ブラッドツリー解放戦争
Bloodtree Rebelion / GDW
ショートコメント
●惑星ソンバーの石油化学施設を制圧したマイ・キンクローン軍団、しかしそれはブラッドツリー解放戦争の序章だった
My Kin clone regiment captured petrochemical company on Somber, but it was a prelude of Bloodtree rebelion.
published designed players time
1979 Lynn Willis 2 3-5 hours
トラベラー世界の異端作品
 「ブラッドツリー解放戦争」はGDWの平箱のシリーズの一作です。「トラベラー」のところでも紹介した通り、GDWの未来史の一角に位置してはいます。
 しかし、ゲーム内容的には戦術的作戦級の陸戦ゲームで、ヒストリカルシミュレーションから持ってきたゲームシステムが使われるなど異色の存在となっています。
 
舞台は牧歌的な植民惑星ソンバーで、この地にある戦略的な施設、オライオニド石油化学を接収するためマイキン・クローン連隊が侵入してきたところからゲームが始まります。
 「マイ・キン」は、「我が血族」といった意味で、兵士としての相互コミニュケーションや協調行動の利点からクローン増殖された兵士種族です。兵士種族として進化を遂げて通常の人類とは掛け離れつつありますが、それでも人類の血を引くものではあります。
 
現地の植民者たちの有志で編成されたゲリラは、原住民の昆虫種族グライフと連合して自らの植民地の奪回を目指します。
ファイナル・コメント

 ゲリラ戦のゲームは洋の東西を問わず不人気なようで、GDWの古典ゲームの中では「ブラッドツリー解放戦争」は一番入手しやすいもののようです。

 しかし、内容的には上述したように先進的な内容を含んだ野心作でした。
 見直してみて思うのはデベロップのバランスが非常に悪いことです。
 上述した通りゲリラ戦の主眼は直接的な軍事行動ではありません。ですから、輸送路の護衛とサボタージュのルールや、市街地での政治活動でのルールが充実しているのは適切だと思うのですが、編成人数に損害比率を乗ずるような戦闘サブシステムは不要だったのではないかと言う気がします。
 ゲリラ側の秘密兵器というルールもあって様々なものからランダムにいくつかが登場するのですが、この内容も戦術色が強いものが多めでした。個人的には残念です。ゲリラ側はもっと搦め手の部分の策動に集中している方が良かった気がします。
 また、GDWのこの時期のゲームに共通の問題ですが、多様なサブシステムを持っている割にルールブックの記述が絶対的に不足しています。盛りだくさんな新概念の多くは実際のプレイ運用では不明点が少なくありません。

勝手な希望を言わせてもらえるならが、もっとツクダの「司政官」のような方向にサブシステムを充実させていたら面白く仕上がったのではないかという気がします。
 とは言え、それは今の時代のボードゲームのデザイン/デベロップメント水準を踏まえての話しです。当時の水準から考えれば、革新的な試みをいくつも盛り込みながら、形として纏め上げてある野心的な力作と言って良いと思います。わたし自身、勝敗にこだわらずに過程を楽しめる相手がいれば、今でも遊んで見たいと思っています。

関連ゲーム
トラベラー
サンダーズエッジ
●チトー
●ワルシャワ・ライジング
●チャド・トヨタウォー
レッドクリスマス
 このゲームは1ヘクス5km/分隊規模のスケールでありながら、1ターンが2週間もあるという曲者で、かなりアクの強いゲームシステムを持っています。
 スケールのアンバランスから分かる通り、移動を制約するものは物理的な距離ではありません。制約条件は、敵に発見されて攻撃されるリスクなのです。このため、クローン軍団側には移動ポイントの制約がまったくなく盤上のどこにでも行け、ゲリラ側は平地などのオープンな地形を通過するリスクに対して移動ポイントを支払うというシステムになっています。
 戦闘システムは、ユニットごとに編成人数が設定されており、これに対する損害率が指定され、結果として編成人数が減少するという仕組になっています。スタックの順番に意味があり、一番上のユニットだけが攻撃の対象となります。 これらのシステムは同社の他のヒストリカルシミュレーションから来ているもののようです。かなり精密志向の戦術サブシステムを持っていると言えます。
 ゲリラ戦ですので、ゲリラユニットは正体不特定のシステムとなっており、クローン軍側は政治的な理由により本来の火力を制限されています。
 精密志向の戦術サブシステムを持ってはいるのですが、戦争の形態がゲリラ戦ですから直接的な武力衝突は実際にはゲーム展開の主眼ではありません。クローン軍団側は掌握したオライオニド石油化学の生産・輸送システムを運営して利益を上げることが主目的となり、そのための輸送ルートの護衛・維持が主務となります。ゲリラ側はこれを脅かしたり、サボタージュすることで影響力を増していこうとします。
 マイキンたちの懸命の努力にも関わらず、広いブラッドツリーを連隊規模の部隊で守り続けることは難しいでしょう。政治的な影響力が増して都市部にも一定の支持が広がってくると、ゲリラは農村部から市街地へと潜入します。市街地は、ヘクス内マップで別に表されており、そこでの市内諸勢力の動向を示すために都市毎に政治チャートが用意されています。
 この市街地の政治チャート上でマーカーの応酬による抽象的な政治アクションの確執が行われます。そのためにプレイ中に政治アクションチットを確保する必要があります。これを適切なタイミングで適切な都市内のターゲットにプレイしていきます。これによって都市の勢力の一部を味方に引き入れると、それを梃子にしてさらに次の勢力を引き入れるドミノ倒し効果が得られることもあります。そして反乱の火は一気に燃え上がるのです。
 プレイが進んでいくとクローン軍団側に味方していた石油化学トラストの民兵がゲリラ側に寝返るようなことも起こります。また、最初は公式には中立な昆虫現住種族グライフもゲリラ側に立って参戦してきます。