起こりえた未来
現代架空戦ゲームは、どこからSFになってしまうのか?
 「第7艦隊」を当分科会に加えたこと(2002年6月)で、このゲームがSFゲームかどうかという話題で予想外に盛り上がることとなりました。
 現代架空戦ゲームは、近い将来に起こりえる紛争を、現時点の資料をできる限り投入して予想するものです。ヒストリカルウォーゲームと、そのデザイン手法において大きな差はなく、基本的に「同じウォーゲーム」だと言えます。決定的に違うのは、その紛争が「まだ起きていないこと」であり、デザイン時点から見て時間線の未来側に位置しているということでしょう。
 一方、SFゲームの定義は曖昧です。
 個人的に強いて定義するなら「想像力の翼を広げて、未知の架空の世界に飛び出していくゲーム」といったところでしょうか。
 こう定義しなおしてみると、微妙ではあるものの両者の間には隙間があるように思います。現代架空戦ゲームでは、対象は実際には起こっていないことではあっても、それをできるだけ「現実・リアル」として捉えて描き出そうという姿勢があるように思います。
 それに対して、SFゲームでは、「想像力の翼を広げて」飛躍していっても良いし、むしろそうした姿勢がSFの醍醐味とも言えます。とは言え、SFにも荒唐無稽なものばかりでなくリアリティを追求したものもあるので、境界線はやはり曖昧模糊として引きがたいものかも知れません。
起こり得た未来‥???
 現代架空戦ゲーム華やかなりし時代というと、やはり米ソ冷戦の時代に遡ります。当時は第3次世界大戦は、リアリティのあるブラックフューチャーであり、キューバ危機のときなど後から公開された資料から見ると、正に危機一髪だったとも言われています。
 ウォーゲーム界でも各社が現代架空戦を取り上げましたが、その中でも当時のウォーゲーム界の雄、SPI社は幾度も様々なスケールでこの題材に取り組みました。その中でも末期に発売された
「セントラルフロント」シリーズは、いろいろな意味で印象深い作品です。
 東西分断されたドイツ国境付近は、両軍の陸上戦力の主力が対峙するホットスポット(コールドスポット?)でした。中でも西ドイツ軍とアメリカ軍の防衛境界にあたり、ワルシャワ軍のターゲットになりやすいと目されていたフルダ峡谷は、まさに火中の栗のごとき存在でした。
 1980年に登場した「セントラルフロント」シリーズは、この戦場を描いたいくつかのSPIゲームの最後のものであり、最終的に全10作が出揃うと北ドイツ平原からドイツ南部の山岳地帯までをカバーして、この仮想メインバトルフロントの全容を戦術的作戦級規模でカバーするものとなるはずでした。
 ゲームシステム的には、かなり斬新なシステムがテストされており、そうした大プロジェクトの一部としてでなく、個体のゲームとしても第1作の「第5軍団の迎撃」は興味深い作品として話題になりました。結局、SPI崩壊までに3作しか投入されず、その後、システムが全然違う第4、5作が出たところでピリオドが打たれています。既に企画段階の想定も外れてしまっており、旬を逃してしまった感もありました。

  1985年に登場したGDW社の「ザサードワールドウォー」シリーズは、欧州の仮想戦場を北はスカンジナビア半島から南はイタリア半島まで三部作で描き出したものでした。実はこの年は、ゴルバチョフが書記長に就任した年であり、それまでのソヴィエト首脳とは大きく異なる新しいヴィジョンを持った彼の登場で冷戦は急速に収束していくのでした。
 その意味で、このゲームは「最後の第三次世界大戦ビッグゲーム」として暗黙の了解を持って迎えられた作品でした。ゲーム的には欧州全土を扱うだけに、規模は戦略的作戦級とも言うべきスケールになっています。当時、流行し始めていた非対称シークエンスで東西のドクトリンと部隊特性を表していました。
 全ての戦場を同じシステムで扱うので、主戦場であるセントラルフロントはスタックがぎっしりと睨みあい、南の方では普通の作戦級ゲームくらいの部隊密度、極北へ行くとユニットを分割できるルールがないと戦場をカバーできないという状況になっていました。ある意味で、部分ではなく全体としてみたときに、いったい衝突がそれぞれのフロントでどのくらいの規模で行われるかを非常に良く理解できる一作でした。
 このゲームは中東の発火点を描いた政治手順が重要な続編「ペルシャンガルフ」と連結され、さらに中ソ国境から朝鮮半島方面までカバーする姉妹編の予告もされました。しかし、冷戦終結を迎え、姉妹編は登場しませんでした。

