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インヴェージョン・アメリカ
Invasion America / SPI

一言で言えば‥‥

アメリカ建国200周年にSPIが作ったアメリカ暗黒未来ゲーム

プレイアブルな架空史ビッグゲームとして実は良くまとまっている

こんなゲーマーにお薦めしたい

手軽に楽しめるビッグゲームを求めている方に

架空戦ものが好きなイロモノゲーマーな貴方なら必見!

プレイ人数 2−4人(侵略側を1〜3人で分担)
プレイ時間 8時間以上
ルール難度 中級ウォーゲーム
デザイナー ジム・ダニガン
入手状況 アメリカ中古ショップを捜索されたし

アメリカが侵略される日

インベージョンアメリカ
1970年代後半、成長を続ける軍需産業は売り先を求めて世界中へと兵器の輸出を拡大した。その結果、世界各国は一世代前のものではあるものの、安価で威力もそれなりにある兵器を手に入れることとなった。これはアメリカの軍事力を潜在的に低下させた。

さらに、80年代にはソヴィエトはレーザーによるミサイル撃墜システムを構築してアメリカに対して兵器的優位を確立した。結果として、NATOはワルシャワ条約機構の軍門に下ることとなり、アメリカは西側唯一の生き残り国家として孤立することとなった。

90年代になってアメリカ以外の世界は、3つに統合されていった。欧州社会主義共同体、汎太平洋機構、そして後発の新興勢力である南米連合である。南米連合の台頭は、新大陸でのアメリカの地位をさらに低下させることとなった。

もはやアメリカは三大勢力の草刈場に過ぎないのは誰の目にも明らかだった。

「インベージョンアメリカ」は、SPIが建国200周年に作ったブラックジョークゲームです。しかし、そこはSPI、単なるジョークとは思えない念の入れようでした。

フルマップ2枚で中米からアラスカまで北米エリアのすべてをカバーし、陸海空の三軍を網羅したゲームシステムで、この三大勢力のアメリカ侵攻を描き出しました。このゲームは予想外の好評で迎えられ、SPIは続編として今度はソヴィエトが同じ目に遭う「オブジェクティブモスコー」を、さらにスケールアップして作りあげたのでした。

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アメリカへの侵略が始まった日
ターン1
アメリカへの侵略は、まず陸続きである南米から始まります。南米連合は、アメリカの保護領化している中央アメリカへと上陸作戦と、陸路での侵攻とをパラレルに実施して攻め上ってきます。

南米連合は侵攻三勢力の中ではもっとも装備が貧弱です。しかし、その一方で中央アメリカから中西部という比較的抵抗の弱い地域をターゲットとしています。このエリアは都市や補給拠点のようなゲーム上の重要な機能を持つ拠点がないためアメリカとしては防衛優先順位が低いのです。しかし、勝利得点となる資源ヘクスは中西部には数多く点在しており、南米連合は勝利得点的には漁夫の利をねらえる立場にいます。

2番目に侵攻してくるのはキューバを前線基地とする欧州社会主義共同体です。ホバークラフト部隊であればキューバからフロリダは、通常の作戦範囲です。侵攻軍中最強の空母艦隊の援護を受けた上陸作戦と併せて、アメリカ東海岸という敵の中枢へと食らいつくことになります。
このフロリダ作戦と並行して北東部カナダのローレンス湾でも小規模な上陸作戦が実施されており、ニューヨークなどアメリカの北東の重要拠点への圧力を掛け、アメリカ防衛部隊の分散をはかっています。
ターン1
「インベージョンアメリカ」は、比較的オーソドックスなウォーゲームです。
しかし、題材の必然として陸海空の三軍のすべてが登場する戦略規模の戦闘システムを持っています。なにせデザインされた年代が70年代ですので、そのゲームシステムは洗練されているとは言い切れません。
たとえば海軍同士の海戦ルールはありませんし、空軍ユニットは射程距離を持った通常の地上部隊として扱われます。基本的には、陸戦作戦級のシステムの上に、海空軍のルールを追加した程度の作りなのです。

ところが、実際にプレイすると、この野暮ったいようなゲームシステムは、最新の三軍統合システムより優れている部分もあることがわかってきます。第一に、ルールがシンプルで学習しやすいということです。第二に、基本的な陸戦作戦級の処理で解決できるためプレイシークエンスの追加などがほとんどなく、手間や時間が余分に要りません。そして、その割には結構、もっともらしいのです。

