マジックレルム
Magic Realm / Avalonhill Games
ショートコメント
●RPG黎明期、ボードゲームとRPGの狭間にヘムレンが提起した野心的大作ファンタジー冒険ゲーム
●キッチリしたボードゲームのルールで、RPG的な幅広いガジェットと選択肢を持つ独創的ゲーム
Ambitious big fantasy adventure game which is designed by Hamblen during the dawn age of RPG.
Unique game which has both strict-written boardgame rules and also wide variety of gadgets and choices like RPG.
published designed players time
1979 Richard Hamblen 1-16 3-6 hours
マジックレルム

 「マジックレルム」は、RPGという新ジャンルの勃興期に登場したボードゲームとRPGの折衷型のファンタジーアドベンチャーゲームのひとつです。
 この時期、新しいRPGというコンセプトの登場で、いろいろなゲームシステムの試みが行われました。「パンドラ号の航海」から始まって「テイルズオブアラビアンナイト」へと至るパラグラフボードゲームもその試みの一つでした。
 それとは別にボードゲームメーカーの大手アヴァロンヒルでは、鬼才ヘムレンが「マジックレルム」と、「ガンスリンガー」という二つの試みをしました。この二つの共通点は、ゲームマスターなしにきっちりとした競技用ボードゲームのルールを持っており、その一方で豊富なガジェットや経験によるレベルアップの要素を取り込んでいます。
 進行によってバランスを調整してくれるゲームマスターの心配りがなく、多様な状況をアドリブで適宜に判断する恣意性もなく、それでいて多様な要素をきっちりと規定してプレイするのには、危ういものがあります。
 一人の冒険者を持ってプレイするゲームでありながら、その冒険者が頓死してしまう危険をはらんでいます。実際、このゲームをプレイすると思わぬザコモンスターの群れに襲われて衰弱死したり、不運な一撃でまさかの逆転を食ったりして唯一無二のキャラが命を落としてしまうことが割りと頻繁にあります。
 そういう危うさを孕んでいながらも豊富な要素を取り込んで一定のまとまりと完成度を持って仕上げられている点は、さすがにリチャード・ヘムレンと思わせます。
 パラグラフ系ボードゲームは、多数の後継者を生んで繁栄しましたが、ヘムレンのような折衷型のきっちりしたボードゲームはあまり多くは生まれませんでした。近いところではマーク・ハーマンの「火星の大元帥ジョン・カーター」があるくらいでしょうか。
 数が少ない理由は、やはりこうしたゲームがデザイン困難だからでしょう。
 そうした意味では数少ない実際にまとまった作品として見るべき価値のある一昨と言えます。実際にプレイしても、頓死しやすいことに対しておおらかに取り組めるなら、十分に楽しめる内容になっていると思います。
ネガティブ・コメント

 「マジックレルム」の弱点は、冒頭にも書いたとおりバランスの危うさでしょう。
 とは言え、死んだら未登場の別キャラでやり直すくらいの気持ちでプレイすれば十分に楽しめると思います。
 もう一つの難点はルールの出来が良くなかったことで、結局、現在はアンオフィシャルながら第3版に至っているようです。初版は英文でも出来が良くなく、さらに翻訳時のエラーが入った当時の和文ではなかなか真髄を楽しめなかったという苦い記憶の方も多いかと思います。
 第3版は、ネット上で入手できるようですので、オークションで本体を探して今からでも取り組んでみるのも良いかと思います。
 ファンタジーの浪漫を、こうしたきっちりしたシステマティックなボードゲームでどこまで再現できるか、ヘムレンの野心的な挑戦の成果を見てもらいたいところです。
関連ゲーム

●パンドラ号の航海
●テイルズオブアラビアンナイト
●ガンスリンガー
●バーバリアンプリンス
ゲームシステムの概要
 「マジックレルム」の特徴は、多様な要素をきっちりと規定したゲームシステムにあります。
 非常に盛り沢山な内容なので全部は紹介できませんが、いくつかの要素を紹介してイメージを伝えたいと思います。
 左の画像は実際のプレイの状況です。
 魔法の王国は六角形のタイルを組み合わせて作られます。それぞれのタイルには、実際の移動や行動の単位となる広場がいくつか含まれています。これらの広場は道で繋がっています。
 プレイヤーのキャラクターは移動行動で広場から広場へと進んでいきます。そこでモンスターや原住民、他のキャラと遭遇し、戦闘を挑んだり、交渉を行ったりできます。
 こうした行動は、ゲーム内時間の1日を単位にプロット式でプレイします。ですから、各プレイヤーはログパッドを持ってその日の行動を同時にプロットします。そしてランダムに決まる順番で実行していきます。
 プロットを行うためにタイルにはきちんと名前が付いており、広場には番号が付いています。これによってきっちりプロットが行われ、モンスターの登場なども広場番号でシステマティックに管理されます。このあたり正にボードゲーム的ルールと言えます。
 またログパッドの裏側が戦闘チャートになっています。
 この戦闘チャートは一種のじゃんけんシステムになっています。この戦闘ルールも、非常に厳格できっちりしています。
 キャラクターには、移動コマと戦闘コマが合計で12個与えられています。それぞれには重量等級と時間値が記載されています。
 重量等級とは、そのコマを使うことでどの重さまでの武器や防具を使って防御アクション、攻撃アクションが取れるかを示しています。一方、時間値はその行動をどれだけ機敏に実行できるかを示しています。
 重いものを持って素早く動けるに越したことはありませんが、大抵の場合にはそうは問屋が卸しません。大柄なキャラクターは怪力ですが鈍重で、俊敏な軽量キャラは軽い武器を扱うようになっています。
 戦闘ではこれらを組み合わせて3種類の攻撃アクションと防御アクションの中から戦術を選択します。攻撃が成立するための条件は2つあり、いずれか一方が満たされれば攻撃が成立します。
 1:攻撃の時間値が防御の時間値より小さい。つまり防御側がアクションを取る前に切りつけたので逃げられない場合。
 2:攻撃方法がそれと対応する唯一の防御方法と合致した。つまり振り下ろす攻撃に対して伏せても役に立たないというような場合です。3種の攻撃のそれぞれは、対応する防御法以外の2種類の防御法で避けられてしまいますが、ある防御方法にだけは追随できるのです。
 このルールがあるため、速いキャラは確実に鈍重なキャラに小技を浴びせられますが、その一方で重量級のキャラは1/3の確率で必殺の一撃を小兵たちに見舞えるようになっています。
 魔法も同じようにシステマティックな構成になっていて、色で区分けされた魔力を利用して同じような魔法コマを使って唱えるようになっています。魔法は魔力の存在と呪文の詠唱時間という制約を受けていますが、いざ発現すればやはり強力です。
 モンスターや原住民も多種多様に存在していますが、その登場もきっちりとルールで規定されています。キャラによって種々の原住民との関係も設定されており、仲の良い組み合わせから敵対的な関係まであります。
 原住民とは交渉ができ、物の売買から、雇用関係まで設定できます。原住民を雇用してパーティーを組んだり、さらには最上級ルールではクエストの設定で、ある部族と組んで敵対する部族を殲滅するような戦争任務まで設定できます。
 プレイ人数のところで、1−16人と書きましたが、このゲームには16人のキャラが設定されています。バーサーカーやドワーフのような重量級のモンスターハンターから、黒騎士やアマゾンのような強者、ソーサラーやウィザードのような魔法使い、さらには実体を持たないウィッチキングという魔性のものまでいます。