ヴァーティゴ
Vertigo / EURO GAMES
ショートコメント
●産業革命以降、人類の経済活動は飛躍的に発展し、ついには地球全体を蝕むに至る
●人類は破綻を回避できぬほど愚かなのだろうか‥? 戦慄的でドラマティックな世紀の問題作!
After industrial revolution, human economic activity is growing drastically. Finally, the Earth is being polluted.
Is human too foolish to avoid the disaster ? Suspenseful and dramatic epoch-making game of the century !
published designed players time
1992 von Sylvie Rodriguez, Philippe des Pallieres 2-4 2-4 hours
ヴァーティゴというゲーム
 産業革命以降、人類の経済活動は急速にエネルギー、資源の消費スケールを拡大し、それに伴って排出される廃棄物や環境汚染も加速度的に増大してきました。このまま進めば遠からず地球は取り返しの付かない破局を迎えることになるでしょう。
 果たして人類はそんな破局に突き進むほど愚かな生き物なのか、それとも掛け替えのない地球を守って秩序ある反映を続けることができるのでしょうか?
 そんな疑問に答える‥とまでは行かずとも、その疑問を机上の議論ではなく実感できる葛藤として体験させてくれるゲーム、それがヴァーティゴです。
 既に発売から10年を越えました。同じテーマの後続のゲームも出ていますが、ヴァーティゴの衝撃は今なお色褪せていません。経済の発展、環境汚染の深刻化、共存か破滅かの葛藤、そして歴史は繰り返すという愚行‥。歴史の必然を感じさせるストーリー性に満ちたドラマティックな展開は、このテーマに留まらず広くボードゲーム全体で見ても屈指の出来栄えでしょう。
ファイナル・コメント

 「ヴァーティゴ」は、地球規模の環境汚染問題を、過去から現在を経て近未来まで描き出した力作です。
 ルールがそれほど多いわけではなくマネージメントゲームとしてはシンプルな方かも知れませんが、プレイ感は重厚です。必要な要点は全て押さえられており、ジレンマは極めて深刻です。
 SFゲーム的なスペキュレーションに満ちています。しかし、題材のシリアスさからすると、むしろ「ノンフィクションゲーム」かも知れません。
 ゲームとしても面白く、題材を過不足なく描き上げているという点で20世紀の傑作ボードゲームの一つと言っても大袈裟ではないでしょう。
 残念なことは、ドイツ語であることと、プレイ感が重めであることです。
関連ゲーム
●利益・廃液
ニューク
リスク2210
●ニュークリアーウォー
●サプレマシー
ヴァーティゴのゲームシステム
 「ヴァーティゴ」は、地球全体を舞台に、国家を経営するマネージメントゲームと言えます。
 プレイヤーは国家の元首として、経済活動の発展、環境対策の実施、人口政策、教育による人材の育成、国連を通じた国際協力の呼びかけなどを行っていきます。
 プレイヤーに与えられる国家ボードは、アブストラクトな作りになっていて10ケの扇形に分けられた円形の地域、3つから成っています。10ケの扇形はそれぞれ州(プロビンス)と呼ばれ、これが人口や工業活動の単位になります。
 国家として発展していくためには、まず人口を増やすことになります。人口を1単位増やすごとに新たな州に1つずつ人口コマを置いていくことになります。続いて人口がいる州には工業を興すことができます。このときに、汚染を発生するけれども高い利益をもたらす汚染工場と、利益は半分になってしまいコストも高いけれども汚染を出さないクリーン工場のいずれかを選択することができます。
 地球全体の汚染も深刻でなく、国家に空き地も多いときには利益を優先して汚染工場を建てることになるでしょう。
 かくてプレイヤーは工業を拡大し利益を上げて行きますが、これに伴って汚染がどんどん進んでいくことになります。
 汚染チェックは毎ターン発生源があればあるだけ行われます。具体的には汚染工場1ケごとに1回、加えて1ケの地域に人口が5単位以上住んでいる密集地域でもチェックします。チェックの結果は、その地域の汚染、もしくは国境を越えて他国に汚染をもたらします。なにより強烈なのは、1ターンの間に全プレイヤーで発生した汚染の累計が人数分を超えるごとに、地球規模の汚染が進むことです。普通の汚染チェックでは特定の1ないし2州の汚染しか発生しません。ところが地球規模の汚染が進むと、汚染ゲージが10%上昇します。そうすると、全ての国の全ての地域で1州、つまり4人であれば一編に12州の汚染が進むのです。
 汚染された地域は人が住めず、人口がないので工業も成立しません。かくて国土が汚染されていくと、最初は空き地がなくなるだけですが、その内に住民が死滅し、工業が衰退するようなことになっていきます。そうするとプレイヤーは汚染源を減らし、汚染地域の浄化プロジェクトを進めなければならなくなります。

 このゲームの大きな流れは上述したような人口→工業→汚染→対策‥という流れになります。
 これを実現するための手段に多様性があり、プレイヤー間の協力や利害衝突が生まれてきて、悩みと面白さを与えてくれています。
 ジレンマになっているのは人材という問題と、国連と言う特殊な機関の存在です。人材は、人口が5以上の地域でしか育成できません。これは汚染源になるレベルです。その一方で工場を建てるにも国連に派遣するにも浄化プロジェクトを進めるにも人材は不可欠なのです。
 また、国連は強烈なルールになっていて、プレイヤーは人材を国連に送り込んで投票権と発議権を確保します。そして、自分に都合の良い国際協調活動を発議して議決できるのです。同時に国連は浄化プロジェクトなどの資金がプールされる場でもあり、一種の利権の集う場にもなっています。国際協調活動には、開発途上国援助のように経済強者から弱者に資金を強制的に支出させるものや、汚染国家にペナルティを支出させるもの、国連の予算を浄化先進国で分配するものなどがあります。もっともらしいものばかりなのですが、プレイの局面で自国に有利なものを発議し、それをめぐって交渉や駆引きが行われるのは想像の付く通りです。
発展>危機>希望>輪廻

 左の画像は先日のプレイの序盤戦の状況です。
 汚染が少しばかり進み始めたところです。ゲーム展開はプレイヤーの面子にもよると思いますが、大きく分けて工業の発展期、そして汚染が進んで危機が訪れる時期、その後、破局を回避できたなら汚染が一旦低下する希望の時期と進んでいくことになるでしょう。
 この後、秩序ある調和が生まれれば良いのですが、残念ながら未だかつてそうなったのは見たことがありません。ゲームですので、乗り遅れているプレイヤーが挽回のために再び汚染工場を再開して経済的劣勢を挽回しに掛かるからです。歴史は繰り返し、愚行は繰り返されてしまうのでしょうか?
 各プレイヤーが発議できる国際協力法案は1回に制限されていることもあり、2度目の汚染進展は1度目とは違った緊張を生み出します。打てる対策の選択肢が狭くなっており、貧富の差も生まれていて利害調整が難しくなっているのです。
 この深刻な局面に至って、ゲームは最終盤を向かえていることでしょう。最後はランダムに決まるゲームの終了タイミング次第かも知れません。