ウォーゲームシステムの各論になってしまいますが、少し説明しましょう。まず、このゲームでは地形の防御効果が高く設定されています。特定の地形では、防御側の戦力が2倍、3倍になります。ところが、攻撃側が空軍を導入して複合攻撃を実施すると、防御側の地形効果を無効にできます。ですから空軍は重要なのです。
しかし、空軍で陸上ユニットを攻撃するには、そのヘクスで航空優勢を取らねばならないと規定されています。航空優勢を取るためには、そのヘクスを行動範囲に収めている敵の空母、長距離攻撃機ユニットに対して同じターンに攻撃を実施して戦闘に巻き込まねばなりません。
ターン1全景
このルールは非常に上手く機能していて、攻撃機の行動半径に勝るアメリカ軍は、これによって地上部隊の地形防御効果を確保して戦線を築くことが重要になります。それに対して侵攻軍は、いかにしてアメリカの長距離攻撃機ネットワークの弱点を突くか、あるいは必要なら敵のネットワークに味方の攻撃機や空母を投入して無効化してでも攻撃するかを考えることになります。
ここらへんのシンプルでプレイアブルでありながら、実際の戦闘のジレンマを再現しているあたりは、さすがはダニガン先生といったところでしょうか。

このため、「インベージョンアメリカ」はフルマップ2枚のビッグゲームでありながら、プレイアブルで面白く仕上がっています。

しかし、アメリカ軍のユニットが質的には優勢とは言え、広い北米大陸を隙なく守りきることは容易ではありません。侵略者は弱点を狙って牙を向いて襲いかかり、一度、食いついたら離しはしないのです。じわじわと侵略者は領土を蝕み、アメリカ軍は後退しながら戦線を整理して行かざるを得ないでしょう。
ターン7
右の図は第7ターンの東部の状況です。右側が北になります。既に欧州共同体は東海岸を攻め上っておりワシントンDCの目前まで来ています。アメリカ軍は東海岸のDCを起点にシンシナティからシカゴまでの戦線まで押し込まれています。西側から圧力を掛けてきているのは中西部を突破した南米連合です。

西海岸でも状況は危機的で、南からの南米連合と、シアトル付近に上陸した汎太平洋機構に挟撃され、アメリカ軍はサンフランシスコ周辺でダンケルク状態になっています。

この段階で勝利得点を計算したところ、アメリカは依然233ポイントを保有していて盤上の過半を有していますが、半数割れは時間の問題でしょう。

侵略側では中西部の広大な資源エリアを制圧した南米連合が109ポイントでトップ、続いて欧州共同体の44ポイント、汎太平洋の41ポイントと続いています。
ターン7
アメリカ軍プレイヤーのモラルが崩壊してきたところから、今回のプレイはここでお開きとなりました。

ちなみにプレイしたシナリオは、シナリオ2の「早期侵攻」で、両軍ともに準備未了で開戦したという初期配置ユニットの少な目のシナリオでした。シナリオは他のものもすべて8ターンで終了します。
キャンペーンはいずれかのシナリオの設定からスタートして、60ターンまでプレイすれば良く、今回はそれを狙ってもいたのですが、そこまでプレイするに及ばずの結果となりました。

とまれ、フルマップ2枚のビッグゲームを満喫することができました。

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インベージョンアメリカについての疑念

そう何回もプレイして研究するという訳にも行かないビッグゲームですので、1回だけのプレイですが疑念という形で問題のありそうなところを指摘しておきます。

まず、シナリオの勝利条件や、キャンペーンのターン数については、率直に言ってプレイテストして練って決めたとはどうも思えません。たとえば今回プレイしたシナリオ2では、アメリカ側が勝利するにはゲーム終了時に400ポイントを保有していなければなりません。
しかし、ボード上には(多少の誤差があるかも知れませんが)427ポイントしかなく、この内の400ポイントを守るというのは不可能です。あるいはアメリカ軍の防衛が上手になると達成可能だとすれば、今度は8ターンでたったの27ポイント分しか攻め込めないのでは、侵略ゲームとしてはダメダメで、つまらなさすぎでしょう。
また、7ターンで上記のような惨状ですので、キャンペーンの60ターンというのも凄すぎます。さらに、このときの勝利条件としてアメリカ軍のポイントを完全にゼロにするまでやることになっており、そんなところまでやってゲームとして楽しいのだろうかというのは誰しも思うところでしょう。

とは言え、このゲームは競技用ゲームとしてバランスが取れていないことをとやかく言う筋合いのモノではないのでしょう。アメリカが全方位から侵略を受けて崩壊していくというブラックな未来をシニカルに楽しむB級架空史ゲームに違いありません。

そして、その意味では良くできており、ゲームシステムなどには70年代の作であることを考えると、今、見ても光るものもあります。なによりプレイアブルなビッグゲームという点で貴重でもあります。

SPIの残した幾多の記念碑的ゲームの中でも、際だった企画と、プレイして楽しめるという実がある点で、もっともっと評価されて良いゲームではないかと思います。

関連ゲーム / 類似ゲーム

姉妹作とも言うべきSPIの「オブジェクティブモスコー」では、今度はソヴィエトが同じ目に遭います。

アメリカが侵攻されるゲームとしては、MBの
「フォートレスアメリカ」がそうだったのではないかと思いますが、実物を見たことがないので不確かです。

XTR社の架空史では、アメリカとドイツが二次大戦に勝利した後、アメリカで激突したことになっており、これを題材としたゲームがいくつか作られています。その内の最初のもので日本語版も出たものが
「ミシシッピバンザイ」です。

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