銀河帝国の興亡
Rise and Fall of galactic empires / エポック
ショートコメント
●国産SFゲームマルチの傑作、さまざまな新機軸が盛り込まれていて興味深い
One of the best Japanese Sci-Fi multi-players game, full of new ideas.
published |
designed |
players |
time |
1988 |
芦川 敬 |
1-6 |
3+ hour |
銀河帝国の興亡
亡くなられた大貫さんのプロデュースしたエポックから出された二つの「●●帝国の興亡」というゲームは、発売当時いろいろな語られ方をしました。
しかし、いま16年の歳月を経て見直してみると、その個性的なアプローチの故にいまなお時代を越えて訴えかけるものを持っていると思います。
共通する特徴としては、
1)自分たちのオリジナルなゲームを作り上げている
2)面白そうだと思った要素は貪欲に取り込んでいる
3)残念ながらまとまりや完成度の高さは犠牲になっている
という諸点が挙げられるかと思います。
1と2の長所と3の短所はトレードオフになっていて、一つのゲームに両立することを望むのは非常に難しいものでしょう。
そして、時代を越えてこの2作品がいまでも名前を挙げると、「ああ、あれね‥(^o^)」とすぐにイメージが湧いてくるのは、1のオリジナリティが高い故でしょう。
「銀河帝国の興亡」は、銀河を舞台にしたSFマルチプレイゲームです。
ただし、このゲームは上述したようにオリジナリティに溢れており、当時既存だったAHあたりのマルチプレイゲームの模倣ではありませんでした。
その思想を一番顕著に感じるのが、マルチプレイにおける閉塞的な状況の打破を志向したいくつもの仕掛けです。
地政学的マルチプレイヤーゲームでは、最初に動くと「世界の敵」のように世論誘導されてしまい、不利になることが多いものです。その結果、中級以上のプレイヤーで対戦すると、なかなか仕掛けずゲーム終盤になってしまいます。
ファイナル・コメント
実を言うと、わたしは発売当時はこのゲームの粗さが気に掛かり自身では購入しませんでした。乱暴な効果を持つカードもあり、ゲーム展開がラックに支配されているように思ったからです。
とは言え近年になって改めてプレイしてみると、手軽さ、楽しさ、そしてラックで負けたとしてももう一度やれば良いし、それができる良い意味での軽さがあると思いました。
コンポーネント的には、超兵器カードなどは文字ばかりでなくシルエットが欲しかった気もしますし、いろいろと欲を言えばあります。
しかし、ゲームの主骨格の部分で、まさに骨太なオリジナルコンセプトを持っており、似たようなゲームの中の一つとして埋没することなく、いまなお「ああ、あれね‥(^o^)」と想起される力作であります。
ゲーム研究家の草葉純さんが主張する「マルチプレイヤーゲームは最後の1ターンだけプレイすれば良い」は極論に過ぎるにしても、このゲーム以前の地政学マルチの多くにそうした中盤までの閉塞性があったのは事実だと思います。
「銀河帝国の興亡」は、これを打破する仕掛けがあって、先ず勝利条件カードというのがゲーム開始時に配られます。これは共通の勝利条件とは別にプレイヤーごとに秘密の勝利条件があると言うものです。その結果、単純な地政学的拡張以外のことを狙っているプレイヤーがいることになり、ゲームの構図が複雑になります。
また、この勝利条件の中に「●●帝国を撃破せよ」というような名指しで他の国を狙ったものが含まれているのもミソです。
もう一つの大きな仕掛けは同盟と貿易カードです。同盟は通常のマルチプレイヤーゲームと同じなのですが、貿易カードというのが曲者で一方のプレイヤーが手札から同盟相手との間の交易関係としてプレイし、相手は断れません。どうしても断るときは同盟破棄してペナルティを受けることになります。この貿易カードが強烈で、期待値イーブンバランスで利益が毎ターンランダムに行ったり来たりするようなものもありますが、一方だけが利益を上げるようなアンバランスカードが多いのです。
さらに、この貿易カードは手札から捨てることが原則としてできず、必ず使うようになっています。このため、利害の不一致な同盟が起こっては決裂するという展開になるように仕組まれていると言って良いと思います。
こうした流動的な局面を生む仕掛けが機能しやすくなっているのが移動ルールです。ワープ航法を背景に、盤上の距離は一切関係なくどこの星系からでもどこの星系へでも自由に進めるようになっています。このことが地政学マルチでいう地形的な防御をなくしていて、局面の展開をさらに加速しています。同時に、このことの補償として、母星系には防衛システムがあるという設定になっています。
こうした問題意識と提案は、このゲームの重要な成果としてもっと評価されて良いように思いますので、最初に紙面を大きめに取って書かせていただきました。
そのほかの魅力としては、SFゲームならではの超兵器の開発要素が挙げられるでしょう。
箱絵を「ジャスティ」の岡崎つぐおさんが描いていたりもしますが、このゲームの超兵器要素には往年のSFアニメの要素が満載されています。瞬間物質転送機は、まさに宇宙船間ヤマトのデスラー殺法です。このほかにも人工太陽やESP部隊、ブラックホールトラクター艦などガジェットは枚挙に暇がありません。
面白い仕組としては、超兵器補助カードというカードが入っていて、これを組み合わせることで同じ超兵器でもレベルが上がっていくという要素があります。
また、ある意味で乱暴なのですが、こうしたカードには開発コストが掛かるだけでなく、実際に使ったときに上手く動くかどうかの実用チェックというのが必要になっています。このため、秘密裏に開発して敵を瞠目させても、実は不良品だったりするのです。