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火星の大元帥カーター
John Carter, Warlord of Mars / SPI


一言で言えば‥‥

エドガーライスバロウズの大傑作,火星シリーズのシミュレーション

ヒーローがヒロインをさらった悪役を追い詰めていく正統ヒロイックファンタジー

こんなゲーマーにお薦めしたい

ボードゲームになにができるかという可能性を見てみたい方に

なんと言っても火星シリーズの愛読者に!

プレイ人数 2−3人
プレイ時間 2−4時間
ルール難度 極めて独創的なシミュレーションゲーム
デザイナー マーク ハーマン
入手状況 レアアイテム,原作のコレクターもいて競争率たかし

冒険と浪漫の火星シリーズ
火星シリーズ
1910〜30年代にアメリカ本国で連載され,爆発的な人気を博した空想冒険物語,「火星シリーズ」。日本でも武部本一郎画伯の妖艶な火星美女のイラストもあって1980年代に紹介されて大いに支持を受けました。

1999年の秋に長い空白期を越えて合本の形で前半の6冊が創元推理文庫から復刻され,幸いにも今の時点では入手が可能になっています。

筆者の世代のSFフリークにとっては,ことさら紹介の必要もない有名作品ですが,今となっては多少の説明をした方が良いでしょう。作者のエドガーライスバロウズは,20世紀初頭のSF黎明期の最大の立役者の一人です。今なお有名なキャラクター「ターザン」もまた彼の冒険物語のシリーズの一つです。その彼の最高傑作と言われるのが,この火星シリーズです。

1866年にアリゾナの洞窟から幽体離脱(?)して火星へと移動したジョン カーターは,そこで八本足の馬に乗った四本腕の緑色の肌の火星人に捕まってしまいます。そこで同じく囚われの身となった赤色の肌の火星の美女デジャーソリスを救出して,波乱万丈の英雄物語を開始することとなったのです。

バロウズの火星シリーズは,舞台が火星であることや,登場するガジェットが多少の擬科学性を持っているものの,基本的には冒険と浪漫のヒロイックファンタジーです。主人公は窮地に陥り,そこでヒロインと出会って彼女を助けて恋に落ちます。新たな窮地に陥って彼女は攫われてしまい,彼は虎口に飛び込んで彼女を救出するのです。また,各巻ごとに様々な異種族,怪生物,秘密兵器が登場し,これもまた火星シリーズの豊かな作品世界を形成しています。

火星の大元帥のシステム
火星の大元帥のボックス
「火星の大元帥」は,ボードゲームです。正統派のシミュレーションゲームと呼んで良い手法でデザインされています。にも関わらず,そのシミュレートする対象は,悪役にさらわれたヒロインを奪還する英雄の冒険です。

どちらかと言えばRPGでデザインした方が良いように思える題材を,若き日の巨匠ハーマンはどこまでもボードゲームで再現しています。そして,そのシステムは原作世界の骨格を的確に再現しており,まさに「シミュレーション」ゲームとして成功しています。

基本的なシステムは,火星上で悪役を追い詰めていくスゴロクです。火星のマップ上のランダムな都市に初期配置される悪役を追い求めてプレイヤーの英雄はヘリウムからフライヤーで旅立ちます。このときに面白いのは,プレイヤーは英雄を基本的にプレイするのですが,同時に他プレイヤーの悪役を受け持つことです。そしてそれぞれの英雄は,ヒロインを取り戻し悪役を倒す速度を争うのです。

用意されているヒーローは,ジョン・カーターを筆頭に,その息子カーソリス,ガソールのガハン,ヴァド・ヴァロ,タン・ハドロン,ヴォル・ダジとシリーズ各巻のヒーロー総登場です。そして,そのそれぞれの悪役もまた準備されています。このほかの登場人物も含めて,ゲームはシリーズ全作品をカバーしています。
ジョンカーター火星マップ
ゲームは3種類のマップを使用します。まず,火星マップ。この上をヒーローは旅して悪役を追い詰めていきます。毎回,移動カードを引いて達成した旅程を求め,ランダム遭遇を判定していきます。そして,必要があれば様々な蛮族や野生動物と戦うのです。また悪役のいる都市まで辿り着くと,そこからは都市マップに移ることになります。都市の中で悪役の居場所,人質の拉致場所を捜し求めることになります。そして,これを突き止めると決闘マップで雌雄を決することになります。

