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2004/1〜
●アルジャーノンに花束を
ダニエル・キイス
小尾芙佐
意外なことに初読。スペクトルマンの天才怪獣ノーマンがアルジャーノンを下敷きにした話しで、こちらを少年時代に見たことがあって、アルジャーノンのストーリーは昔から知っていたが他の作品とどちらを読むかというときにいつも他を優先して今になってしまった。
今回、改めて読んでみて世紀の傑作と称されるにふさわしい高い完成度の作品だと思った。作者の優しさが伝わってくると同時に、最後の結末はわかっていてもとても悲しい。SFというジャンルを越えて歴史に残るべき、そして事実、今後も残っていく作品だと思う。

●王狼たちの戦旗 上
●王狼たちの戦旗 下
ジョージ・R・R・マーティン
岡部宏之
待望の「氷と炎の歌」の第2弾。第1弾では、多少こちらのイメージと実際の世界観が異なっていて齟齬があったが、1巻を踏まえた上での2巻は非常に面白く読めた。なるほどこれはマーティン自身にとっては間違いなく最高傑作ということになりそうだ。
2巻ではレンリーとスタンニス、その勝者とジョフリーという順に南部では決戦が行われていく。その結果はことごとく予想を裏切り続けていく。北ではセオン・グレイジョイが狂言回しとなって意外な展開を演じ、その混乱が南部の最終的な結果にも影響する。
結果的には、劣勢と見られ読者の共感も得られないキャラであるジョフリーが生き残り、この世界には別に正義とか共感とかいう基準での物語の進行指針はないということが感じられる。狂言回しのセオンもあっさりと此処で使い捨てられてしまう。この点については賛否両論あろうが、作者が一部の登場人物に肩入れして物語の進行や描写の粗密が左右されているようなファンタジーよりも、ずっと歴史小説的なリアリティと重厚さがある。個人的には、このシリーズが期待を裏切らずに進行してくれれば、グインサーガはもう良いのではないかと思っている。
個人的にご贔屓のデーナリスは世界を半周して彼方に行ってしまっており、果たして3巻でも物語の表舞台に帰ってこれるのかどうかとさえ思わされる。北の脅威については、その実体が見え初めて少し怪異色が薄れてきたか。いずれにしてもこの両者の脅威が中央部の争いに影響してくるのはまだ先。作者の気の長さには恐れ入る。
精巧で巨大な構築物が見事に完成するのを見届けたいが、この作品もまた完結にはかなり掛かりそうな雲行きである。
この巻の新しい登場人物としてはタマネギ騎士ダヴォスが良い。ダヴォスを通じてスタンニスの魅力が間接的に語られるのも見事。惜しむらくは海戦で戦死したようだが。

●イノベーションの本質
野中郁次郎、勝見明
野中先生の講演を今年は2回聞く機会に恵まれたが、率直なところを言うと禅問答を聞いているようで観念的に過ぎて要領を得ない印象があった。この本を読んで初めて野中先生が言わんとすることが具体性を持って理解できた気がする。言って見ればメカニズムがきちんと語られている「プロジェクトX」なのだが、最近の某番組が情緒に偏っている中で、こうした良い書籍が出たことは素晴らしいと思う。
・キャノン御手洗社長はなぜセル生産を選んだのか? 作業の生産効率では現れない知的生産の効果。
・流行や表面的な格好の良さだけでない本質を捉えたコンセプトを作るためにダカラはどこまでこだわったか。
・正反の対立で諦めない上のレベルでの合を目指す弁証法志向をマークシート世代の我々は失っていないか?
・スマイルカーブという流行コンセプトを無思考で受け入れることをせずサムライカーブに勝負を賭けたイクシー
・会長の経験の裏づけのある単純明快な1cc=1000円という目標が生んだチョイノリ
・シーズ技術と顧客ニーズの間にある死の谷をどう越える? 表面的なニーズの裏にあるウォンツは何か考えよ。
・黒川温泉にあった暗黙知とそれを温泉全体に広げる場、場をどうやって熱い状態に保ち続けられるか?
・アメリカ型の規模の経済とスピードの経済のコンセプトに押されて、日本の強み忍耐の経済と努力の経済を失うな。
・五感で感じる暗黙知→その形式知化をする仮説立て→形式知レベルで連結・検証をして→再び現場に戻していく。
・暗黙知→形式知に吸い上げる仕組が失われると、効率化の袋小路から脱出できなくなるのでは?
・ケ小平は経済発展にどのイデオロギーが良いかと問われ「白い猫でも黒い猫でも、鼠を取る猫が良い猫」と答えた。
・キーワード:弁証法、SECIモデル、実事求是

●20世紀SFB1960年代
河出文庫から出ている20世紀SF全6巻は知ってはいたが読んでいなかった。
この3巻はシリーズ中でも評判が良く、SFマガジンで昔読んだ大好きな「月の蛾」が収録されているとあって、ついに購入して見た。全体を通しての感想としては、世評を裏切らない素晴らしいアンソロジーと言える。
「復讐の女神」ジャック・ヴァンス風のゼラズニイ作品というところ。未完の大器のまま死去というコメントを読んで、その通りだなと思う。凄い作品を書ける力を感じさせ続けた人だったが、スタイリッシュ志向がエンターテイメント方向へシフトして、軽めに流れてしまったまま戻って来ない内に亡くなってしまったと言う感じだろうか。
「悔い改めよハーレクィンとチクタクマンはいった」久しぶりに読んでいたが記憶していたイメージと少しズレていた。もっと「都市と星」的なスケール感があったように認識が溶変していたのだが、実際は「1984年」的な感じが強かった。いずれにせよエリスンの傑作の一つであることは疑いない。
「メイルシュトレーム2」クラークの短編の中でも純度の高い傑作。谷甲州の作品だと言われるとそのまま納得してしまうかも知れない。
「町かどの穴」ラファティらしい怪作。テンポ、ガジェットのゲテ物性などは、いかにもラファティらしく彼の作品の中でも秀逸な一本。
「リスの檻」ディッシュの「キャンプコンセントレーション」はサンリオ文庫で読んだが読みにくくてガッカリした記憶がある。これはその原点のような短編だが読みやすくて問題意識がピュアでストレートで、こちらは面白く読める。これがあれば、「キャンプコンセントレーション」は要らないのでは?
「銀河の核へ」ノウンスペースの一作だが、こんなスケールの大きなことをこんな短さで描いたものがあったとは知らなかった。ノウンスペース中でも白眉。
「月の蛾」SF設定のミステリーとしても、ジャック・ヴァンスらしい異世界ものとしても非常に完成度の高い面白い作品。なにより他にこれを書けそうな人を思い当たらないという意味で、ヴァンスの魅力たっぷりと言って良いと思う。

