Raphia BC217

by Simple GBOH


with History of the art of War


ハンス・デルブリュック「History of the art of War」の英語版(Bison book 1990)の第1巻、第3章「The Macedonians」となっている。

第5節「The Diadochi」では後継者戦争の時代について大略以下のように述べている。

「アレクサンドロスの帝国は、その将軍たちの小王国(ドミニオン)へと分かれていった。蛮族はこれらに同化して入っていき軍事システムの質を下げた。アレクサンドロスの世界統一の輝きは失われ、あまり意味のない身内での陣取りへと移行した。しかし、それぞれのエキスパートである個々の兵科は専門に秀でており、向こう一世紀半にわたりその地位を維持することになる。
この時代は軍事技術について3つの疑問をもたらす。象の役割、槍(サリサ)の長槍化、兵科の関係の変化である。
象についてはその参加した戦いを順に見ていき最後の戦いタプサスのところでまとめることにしたい。サリサについてはマケドニア後継者の最後に列するピルスのところで振り返ることにする。ピルスについてはローマ軍事史との関係で議論することになる。
第三の疑問については、ここで直ちに重歩兵から騎兵への決定戦力の変換は劇的には進まなかったと答えを出しておく。個々の戦いの参加兵力の内容を子細に見ると、騎兵戦力の増加は顕著ではない。
ディアドコイについて意外なのは、ガウルの侵入に対してアンティオコスを除いて抵抗できなかったことである。蛮族のナチュラルパワーと好戦意欲が戦術的優位を凌駕したのである。」
戦場概略図
この節のExcursusの部分に「Battle of Raphia」について簡単な記述がある。

「ラピアでエジプトのプトレマイオス四世とシリアのアンティオコスが戦った。歩兵でエジプト、象と騎兵でシリアが優位だった。アンティオコスは右翼の象と騎兵で勝勢、エジプトは反対側の翼で優勢となった。インド象はアフリカ象を圧倒したが、その理由としてはインドのマホウトの熟練に比べアフリカのものは見た目を真似ただけであったからであろう。
ポリュビウスは、ここでアンティオコスが騎兵追撃にかまけ戦果を拡大しなかったことを叱責している。おそらくプトレマイオスも同じ過ちを犯した。エジプト騎兵がファランクスの側面を衝いたような記述はない。代わりに両軍のファランクスは他と分離した形で激突しエジプト側が勝利した。
この戦いからわかることは、象はファランクスとではなく騎兵と連携していたということと、その効果は決定的でなかったということである。」


セットアップ
上記を踏まえた上で、GMT社の「Simple GBOH」システムを用い、「SPQR」のモジュール「War Elephant」の中の「Raphia」シナリオをプレイした。

両軍の配置は前掲の通りである。この戦いはディアドコイ戦争中でも最大級の戦いであり、両軍は左図のように横に長く長く布陣している。

戦いは両軍の象の激突から始まった。ダイロールで先手を取ることができたエジプト軍は象を突撃させ、これに対してシリア軍も象で応戦した。象の消耗は激しかったが、数に勝るシリア右翼のインド象はエジプト左翼の象を撃ち破ってさらに騎兵と弓兵を混乱に陥れた。
インド象の活躍
これに対して、エジプト軍は歩兵戦力の優位を生かすため中央の重歩兵を前進させた。
重歩兵は前面のシリア軽歩兵を粉砕することで、戦況を一旦は挽回することに成功する。

しかし、この後、さらなるインド象の攻撃でエジプトは騎兵指揮官を失ってしまう。挽回を期して戦火拡大を狙った重歩兵も既に疲弊臨界点に達しており、シリア歩兵のジャベリンによる反応射撃で隊伍が崩れてしまった。エジプト軍はこの段階で投了し、戦局は痛み分け模様ながらもシリアの得点による優勢勝ちとなった。

最後に個人的な感想をいくつか書いておきたい。
中央でのエジプト重歩兵の活躍
ディアドコイ戦争の時代は軍事史的に見ればマケドニアシステムの最後に当たり、アレクサンドロスの時代よりむしろ後退が目立つ。しかし、ウォーゲームの題材としては、ディアドコイたちの会戦は戦力が伯仲しているものが多く面白い。またディアドコイ戦争全体も地政学的な選択肢があって興味深い。
SGBOHによるシリーズ中でも最大級の会戦の一つのプレイとなったわけであるが、プレイタイムは4時間ほどで、恐らく完全決着までプレイしても後一時間あれば終わったであろう。プレイヤーの習熟度が上がれば、SGBOHのシナリオブックにある通り3時間での決着も可能と思われる。
これほどの大会戦が半日で決着するようになったのは驚くべきことであり、しかもプレイの醍醐味はほとんど失われていない。SGBOH恐るべしとの印象を深めたものである。

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