マーチャント・オヴ・ヴィーナス
Merchant of Venus / Avalonhill Games
ショートコメント
●リチャード・ヘムレンのスペースオペラ感覚のSF設定の交易ボードゲーム
●アヴァロンヒルがしっかり作った今でも遊ばれている中堅佳作ゲーム
Richard Hamblen's trading type boardgame which has a taste of space-opera.
Classic middle-class game whch has loyal fan made by AH with sure development.
published |
designed |
players |
time |
1988 |
Richard Hmblen |
3-6 |
3+ hours |
リチャード・ヘムレンの佳作交易ゲーム
AHの「マーチャント・オブ・ヴィーナス」は、今もゲームサークルによっては定番としてプレイされている手軽で面白い交易ゲームです。
デザイナーは、「マジック・レルム」や「ガンスリンガー」などの野心的な力作をAHで送り出したリチャード・ヘムレンです。
表題の「マーチャント・オブ・ヴィーナス」は、「ヴェニスの商人」のパロディで、別に金星で商売をする訳ではありません。AHの作品ではありますが、あまりシミュレーションという感じではなく、SF設定のファミリーゲームと言った感じです。このあたりのテイストは右のボックスアートを見てもらうと分かるでしょう。スペースオペラ感覚と言って良いかと思います。
ゲームシステムはリチャード・ヘムレンにしては手堅くオーソドックスです。
ボード上には航路で繋がった星系のネットワークが描かれています。
この星系にプレイヤーの宇宙船は散っていき、そこにある様々な文明を発見し、そこで得られる物資を、それを必要としている文明へと送り届けます。それによって収入を得ていきます。
移動は基本的にはスゴロクでダイスを2個振って、その出目で進んで行きます。ただし、このゲーム、ファミリーゲームと言うにはガジェットがかなり豊富です。
移動ルールだけでも様々なガジェットが含まれています。先ずプレイヤーの宇宙船ですが、最初はスカウトという中速の小型船でスタートします。けれどもプレイが進むに連れて、積載量の大きなトランスポートやフライター、高速のクリッパーなどに買い換えることができます。
ファイナル・コメント
リチャード・ヘムレンの作品群の中では、こじんまりとまとまった佳作としてプレイアビリティが高いものになっています。
それでいて少し変わったデザインテクニックがあちこちに散りばめられていて、プレイして楽しいゲームになっています。
ファミリーゲームとしてはガジェットが多目なので、少し難易度が高いでしょう。また、このゲームをやりなれている人と、初めての人ではガジェットの使いこなしの部分で多少のハンディがあります。この点は頭に入れておく必要があるでしょう。特にこのゲームをかなりやりこんでいる人というのがあちこちのゲームサークルにいますので。
ちょっと妙な話しをすると、このゲームのテイストは、往年のスクールパンチの最初期のシリーズの「鉄道輸送ゲーム」と「交通安全ゲーム」あたりに似ています。
ヘムレンが日本のスクールパンチをプレイしてこのゲームに取り込んだ‥というのはありそうもない話しです。プレイアブルで一捻りある中堅クラスのゲームデザインが、同じような工夫に行き着いたということでしょうか。
また、ボードの重要なジャンクションのところには、航路を決めるパイロットナンバーが振られています。プレイヤーは船によって2個から4個のダイスを振りますが、その内のいずれかを選択してパイロットナンバーに指定します。ジャンクションではこの選択したパイロットナンバーの方向に進むことになります。ですから必要な出目が一つも出ないと思う方向に進めなくなったりするのです。
この他の要素として、加速機関の改善要素としてイエロードライブ、レッドドライブと呼ばれるものがあります。航路上のドットには黄色や赤のものがあるのですが、これらのドライブを手に入れると、そのマスはスキップできるようになり高速化します。
ここらへんのところは、スゴロクとは言いながらも微妙にゲームデザイン・テクニックが散りばめられているようで、ヘムレンの片鱗を感じさせます。
本題のビジネスの仕組も紹介しておきましょう。ボード上にある10箇所の星系には10種類の文明が位置しています。これらはランダムに配置されています。
これに対してプレイヤーが運ぶべき物資はマーカーで与えられカップからランダムに取り出されてプレイに登場してきます。マーカーが引かれると指示されたナンバーの文明の星系に置かれます。ここが物資の算出場所になり、プレイヤーはそこへ行くと物資を積載することができます。
この物資の運び先はマーカーの裏側に指示されています。10個の文明には1番から10番のナンバーリングがされていますが、1番のものは2、3、4番で需要があり、その文明の星系へ運ぶことで商売が成立します。同様にある物資は算出文明の+1、+2、+3番の文明に売れるのです。これによって物資のビジネスルートは番号を追ってどんどん回ってボード中を回るようになっています。このあたりもヘムレンの上手いデザインで、ゲームボード全体を各プレイヤーに使わせようとしています。
プレイヤーはこれら10文明の一つに所属しています。人間(ちなみに4番)もいますが、それ以外はヘンテコリンなエイリアンばかりです。「寄り目」の異名を持つ多眼のデル族や、知能を持つ馬ホワイノム族、「政治的機械」の異名を持つイイイプ族などです。
このゲームでは通常のビジネスを支援する設備としてスペースポートや工場が建設できます。通常はある星系でビジネスをしようとすると惑星地表に下りなければなりません。ところがスペースポートができると軌道上でビジネスが決済できるので離着陸しなくて良くなります。また、通常は離着陸すると取引が1件に制約されるのですが、スペースポートではドッキングだけで済み時間が節約されるようで好きなだけ取引できるようになります。
他のプレイヤーもこの施設を利用することができ、その場合にはコミッションとして取引額の10%がポートオーナーの懐に入ります。
同様に工場は星系上に作られ、そこでは通常の産物より取引額が大きい物資が作られます。これは工場の建設後に通常の物資同様にプレイに加わります。工場建設者は、この物資が引き取られると、その価格の半額を得ることができます。
また、こうした設備にはホームアドバンテージがあり、自分の属する文明のところでは建設しやすくなっています。
このように単なる荷物運びの要素以外に設備投資の要素もあり、種族の個性もあります。ここらあたり只の荷物運びスゴロクを越えたゲームになっています。
この他に古代文明の遺産が宇宙のあちこちに散在していたり、テレポートゲートがあったりします。プレイしなれたプレイヤーは、こうした諸要素も全て把握していて自在に使いこなすことになります。豊富なガジェットと手軽に遊べる感覚を併せ持つ中級ボードゲームです。