●これからの出来事
星新一
久しぶりに星先生のショートショート集を読んだが安心して読めた。特別にこの作品集を絶賛するような要素は見つけられなかったのだが、中学生時代(大昔?)に愛読していた頃を思い出して楽しく読めた。

●外道の市
ロジャー・ゼラズニイ
池央耿
スタイリッシュな快作「魔性の子」の続編。結論から言うと期待を大きく裏切った。
前作は物語の中の二人の主人公のコントラストと言い、その設定の独特の魅力と言いゼラズニイらしい神話とSFの融合であり、文句なしに面白かった。
今回はその続編なのだが、いたずらに難解に謎の登場人物たちの思惑が絡み合うばかりで、明快な切口がなく失敗に終わっているように思う。前作を上回るスケールの謎と対立軸を示そうと言う意図は感じられるのだが、どうもあまりスケール感もなく、前作の鮮やかなコントラストを成す対立軸に比べると魅力も薄いように思う。

●奇術師
クリストファー・プリースト
古沢嘉通
「魔法」もそうだったが、近年のプリーストの筆致というのは芸術品の域に達していると思う。個人的にはSFらしさを欲する方なので文学的な格調の高さに主眼は置いていないつもりなのだがプリーストを読むと嘆息するほど素晴らしい。
二人の奇術師の確執、そのそれぞれの同じ効果を出す別々のトリックの秘密。特にボーデンの罠に掛かって謝った方向に進んだルパート・エンジャがテスラの元で本物の瞬間移動技術に辿り着くあたりは、スチームパンク的なSFらしさも溢れていて読み応え十分だった。
結末が多面的に取れるようになっていて個人的な好みとしてはフラストレーションが残るのは、これも「魔法」と同様だが、そこを割り引いても傑作だと思う。大作だがその長さが作品世界に長く浸っていられてとても嬉しく思える作品。

●競争戦略論
青島矢一+加藤俊彦
戦略論として内側と外側、静的と動的の二軸、4ゾーンに分類して語る分かりやすい競争戦略論。
資源アプローチ、ポジショニングアプローチの静的な二つは既に体系化されているが、ゲームアプローチと学習アプローチの動的な部分はまだまだこれからか。

●幻影の航海
ティム・パワーズ
中村融
インターネット某所の読書ノートでパワーズを褒めているのを見て、これは未購入だったので購入。なんとなく、購入してある「アヌビスの門」や「石の夢」を差し置いて先に読み始めた。少なくともこれだけは上下に分冊でないので手頃と思ったのもある。
感想としては、「絶賛はできないけれども十分に合格点」というところ。カリブの海賊の史実にブードゥー魔術を持ち込んで縫い上げた西洋伝奇浪漫と書くと、正に看板に偽りなし。最大の弱点は、「重要な登場人物が多すぎる」ところだろう。登場人物が多いだけなら読み流しても大丈夫なのだが、重要な登場人物が多く、それぞれが自分の思惑と野望と独自の能力を持っているとなると大変。正直に言って、読み終わったところで「もう一度再読したら、それぞれの人物が出てくるところで人物の意味合いがわかっていて対面できるのでもっと面白いだろうなぁ」と思った。初見では流して読んでいた人物が後で意外なほど重要だったりして、「ええと、これは誰でいつから出てきてどんなことをしていたっけ?」とめくり直すことしきり。「通勤路で細切れで読むには向かない」という指摘があったが、まったくその通りだと思う。
再読のためのメモとしてネタバレで書いておくなら、
 ・ベン・ハーウッド:妻のマーガレット復活のため娘ベスを入れ物として利用しようとする隻腕の学者。一見、本編の一貫した最大の悪役かと思われるが‥。
 ・レオ・フレンド:ベン・ハーウッドの弟子に当るが、いじめられっこの天才少年時代のトラウマで別の野心を持つ。それらしい死に方をしていく。
 ・フィル・デイヴィス:ハーウッドと組んでいる海賊だが、主人公の友人になっていく(?)、途中で戦死するが最後まで重要な役回りである
 ・黒髯(エド・サッチ):お馴染みの海賊、黒髯。魔法の力を借りて異常な長命を既に遂げているが、さらなる野心を持っている。思えば序盤はさして重要そうな活動をしない割りに妙に描写されていた。
 ・スティード・ボネット:黒髯が実は重要だと言うことになると、実はその仲間だったボネットがなぜ人間としての死場を捜し求めていたのかというエピソードにも重みがある。再読の時は要注意の一人。
 ・哀れなでぶ:デイヴィスのボコールで端役にしか見えなかったのだが、実は主人公の逆転劇を支援する重要キャラクター。このあたりまで重要だと言うことになるとかなり気合を入れて読んでいないと本書は読み解けない‥(^_^;
 ・ジャック・シャンディ:言わずと知れた主人公。
 ・ベス・ハーウッド:ヒロイン、しかし魅力的に描かれている部分がほとんどなく、主人公やレオ・フレンドがなぜ彼女に執着するのかは説得力がない。黒髯やベンが執着する理由の方がずっと説得力がある‥(^_^;
 ・セバスチャン叔父:物語当初の主人公の目的だったはずで、クライマックスにもちゃんと登場するのだが、他の伏線や野望のスケールが大きいため影が薄い。中途では存在だけ頭に入れておけば良いくらいか。
 というくらいが頭に入っていて読むと大体はわかるのではないだろうか‥(^_^;
 こうしてメモを整理すると、重要な人物エピソードがぎっしりと500ページに詰まっていて、やはり傑作なのではないかという気がする‥(^o^)

●コミック版:プロジェクトX:厳冬 黒四ダムに挑む
ヤマト運輸に続いての黒四ダム。今年、実際に黒四ダムまで観光で言ったが、車、トロリーバス、ケーブルカー、ロープーウェーと乗り継いでいくのは正に秘境。凄いところに作ったものである。
トロリーバスで抜ける大町トンネルには、破砕帯の表示がある。この物語を読むと、一際感慨深い。越冬迎え掘り隊の物語も、そこへ重建設機械を送り込むのも、いずれも壮絶で、これがそのままSFだと言われても納得してしまうだろう。このアンリアルとも思える壮絶な物語がノンフィクションだということ、それがいまから50年前の物語だと言うことには、ただただ驚嘆するほかない。
その昔、少年ジャンプでも10回連載でこの話しがマンガ化されたことがあったが、やはり昭和の大プロジェクトの一つなのだと改めて認識する。

