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ヴェクター3
Vector 3 / SPI

一言で言えば‥‥

星系間航行船ヴェクター3による宇宙戦闘

自軍のヴェクター3艦隊を設定,設計し,いざ戦場へ赴かん!

こんなゲーマーにお薦めしたい

宇宙空間戦闘の実際について考察してみたいSFフリークに

鬼才コスティキャンの若き日の小品としてコスティキャンフリークに

プレイ人数 2人
プレイ時間 2時間〜4時間
ルール難度 中級ウォーゲーム
デザイナー グレッグ コスティキャン
入手状況 海外中古ゲームショップを当たられたし

「ヴェクター3」の設定
ヴェクター3の表紙
人口密集が険しいギルガメッシュ星団では,戦争は日常茶飯であった。このギルガマイト文明では,高度に発達,分化した宇宙航行システムを持っていた。

惑星地表と,その軌道とは,ヴェクター1と呼ばれる流体力学設計の優美なボディと,重力の井戸に打ち克つ強力な推力を持つシャトルで結ばれていた。
星系内の惑星間での物資の輸送は,ヴェクター2と呼ばれる太陽風を利用した経済性の高いシステムで実施されていた。
そして,大距離,長時間を要する星系間航行は,ヴェクター3と呼ばれる星間航路航行船に委ねられていた。

ヴェクター3は,中央シリンダー部と,これに連結された交換可能なポッドから成る巨大な輸送船である。ポッドの交換により容易に貨物の積み下ろしができるほか,戦時にあってはポッドを戦闘用のものに交換して急増星間戦闘艦ともなるのである。

「ヴェクター3」は,こうしたヴェクター3急増星間戦闘艦による三次元宇宙空間戦闘を扱った戦術級ゲームである。

「ヴェクター3」のシステム
ヴェクター3のプレイ
「ヴェクター3」は,三次元宇宙空間戦闘を扱った戦術級シミュレーションゲームです。

宇宙戦闘の戦術級ゲームは少なくありませんが,この「ヴェクター3」はニュートニアンな三次元宇宙戦闘を,もっともストレートにシステム化したものでしょう。

設定から連想されるように,ヴェクター3は大質量に比して低推力の星系間航行艦です。このため,移動にあたっては自身の慣性により大きな制約を受けます。

各艦の移動は,(x,y,z)の形式のヴェクトル成分で記述され,毎ターンの速度変更できるヴェクトルの絶対値は推力システムの能力により規定されます。このため,ヴェクター3は一旦,かなりの速度で一方向に移動をしてしまうと,容易には転針することがかないません。

こうしたニュートニアンな移動システムのゲームとしては,GDWの「トリプラネタリー」が著名ですが,このゲームでは平面から三次元に拡張されており,クレヨンで軌跡を書く代わりにヴェクトル成分でプロットを行います。こう書くと,まるで数学のようですが,実際,その通りです。

プレイに先だって各プレイヤーは自軍の技術レベルと,各ヴェクター3の設計を実施します。
自軍の技術レベルは,加速,レーザー,魚雷,牽引ビーム,防御スクリーンなどに分かれていて,ポイントを支払って購入する方式になっています。これはヴェクター3の様々な基礎パラメータそのものになるので重要です。

次に各ヴェクター3の設計に入ります。ヴェクター3は大きさにより装着できるポッド数が違います。大きいほうが大量の武器を搭載できますが,動きは鈍くなりますし,高価ですから艦隊の編成艦数が少なくなります。

そして個々のポッドにどのようなものを装着するかを選びます。技術レベルが少なくとも1以上あるタイプのポッドを任意に組み合わせてポイントの範囲で購入していきます。こうした設定,設計の手順により,各プレイヤーの独自のヴェクター3艦隊が編成されていきます。

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「ヴェクター3」の難点

わたしが実際にプレイしたのは,4段階ある難易度の内の下から2番目の基本シナリオでした。このゲームでは,学習シナリオ,基本シナリオ,中級シナリオ,そしてゲームを2セット用意しないといけない上級シナリオまであります。使用できる技術やポッドの範囲が広がって行き,艦隊の規模も大きくなっていきます。

