ここは隠しページで、個人的な読書ノートになっています。
2003/1〜
●スタープレックス
ロバート・J・ソウヤー
内田昌之
 ソウヤー版「スタートレック」か?
 人間、イルカ、哲学的な共生生物イブ族、人間と折り合いの悪いウォルダフード族からなる巨大探査宇宙船スタープレックス号。その冒険は、ウォルダフード族の陰謀や、惑星サイズの暗黒物質生命体との遭遇で混沌としていく。そして船長は未来の自分と遭遇し‥。随所にスタートレックとの類似を感じさせるが、ハードSFならではのガジェットも盛り込まれていて、独自色も存分に出ている。
 最後は暗黒生命体のベビーの窮地を救い、未来の船長との遭遇を果たして帰って来た船長はプライベートな幸福を守ることができる。このへんのハッピーエンドテイストもスタートレックのファーストジェネレーションのテイストを思い起こさせる。新しいけれどもどこか懐かしいスタイルを楽しませてくれる嬉しい作品だった。

●会議なんてやめちまえ!
スコット・スネア
鬼澤忍
非常に示唆に富んだ本である。どこまで実践できるかは自分次第であるが、魅力的な提案である。
・会議の目的は滅多に達成されない
・ほとんどの人は会議に降参しているが自分でそのことに気づいてすらいない
・会議が開かれる理由は他の方法を知らないからである
・敵兵の種類を見極める‥に出てくる様々なステレオタイプは一見の価値あり>p42
・他の方法としてマンツーマン管理を使ってみよう
・まず相手の言葉を最後まで聞く練習をしよう、そうして信頼関係を作れれば上手く行きだす
・ほとんどの人は会議で話しをするより一対一で話すほうが本当のこと、大事なことを言ってくれる
・チームリーダーを決めよう、ほとんどの人は実は指導されたがっている
・フィードバックを集め>目標を設定し>任務を与え>方向付けをし>その結果を集め>評価してサイクル化する
・職務を委任し、責任は自分で持っておくことができるか?
・子供の頃の昼休みの野球でチーム編成することになったらどうしていたか? 組織の目的に照らして優秀な人物を確保し、その人物を有効に生かせるポジションに付けたのでは?
・テクノロジーを活用しよう
・「君をクビにすることができない人間は、君を出世させることもできない」
・他人を成長させることは自分を成長させること
・他人が開く会議から逃げるには、まず忙しく働き成果を挙げ続けること
・会議の目的を明快にさせ、そのために必要な最低限のメンバーは誰か考えてもらう
・会議に出たときには会議をできるだけ効率的に短い時間で終わらせる哲学を示し続ける
・自分が会議を召集するリーダーになり、そして召集する回数を減らす
・パゴニスのチームのやり方は一見の価値あり>p259
・忙しいときのマンツーマンの打ち合わせは立ってする>スタンドアップ

●なつのロケット
あさりよしとお
 小学校の頃、のびのび科学実験をさせてくれた先生、謎の転校生、恐ろしい噂のある怖いおじさん、そんな少年の日の思い出のガジェットを目一杯利用した小学生が衛星軌道に乗る液体燃料ロケットを飛ばしてしまう一夏の物語。
 期待していたより人間の描写に苛烈なところもあるが、そのくらいでないとこんな大それたことはできないのかも知れない。解説にもある通り、90年代の日本のロケット技術のフラストレーションを突き抜ける意味で「ロケットガール」ともども科学に翼が生えていた頃を思い出させる一作。

●いさましいちびのトースター火星へ行く
トーマス.M.ディッシュ
 いさましいちびのトースターの続編。今度はエジソンの作った補聴器が登場して相対性原理を駆使して火星へ往復するストーリー。火星からの侵略を目論む家電製品にはそれなりの事情もあり、トースターの説得に応じて宇宙へと乗り出していくことになる。そしてトースターたちは無事に、新しい連れと共に帰宅する。
 やさしい視点のストーリーはそのまま、長くなった新基軸としては少し物足りない気もするが安心して読むことのできる上質の大人の童話。

●ホークミストレス上
●ホークミストレス下
M.Z.ブラッドリー
氷川玲子、中原尚哉
 ストームクイーンの次の時代。作品としては打って変わってホークミストレスことロミリー・マッカランの成長冒険譚。
 男尊女卑の社会において男性の世界の一芸に秀で政略結婚を嫌って飛び出していく少女の物語。男尊女卑の時代にあって女性の一人の冒険者の道筋がどれほど険しいか女流作家の筆に改めて実感させられる。
 いちばん面白いのはこのあたりの成長編で、落ち延びる王子たちと遭遇して鷹匠見習いとして雇われるあたりまでが素晴らしい。その後、居場所を見つけたかに見えるソードウーマンの時代。
 そして最後は戦乱に巻き込まれ、かつての旅仲間と違う立場で再会する。ただ、こう言ってはなんだがホークミストレスの成長物語にとっては政治の話しは脇役であって、それが重要であると彼女が認識すること自体が彼女が大人の世界に巻き込まれたことの現れであり、未知なる未来への冒険譚としての魅力が薄れていく部分でもある。
 最終盤の部分はその無意味な残虐さもあってあまり盛り上がらなかったように思う。鷹と共に無限の可能性を秘めていた冒頭の彼女の魅力は最後のハッピーな結末にも関わらず物語の途中で失われてしまったように思う。
 良く書けているけれども、ストームクイーンほどには喜べなかったか。