●ブギーポップは笑わない
上遠野浩平
電撃文庫の第4回ゲーム小説大賞作品。
期待が大きすぎたことと、路線として好みでないことを合わせて、正直に言ってさっぱりだった。
設定の説得力が乏しいように感じる。スケールの大きな話しが裏にあるということになっているが、実情はどこまでも学校内の連続殺人事件の域を出ないような感じもあり、そこが繋がって感じられない。視点がどんどん動いていき、キャラがどんどん死んで行くので読んでいて共感できる視点を設定できない。悪役側もブギーポップ側も肉付けが薄いような気がする。

●ヘラーズの冬
マリオン・ジマー・ブラッドリー
 ダーコーヴァー年代記、砕けた鎖の第2、3部。
 地球人でありながらダーコーヴァー育ちのマグダの物語。ドライタウンの虜囚と同じように、誘拐された人物を助けるために冒険する。ただし、こちらは単身、ロアーナの知恵を借りてフリーアマゾンの振りをしていく。ところが、その道中で本物のフリーアマゾンのジュエルの一行と遭遇してしまい、真にフリーアマゾンに。そして、フリーアマゾンの誓いと、帝国への誓い、女性の生き方の中で葛藤する悩みが続いていく。
 ドライタウンの虜囚が単純なフリーアマゾンの構図だとすれば、こちらはそれを複雑な要素を加味して単純にフリーアマゾン=女性の理想ではないということを描き出している。やはり、これはセットにして読んで議論するべき塊だろう。
 女流作家問題かまびすしい頃の作品だが、そうした議論から独立して読める時期が既に来ており、そういう意識で読んで非常に印象深い傑作だと思う。
 解説にあるブラッドリーの「ハイラインのヒロインは男性の妄想としての女性でしかない」には、なるほど本作を読むと肯かざるを得ない説得力があると思う。
 ダーコーヴァーの既読の中では「ストームクイーン」に次ぐ面白さで、ダーコーヴァーが評判を博した原型としてはむしろこの地球の登場する年代の作品なのであろう。印象に残る傑作だと思う。

●ドライ・タウンの虜囚
マリオン・ジマー・ブラッドリー
中原尚哉
 ダーコーヴァー年代記、年代順に進んでついに混沌の時代からコミンの統治の時代へ。
 「砕けた鎖」の第一部を独立本にしているが、やはりこれは少々無理で、これだけを単体で評価議論するのは難しい。
 法の及ばぬドライタウンに囚われたメローラを救うためにフリーアマゾンを雇ったロアーナの物語。
 メローラを助けることはできないが、その娘ジュエルを助けることができた。ジュエルはフリーアマゾンの道を選ぶ。
 軽快に読み進むことができてアッという間だが、第一部でしかなく物足りなさは隠せない。

●コミック版:プロジェクトX:腕と度胸のトラック便
はやせ淳
クロネコヤマトの宅急便の話し。トラック運輸の先駆者でありながら凋落し、業界の常識「個人の小口貨物輸送は儲からない」にチャレンジした物語。北海道支社をタテ糸に、労使協調による勝負に出た裏話をヨコ糸に、諦めずにチャレンジし続けて成功した先駆者の物語である。
プロジェクトXでは苦労話がどうしても先に立つが、何故に小倉社長は宅急便にそこまで自信があったのか、何故にヤマトは官庁の規制と正面から戦い続けるのか、その勝算の根拠がもっと説明されていて欲しい気はする。これは経営戦略的な分析で、視聴率を広く稼ぐためには適さない切口だと言うことか。日本人は苦労話が好きなのだろうか?

●老いたる霊長類の星への讃歌
J・ティプトリー・ジュニア
伊藤典夫・友枝康子
ティプトリーの短編集を読むのは3冊目だが、率直に言ってこの短編集はあまりピンと来なかった。「いいな」と思ったのは「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか」だけだった。
「汝が半数染色体の心」は、言って見れば二つのフェイズを持つエイリアンで、その二つのフェイズの関係が人種差別的に見えると言う題材。「一瞬のいのちの味わい」は人類そのものが惑星単位で生殖する生物の精子で、卵子である惑星めがけて宇宙旅行していく宿命だったと言う題材。いずれもアイデアSFとしてもっと短く草上さんあたりが書けば傑作だと思うが、ティプトリーが100ページ、200ページ掛けて書くのであれば、もっとプラスアルファが欲しい感じ。
ほかの作品はイメージ先行で観念的過ぎる気がしてほとんど共感できなかった。

●スキップ
北村薫
Yさんの薦めで読むが、これは素晴らしい。
時間をスキップしてしまった女性主人公が17才の女子高校生の心と42才のおばさんになってしまった自分の生活との間で日々葛藤奮戦する物語。
言ってしまえばこれだけなのだが、生活の描写の厚みと手触り、人物の温かみとリアリティ、設定のアンリアルさを越えて強い実感を持って迫るのは凄い筆力。作者が元教師と聞いてリアリティがあるのは自分の一番貯えのある場で描いているからかと納得する。
このレベルが他の場でも実現できるのかどうか、他の作品も早々に読んで見たい。

●そうなのか!ランチェスター戦略がマンガで3時間でマスターできる本
田岡佳子
ランチェスターの第一法則:原始的な戦闘、一騎討ちの戦闘、局地的な戦闘、A10人対B6人で、6人ずつが刺し違えてA4人が生き残る戦闘
ランチェスターの第二法則:機関銃で撃ち合う戦闘、一人が多数と戦えて、少数側は多数を相手にすることで圧倒的に不利になる戦闘、全面戦闘、相互作用のある広い範囲での戦闘
弱者の取るべき戦略:局地戦に持ち込み、一騎打ちで部分に勝つ、分散しないよう狙いを絞って集中する
強者の取るべき戦略:広域の総合戦で物量を生かして弱者を圧倒して駆逐する、局地戦にならないよう敵を分散させる
三つの数値指標:74%は独占の目安、42%は数的優位を持てる安全圏の目安、26%は有力メンバーの一角と見なされる目安
局地戦を挑む、地形的に隔離されている地域:島、盆地を狙う、情報や人の移動が少ない地域を狙う
接近戦を挑む、訪問販売、チラシ作戦、ローラー作戦、顧客リストを作成し集中してセールスを仕掛ける(逆にテレビ広告やデモショップの面展開は強者の総合戦闘の手段)
一点に絞った実例:トワイニングの紅茶は高級な化粧缶に入れたギフト用に絞って高島屋だけで売って地位を確保した
点から線へ:先ず一点、そこから遠くない別のもう一点、その間を結ぶ線、第三の点、そこに囲まれた面へと広げていく
グー・パー・チョキ:導入期は的を絞って深彫りするグーの戦略、成長期は手を広げていろんなニーズを取り込んでいくパーの戦略、成熟期は採算の悪い部分をカットしていくチョキの戦略
同行販売の重要性:上司が同行すると相手も相当するポジションの人を引き出しやすい、ただし上司はそれまでのストーリーを乱さないようにあまりでしゃばらない