 このコラムを書くキッカケとなった「第7艦隊」は、さらに遅れて1987年の登場です。
出ることのなかった「ザサードワールドウォー」のアジア編の代わりに、太平洋での両軍主力艦隊の激突する海空戦をいくつものシナリオで描き出しました。
 このゲームあたりになると、冷戦は急速に終結しており、デザイン時点はともかく発売段階では想定のリアリティは急速に薄れてきました。また、海空戦の最新兵器の激突は、ともすれば「スーパーウェポン大戦」とも言うべきハイテク兵器の応酬でSF的な色彩が強く感じられました。
 国産ウォーゲームでは、アドテクノスが近未来戦と架空戦史に挑戦していました。ソヴィエト軍の北海道侵攻を三部作で描いた「自衛隊」シリーズは、フルマップ3枚半で北海道の全体が描き出される作戦級のスケールでした。
 ゲームシステム的には、最初に紹介した「セントラルフロント」の流れを酌んでいます。戦線で戦うのではなく、重要拠点を結んで高速で機動する点と線の戦いとなると思われる現代機動戦を再現するための有力システムということなのでしょう。
 定評のある手堅いシステムと、日本人にとって馴染みのある地形が組み合わせられているので、個人的には結構、良いゲームだと思っています。
 第1作は道北の「第7機甲師団の迎撃」、第2作は道央、道南の「北部方面隊」、第3作は道東の「第7師団」でした。

 どこらへんからがSFという境界線には人それぞれ様々な意見があるようですが、個人的には此処からはもうSF当選確実だろうと思うのはXTRの仮想戦シリーズの一作、
「レッドスカイモーニング」あたりです。
 クレジットに発売年が見つからないのですが、1990年ごろの発売で日本がアメリカを経済的に圧倒したことに対して、アメリカが経済封鎖を掛け、これに日本が態度を硬化させ‥というシナリオです。
 「起こり得た未来」と言えば言えるのですが、その着想をどんどんエスカレートさせて第二次日米戦争のフルサイズゲームとして、ハイテク兵器が飛び交うゲームに仕立ててしまうあたりは、SFゲーム的だと思います。「レッドサンブラッククロス」あたりもそうですが、キッカケは歴史からの逸脱であるにせよ、途中からは「想像力を羽ばたかせて」デザイン/デベロップしているので、SFマインドに近いように思います。

 同じようにサンダーヘブンゲームズの「レッドクリスマス」もSFゲームと言って良いと思います。
 冷戦構造崩壊の中で地位低下を懸念したソヴィエト軍部が、起死回生を賭けて行ったシャイアン空軍基地への立体攻撃のゲームです。「起こり得た未来」というには、あまりにも突飛な地底戦車モールが攻撃の先陣を切るあたり、B級SFゲームマインドに満ちた一作となっています。
 とは言え、奇抜な設定と、幾多のハイテク兵器の魅力をフルに引き出す本格派のデザインであることも事実で、単なるイロモノとばかりは言えない実力派でもあります。
 発表年代が前後しますが、SPIの「南極未来戦争」も同社の現代戦ゲームの一角と言えないこともありません。とは言え、ここまで来るとどう見てもSFです。時代設定は1991−2年と既に過去になっています。資源大陸南極に米ソ、そして第3勢力である南米連合が兵力を展開しており、厳しい環境の中、ステルス性が強く、補給が厳しい状況で少数精鋭のハイテク兵器で戦うのです。
 設定にも相当に無理があるのですが、もっと凄いのは後半のシナリオでは米ソの激突で地底に眠る地底人が目覚めてしまい、これが第3の勢力として登場することです。これはもうSFとしか言いようがないでしょう。
 このゲームもイロモノ的に見えますが、部隊密度が低く、ステルス性が高いので、プレイアビリティが高くて作戦判断が難しい本格派のウォーゲームでもあります。なにせ補給ルールが険しいので攻撃側は非常に苦しいのですが、それでも敵の意表を付いて兵力を集中して攻撃すれば戦果は期待できます。敵の意図を見抜き、敵の隙を突く、局地のブリザードの中での戦いはエキサイティングです。

 もう少し遡るとSPIの著名作「インベージョンアメリカ」もあります。
 これも一種の近未来架空戦ですが、基本的にはサーカスティックな設定のブラックユーモアゲームでしょう。欧州社会主義共同体、汎太平洋機構、南米連合に三方から侵攻されるアメリカという設定です。
 このゲームは正にイロモノなのですが、プレイアブルなビッグゲームで、かつ陸海空の立体戦闘ができるので、プレイして楽しいゲームになっています。プレイアブルなビッグゲームというのは、それ自体が貴重な存在ですので、いまなお一部では人気のあるアイテムです。
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