●ストームクイーン上
●ストームクイーン下
M.Z.ブラッドリー
中村融、内田昌之
  刊行は1988年。既に15年が経つ。いまになってシリーズ一式で美本が手に入るとは思わなかった。インターネットのサイトの評判の良いものに絞って年代順に読むことに。
 「ストームクイーン」は、ダーコーヴァー年代記の初頭、ラランを強化すべく近親交配が行われ、その力の濫用や、近親交配の悲劇が続いていた混沌時代の初期を描いている。
 雷や嵐を操る力を持つドリリスの誕生から物語は始まる。その異父兄のドナル、野心家の兄ラファエルを持つ修道院修行僧のオーラート・ハスターが紹介され、最初は交わらない。オーラートが来るべき紛争で兄の力となるべく呼び出され、その政略結婚相手として登場するカサンドラ・アイヤール。さらに塔の監督者レナータが登場して人物が揃うところで前半が終了する。
 後半ではオーラートが使者としてアルダランを訪れ、そこでストーリーが交わる。ラファエルとスカスフェルが連合して攻め寄せてくるクライマックスでは、ラランを両軍が使った激しい超能力合戦が繰り広げられる。ススフェルが敗北を認め不名誉な死を遂げ、ラファエルは自らが暴君となる未来を否定してオーラートの手の中で死ぬ。そして、愛憎の縺れからドリリスの能力は義兄ドナルを。ドリリスは長い眠りにつき、オーラートとカサンドラはフェリックスを支えて国を背負うことになる。レナータはアルダランでドナルの子のために暮らすことになる。
 血族の争いを描くファンタジーとして素晴らしく、制御できない超能力を持つ異文化を描ききり、最後は超能力を濫用した戦闘描写のクライマックスから、悲劇の連続する結末と運命を背負って次の時代へ残る者たちの旅立ちへと至る。ストーリー、文化描写、超能力SF、人物の魅力の全ての点でレベルの高い傑作と思う。

●ジョーンズの世界
フィリップ・K・ディック
白石朗
ディックの第2長編。なるほど言われてみると「偶然世界」にタッチが似ている。
宇宙への進出が閉ざされつつある人類、その未来を予見するジョーンズという預言者が人類の指導者に、一方、金星に住むための改造を施した人間を送り込むプロジェクトがあり、そんな状況での地球政府の秘密警察の要人が主人公。
ガジェットはディックらしく面白いが、ストーリーの捻りは今の時代にして読むともう一つか。と言っても「偶然世界」と同じくらいの水準ではあるように思うので、20年前に訳されていたら好評だったろうと思う。
いまだったらこのくらいのガジェットを詰め込んだら、もっと書き込んで倍くらいの分量は欲しいところか?

●ラッキー・カード
草上仁
この短編集は気持ちよく一気に読み終われた。傑作!
「夜を明るく」、アシモフの夜来るに似たタイトルだが、テイストが通じるものがある。天と呼ばれる光合成をする物質が夜になると地上に降りてきて暗反応をして酸欠を作り出す星。夜に生き残るものを籤引きで決めて洞窟に篭る。そこへ墜落してきた宇宙船、なんと夜に花火を挙げ続けて暗反応を防いで生き残る‥(^o^)
「セルメック」、制御培養材料セルメックを積んでウラシマ効果を使ったディレイ契約を請け負ったという宇宙船野郎の話し、ポンコツ宇宙船を直すのに積荷を使った当りからケチが付き始め‥。
「割れた甲冑」、むかし自分がハヤカワSFコンテストに応募していた頃に予選通過に2年連続で名前のあった草上(当時は草冠のみ)さんのこのタイトルは印象に残っていた。今になって実物を読めるとは。アーマーの殻を着る種族の、大人と子供との骨肉の争いによる生存システムを描いた作品。アイデアストーリーだが前2編と違って笑って気安く読めない。
「牛乳屋」、地球の危機を救うに当って民間企業の論理と倫理に縛られている宇宙の牛乳屋という話しを、助けられる人類側からのミステリータッチで読み進めさせる一編。ミステリアスなタッチとコメディ的なカラクリが面白い。
「ラッキーカード」、質の高い短編集だが、その中でも表題作になるだけのことはある傑作。人間、ツイている人間と、ツイていない人間がいるわけだが、それを平均化するラッキーカードシステムとは。それを利用した秀逸な短編になっていて、フレドリックブラウンと星新一とちょっぴりPKD的でもある。
「ウォーターレース」、イルカに似た人間と交感できる生物のレースに賭ける一種のレーサーストーリー。山田正紀のアフロディーテの連載第1回を思い出すのはレースに賭けるストーリーと水のイメージか。他の作品とテイストは違うが、これも素晴らしい短編。
「可愛そうな王女の話」、ブラックでユーモラスでSFガジェットに満ちた童話。テイストの幅の広さを感じさせるが、個人的には草上さんに期待しているものとは少々ズレあり。