●Uの世界
神林長平
「ウ」で始まる単語のSFアドベンチャー連作集。
全体として一編の長編として読んだ方が適切な気がする。
「空蝉」ではまるで映画「マトリックス」を思わせるヴァーチャル化した未来人類の営みが描かれる。そこで唯一実体を持つヒロインがリアルの世界へと逃走していく。「移舞」では記憶喪失から日常を取り戻そうとするストーリーだが、その日常が自分のものでないという感覚を持ちながらもそこへ嵌まり込もうとするという違和感が秀逸。「独活」は男が植物のように土に植えられて生えてくるという異形の未来世界。そこへ冷凍睡眠で過去から送り込まれた男という極めてアブノーマルなファンタジー。「烏有」は独活の世界をドーリーアニメという新メディアの自分の作品として作っていると言う男性の物語、〆切に追われるリアリティのある世界へと一気に引き戻されるが、この世界もまた金のために潜入した施設の中で変容していく。「熟寝」は戦争で寂れた世界の一角での物語り。ここではドリーマと呼ばれる一時の幻想への逃避が変容への出口になっている。「うん醸」の冒頭は一連の作品群の謎解きのように見える展開で始まる。これまでの一連の幻想はプロジェクト、そこから覚めたというところだ。ところがこれもまた変容し始め、プロジェクトは異星の機械生命体の陰謀で‥。たまねぎの皮を剥ぐように容易に現実が一皮ずつ向けてしまう神林ワールドの面目躍如。

●魔性の子
ロジャー・ゼラズニイ
池央耿
インターネットの某ページでゼラズニイ諸作品の中でもお薦め度が高いと読み、にわかにマーケットプレイスで「外道の市」とともに入手。早速、読んで見た。
なるほどゼラズニイらしいカッコイイ作品。二つの世界で取り替えられたチェンジリングの二人の子供たちがそれぞれの世界で疎まれつつも力を持つようになり、再び世界の命運を賭けて一人は己の世界に連れ戻される。一方が機械文明の世界、もう一方が魔法文明の世界とあって、その両者の個性が交錯するあたりはゲームにでもしたいくらい。
ストーリーの壮大さに比べてテンポが速すぎ、特にもっと幼少時代からの成長期を書き込もうと思えばいくらでも書き込めそうなだけに勿体ないくらい。
少し人物が少なすぎてノラをはさんだ二人の主要人物ばかりに比重が掛かりすぎか。それもこれもこの展開でたっぷり5冊くらいには書けそうなものを1冊に駆け足でジェットコースターしているからで、良くも悪くもそれがこの作品の特徴になっている。
1冊目でここまでやってしまって果たして2冊目はなにをやるのだろうか?

●ヴェイスの盲点
野尻抱介
「クレギオン」というのがTRPGと小説などのタイアッププロジェクトだというのは不勉強にして知らず。
読んで見ると、なるほど確かにRPG的な設定。古代文明の残した機雷原で隔絶された惑星。そこでのエリート職業であるナビゲーターを目指す少女。そして、その背後には意外な真相が‥。
で、この状況に飛び込んでいくのが豪放磊落な船長と、美人パイロット、ただし年齢意外に高いというと、少し変化球だがいかにもという範囲にはある。
個人的にはロケットガールのシリーズの方が詳細なサイエンス設定とぶっ飛んだキャラクター設定の妙が素晴らしいと思うが、これもまずまず。古本でまとめて一式購入したので近日続編に続く予定。

●ブルー・シャンペン
ジョン・ヴァーリイ
ヴァーリイらしい良質の短編集。七世界以外も入っていて少し異質なものもあるが、それも含めて良い。
「プッシャー」ウラシマ効果ものの新機軸だが、いかにもヴァーリイらしい結末に至っている。
「ブルー・シャンペン」表題作、ブルー・シャンペンの異名を持つ宇宙空間の水中リゾートを舞台に、人工骨格を身にまとった女優メガン・ギャロウェーを巡る切ないラブストーリーが繰り広げられる。なんと言ってもここで出てくる主人公たちの葛藤や惑いがヴァーリイならではの未来世界のモチーフに根ざしているのが独特。それでいて甘酸っぱくも切なく、決してグロテスクだったりリアリティがなかったりしないのは、やはり筆力か。
「タンゴ・チャーリィとフォックストロット・ロミオ」同じ世界をブルー・シャンペンと共有する一作だが雰囲気は大きく異なっている。無人ステーションに犬たちとともに残された少女、しかしことは厄介で稀代の疫病の再汚染危機と長寿の秘密が絡んでくる。残念ながらこちらは少しリアリティが不足気味かも。
「選択の自由」性転換が自在になっていることが前提のヴァーリイの諸作品にあって、そうなる過渡期のラブストーリーというのは、言われて見ればあって不思議はないのだがやはり不思議。性転換が自在になることへの障壁が現代との連続性を感じさせてくれていてSFというよりむしろ現代小説のようにすら感じてしまう。
「ブラックホールとロリポップ」これまたクローニング技術のまわりでの独特のシチュエーションの一編。ブラックホールハンティングという孤独な作業に用いる自分のクローン娘、その背後に隠されたダークな真相。そこへ登場する喋るブラックホール。これこそリアリティがなくて当然のような話しだがそれなりに読ませるのはさすが。
「PRESS ENTER■」いまとなっては古典的なコンピューター感の一作という気もする。他の作品とは異質で少々浮き上がっており、これが巻末なのはセレクションとしては良くないかも知れない。それなりに読ませているのはさすがだが、作品集中では、これはなくても良いかもと思うのはこの作品。

●雨の檻
菅浩江
「雨の檻」世代宇宙船もののバリエーションの一つだが、辛辣な設定と女性的な感性がマッチして透明感のある一作になっている。
「カーマインレッド」学園ものとロボットものの複合、なんとなく自分が書いたかのようなタッチを感じるのは昔同じようなエイリアンものを書いたことがあるからか。冷静に評価しがたい。
「セピアの明細」ウラシマ効果とクローンを複合した一作。SFならではのラブストーリーになっていて、設定やストーリーは申し分ない。少しタッチがウェットに過ぎるかなというのが好みでない部分かも。
「そばかすのフィギュア」これはイマイチ。
「カトレアの真実」これはダークなタッチの一作、これも結末がウェットに過ぎるかなと言う気がするが、それ以外はとても良い。
「お夏、清十郎」ちょっと「ガサラキ」を思い出してしまった。過去へ遡及する能力を芸術に運用して身を磨り減らしていくという物語。これは少し作者のホビーの世界に深入りしすぎていてわかりにくかった感じ。