決闘マップは様々なものがあります。王宮マップ,街路マップ,そして火星でもっともポピュラーな乗り物であるフライヤー同士の接舷戦闘を解決するフライヤーマップなどです。発生した状況により使い分けます。

戦闘ルールは,非常にシンプルです。そして,ヒーローは強く,さらに地球出身者は重力の大きな惑星で育ったためパワフルです。そして,その中でもジョン・カーターはさらに強いのです。そのため雑魚はヒーローにばったばったと薙ぎ倒されていきます。しかし,悪役の中にも腕の立つものもいます。そうした腕の立つ悪役を迎えての一騎討ちは,専用のカードを使用して渾身の読み合いのカードプレイで解決されます。

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火星の大元帥の愛と浪漫とドラマ
ジョンカーターのフライヤー
冒頭にも書いた通り,「火星の大元帥」では愛と浪漫が欠かせません。主人公が捕虜になって出会う同じ境遇の女性捕虜は必ず若く聡明で未婚の美女です。主人公は英雄的決断により彼女を救うことを決意し,やがて二人は互いに対して抱く特別な感情に気づくのです。

しかし,愛情はときとして不幸をも生みます。ヒーローに実らぬ恋をしてしまう第三の女性キャラクターは,実らぬ愛の苦悩から悪役の誘惑に負けることもあります。また,逆にヒロインに恋をしてしまったヒーローの同行者が,敵と密通してヒーローを窮地に落とし入れることもあります。このため,ゲームには「愛と浪漫」,「裏切りと後悔」というルールも基本システムとして用意されています。

シミュレーションゲームというと,史実や現実社会の再現といった印象が強いですが,このゲームは作品世界という架空の対象をシミュレートしています。その作品世界の本質を的確に捉えており,無駄もありません。

先日,このゲームを3人でプレイしたのですが,そのとき余りの見事さに白熱を通り越して,絶句してしまいました。

わたしは,不幸にしてシリーズ中もっとも嫌いなヒーローであるタン・ハドロンを受け持ってしまいました。ハドロンは,ルックスだけの高慢ちき女,サノマ・トーラによろめいて彼女を助けに向かうのですが,その行程で出会ったシリーズ中もっともイイ女,タヴィアに心変わりして行き,最後にはものにしてしまうのです。なんと許せない男でしょう。

とまれ,このプレイでもサノマ・トーラを求めて旅だったのですが,その途中でタヴィアと出会うことになりました。そして,わたしは迷うことなく「運命のパートナー」カードをプレイしてタヴィアこそ運命の定めた相手であると決めました。悪役との戦いでは,わたし(ハドロン)は窮地に陥り,ついに失神してしまいます。しかし,剣をとってともに戦ってもくれる勇敢なヒロインであるタヴィアの剣技によって救われたのです。

この同じプレイで,わたしは他プレイヤーのジョン・カーターその人とも対決しました。奇しくも,わたしは腕の立つ暗殺者として対決することとなりました。英雄,ジョン・カーターを相手に一騎討ちとなり必死の読み合いを繰り広げることとなりました。そして,互いに二太刀を見舞いあって,次の一太刀を浴びせた方が勝ちというとき,こちらの動きを読みきっていたはずのジョン・カーターが,バナナの皮で足を滑らせたのです(単なるミスプロットですが‥‥)。

「やった! あのジョン・カーターを倒したぞ!」,歓喜の雄叫びを挙げるわたしに,次の瞬間,ウーラが襲いかかってきました。ジョン・カーターを慕っていつも着いて歩いている火星の番犬です。一瞬の油断か,わたしはジョン・カーターを倒しながら,とどめをさすことに失敗してしまい,ウーラの爪の前に倒れたのです。

このように「火星の大元帥カーター」は,作品世界そのままの迫真の展開を見せるゲームなのです。原作小説のシミュレーションゲームとして,これほど成功しているボードゲームは他にないでしょう。

関連ゲーム / 類似ゲーム

原作付きのSFボードゲームとして成功しているものとしては,メイフェアのザンス ボードゲームが近い存在でしょう。原作の雰囲気を捉えており,大枠の仕組みはスゴロクで,原作の幅広いエピソードを取り入れているからです。
また、厳密には原作付ではありませんが、スターウォーズの世界を個人レベルから全体までカバーしている感じのフリーダム インザ ギャラクシーも近いでしょう。


原作が小説でなく映画になりますが、やはり原作のストーリを上手にボードゲームにしているという点でウィローも興味深い作品です。

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