魔法帝国の興亡
エポック
一言で言えば‥‥
ダンジョンを旅する冒険者から,軍を率いて帝国の興亡まで
RPGとマルチプレイヤーズゲームの両方の魅力を取り込もうとした野心作
こんなゲーマーにお薦めしたい
無節操な他のファンタジーからのキャラの流用を許せる方に
自分でゲームを作り直す,あるいは作ってしまうという意欲のある方に
プレイ人数
1−6人
プレイ時間
2時間〜
ルール難度
難しくはないがいろいろなことが起こるので要注意
デザイナー
大貫 昌幸,和栗 朗
入手状況
一時は売れ残りが随所にあったが,今はもう貴重品か?
魔法帝国の興亡のシステム
「魔法帝国の興亡」は,ファンタジーの要素を,個人の冒険から,勢力の激突まですべて一つのゲームにパッケージングしようとした野心的な試みです。
プレイヤーの方向性にもよると思いますが,一介の冒険者が名を成すにはまずダンジョンを探検して自分のレベルを上げるのがオーソドックスでしょう。
ゲームの手順は比較的単純で,初期フェイズにダンジョンがマップにランダムに配置されます。毎ターンアトランダムに決められる順番に各プレイヤーは,自分のキャラクターを移動させ,任意のダンジョンを探索します。そこにはモンスターカードでランダムに決まるモンスターがいて,これを倒せばいくばくかの資金が手に入ります。
ダンジョンの中には,特殊なランドマークとなるものもあり,そういった著名な(?)ダンジョンにはスペシャルモンスターが住みついています。また,ダンジョンの中には「クエスト」を発生するものがあり,プレイヤーキャラに使命を与えます。典型的なものは,一時的な同行者をボード上の指定のランドマークまで連れていくものです。
行動に連れてレベルが上がっていき,カリスマや能力が上昇していきます。毎ターン,一枚のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)コマを引くことができ,自分のカリスマ以下のレベルの相手であれば雇うことができます。
またプレイヤーはいつでも「旗揚げ」をすることで,自分のシンパを集めて親衛隊という形で軍事ユニットを持つことができます。軍隊を連れてエリアに入ると中立軍が登場し,これを撃破するとそのエリアを領国にすることができます。国取り物語の始まりです。
ミニミニ魔法帝国の興亡
このゲームでは,一応,基本ルールと上級ルールとがあるのですが,上級ルールで追加される事項は然程でもありません。基本ルールが消化できるのなら,いきなり入れてしまって大丈夫でしょう。
「ミニミニ魔法帝国の興亡」は,上級シナリオの一つです。マップの半分ほどしか使わないところがミニなことを除けば,基本的にはフルサイズのシナリオと同じです。
画像は開始後数ターンでの状況です。上のほうにいる青のパーティーは,勇者ブラウと,同行者の初級魔法使い「まくろす」です。ブラウは困ったことに以前のダンジョンで呪いを受けています。そして,彼らは新たに入ったダンジョンがスペシャルダンジョンであることを発見したところです。彼らの前に立ち塞がるのは,なんとヴァンパイヤーです。まだ彼らには荷が重いかも知れません。
画像の中央のエリアに64,65などの数字が書かれていますが,これは6面体ダイスでランダムにエリアを決める際に使われるものです。各所に散在する茶色の扉のマーカーがダンジョンです。
実際にプレイしてみると,ダンジョン冒険のシステムは非常にプレイアブルです。ちょっと淡白過ぎるかと思うほどです。しかし,もっと複雑なものを望むのならテーブルトークRPGをやるべきでしょう。マルチプレイヤーズゲームとして,他のプレイヤーが待っていることを考えれば,止むを得ないでしょう。
青薔薇,赤薔薇
軍事システムを運用してみるために,「青薔薇,赤薔薇」というオリジナルシナリオを作ってプレイしたときの画像です。
基本シナリオの一つ「黒い紋章,白い紋章」に,上級ルールを入れマップの半分だけ使用するようにしてプレイしたものです。
右の画像は,赤を指揮する魔法を使う女貴族テミーラが錬金術で財を成して大規模な軍勢を組織したところです。そんなこととは露知らぬ青を指揮する盗賊公爵ギャスパーは,彼我の境界線を位取るために中央へと進んできました。個人の武勇で彼に一日の長があるのは確かでしたが‥‥。
思わぬテミーラの大軍勢に完膚なきまでに軍勢を粉砕されたギャスパーは,落ち延びる途中で追撃まで受け負傷して消息不明となってしまいました。
このシナリオでは,キャラクターは2回までは倒されても再出発が許されています。ギャスパーは南海岸の自分の領地にどうやってか辿り着き,そこで再び手勢(親衛隊)を集めて旗揚げしました。南海岸沿いのエリアを親衛隊と自らの卓越した指揮で制圧して,捲土重来を期しています。
一方のテミーラはNPCを雇って二大軍団制に移行し,北部の中立諸州の平定に余念がありません。収入力で大差を付け,人材の登用をして国家形成段階に入っています。果たしてギャスパーはテミーラの新興国家に一矢報いることができるでしょうか?