●経営学入門[下]
榊原清則
・技術戦略は、財務戦略やマーケティング戦略と並ぶ重要な企業戦略
・しかし技術優位は直接は競争優位ではない、適切な市場で適切に利用されなければ役に立たない
・プロダクティビティ・ジレンマ:技術が成熟すると成熟の故に選択肢が狭まりイノベーションが置きにくくなる
・製品ライフサイクルで最初は製品イノベーションの時期、定番が決まってからが工程イノベーションの時期
・日本の経営者に必要なのは、優先順位を明確にしてトレードオフを整理すること、ライバルと違う戦略を持つこと

●パラダイス
マイク・レズニック
内田昌之
 レズニックらしい一作。実在のケニヤに材を取った植民地惑星SF。
 第一部:夜明けは、ペポニで巨大野生動物ランドシップをハントしていたというハードウィクの物語。
 第二部:真昼は、原住民と人類が骨肉の争いを展開したカラカラ危機を生き延びたアマンダの物語。
 第三部:午後の中頃は、独立したペポニでベストを尽くしているが窮地を乗り越えるには及ばないブコ・ペポンの物語。
 第四部:黄昏は、狂言回しの作家マシュウが三部では大統領秘書だったトンカが破局しつつあるペポニを治めているところを訪問する。ジレンマは破局へと辿り着きつつあり、そこにはもはや浪漫はなく、受け入れにくい結末へと至る。
 パラダイスでこの辛辣さでは、煉獄や地獄が訳されないのは無理もないか。

●経営学入門[上]
榊原清則
・マネージメントの努力は「無駄の排除に注がれる反面、有効性の考察は背後に後退気味」
・全社戦略はほとんどドメイン戦略、事業戦略では資源戦略や競争戦略が重要
・改善で下から積み上げるのが以前は機能した、しかし現在では「日常業務が戦略を駆逐してしまう」
・意思決定方法に優劣はなく、広い情報や知識の活用が必要なら集団意思決定、速度が重要なら個人意思決定
・個人行動の7割はコミニュケーション、二者間の対話で言葉が占める割合は35%、残りは非言語である
・コンフリクト解消法の研究では、問題解決や問題直視が必ずしも常にベストとは限らない
・分権化する理由は、個人の管理能力の限界、メンバーへのモチベーション、教育機会の提供、不確実な社会で決断を現場に近く置くため
・一方、集権組織には、一枚岩の行動力、責任所在の明確さという利点があり、これらが必要なときを判断すべし
・成熟した企業では、往々にして戦略発想がインサイドアウトになる、たとえば「当社には技術力があるから‥」

●イリーガル・エイリアン
ロバート・J・ソウヤー
内田昌之
 エイリアンとのファーストコンタクトから殺人事件が発生し、なんとエイリアンを逮捕して裁判に掛けてしまうという法廷ミステリー。そんな馬鹿なと思いつつも、大真面目に進む法廷劇についつい読み進んでしまう。ソウヤーの作品としても最近のもので厚めだが、その厚さが嬉しくもっと続いて欲しいとさえ思う。
 しかし、終盤、真相が突き止められていくと、なんと大変な陰謀が潜んでいて、エイリアン同士の間での大変な確執も明らかになっていく。なんと地球の生命をライバルとして根絶しようと言う主流派と、それを宗教的に否定する異端派が同乗してやってきていたのだという。
 この問題に奇跡的にもご都合主義的な解答が与えられたかと思うと、それで物語りは終わらず再び新たなエイリアンが‥。そして、最後は再び法廷へと物語りは帰っていく。
 ソウヤー作品の中でも法廷部分でじっくりと手厚く読ませてくれて、最後はしっかりソウヤーという嬉しい一作。いつもはアイデア詰め込みすぎで忙しないので、このくらいのテンポでも良い気がする。いままで読んだ中ではソウヤー中ベストかも。

●巡洋艦サラマンダー
谷甲州
 航空宇宙軍史もいよいよ後半に入っているが、この一冊は終戦間際の悲哀に満ちた4編で、ますます谷甲州節好調である。
 「巡洋艦サラマンダー」は、外惑星側の秘密兵器であるサラマンダーの悩める実態を描く一編。試験航海でそのまま戦闘に出て整備しながら飛ぶ状態と、それでも秘密兵器であり続けることで存在意義を見出そうとすることのジレンマ。これが宇宙空間でのポジション取りと、艦隊司令部の現場を理解せぬ命令と相俟って、サラマンダーをチェックメイトに追い込んでいく。
 「サラマンダー追跡」は、逆の立場でサラマンダーを追う航空宇宙軍の側の悩み。サラマンダーの正体が見えない中で、推理と仮説を積み上げて追う側もまた悩みは深い。典型的なウォーゲームでいうところの丘の上の効果だが、改めてこうして両側で書かれると、その効果が鮮烈に際立つ。そしてチェックメイトされたかに見えたサラマンダーが最後に選択する航路とは。
 「アナンケ迎撃作戦」は、外惑星動乱の集結の物語、最後の戦闘でも窮鼠猫を噛むこともできずに末路を迎える外惑星同盟。カリスト開戦前夜の物語を踏まえて、ミッチナー将軍の末路は彼もまた自分の立場でベストを尽くしただけだったのかも知れないと思わせる。
 「最終兵器ネメシス」は、終戦時に時として見られる最後の悲劇の物語。ただ、そこには単なる悲劇を越えた策謀が渦巻いており、終戦にも関わらず命を奪い合う苛烈な戦闘が味方だったはずの者たちの間で、彼らが戦争をともに過ごしてきた基地の中で繰り広げられる。この作品集の4編はどれも素晴らしいが、この最後の一編はユニークな戦場での悲しい戦いで特に印象深い。

●ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
J・K・ローリング
松岡祐子
 率直なところを言うと途中まではあまり面白いとは思わなかった。
 ダーズリー一家との不愉快な夏休みから始まって、フツーには辿り着かないホグワーツへ。
 学校を襲う危機の中、スネイプ先生はいつも意地悪で、クィディッチの試合があって、今年もハグリッドの飼っている動物が問題を起こす。
 学校を襲う危機の迫力が今回は乏しいように感じ、その中で前と同じパターンをなぞるようなエピソードもこれまた盛り上がりに乏しいように感じた。唯一、3年目にして初めてまともな闇の魔法の防衛術の先生がやってきて、ハリーのレベルアップに手を貸してくれる。
 しかし、これらが最後に整合し、なぜ脱走犯ブラックの迫力がイマイチだったのか、3年目にしてやってきたまともな闇の魔法の防衛術の先生がまたしても姿を消すことになるのか、最後にいろいろな伏線が一斉にまとまる。終わって見ればそれなりの出来になっていて、先ずは一安心というところだが、前2冊をやや下回ったか。
 次はいよいよ上下二分冊の炎のゴブレットだが果たして期待に応えてくれるかどうか?

