オメガウィルス
Omega Virus / Milton Bradray
ショートコメント
●わたしがオメガウィルスに乗っ取られるまで30分しかない、コマンド「レッド」、わたしを助けてくれ!
●ウィルスに乗っ取られつつあるステーションに侵入して汚染除去を試みるコマンドたちの電子ボードゲーム
30 minutes until I take over ! Red, help me !
Electronic board game which covers commando adventure to cleanse Omega Virus from Battle Sat. 1.
published designed players time
1992 Michael Gray 1-4 1 hour
電子ゲーム随一の傑作

 ファミコン、プレステといった高性能CPUを積んだゲーム機が当たり前に家にあるようになって久しいですが、コンピューターがフツーの個人の所有物になるようになったのは実はそれほど昔のことではありません。
 その普及期に当って電子機能を搭載したボードゲームというのが一時期、数は多くなくとも一つのサブジャンルとして存在していました。正式な呼称があった訳ではありませんが、このゲームの箱の文言から借りるなら「電子ゲーム」と呼ばれる一群のゲームたちです。
 勝敗の判定機能を担うランダマイザーとしての働きをするだけのものから、プレイヤーに隠された秘密情報を管理する本ゲームのようなものまで、その性能や機能はいろいろでした。ゲームの出来栄えも玉石混交といったところでした。
 その中で、この「オメガウィルス」はかなり良い線を行っています。
ファイナル・コメント
 デコーダー、ディスラプター、ネガトロンという3種類のAVDを無事に装備して、オメガウィルスの所在を突き止めると最後の対決となります。入力キーの一つを押してそれが正しいキーならオメガウィルスをターミネートすることができます。失敗したら次のターンまで待つことになりますが、果たしてそれまで時間は残っているでしょうか?
 最後になると一番可能性の高そうなプレイヤーに手番を譲ってパスすることも作戦の一つです。人類の存亡を賭けて最後までゲームは緊迫します。

 冒頭にも書いたとおり電子ゲームの中では抜群の出来栄えだと思います。ゴージャスなコンポーネントも魅力です。ミルトンブラッドレーでなければ作れなかったゲームではないかと思います。
 惜しむらくは日本の空間事情ではこれを購入するのにはかなりの勇気がいるため、実際に日本で持っていて遊んだ人はあまりいないのではないかと思われます。
 けれども、ルールは明確で、制限時間があるため緊迫した短時間で終了し、しかもB級SFテイストがこれほど溢れているものも珍しいので、もし機会があれば一度は遊んでみて欲しいものです。友達で持っている人がいたら訪問してでも遊ばせてもらってください。

 先日、デザイナーをギークで調べて見たらマイケル・グレイという人物であることがわかりました。この人は、「そして誰もいなくなった」を髣髴とさせる館の中で人物が様々なギミックで怪死していく変なゲームを作った人ですね。昔、一度だけプレイしたことがありますが、ギミックの面白さでブラックな題材ながら盛り上がるゲームでした。
関連ゲーム
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●13デッドエンドドライブ
フォートレスアメリカ
 2051年9月30日、地球を隕石の飛来や彗星の衝突から守るために配置された要塞化衛星バトルサット1は、突然、コンピューターウィルスにより汚染されてしまった。このオメガウィルスの目的はバトルサット1を乗っ取り、その隕石迎撃システムによって地球を爆撃し人類を殲滅することであった。
 手始めにオメガウィルスはバトルサット1内部の警備システムを乗っ取り、その乗員たちを殲滅してしまった。この危機に際して腕に覚えのあるコマンドが各国から送り込まれ、地球の命運と国家の威信を賭けて誰がオメガウィルスを排除するか争ってバトルサット1に潜入することとなったのである。
 というB級SFの王道を行くかのような設定のゲームです。

 巨大なボックスを開けると、そこには原色たっぷりの組み立て式の巨大なバトルサット1の内部ボードが入っています。その中央に置かれるのがコマンドセンターという名のゲーム用コンピューターです。
 各プレイヤーはボードの四方から進入し、バトルサット1内部を探索していきます。最初はコードキー:グリーンしか持っていませんが探索によって他のレベルの高いコードキーが手に入り、さらにオメガウィルスを倒すために必要な3種類のAVD(アンチウィルスデヴァイス)が手に入ります。そして、バトルサット1のどこかに潜んでいるオメガウィルス本体の位置を特定して排除するのです。
 しかし、任務には時間制限があり、オメガウィルスが先にバトルサット1を乗っ取ってしまうと、人類滅亡を救うことはできず全員が敗北してしまいます。

 電子ゲームは他にもいくつかプレイしましたが、電子ゲームならではの特徴を上手に生かしてまとめているという点で、「オメガウィルス」はわたしの知る範囲でベストだと思います。電子ゲームならではの効果を以下に列挙してみました。
 ●時間制限をきちんと管理してくれる
 ●プレイヤーの誰も知らない秘密情報をきちんと管理してくれる
 ●オメガウィルスという存在を魅力たっぷりに音声で演じてくれる
 ●ゲームの進行による状況変化を管理し、破局の進行を管理し演出たっぷりに指示してくれる

 ゲームのプレイ時間は、最初に登録した人数と、難易度の選択の組合せで決まります。そしてプレイ中に、乗っ取られかかったコンピューターの助けを求める音声指示としてカウントダウンしてくれるのです。これがあるだけでゲームは一気に緊迫します。
 オメガウィルスの位置や、アイテムの所在などがゲームの重要な要素なのですが、これをプレイヤーごとに管理してきちんと指示してくれるという役割も果たしています。ウィルスの位置は全員の共通情報なのですが、誰かが見つけたときに他の人にはそれが伝わらないように、この情報はプレイヤーがプレイ開始時に打ち込むシークレットコードを使って伝えるようにしてある当りもゲーム慣れした心配りが感じられるデザインです。
 カウントダウンによる緊迫感もそうですが、コンピューターの声を借りて時折コマンドたちに挑戦的な言葉を投げかけてくる「オメガウィルス」の台詞もゲームの重要な要素でしょう。思い切りB級なガジェットですが、これが原色のコンポーネントと相俟って往年のアメリカンテレビSFシリーズ的なテイストを感じさせてくれるのです。
 このゲームのコンピューターは意外と機能が高くて侮りがたく、個々のプレイヤーの持っているアイテム情報も管理しており、プレイヤーが戦闘でそれを破壊されたりすると、そのこともちゃんと管理しているようです。このため、ゲームはコンピューターの杜撰なシステムにより解決不能になったりしません。
 また、難易度にもよりますが、ゲーム終盤ではオメガウィルスの攻勢が激しくなりバトルサット内の特定の区画が封鎖されたりもします。これにより探索の範囲が狭まり、プレイヤー側は焦点を絞れるようになります。もちろん封鎖されていない区画に必要な要素はすべてあるようになっている‥ようです。
 ここらへんコンピューターがゲームマスターのRPGをやっているような心配りがあり、ゲームを適度にフレンドリーなバランスに保ってくれています。