品が落ち、ヘラを育む環境が劣化し、それに伴いヘラ釣りをしている人たちも様変わりして行った頃でした。環境の悪化がヘラを減らし、それを補うために大量のヘラを放流し・・・の悪循環。お蔭でキンブナは激減し、半べらなどという訳のわからない魚が出現して来る始末。そんな釣りが面白いはずがないと思えたのです。この頃から釣れてくるヘラの色・形も迫力がなくなって尚更面白さが減って、こんな釣りを続けていても仕方が無いと思うようになって行きました。案の定、今のヘラ釣りは箱釣りの延長でしかなくなっています。岸辺の葦も、ぬかって歩くのが大変な泥岸も・・・何も無い、ただ無機質なコンクリートの四角が延々と並び、そこに釣り台を置いて並んで釣っているお粗末な釣りになろう事は、その頃の未熟な僕でも容易に想像がつく物でした。それでも釣りは釣りなのですからそれはそれで良いとしても(本当は大きな環境破壊なので良くないのですが)、僕の理想的とする釣りはこのようなロケーションではあり得ないのです。それほど広くもない閉鎖された水域に沢山の人が毎日毎日沢山の餌を打ち込んで・・・水が悪くならないはずがありません。加えて、本来は棲息していない魚を人間が金儲けのために放流し、在来種を減らす事は生態系の破壊であり、環境破壊でもあります。水は総ての生き物の源、それを趣味というもので壊すことが果たして許されるものでしょうか?・・・・・・・・・そう思っていた頃、偶然にも知人から渓流釣りの素晴らしい話しを聞きました。それは山奥・・・・・緑深い幽玄の地で、釣り人は木に化け岩に化けて自然に融合することを心掛け、魚に気付かれないようにそっと糸を垂れる。そして清冽な水を割って出てくる美しくも愛おしい魚たち。・・・・・その光景は想像として僕の脳を揺るがし、ヘラ釣りへの想いを断ち切ってくれました。あれは僕が大学2年の時でした。あれからはずーっと渓流には出かけています。勿論、他の釣りにうつつを抜かして回数は激減したとはいえ、カジキを釣っても、磯からクエを釣っても、ヒラメの日本記録を釣っても、いつも心の根底に『僕は渓師(たにし)だ』という自負があって、この気持ちからは逃げられない現実があります。
 ところが悲しいことに渓魚の養殖に成功してから、この深山霊谷に棲む渓魚でさえも放流されはじめ、ある場所では源流にヘリコプターを使ってまで放流していると聞いております。こんな事ですから釣れてくる魚も品位が落ちました。放流がこんなにまで魚を変えてしまうとは思わなかったです。これでは昔のヘラブナ釣りの延長線。渓流釣りもハコ釣りになりつつあるのかもしれません。釣りにそのような人の匂いを感じたくない僕は、その後浮気をして海にうつつを抜かしました。海には放流はないと思っていたからです。しかしマダイ、ヒラメ、はたまたクエまで放流している現実を知りました。ヒラメは千葉辺りで釣れてくる約8割が放流物という現実。そこでその後はカジキやマグロを釣りだした。いつの日かカジキやマグロを放流する日が来るのでしょうか。そんなに釣れなくてもいい。でも釣れたらその一匹一匹に悠久の時を感じ、その延長線として自然の偉大さを感じられる魚であって欲しいと思います。
 現在、天然の渓魚はほとんど居ません。在来種を知らない人は『天然物』などと軽く口にしますが、そのほとんどが発眼卵放流をした魚か、その魚の遺伝子が混ざった魚です。天然物とは人の手が加わっていない魚ということです。つまり、天然物=在来種であり、発眼卵放流や稚魚・成魚放流された魚はあくまでも放流物であることを認識しなくてはなりません。よって、『天然物』と記載する場合はその魚が釣れた場所にどのような特徴を持った魚が棲息していたかを知る必要があります。『天然物』の定義を変えてしまうと『天然物』が持つ素晴らしさが解からなくなってしまいます。天然物は源流域のイワナや、一部河川のヤマメに限って釣れる貴重な魚です。安易は発言は止めてもらいたいものです。体力が落ちてそのような場所に行くことが大変つらくなってしまった現在、渓流釣りを辞めてしまおうかと思う気持ちもあったのですが、様々な周辺環境(福島原発の事故によるものが大きい)と、やはり僕は渓流畑の釣り師だという気持ちが拭い去れないので、再び渓流に復帰することとし、よってこのページを作ることを決意しました。とても地味な釣りではありますが、現在の僕にはピッタリなのかもしれません。(2011.06.14記 2012.04.01改) 
 

この写真の説明は下


写真のイワナ
写真のイワナは当会会員のおおはし様のHPの釣行記から借りた物です。こんな素晴らしいイワナをストレートに美しいと書かれているこの釣行記を見たとき、鳥肌が立つくらい感動しました。無斑型の大和岩魚と思いますが、実に綺麗です。ここまで綺麗なイワナを見せられると『大切にしたい』と感じるのは僕だけではないはず。この写真は僕に(自然も含めて)大切にすることを再認識させてくれた一枚でした。そこでおおはし様にお願いしてお借りしました。皆様にも是非こういう素敵な魚に出会って頂きたいと思います。そして魚を通して大きな大きな自然を感じて頂きたいと思います。

餌釣り
珍しい魚
てんから