●企業ドメインの戦略論
榊原清則
・ドメインは物理的定義より機能的定義が良い、ブリキカンではなく、パッケージと定義しよう
・ゼロックスはドメインをコピーから未来のオフィスに広げ、拡散しすぎたところから収束してドキュメントに見直した
・ドメインはドメインコンセンサスが得られて初めて機能する、従業員や外部に納得してもらうこと
・GEの事業の入れ替えは単なる利益の確保だけでなく、ドメインの再定義の過程である
・IBMも事業マップを総花的に広げすぎ、そこからドメインを再定義し直した会社の一つ
・日本企業のドメインは暗黙的、ときに事後的である、過程で投資が分散し総花化したり手詰まりになりやすい
・構想主導型の企業としては、セコムの「安全を売る」や、日本電気の「C&C(コンピュータ&コミニュケーション)」
・洗濯機とはなにか? 洗濯をする機械である、しかし静御前以後の一時期、静かであることが最大の売りとなった
・ミニ4駆は、組立て簡単化のため嵌め込み式にしたが、その結果、改造マシンとなり大ブレイクした
・なにが付加価値になるかは必ずしも意図的ではないが、それを顧客や市場から拾って拡大できるかどうかは会社のスキルによってチャンスを拡大することができる
・理論に走って内向きになっている会社には顧客や市場からの流れを掴むことが難しい
・ヤマハのティファニーは、想定を越えてヒットし新ジャンルを作ってしまい、ヤマハの手に負えなくなり撤退した
・停泊点(アンカレッジポイント)、ユーザーの使い勝手のヒントとなるキーワード、電子手帳では「手帳」
・スキーマ(一定の構造を持つ知識)、カップヌードルはカップに入ったインスタントラーメンではなく、どこでも食べられる新しいスナック食品として提案された、銀座の対面販売で「銀座に行ってカップヌードルを食べよう」がブームになった
・ドメインが総花的になって機能しなくなる最たる例は、「総合‥‥」選択と集中をせずなんでもやるが、なにを一番やりたいかを何も示していない
・ダイエーは「よい品をどんどん安く」のときは好調だったが、「総合生活文化情報提案企業集団」などと言い出したときには既に収拾がつかなくなっていた
・素朴でわかりやすく機能するドメインを定義することはトップの務めである

●無伴奏ソナタ
オースン・スコット・カード
野口幸夫ほか
 意外だが短編集として読むのは初めて。個々の作品については再読のものも多い。
「エンダーのゲーム」はやはり傑作、そして長編も悪くはないのだが、やはりこの短編が凝縮していて良いと思う。
「王の食肉」は残酷な寓話的なSF作品で、いま読み返しても鮮烈。
「呼吸の問題」、「タイムリッドをとざせ」は、まずまずではあるがカードに対してこちらが期待するものではないように思う。
「ブルージンズを身につけて」、「四階共同便所の怨霊」、になると、率直に言ってあまり良いできとも思えなかった。
「死すべき神々」もピンと来ないのだが宗教の本質部分に関わる話になるとこちらが無宗教だと言うことがネックなのかも知れない。
「解放のとき」もイメージ先行に過ぎるのではないか?
「猿たちはすべてが冗談なんだと思い込んでいた」は、宇宙のランデブーとも似たヘクトルの物語。もう少し書き込むと凄い作品になるかも知れないし、凡作になってしまうかも知れないという感じ。
「磁器のサラマンダー」は素晴らしいファンタジー童話。この短編集は最初の2編と最後の2編で支えられていると言って良いのではないか?
「無伴奏ソナタ」は世紀の傑作短編。芸術と言うもののピュアーでそして人に取り憑いて離さない恐ろしさを感じさせる。そして人生と言うものの重さと軽さを感じさせてくれる。

●ソリトンの悪魔(上)
●ソリトンの悪魔(下)
梅原克文
 随分と遅れて読むことになってしまったがこれは傑作。
 海洋冒険SFであり、ファーストコンタクトであり、人間ドラマであり、圧倒的にパワフルで大作ながら一気に読ませてくれる。
 海底油田に賭ける男、その妻と娘、潜水艦に賭ける男、その部下たち、謎の海底生命、現場と遊離した政府当局。
 どのモチーフも決して新規だとか独創的だとかいう訳ではない。しかし、そのオーソドックスで力強い組み合わせは、忘れていたSF青春時代を思い起こさせてくれる。
 個人的には「はつしお」の富岡とDSRVの山田とが葛藤する雷撃のシーンが圧巻だった。その後も息をも付かせず次々に盛り上がる場面が出てくるが、人間のドラマである雷撃シーンほどに手に汗を握らせてはいないだろう。
 最後の最後まで波乱万丈ながら、エピローグはハッピーエンドで、それも含めてSF青春時代を思い起こさせる。
 あまりに素晴らしかったので、この作者の別作品も遅蒔きながら読んで見ようかと思う。

●ネクストソサイエティ
P・F・ドラッカー
上田惇生
・経済よりも社会が重要な時代になった
・政治家がどう言うのであれ25年後には70まで働かねばならなくなる
・知識社会になり知識はボーダーレスなのでボーダーレス化は必然、勝者と敗者が分かれる
・テクノロジストという知識労働者で同時に肉体労働者である層が多数派になっていく
・製造業はやがて農業のようになっていく
・50年に及ぶ仕事期間は一企業に勤めるには長すぎる
・知識は急速に陳腐化し、人は生涯学習せざるを得なくなる
・テクノロジストには金銭の重要性は二次で、やりがいが第一義になる
・日本は教育が高く社会階層の移動が自由だが、製造業の変化を受け入れる準備だけが過剰適応でできていない
・近代企業の5つのパラダイムは、企業主・従業員従、フルタイム社員、単一経営による傘下形成、供給側主導権、業界専用技術
・現代では従業員は従とは言えない、フルタイムでない雇用が増大、調達自由化、顧客主導権、技術の意外な転用で、全てひっくり返ってしまった
・産業革命で重要だったのは蒸気機関ではなく、それが生んだ鉄道による距離の縮小と移動の容易性だった
・eコマースの重要性はまだこれから発現してくるであろう
・ショッキングだが寿命延長に抗生物質は寄与しておらず労働環境改善が主役である
・現代のCEOには情報責任が必要、いつどんな情報を誰から得るか? 自分はどんな情報をいつ出すか?
・企業研究所は内向きでいまや真に価値のあるものを作り出せる可能性は低下し続けている
・アメリカの貿易赤字はモノ基準の昔の尺度で測ったときで、知識やソフトの輸出で大幅黒字である、最たるものは国外からの留学生の外貨収入である
・eコマースの強みは特定メーカーに縛られずなんでも提供できることである:例、カーズダイレクト、アマゾン
・起業マインド#1の国は韓国である
・ベンチャーが陥る罠は、想定しなかった成功の拒否、利益優先でキャッシュフロー軽視、成長時のマネージメントシステム構築の遅れ、自身のミッションの見失い
・人材派遣業と雇用業務代行業は2大成長産業
・固定型の雇用と人事は費用も労力も膨大で見合わなくなってきており上記2業種を成長させている
・人材派遣業は派遣者にもメリットを与える、適材適所を次々に提供できるということで、その人のスキルを生かし、生きがいを与えられるからである。これはいまや企業内の昇進ではできないことである。
・田舎に理想の暮らしがあるというのは現代都市人の幻想である。
・都市形成時に都市に人口が流入したのは強制的で束縛的なコミュニティから自由になり機会を得るためである
・にも関わらず都市にはコミュニティが欠落しており必要とされている
・しかし都市のコミュニティは選択的で自由度の高いものになるであろう