基本シナリオでは,一部の魚雷と機雷が使えないほかは,一通りのものが使えるようになっています。艦数としてはデザイン次第ですが,2隻対2隻くらいになり,手頃にプレイできる範囲です。

さて,実際にゲームを始めて見ると,すぐに「宇宙は広い」ことに気付きます。「トリプラネタリー」をプレイしたことのあるプレイヤーであれば,慣性という制約がいかにマップを広くしてしまうかはわかると思います。同じことがここでも起こります。

彼我の相対距離を縮めるために両軍が相手に向って加速すると,一瞬,すれ違う瞬間に接近しますが,その後は互いに転進して戻ってくるのに最初に接敵するのに要した時間の2倍の時間を要します。これは空戦ゲームなどでも同様ですが,一方が他方の背後につくようなことにならない限り,射撃機会はそうは連続して訪れません。とりわけ,三次元にフリーに移動できるこのゲームでは重力や地表の制約の働く空戦ゲームより広さが増しています。

空間が広いということは,一方が不利を悟って回避運動を始めると,戦闘がそれ以上は成立しにくい(追尾側が推力的に優位であれば成立します)ことを意味しています。このため,射程,火力,防御力のなんらかの組合せの理由で,一方が戦闘の不利を悟ると,そこで事実上,戦闘は終結してしまいます。

ヴェクター3では,各自が秘密裏に設定,設計を行うので,相手が一体どんな船でどんな性能を持っているのかわかりません。最初の一撃離脱で彼我の能力の相性を見極めることがゲームの焦点となります。

そんな訳で,このゲームは設定,設計が主たる部分で,後はその良否を問う最初の接触戦闘までが醍醐味ということになります。もちろん彼我の能力差が決定的でなければ戦闘を継続して,どちらが致命弾を与えられるかを争うことになるのでしょうが,生憎とわたしがプレイしたときはそうなりませんでした。接触戦でレーザー火力と射程に勝る艦隊の優位が見えてしまい,もう少し続けて見たのですがどうにもならず合議終了としました。

そういう意味で,このゲームは実際のボード上での華麗な機動や兵器の炸裂を楽しむゲームではありません。設定と設計で知恵を巡らして,それが相手を出しぬいたかどうかを確認するために戦場に展開するといった感じです。

宇宙戦闘の現実についての考察

このゲームをプレイしていたら,谷甲州の「砲戦距離12,000(ハヤカワ文庫「仮装巡洋艦バシリスク」に収録)」を思い出しました。実際には,「ヴェクター3」は1979年の作品で,「砲戦距離12,000」が1984年の発表ですから,逆なのですが。

両者に共通しているテイストは,宇宙空間での戦闘というのが極めて戦闘として成立しにくい状況の中で起こるものであり,往々にして彼我の能力が見えた時点で帰趨が見えてしまうというところでしょう。

そして,これが宇宙という広大な空間で,敢えて敵味方が有効な攻撃を加えられる距離までわざわざ接近して,それでいて相手の方が強かったらいつでも逃げ出そうという状態で撃ち合う宇宙戦闘の現実なのかも知れません。

その意味で「ヴェクター3」は,シミュレーションとして非常に説得力のある作品だと言えます。ただ,それが戦術級ゲーマーの求めているジョン・ヒルの言うところの「通りのまんなかで銃を撃ちまくる興奮(スターリングラード攻略のデザイナーズノートより)」とは噛み合わないのではないかというところが問題なのでしょう。

その意味で,このゲームは,戦術級ウォーゲーマーよりも,むしろ硬派のSFファンに薦めてみたい気がします。

関連ゲーム / 類似ゲーム

このゲームは、実は同じSPIの「バトルフリートマーズ」の戦術システム部分を独立させてカプセルシリーズとして出したもののようです。また、慣性移動システムのSFゲームとして,よりプレイしやすいものとしてGDW社の
「トリプラネタリー」を挙げておきます。クレヨンボードを利用したこの作品の方が,「ヴェクター3」よりも取り組みやすいでしょう。

宇宙空間でのエキサイティングな戦術戦闘を求める向きには,スターウォーズの空戦を題材にしたウェストエンド社の
「スターウォリアー」あたりはいかがでしょうか?

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