魔法帝国の興亡の問題点
ここまで述べてきた通り,「魔法帝国の興亡」は野心作であり,しかもその狙いを成功させています。個人の冒険システムは,少し淡白な嫌いもありますがプレイアブルです。軍事システムも,それだけで遊んでもそこそこ遊べるレベルです。そして両者を一つにパッケージングして,過剰に複雑にもなっていません。
しかし,個人的には「魔法帝国の興亡」には許容し得ない問題点があると言えます。上に示した画像は,このゲームのNPCの一部です。微妙に発音が違うようですが,左から順にムアコック,アンソニイ,トールキン,宮崎,ルグインの著名な作品の主人公に良く似た名前のキャラクターばかりです。
私見ですが,ファンタジーの魅力というのは,魅惑的な幻想世界を作り出すこと,そこに魅力的な人物の冒険を描き出すことにあると思います。ファンタジーゲームも同様で,「ドラゴンパス」が何故に傑作と呼ばれるかと言えば,グロランサという架空世界の神話時代を見事に作り上げているからに他なりません。
原作付きのファンタジーゲームであれば,原作の魅惑的な世界,魅力的な人物の冒険を,ルールという理りのあるシステムでどう再現して見せるかが腕の見せ所でしょう。
ところが,この「魔法帝国の興亡」は,オリジナルの魅惑的な幻想世界を作り出すことをしていません。そして,それぞれが独特のテイストを持ち互いに整合しない著名ファンタジーのキャラクターを雑多に流用してきているのです。
個人的な意見としては,この欠点だけで,これまで述べてきた様々な長所を相殺してしまうように思います。なお悪いのは,ひらがなで「ほくむん」とか「ありおん」とか書いてあることです。対戦者の方には申し訳なかったのですが,セットアップ段階で失望を隠せませんでした。
その一方で,世間的には雑多なアニメのキャラを引いて混ぜ合わせたような家庭用ゲーム機向けゲームソフトが結構なヒットになったりするのも見ます。ですから,こうした雑多な引用を是とする人も少なくはないのかも知れません。そういう方にとっては,このゲームは特段の欠点もなく野心的な狙いを一定の水準で成功させた注目作品ということになりましょう。
繰り返しになりますが,ゲームシステム的には個人の冒険から部隊戦闘までをすっきりとまとめてあるという点では出色の出来です。ですから,ゲームの改造(コンポーネントの大規模な自作を含む)や,オリジナルのゲームを作ることも厭わない方には,是非とも参考に見てもらいたいゲームです。
関連ゲーム / 類似ゲーム
同じチームのデザインしたゲームとして,タイトルも近くて良く引き合いに出されるのが同じエポックから出た
銀河帝国の興亡
です。ゲーム内容的には,「もりだくさんの野心作」という大きな狙いが共通する他は特に関連はありません。
「個人の冒険から部隊戦闘まで」というのは,ある意味で,SF/Fゲームではいつも直面する課題と言っても良いでしょう。SPIの
ソーズアンドソーサリー
,AH社の
ドラゴンパス
あたりがファンタジーゲームとしてこの課題に挑戦した古い先達ということになるでしょうか。SFゲームとしては,
フリーダムインザギャラクシー
が正にそのものです。