●火星転移 上
●火星転移 下
グレッグ・ベア
小野田和子
 率直に言って最後の編者あとがきを読むまでは傑作とは思っていなかった。どちらかと言うと、火星を題材にした期待の大作としては物足りない‥くらいに思っていた。理由として、火星転移と言う訳題で既にネタバレになっているネタで800ページも引張るのか‥というフラストレーションが第一。第二としては、訳者も指摘する通り「月は無慈悲な夜の女王」に似たところがあり新味が薄いこと。また、序盤の最初の動乱のエピソードも後年への繋がりが薄く全体としてストーリーが融合していない印象を受けたこともマイナスだった。
 ただ、最後の編者あとがきを読んで思わず胸が熱くなり、「これは傑作だ」と思ってしまった。ビッグイベントの当事者による回顧録という設定になった途端にネタバレなことを800ページ引張ることも許せるし、必ずしもストーリーとして有機的に融合しない若かりし日のエピソードの存在も許せる。そしてなにより、その不遇の評価と、生前に再評価を受けることができた幸せな晩年も胸に迫るものがある。
 火星の植民地の黎明期のフロンティア時代を描く作品を期待しがちだが、レッドマーズにせよこの作品にせよ、その次の植民地が大人になろうとするときに親とぶつかる次代が主眼になっている。その意味で、往年の近未来火星物より一歩成熟したと言うことなのだろう。

●エイダ
山田正紀
 山田正紀の久々の力作と発売当時に話題になった作品。
 言霊思想の延長線として物語力によって物語の登場人物が実在化するという設定。特にフランケンシュタインのモンスターを中心に、その殺人事件の謎を解くシャーロックホームズなどが絡んでくる。
 それとは別に近未来の場面では山田正紀の分身と思われるSF作家が、SFジャンル衰退の背後に潜む物語を実在化するシステムとの対決をするストーリーが重なり合う。
 悪くないとは思うのだが、SFジャンルの衰退の話しが自己韜晦めいて聞こえてどうも楽しくない。また、フランケンシュタインのモンスターに関するエピソードも引張りすぎの感じがあってしつこい気がする。
 普通の作家が書けば合格点だと思うが山田正紀の久々の大作に対する期待は大きなものがあり、それには応え切れていないように思った。こちらの勝手な期待の押し付けではあるのかも知れないが。

●確率人間
ロバート・シルヴァーバーグ
田村源二
 高校時代に新刊でみたときに印象的な表紙イラストが気になりながら買いそびれてしまい、24年ぶりに読むことになった。ニューシルヴァーバーグ時代の独立長編はどれも水準が高く好きだが、これも重厚な一作。確率趨勢を読むことに長けた主人公が、本当に未来を記憶して持つ人物と接触してそのスキルを伝授されていくという物語。
 未来のニューヨークのリアリティある描写や、ニューヨーク市長から大統領を目指す人物の参謀として仕えるという中盤までの一見、メインに見えるストーリーによって重厚に展開する。しかし、終盤では未来記憶が発現して一種の新しい宗教(?)の教祖として大成していくような意外な展開となる。
 少しストーリーに裏切り感が強いので一連のニューシルヴァーバーグの中でも特にこれを押すという感じではないが、久しぶりにシルヴァーバーグの手厚い筆致を読めて嬉しかった。

●クリティカルチェーン
エリヤフ・ゴールドラット
三本木亮
 ザゴールのゴールドラットの第4作になるが、今回は非常に痛いところを付いてくる題材「なぜプロジェクトは予定通りに進まないか?」が題材。一部、TOCの復習も間に挟み、クリティカルパス管理がクリティカルチェーンに化けるあたりまで面白い。最後の最後のダラーデイズの話しは、示唆して考えさせる終わり方になっている。
・各工程はセーフティを含んでいる
・PERTチャート、ガントチャート、そしてクリティカルパス
・プロジェクトの進行状況はクリティカルパスで監視する
・各工程のセーフティを止め、プロジェクト全体に与える
・クリティカルパスへの合流バッファーを設け、クリティカルパスを止めない
・各自の掛け持ちの中でクリティカルパスを止めないために必要なことを優先させる
・そのためには必要のない作業は必要になるまで始めない、終わらせるべきことはやり掛けたら終わりまでやってしまう
・ボトルネックリソースがあるときは応用概念のクリティカルチェーンが有用
・リソースを休みなく有効活用するような工程表をリソース基準で並べるとクリティカルパスと類似のクリティカルチェーンが見えてくる
・クリティカルチェーンへの合流に対して合流バッファーを設ける
・あとは考え方は同じ
・資金投資の基準は金額×時間という次元の違うものの積で考えること、物理の運動量(質量×速度)のように次元の違うものの積で切口を取ることで突然問題がスッキリする

●さよならダイノサウルス
ロバート・J・ソウヤー
内田昌之
 こういう話しだとは予想もしなかった。
 限定的な能力しか持たないタイムマシンで、恐竜時代の謎解きにいく‥という辺りは、それはそれで凄い話しなのだが比較的オーソドックスと言って良いだろう。
 ところが、そこでは重力が半分で、月が二つあって、恐竜に寄生する巨大ウィルス火星人がいてというと大変なことになってくる。
 そして、その全ての謎が一気に解かれてしまうクライマックスへは、割と呆気なく辿りついてしまう。これほどの凄いアイデアを、300ページあまりの長編で済ませてしまうとは素晴らしいサービス精神。さらに次のアイデアがどんどん出るという自信か? なんにせよ作品長大化傾向に一石を投じる好作品と思う。