●巨象も踊る
ルイス・ガースナー
山岡洋一、高遠裕子
IBM復活物語の主導者ガースナーの自筆という作品。
序盤は先ず「外から見て当たり前のことができなかったIBMで当たり前を実践する」段階
次は将来展望が難しいコンピューター業界で戦略を立案する段階
そして企業文化の変革という最初の問題と近いが根が深い問題に取り組む段階に分けられる
後へ行くほど問題は難しくなっていき興味深い
・IBMではCEOを探すときに情報技術の専門知識より広範な問題を扱える変革者を探した
・管理は原則により、例外を作らない
・IBMの短期的なキャッシュフローを救ったのはメインフレームの価格引下げという既存戦略と相反する決断だった
・当時の分社化ブームに乗らず一体として再構築するという決断をして全社に徹底したのが早かった
・ガースナーは短期戦略が最大の難題と見ていたが、むしろそこは易しく長期課題の方が難しかった
・IBMの既存企業文化はメインフレームの大成功により作られた、高い利益率と圧倒的なシェア、アメリカでは珍しい手厚い福利厚生、準終身雇用である
・IBMにとっての脅威はパソコンと言われているが、むしろUNIXのようなオープンソースのOSであった
・オープンソースにより部品選択して全体を組み上げる自由が得られメインフレーム市場は瓦解、その一方でユーザーはシステム全体を管理する新たな重荷を負った、IBMの再生はこの重荷をまるごと引き受けるソリューション、eビジネスに賭けることとした
・そのためのロータスノーツ買収のためのロータス敵対買収を決断し粛々と実行した
・一方、自社のハード部品技術を生かすためOEM商売を引き受けるようにした
・成功した文化をルール化するのは全ての組織で必然、ただし風化すると死後硬直にもなりかねない
・企業文化を変えるために上からできることは動機付けである
・IBMは成功した巨大企業として外部との戦いより内部紛争に力を注いでいた
・外的に侵略されていることを明示し、その戦いのスローガンと数値目標を掲げた
・成功している組織の共通点は、焦点が絞れている、実行が優れている、顔の見えるリーダーシップがある
・焦点を絞っていない状態というのは自覚しがたい、資源の配分にメリハリがなくなってしまっているはず
・評価基準と行動基準を合致させねばならない
・中小企業は大企業を羨んでいる大きいことは悪いことではないことを先ず自覚する
・バブルは忘れた頃にまた来る、不思議なのはそれがバブルであることは自明なのに誰も指摘して列車から降りようとしなくなることだ
・ガースナーの提案は証券売買の税金を保有期間に応じて大幅に変化させること、確かに興味深いが国が仕組として採用してくれるか???

●鳥の歌いまは絶え
ケイト・ウィルヘルム
酒匂真理子
いくつかの異なる階層の感想が交差する。
まずストーリーが予想したようにさっぱり動かなかった。破滅物の展開かと思うとそこは早々に抜けて、クローンという新しい生物にとって代わられてしまう侵略者もののようになり、次にはクローンたちの中での異端者の物語に、そして最後には再び人類の時代が還ってくる。意外意外の展開だった。
それでいてウィルヘルムの筆致には奇をてらってみせるような気負いはなく、むしろ淡々と話しを書き続けて最後まで辿り着いてしまう。その冷静な筆致は比較するものもない。
冷静でありながらメッセージは重いものがあり、読者の方がそのメッセージに沈んだり熱くなったりしてしまう。
ある意味、敬愛するウィンダムの海流目覚めるとき、呪われた村、さなぎを繋ぎ合わせてウィルヘルム流の冷静な筆致で書き連ねたと言った印象もある。どこのパートも思わず夢中になりそうな魅力があるのに、作者の方がちっともその気になってくれないので読んでいてこちらの勢いを持て余してしまうような部分もある。
間違いなく傑作で、「さすがウィルヘルム」であるのだが、熱狂的にそれを言いがたいほどにクールである。
同時代の一連の女流作家の中で、間違いなく、ティプトリーとル・グィンと並ぶベスト3と思うが、それほどに翻訳も進まず、訳されても絶版になって復刻されないのはこうした読者に媚びなさ過ぎるところなのかも知れない。

●ザ・プロフィット
エイドリアン・スライウォツキー
中川治子
コンセプトを聞くと凄く面白そうだが実際に読むとそれほどではなかったというのが感想。
プロフィットモデルの説明の深さにもばらつきがあり、説得力がばらばらな印象がある。
それでもいろいろな利益モデルがあるということ、それを自分のビジネスでどう生かせるか考えるアイデアブックとしては持っていて良い本だと思う。納得できたところだけ書いていくと、
・ソリューションは個人的には製造業の開発部門にいるものとしてはもっとも身近
・ピラミッドは自身が玩具メーカーの罠に落ちている気がする
・スイッチボードも一種のソリューションに近いがスイッチボードを抑えていることがカギ
・時間利益モデルは先行者利益
・利益増殖モデルは派生製品群
・インストールベースモデルは本体を安く売って消耗品や保守で稼ぐ
・ブランド利益モデルはブランドという消費者心理による付加価値を作り出す
・ローカルリーダーシップモデルは地域での同業トップ店舗数の獲得によるローカルでのスケールメリットと他社の追随阻止
・取引規模利益モデルは売上高でなく利益率で勝負をして労少なくして効率よく稼ぐことを目指す
・新製品利益モデルは製品寿命の前半に人より多く投資し、後半には人より少なく投資して、早めに波を渡って歩く
改めて並べてみると、ソリューション、スイッチボード、新製品利益あたりは応用する機会がありそうな気がする。

●つぎの岩につづく
R.A.ラファティ
伊藤典夫、浅倉久志
 ラファティは好きな作家の一人だが、まとめて読むとアクが強すぎてやや食当りしてしまう。
 この短編集もそんな訳で前半を読んでから一年ぶりに後半を読んでようやく読み終えた。
・レインバード:巻頭にくるだけのことはある佳作、マッドサイエンティストものであり、三度繰り返す古典パターンも鮮やか
・つぎの岩につづく:表題作で、レインバードに近いサイエンティストもので時間交錯ものだが、キレでレインバードに見劣りするか
・むかしアラネアで:マタンゴの宇宙蜘蛛版とも言うべき怪奇ストーリーの小品
・超絶の虎:至高者が至高すぎて人間を理解できず、その判断は誤っている‥という教訓的でもあるが、困ったスーパーパワーストーリー
・豊穣世界:いわゆるトールテイルの宇宙版だが確かに信じてもらえそうにもない話しで、それが意外なほど淡々と進んで行き終わるときには唐突に終わってしまう。「いったいなんだったんだ???」という台詞が悪い意味ではなく口をついてでる中篇
・太古の殻にくるまれて:環境汚染破局モノの見せ掛けから太古還りに移り、過去の夢を追って天蓋を飛ぶロマンチストたちの死で幕を閉じる収拾のつかない奇妙なストーリー
・みにくい海:港町の恋の物語‥ではあるのだが、強烈に歪んでいてどうしようもなく救いがないラファティバージョン

