レッド クリスマス
RED CHRISTMAS / THUNDERHEAVEN GAME
一言で言えば‥‥
冷戦構造崩壊の中でその地位を失いつつあるソビエト連邦,その最後の賭けは!?
地底戦車でアメリカSDI防衛網の制御拠点シャイアン基地を強襲せよ!
こんなゲーマーにお薦めしたい
荒唐無稽B級SFなシチュエーションと,シリアスなウォーゲームというミスマッチを是とする方に
斬新なシチュエーションを独自のシステムで描いた問題作ウォーゲームを求める貴方に
プレイ人数 |
2人 |
プレイ時間 |
3〜5時間 |
ルール難度 |
中級ウォーゲーム |
デザイナー |
デイブ チャペル |
入手状況 |
流通在庫のみと思うが,不人気でまだまだ見かける |
ソビエト地底戦車軍は,なぜシャイアン空軍基地に?
冷戦構造の崩壊に伴い,ソビエトの存在は急速に色褪せつつあった。米ソの雪解けに伴う両国の軍縮,今後の第3世界での原子力発電の普及に伴う核保有国の増加。ソビエト連邦がそれまで頼りにしていた軍事的な突出は,近い将来には雲散霧消することであろう。また,米国のSDI防衛網はソビエトが主戦力と頼むICBMの価値を大幅に限定してしまった。
このまま多極構造の新時代に埋没するよりは‥‥。
そんな思いの強いソビエト軍部は,その軍事的優位が失われて機会が永久に失われる前に,米国に対して乾坤一擲の大勝負を挑むことを決意した。
冷戦解消で米国上空を飛行するようになったソビエト航空機に爆発事故を発生させる。この事故の調査隊として,最新兵器を装備した浸透部隊を潜入させるのだ。彼らは事故現場からほど遠くない米国SDI防衛網の制御拠点シャイアン空軍基地へと強襲攻撃を仕掛けるのだ。米国SDI網をコントロール下に収めれば,ICBMの優位を生かして米国を屈服させることができるに違いない。
そして,そのために投入された最新兵器こそ,事故現場からシャイアン空軍基地までを密かに侵攻することのできる秘密兵器,地底戦車モールなのであった。
発売当初ですら既に荒唐無稽とも言える奇想天外な設定,ソビエト連邦が分裂して久しい今となってはまさにB級SFゲーム。しかも,その主役は「地底戦車モール」! これぞB級SFゲームの真髄!

レッドクリスマスのシステム

レッドクリスマスは,脱線気味の設定とは裏腹に,きわめて本格的なウォーゲームとしてデザインされています。
特に,地底戦車を使った基地への強襲攻撃と,それに対する米軍の緊急出動,強襲に呼応して外部からの同時攻撃を図るソビエト戦車部隊が渾然として基地を中心に幾重にも群がる独特のシチュエーションを過不足なく描き出すために独特のシステムが使用されています。
ゲームの焦点とも言えるシャイアン空軍基地内部へ向けての地底戦車の掘削作業は,左の図の掘削状態チャートで示されます。どのコースをどのように掘り進むかで,基地内のどの場所にどのタイミングで出現するかが決まり,対する米軍基地内でも地底からの異常な音に対して多少の心構えができるのです。

右の図の上部は,基地防衛のための米軍のヘリの配備ボックスと,使用状態を管理するためのトラックです。その下には,シャイアン空軍基地の換気口の断面図があり,その下には基地内部の平面図が描かれています。
この基地内部を描いたボックス(サークルやトライアングルもありますが)式のマップで,基地内の部隊戦闘が繰り広げられるのです。
その一方で,空軍基地の出口エリアの外側にはソビエト戦車部隊も侵攻して来ており,基地防衛対は野戦でこれと対峙することになります。この部分はエリア式の戦闘システムになっています。
また,さらにその外側にはシャイアン空軍基地救援に駆けつける米軍増援がおり,これはいちばん最初の写真の地底戦車のイラストの下に描かれた盤外ボックスから基地周辺のエリアマップへと侵入してきます。
かくて地底のトンネル,基地内部,基地周辺エリア,さらに盤外ボックスと4重構造となったマップをフルに使って,陸,空,地底の三次元戦闘が繰り広げられます。
このため,ルールも様々なタイプの戦闘をカバーするべくそれなりの分量となっており,段階学習方式になっています。入門ルールではトンネル内の地底戦車の行動は単純化してありいきなり基地内部に飛び出してきますし,ヘリコプターなども使用しません。基本ルールではこうした要素が盛り込まれます。さらに上級ルールではイベントカードなども使用します。この他に選択ルールまで用意されています。
わたし自身は入門ルールでしかプレイしておらず,基本ルールまでしか読んでいないのですが,入門ルールだけでもゲームとしては十分に歯ごたえがあり,基本ルールまで導入すると作戦の余地も広がりそうな感じを受けました。そこから先のことはわかりませんが,相当に真剣にデザインされたゲームであることは疑いありません。
レッドクリマスの難点
レッドクリスマスは,いかにもB級SFゲームにふさわしい題材,それも他に類を見ず,かつもうこれからは出てきそうもない題材を扱ったゲームです。そして,その取り扱いは,本格派と言うよりほかなく,B級SFゲームが単なるおちゃらけではなく,真に本気で取り組む価値のあるものであることを示していると言えます。独創的な設定を,それにふさわしい斬新なシステムで取り扱って成功しています。
そしてなにより実際にプレイして面白いです。
私見になりますが,90年代に登場したB級SFゲームの中でも,ウォーゲームの色彩が強いものとしては,この「レッドクリスマス」とTIMJIM/PRISMの「タイムエージェント」が双璧と言えるのではないかと思います。
いずれもいかにもSFらしい奇抜な設定,それにふさわしい斬新なシステム,そしてプレイした時にそのシステムがちゃんと機能するというもっとも重要な点を高いレベルでクリアしています。
そんな訳で,絶賛に近い評価を与えて良いと思うのですが,一つだけ致命的な欠点があります。
チープなボックスアートです。
店頭でこのゲームの背表紙を見て引き出してみても,この表紙絵を見て棚に戻す人がほとんどでしょう。子供が書いた色鉛筆画のようなもので,先に紹介してきたカラフルで機能的な内部のコンポーネントの合格点以上の出来映えとは月とスッポンです。
一体全体,どうしてこういうことになったのか,想像もつかないのですが,これは商品としては致命傷でしょう。
ただ,幸いなことに,このボックスアートのお陰で,このゲームは売れ行きが芳しくないようで,発売後もうずいぶんと経っているにも関わらず依然として流通在庫が残っているようです。
わたしからB級SFゲーム同士の皆さんに言えることは,「外見で判断してはいけない,中身のマップやカウンターの出来映えは大手メーカーの平均点を大幅に上回っているし,なによりゲームシステムの素晴らしさは90年代の傑作と呼ぶにふさわしい」ということです。
関連ゲーム / 類似ゲーム
地底戦車の出てくるゲームというのは,わたしの記憶する限りにおいては他にありません。
冷戦時代の米ソの対決のウォーゲームは数多くありますが,その中でB級SFゲーム的なものとしては,SPIの「ウォー イン ジ アイス」があります。南極未来戦争のタイトルで日本でも少数輸入されたようで,南極での米ソに加えて南米連合,もしくは地底人というシチュエーションのゲームです。戦場の霧と,補給ルールがシビアな,部隊密度の低い独特のゲームで,これもなかなかの傑作です。
90年代のB級SFウォーゲームの双璧として並んで挙げたTIMJIM/PRISM
の「タイムエージェント」も関連しているとは言えませんが挙げておきましょう。