●我語りて世界あり
神林長平
 個という区別をなくして互換性の部品として暮らしている人々、その中で名前を持つことで個を見出した主人公たち。全体のシステムの一部でありながら同じく個を見出した特殊プログラムMISPAN。
 非常に特異な発想の作品で、最初の作品はわかりにくく、観念先走りでハズしたかとおも思えた。しかし、読んで行くうちにこの特異な世界がしっかりと伝わってきて、その中での物語の意義が見えてくる。終わって見ると、かなりの作品と思う。
 二作目の「月下に迷う」はゲームで月に激突しそうになって月を消してしまうというコンセプト。三作目の「電子素子たちの宴会」は個が運転できる車というものの異端を描く。「召魔効果」では部隊が投入され主人公たちは追われ、「魔が差した街」では準子がMISPANに実体を与えるべく妊娠する。最後の「共感崩壊」で文字通り共感社会はその虚構の表層を破られ正体を露見していく。

●キルガードの狼上
●キルガードの狼下
M.Z.ブラッドリー
嶋田洋一
 混沌の時代の末期、百王国の統合を夢見る猛将バードの物語。
 前半はバードの立身出世が酒と女のトラブルで台無しになる物語。青春ストーリーとしても読める読み応え十分のイントロダクションだろう。再び王国に戻り、後継者争いのキーマンとして弟の戴冠を支援する辺りまでストーリーは非常に読みやすく、波乱はあるものの臥薪嘗胆の荒くれ者の物語としてスムーズに読める。
 その一方で、ダーコーヴァーならではと思わせるのは、カーリナ、メローラ、メリセンドラという女性たちの存在。虐げられるだけ、待つだけでない女性像を、この乱世英雄の時代に描き出して見せるのはやはり女流作家ならではか。そして、ラランズを通じてカーリナの真実を見たバードが変節して別人に変わってしまう終盤は、それまでのヒロイックなストーリーとは突然異質である。
 ラランズで連れてこられる分身ポールの存在、ネスカヤのヴァージルと盟約。この巻は先に書かれてる後のコミンの時代とヒロイックファンタジーのような混沌の時代を繋ぐために書かれており、そのままの異質の連結がストーリー中にあるということか。
 面白いと思うし悪くはないが、繋がり具合は決して上手く行っていないような気がする。

●さすらいエマノン
梶尾真治
 シリーズ第2弾。前作では設定のばらつきに驚いたが、今回は心構えもあってスムーズに読めた。
 「さすらいビヒモス」は、人類に危機を伝えてくれるビヒモスが最後の象に取り付いて暴れる話し。
 「まじろぎクリーチャー」は、化学兵器工場の事故汚染で禁忌の土地となった故郷をめぐる話し。
 「あやかしホルネリア」は、化学兵器研究工場への赤潮の怨念の話し。
 3編に共通する人間の愚かしさへの絶望感が悲しい。
 「まほろばジュルパリ」も人間の愚かしさを描いているが、それを人間が一時とは言え支えられるという希望の物語でもある。この巻の白眉。
 「いくたびザナハラード」も人間の愚かしさを描いているが、ジュルパリ同様に「人間にだって良いところがあるよ」というメッセージも含んでいる。前半3編と後半2編で作者の心情が変化したのか? ただ作中に作者が顔を出すエピソードについてはあまり上手く行っていないような気がする。

●アザー・エデン
エヴァンズ&ホールドストック
浅倉久志ほか
 イギリスSF傑作選ということでかなり期待して読んだが、少し期待過剰だったか。
 「雨に打たれて」はタニス・リーの傑作。汚染された地球で「センター」の中に入る生活を夢見る外の親子の生活を描く。設定、生活描写、心情描写の組合せが高い水準で素晴らしい。
 「アミールの時計」は機械知性への進化のためのツールとして人間が存在しているという設定の未来からのメッセージ的な短編。ワトスンらしくもあるが、かなり読みやすい。佳作。
 「キャベツの代価」オールディスの将来の銀河交易時代の辺境の憂鬱とウラシマ効果を絡めた一作。悪くはないと思うが日本には梶尾真治がいるから‥という気がする。
 「フルウッド網」チャーノックのいかにもSF的な馬鹿話し。偶然が発生しまくる場を作ったり、逆に遭遇が至難になったり‥。
 「凍りついた枢機卿」ムアコックの「この人を見よ」を思い出させる小品。
 「掌編三題」キルワースのブラックなショートショート。特に「豚足ライトと手鳥」は小松左京の「凶暴な口」を髣髴とさせるSFならではのホラーショートショート。
 「きず」リサ・タトルの傑作短編。男性が主権を握る社会システムの中、性別は思春期以降に恋愛することで脱落して女性になるものと、ゲーム(?)に勝って男性のままで生きていくものとに分かれているという設定。設定は奇矯だが描写のタッチはしっとりとしている。考えさせる読後感が残る。

●七王国の玉座 上
●七王国の玉座 下
氷と炎の歌1
岡部宏之
 世評の高いファンタジーシリーズの第一巻。
 ペーパーバックで800ページの大作で300ページまで英文で読んだが、オークションの出物の誘惑に負けて日本語へ転換。
 多視点で登場人物の多い系図志向の群像劇という感じ。ただ、最初はダイアウルフを連れて各地に散ったスタークが中心で進むかと思いきや、ネッドが処刑されてしまうあたりで唖然。途中までのもってまわった陰謀が、唐突に乱暴なやり方で局面が動き出して違和感。
 当初想定していた群像劇より、もう一段階大きな視点で主人公は七王国、副主人公は北の冬と南の竜といったところなのか?
 系図志向の年代記‥というとダーコーヴァー年代記だが、あちらがルースな語り口調だとしたら、こちらはもっと緊密な語り口調で多くの系図を同時並行で3世代くらい語るのか? 評価的には面白いけれども、大冊のペーパーバックを原文でバリバリ読んでというほどには喜べないか。2巻の邦訳が待たれる。

●復活の朝
グインサーガ92
栗本薫
 一連のクリスタル攻防戦ついに決着という一冊。
 グインの駆け引きは悪いアイデアではないが、その駆け引きの会話の長口上の応酬には少々辟易。
 概して最近のグインサーガは、登場人物のおしゃべりや独白が長すぎるのではないか。
 結局、アモンとグインがどこへ消えたかは明確にならないままクリスタル復興物語が始まっていく。
 イシュトとヨナのエピソードは良いと思った。