●新ネットワーク思考
世界のしくみを読み解く
アルバートラズロ・バラバシ
青木薫
 読みやすく、最新のネットワーク理論のポイントが理解でき、その応用範囲の広さがわかる良書。
 ただ絶賛するには難点が二つ。前半はネットワーク理論の要点が良く分かるが、少々、苦労話が多すぎる。後半は応用の範囲の広さがわかるが、少々説明が浅くて学術書としては食い足りない。初学者にもわかるようにということかも知れないが、少し柔らかく書きすぎということだろうか。とは言え最新のネットワーク理論のポイントが理解できる素晴らしい書であることは間違いない。
・オイラーとケーニヒスベルクの橋の問題が出発点
・ネットワークの発生後にしばらくして忽然と現れるクラスター
・WWWの距離は19次、人間の距離は6次、最近は縮んでいる?
・グラノヴェッターは実用的な情報には弱い絆の方が重要と主張、その理由はクラスターの外に繋がる絆だから
・ウェブのロボット探索で不均一なネットワーク構造が発見されランダムランダムネットワークは否定された
・ネットワークに関する限りサイズは必ずしも重要でない、クラスター内リンクしか持たないノードはいくらリンクが多くてもハブたりえない>例:ベーコン数におけるポルノ俳優
・80・20の法則もまたネットワークと同じことを言っている。これは正規分布でなくベキ法則の世界である
・スケールフリーネットワークは少数のハブが多数のリンクを持ちクラスター間を繋いでいる
・スケールフリーネットワークでは平均的なノードというのはなく、系に特徴的なスケールもない
・自然は普通は正規分布を示すが、どんな系でも相転移を示すようなときにスケールフリーな性質を示す、逆に言えばスケールフリーが出てくるときは無秩序が秩序化する境界に入ったという証である
・最初のスケールフリーモデルは成長という概念だけだった。古いものほど有利だというだけのモデル。これでは不十分
・これに加えて優先的選択がなされ金持ちはどんどん金持ちになる仕組を取り入れると忽然とスケールフリーネットワークが姿を現す
・スケールフリーネットワークは強靭であるが、ハブが弱点である。とは言えもっとも巨大なハブを除去してもすぐには崩壊しない。しかしハブを除去していくとあるとき突然に崩壊してしまう
・スケールフリーネットワークは故障に極めて強く、選択的攻撃に弱い、と言っても一点集中構造よりは強い
・感染を抑えるにはハブを優先的に治療すべきである
・核戦争に持ちこたえる通信ネットワークの構想もスケールフリーネットワークだったが当時は認められなかった。しかし今それは実在するWWWそのものである
・インターネットがいつ自意識を持つかは予測できないが既に人間の思惑を超えて自己成長する段階には入っている
・方向性のあるリンクで作られるネットワークには、IN大陸、中央大陸、OUT大陸、半島や島が存在する。どんなロボットも頑張っても中央大陸とOUT大陸しか調べることができない。
・ヒトゲノム解読にも関わらず生命の神秘は解けていない、理由はノードよりもネットワーク構造が重要なためである
・ホットメイルはウィルス的なマーケティングの希少な成功例
・アルカイダはイレギュラーアーミーと呼ばれるが、これはスケールフリーネットワーク的な構造を持つ、非中央集権、非フラクタル構造の組織で、頑健性を持っている。この種の組織は従来の軍事概念に馴染まず既存の手法で対処しにくい。組織を破壊しようとするより、組織の存在理由を抜本的に取り除くべきか?

●魔宮の攻防
グインサーガ91
栗本薫
 一気に4冊を読破、スローな葬列から、一気にクリスタル突入へ。
 そしてレムスを餌に現れたアモンに対して、危地にありながらグインは取引を始め、ヨナを連れて古代機械に。
 そしてなんと‥というところでこの巻は切れてしまう。
 前の巻の攻防が凄かった割りに、この巻は盛り上がるようで盛り上がらぬままどんどん奥へ入り込んでいき、そこで意外な展開に。この後、一体どういうことになるのやら???

●恐怖の霧
グインサーガ90
栗本薫
 いよいよアモンとの前哨戦本格化。この巻の表題、恐怖の霧の使い方は一捻りあって、おやっと思わせる。見せ掛けの一時的な攻撃は、二次的な攻撃のための下準備。そして、その攻撃ではグインの唯一最大の弱点を突いてくる。ここで一つの疑問が残り、シルビアは本物だったのかどうか‥という話しを置き去りにしたまま物語は進む。おそらく「7人の魔道師」の展開から見て、実は本物だったのではと思うがそれはおいおいわかることだろう。
 いずれにせよ、この弱点をついた攻撃が功を奏しかかったかというところでのグインの反撃でアモンが大きなダメージを受ける。これが次の巻への伏線になっているのだからこのあたりはさすが栗本薫。
 アモンがヤンダルさえある意味上回るという話し、かつての紅蓮の島のあの太古生物の一族だという話し、そして宇宙を巡る様々なストーリーが出てきて「宝石泥棒」か「ファイナルファンタジー」を思わせる、ファンタジーの見せ掛けで実はSFかという流れが見えてきた。ある意味、この巻は一つの分岐点だった‥ということになりそうなほど一気に情報が開示され、キャラクターの位置関係が変貌した。アモンのポジションがヤンダルの道具以上に変わったことに比べると、よもやのグラチウスとの同盟さえ色褪せてしまう。これとても普通なら大事件のはずなのだが。

●夢魔の王子
グインサーガ89
栗本薫
 ようやくにしてアモンとの前哨戦が始まった。とりあえずは夢魔の王子の表題の通り、夢の回廊を通じてのご挨拶程度。ストーリーは動き出したが、まだまだセカンドギアというところか。

●星の葬送
グインサーガ88
栗本薫
 前の巻でついにアルドナリスが亡くなったが今回はタイトルから察せられる通りその葬儀で1冊が終わっている。
 作中の彼の存在の重要性を考えれば、またグインサーガの全体の寸を考えれば、決しておかしなことではないものの、正直に言って少しかったるかった。特にマリウスがやってきてああでもないこうでもないと3章目はかなり苦痛。ああ兄も兄だが弟も弟、ストーリーのスピード感をスローダウンしているかなと思う。
 次からはいよいよストーリーが大きく動きそうなので期待したい。

●一角獣をさがせ!
マイク・レズニック
佐藤ひろみ
 「アイヴォリー」、「キリンヤガ」、「サンティアゴ」と素晴らしい作品が続いたレズニックだが、この作品は期待はずれ。ファンタジー系のハードボイルドだが、ハードボイルドでは制約をどう破壊していくかが醍醐味と思うが、ファンタジーの性質上、制約設定の枠がはずれてしまっている、もしくはこの世界なりにあるのかも知れないがそれが読者側で実感がないのでストーリーのご都合に感じられてしまうという弱点がある。このためあまりギリギリのところで切り抜けるという切迫感がない。
 とは言え博物館のシーンはなかなか。後半にも同じくらいの盛り上がりがあれば結構評価できたかも。謎解きがいまひとつに感じられたのが最終的な敗因か?

●アイ・アム
菅浩江
 はじめて読む菅浩江。女流作家らしいやさしいタッチの文体で入りながら結構コアはしっかりSFしていて好感が持てる。やや小品な印象もあるが、また別の作品を読む日が楽しみになった。

●星ぼしの荒野から
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
伊藤典夫、浅倉久志
 ティプトリーの第4短編集、前読の第5「たった一つの冴えたやり方」から遡ってくると、晩年のリリカルさと、中期までの凄みの融合点がこのあたりにあるように思える。個々の作品の出来栄えもさることながら全体として短編集として非常に重みと輝きのある内容と思う。
「ビーバーの涙」と「ラセンウジバエ解決法」は、いずれも生物学的な題材と、人間がその立場に置かれたら‥という辛辣さで描かれている。特に後者はティプトリーという男装の女性作家の作であることも相俟って複雑に読み解くこともできる厚みのある内容と思う。
「天国の門」、「時分割の天使」、「汚れなき戯れ」は、いかにもSF短編らしい内容で、ティプトリーもこんなものを書くのかと思わせるところもある。しかし、その筆致は重みがあり単なるアイデアストーリーとは呼びにくい仕上がりで、後味が残る。
「われら夢を盗みし者」は、宇宙活劇というべきエンターテイメントだが、暴力描写と、辛辣なエンディングでやはりティプトリーとしか言いようがない味わいに仕上がっている。
「スロー・ミュージック」は、逆リバーワールド的な終末世界を描いた一作で、結局、設定についてのきちんとした説明などはほとんどされないにも関わらず、独自の世界を築いてそこでの悲しいエンディングを読ませてしまう。ある意味、書き手としての凄みをいちばん痛感させてくれる作品。
「星ぼしの荒野から」は、さすが表題作。個人的には「たった一つの冴えたやり方」を上回る傑作と思う。宇宙的な物語と人間の営みの遭遇、その人間の物語のドラマ性と少し悲しい結末。そして宇宙的な物語と人間の営みのわずかな糸口。書き方は辛辣なところもあるが、物語としては希望に満ちているように思う。
「たおやかな狂える手に」は、ティプトリー以外の人が書いていたら駄作にしかならなかったのではないかという作品。内容を要約してしまうと陳腐にして短いものになってしまうが、それを書く筆致はティプトリーであり、なんとかしてしまう以上の仕上がりとなっている。

●影響力の武器
ロバート・チャルディーニ
社会行動研究会
 プッシーなセールスにまつわる心理学の集大成で、なるほどセールスマン、セールスに引っかかりたくない人の双方のバイブルと呼ばれるにふさわしい。少し読み物色を強めにして肉が付きすぎている嫌いはあるがテキストブックとしての使用も意識されており広く薦められる。
 最終章にある通り複雑化する現代社会では自動応答は有用かつ必要であり、だからこそ自動応答を利用した悪質商法は強く排除されねばならない。
・返報性
 極めて強力であり、予防することが最善である。
 無料試供品が代表的、不公平な交換を起こさせる。
 譲歩の返報性は、不公平な交換の鮮やかな実例。無理を言って拒否されたら譲歩する、これで相手に満足と義務感を与えることができる。
 予防策としては相手の意図によって仕訳し、悪意あるものは受け取らずに予防すること。
・一貫性
 一貫性が高いことは良いことであるため自動スイッチが入る。
 先ずコミットメントさせ、それにより自己イメージを作らせてしまう。
 特に「書くコミットメント」で人はその意見に良くも悪くも固定される。
 セールスでは格安条件でコミットさせておいてからもっともらしい理由で引き上げる手法。
 一貫性は悪いオプションしか提示できないケースで利用できるテクニックである。
 予防策としては相手の手の内を知って置くこと、自分の中で「なんとなくイヤだな」と思ったらコミットしないこと。
・社会的証明
 他の人もしていれば正しい。
 買い物で自分で意思決定できる人は5%しかいない。
 ジェノヴィーズ事件の背景の一つである。責任の分散とともに、他の目撃者が動かないので社会的証明により自分も動かなくなってしまう。
 対策としては、一人を特定して具体的に助けを求める。「そこの赤いジャケットの人、救急車を呼んでください!」
 自殺報道で自殺率が上昇するのも社会的証明。
 どうしていいかわからない時に最大の威力。
 見本と自分に共通点があるときに威力。
 対策としては、他人の行動を盲目的に信じずに少し疑ってみて異常に気づくこと。
・好意
 人は思っている以上に外見で判断している。
 人は思っている以上にお世辞に弱い。
 条件付け(派生の原理)で悪い報せを持ってくる人は嫌われる。
 対策としては、原因のシャットアウトは副作用があるので、買うつもりになったときに「なぜ買うつもりになったのだろう?」と確認しなおしてみて好意しか根拠がないときはやめておくこと。
・権威
 自動応答の代表例。
 しかも、肩書きや、制服と言った簡単に偽造が効くようなもので強力に発動する。
 対策としては、本当に相手はこの問題の権威なのだろうか?と一度、疑問を持ってみること。
・希少性
 少ない、しかも正に少なくなりつつある、競争相手がいる、期限が限られている‥ということで血が騒いでしまう。
 この要素は、「入手」の感激を大きくするが、物そのものの魅力を上げる訳ではないので、後で失敗に気づきやすい。
 対策としては、血が騒ぎ始めたら「何のために何を欲しいのか?」という出発点に帰ってみること。

●ウォッチャー
草上仁
 草上さんとしては異色。ショートショートと中篇という組み合わせで、短編らしい短編はない。
 率直に言うと、短編作家として印象が強くそういうものを期待して読んだので、少々期待はずれ。ショートショートでは草上さんらしいSFらしいアイデアの膨らませができなくて物足りない。中篇「ウォッチャー」は悪くないと思うのだが、こちらの期待しているものとは異質で違和感が先立つ。これが外国の新人作家の作品だというなら、結構、高い評価ができたのではないかという気もする。

●パフォーマンス・マネージメント
−問題解決のための行動分析学−
島宗 理
・うまくいかないとき個人攻撃の罠に陥らない、問題を解決する方法を考えよう
・強化の原理、弱化の原理
・復帰の原理:消去されないと悪行は繰り返される
・消去の原理:強化されないと善行は繰り替えされない
・派生の原理:好子と一緒に現れるものが好子化、嫌子と一緒に現れるものが嫌子化する
・人間は「やらなくてはいけない」とわかっていてもできないことが多い生き物である
・すべての行動原理は「〜する」であって、決して「〜しない」ではない
・達成目標が最終目標、そのために必要な行動が「行動目標」
・問題行動の解決には、ABC分析(先行条件、行動、結果)
・教えるには強化が有効、弱化は副作用が大きい(派生の原理で教師が嫌子化する)
・標的行動として実のある成果に繋がる行動を選択する
・パフォーマンスに繋がらない行動を選ぶのは「行動の罠」、たとえば遅刻を減らしてもパフォーマンスが上がらないなら遅刻を減らすより別の標的行動を選ぶ必要がある
・「知識」も実は行動である、流暢に使えないと知識ではない
・「できて当たり前のことができない」なら、教えるしかない
・行動と結果の関係は明確に、結果は行動に対して確実に、結果の伝達は直後に
・人生のマネージメントは優先順位付けから、続いて達成目標を具体的に、そのための標的行動を行動目標に
・パフォーマンスフィードバックの仕組みで自己強化し、大目標は小目標に切り分け〆切をつける

●私と月につきあって
野尻抱介
 ロケットガールシリーズ第3作。
 タイトルから連想される通りの内容でありながら、随所で宇宙開拓SFのフロンティアスピリッツに感動してしまうのはやはりアポロ少年世代なるがゆえか。次はきっとこうなるに違いない、このまま順調に行くはずがないからアクシデントが起こるに違いないと思っていて、その通りに展開するのだが、それでもついつい引き込まれて一気に読んでしまう。
 ストレートで、一見美少女アニメ風でありながら、芯はしっかり宇宙SFしている傑作シリーズと思う。
 フランス5人娘が登場してめっきり賑やかになり、ついに月まで行ってしまったが、果たして続編はあるのか?
 足が地に付いたサイエンス描写ということになると、宇宙ステーションの建設か、月面長期滞在くらいが次のステップであるが??? 是非とも次があって欲しいシリーズ。

●時間的無限大
スティ−ブン・バクスター
小野田和子
 ジーリークロニクル翻訳を機にバクスターの未来史をまとめて読もうと取り組んだ一作。
 一種の時間テーマで、未来史の最初であり、同時に最後にも通じている。いわば銀河帝国の興亡でいうところの「永遠の終わり」的存在か。
 それにしても読んでみるとハードSFどっぷりの人で、この人を読んでしまうと往年のニーブンなどまだまだエンターテイメントだったなぁ‥と思わされてしまう。ページ数の割には軽い印象で、トリック自体以外には小説的な捻りはむしろなくストレートな印象さえある。これを読むと年代記の最後を飾るという「虚空のリング」は押さえて置かねばという気がする。引き続き「プランクゼロ」を併読中。年代記は進んでいく。

●魔法
クリストファー・プリースト
古沢嘉通
 いかにもクリストファー・プリーストらしい、そしてさらにSF性は薄く、小説としての質感は高くなった一作。
 事故からのリハビリ、記憶喪失の時期から訪れてくる女性。そして、その記憶喪失の時期の少しずつ明らかになってくる異常。ほとんど恋愛小説の見せかけでありながら、その背後には極めて異常な設定が隠れている。けれども、それが本当に異常な現象なのか、精神的な異常で認識だけが歪んでいるのかすら区分ができない。レムの「枯草熱」を髣髴させる。
 SFならば異常がどんどん拡大して、それに大団円の決着が付かねばならないが、この作品にはそんな意図はほとんどない。ただ、そうした意味では、最後の最後は個人的には余計だった気がする。むしろこうしたどんでん返しを用意しない方が良かったのではないかという気もする。
 小説としての質感は「スペースマシン」、「ドリームマシン」よりさらに上がっていて、純文学畑で評価されるというのは頷ける。「PRESTIGE」を原書で読みたいという気がしてきた。

●図解儲けのカラクリ
三笠書房
 昨年登場した三笠書房の一連の図解シリーズの初期作。
・宝くじの還元率は50%
・通販の原価率は50%
・歯科医は保険診療では経営タイト
・宅急便は人口密集地で稼ぐため地方へも赤字でも運ぶ
・ガソリンは半分以上税金でセルフにしても下がりにくい
・宝石の原価は1/4だが対面販売で設備投資と保険も高く暴利ではない
・コーヒーチェーンは粗利益70%だが客単価が安く回転が重要
・100円ショップの原価は60〜70円
・大手チェーンコンビニの目安は日商40万円、800円×500人

●指輪物語:王の帰還
J・R・R・トールキン
瀬田貞二、田中明子
 三部作のフィナーレ。
 文庫では8−9に当たる。
 8は戦争編の後半に当たり、モルドール軍がついに西へ押し寄せミナスティリスが危機に陥る。この窮地に駆けつけるアラゴルン、セオデンらのそれぞれの救援軍たち。包囲されたミナスティリス、救援軍の進入、決戦、そして最後に現れる船団はいずれの味方たるや? この決戦の後、さらにミスランディアは黒門へと兵を進め、フロドたちの旅路からサウロンの目を逸らすべく‥。
 9はフロドとサムの旅路の最終行程と、長い長い後日談。旅路の最終行程は依然として平板な苦悩が続くのだが、思ったよりも早く決着に至る。そこからの後日談が実に長く、こういうページ配分は今のエンターテイメント小説なら先ずしないだろうという気がしながら読み進んだ。冒頭もそうだがクライマックスの指輪戦争の部分だけでなく、その前後の日々も描き出して世界に厚みを出しているのは事実。その一方でテンポ良く最初から最後まで読むのは難しくなっているように思う。
 創造された世界の質感量感は正に本作品を歴史に残るにふさわしいものにしているし、クライマックスの指輪戦争のくだりも書かれた時代を考えると図抜けていると思う。その一方で、今ならもっとテンポ良く読めるものが他にもあるので、これを万人に薦めるかどうかは難しいところと思う。
 とは言え永きに渡って懸案だった作品を読み終え、これで指輪物語を題材にしたゲームを語るベースが得られたことは個人的にはとても嬉しい。
 また原作を読み終えたことで映画三部作のDVDは是非とも揃えておきたい気になっている。なぜならもう一度活字でこれを全部読み返すことは難しいかも知れないが、DVDで見てリマインドしたいと思うことは数年に一度はあるように思うから。

●指輪物語:二つの塔
J・R・R・トールキン
瀬田貞二、田中明子
 現在映画公開中のパート2に当たる。
 文庫では5−7に当たるが5−6は離散した仲間たちの内、ピピンとメリー、そして二人を救出すべく追うアラゴルン、レゴラス、ギムリの物語。エントとの出会いから、風雲急を告げるヘルム峡谷、そしてアイゼンガルドでのサルマンの没落までになる。物語の登場人物が増え、小パーティーの冒険談から大戦争絵巻へと変貌し俄然おもしろくなる。決着の付き方は少々あっさりしすぎている気もするがスペクタクル感は十分に出ていて素晴らしい。とかく銀河を賭けて戦っているというスローガンはあってもスペクタクル感のない作品もあるものだが、これはさすがに稀代のファンタジー大作として世に伝わるだけのことはある。
 7はフロドとサムの二人の旅路、実は指輪物語の本線は指輪を破壊する二人の行動が本線であり、大戦争ですら陽動作戦でしかない。とは言えストーリーとしては登場人物も少なく物語としても単調で平板なので盛り上がりに欠けるのは事実。スメアゴルならしの章あたりは旅の仲間の冒頭に続いて読んでいて眠くなるように思う。ボードゲームのシナリオにも取り上げられたシェロブが最後に登場し、絶体絶命の危機に瀕したところで第2部は終わってしまう。

●指輪物語:旅の仲間
J・R・R・トールキン
瀬田貞二、田中明子
 苦節4度目(あるいは5度目)の挑戦にして初めて一冊目(上1)を突破して一気に4冊を読み終えることができた。
 冒頭部のとっつきの悪さは、それだけでこの作品を傑作とは呼べなくしていると思うがどうだろうか?
 とまれ今回ようやくにして読み終えることが大きな原動力は、昨年の映画、ロードオブザリング1にあることは確か。映画については賛否いろいろあるようだが、個人的にはあの映像イメージのアシストなくしては読むことすらできなかったので是としたい。とは言え3時間は長かったが‥(^_^;
 4冊にも渡る第1部の中で、本当にクライマックスなのはモリアに尽きる。ブレーでの逃走劇や、ロスロリエンもそれなりではあるが、冒険活劇というには程遠い。そもそも指輪物語は冒険活劇ではなく思弁的なファンタジーなのかも知れないが。
 第2部はアクションも活発になりそうなので引続き期待したい。

●マイノリティ・リポート
フィリップ・ディック
浅倉久志ほか
 マイノリティ・リポートと、追憶売りますという映画原作2本を含む独自短編集。
 「マイノリティリポート」は、まとまりの良いキレのある短編。映画はこれをさらに膨らませてヒューマンドラマな部分も持たせていてそれはそれで見ごたえのある一作になっている。
 「ジェイムズ・P・クロウ」も、ディックの若かりし日のタッチが良く感じられる一編。結末は人間に対して苦く、ディックの人間観が仄見えるというと勘ぐり過ぎか?
 「世界を我が手に」フェッセンデンものの一編で、特に捻りがある訳でもないが、ディックの筆のキレは感じられる。
 「水蜘蛛計画」ラファティが書いたのかと思うようなとぼけたタッチのユーモア物の一編。因果関係のトリックもラファティを思わせるところがある。それにしてもSF大会の身内ものでもあり楽しく読ませてもらった。
 「安定社会」スタティックな未来社会から離脱するとそこは地獄という皮肉なオチの一編。ディックのダークな世界観がひしひしと感じられるように思う。
 「火星潜入」アクション色が強くどんでん返しも見事なスペースオペラな一編。このキレ味はさすが。
 「追憶売ります」ワールズベストで読んで以来の再読だがやはり良く書けた一編。ディック作品の中でもトップクラスのものだろう。映画になるとガジェットの一部から火星ストーリーが派生して(多分に火星のタイムスリップから引いている気もする)本編を越えたアクション大作になっていた。映画も原作も楽しめた一作と改めて思う。

●機械たちの時間
神林長平
 この前に読んだ時間蝕の印象が良くなく、またしてもミステリー仕立てというのでドキッとしたが、杞憂に終わった。
 軽快なテンポで進む「原因は未来にある」という奇想のミステリー。火星のハイブリッドソルジャーというディック的なアイテムとともに、機械の時間方向は生命体と逆だと言う神林長平一流の思弁が登場し面白く読める。世界が薄皮一枚のような脆さがあって登場人物の温かみに欠けるが、それも作品の狙いの一つであろう。
 帝王の殻のように傑作と呼ぶほどではないが、神林長平らしいテンポの良い快作。

●サンティアゴ
マイク・レズニック
内田昌之
 レズニックと言えば、アイヴォリーと言いキリンヤガと言い物語の楽しさを感じさせてくれる作家。
 このサンティアゴも素晴らしい。アイヴォリーとキリンヤガが断片の集積だったとすると、これは長い長いストーリー。
 サンティアゴと呼ばれる幻とも思える無法者、それを狙う賞金稼ぎとジャーナリスト。キャラが立っている登場人物が次から次へと出てきて、その多くが舞台から去っていく。
 そしてサンティアゴに隠された秘密。その秘密は魅力あるキャラが次々と登場する中で、これよりさらにすごいと言うサンティアゴとはどんな人物なのだろう‥という期待を裏切らない。
 そしてその秘密はレズニックのいつものテイストとメッセージに沿ったもので心に染み入る。
 コニイ、プリーストなどとともに、心に染みるSF物語を書いてくれる作家として、長く付き合いたいものだ。

●ムジカ・マキーナ
高野史緒
 ファンタジーノベル大賞で結局なにも賞を取らなかったにも関わらず、これでハードカバーデビューしたという一作。
 なるほどそうした曰くを聞くと納得できる。荒削りだが個性をストレートにぶつけた一作。
 音楽に憑かれたものの妄執が生む機械と薬物の架空を音楽の色濃い歴史の中で描き出した力作。まさに渾身の‥という言葉がふさわしい。

●タナトス戦闘団
谷甲州
 航空宇宙軍史というと宇宙空間戦闘のイメージの方が強いが、「カリスト開戦前夜」のように陸戦諜報活動的なものも。このタナトス戦闘団では以前に登場したダンテ隊長率いるタナトス戦闘団が再登場。開戦直前の諜報活動から開戦と同時に実施する破壊活動までを描く。
 しかしそこは航空宇宙軍史で決してストーリーは単純でなく、タナトス戦闘団の工作活動は味方にも欺かれる陽動作戦という設定。だが、それを乗り越えて実のある破壊工作をして逃げおおせていく。ただしそれでも外惑星に勝機が訪れる訳ではなく、彼ら自身も自らの次の活動は終戦に向けての外惑星側の玉砕派トップの排除にあるのかも‥と予感して終わる。
 少し短く少し物足りなく、そして少し切ない宇宙戦記である。

●ハイペリオン
ダン・シモンズ
酒井昭伸
 世評の極めて高い作品ながら、シリーズ全体が文庫化されて初めて読むことに。
 率直に言って出来栄えはなかなかのもので世評だけのことはあると感じた。全体の構成や、大枠の物語の巡礼のストーリーなど、クラシカルな文学の香りがあってブリティッシュ・トラディショナルな印象を強く受けた。キース・ロバーツの「パヴァーヌ」を連想した部分もあった。宗教性の強い連作というところと、物語の哀愁がそう感じさせるのだろうか。
 挿入話の中では、学者の物語で時間が逆行する奇病に掛かったレイチェルと両親の話しが泣かせる。この一編だけでも素晴らしい読書体験だったと言うに足ると思う。「ゴルディアスの結び目」や、「マインドイーター」を連想した。
 最後を飾る「領事の物語」は、設定の大枠を語るものでもあり、作品の原点となる短編の直系でもありこれも面白い。「バースデイ」や「メディア9」を連想した。
 挿入話を集めてSFの物語性の集積と言った印象で多くのSFファンが支持するのはむべなるかなと思う。ただし、大枠のストーリーとしては最後のエンディングはあまりにオープン過ぎて収束していない印象があり、最後の最後で大きなマイナスのイメージ。

●ヤーンの時の時
グインサーガ87
栗本薫
 率直に言って、ホッとした。
 反発を招くかも知れないが、ようやく死んでくれたか‥という印象は免れ得ないと思う。作者の思い入れはどうあれ、個人的にはナリスが出てくると文章が過剰に叙情的になり繰言が多くなってストーリーの進行が遅くなると思う。この傾向は特に近年になって強かったように思う。ストーリー上は重要な人物であり、ファンがいることも頷けるが、もっと早く死んでくれて良かったのではないかという気がする。

●マッキンゼー式世界最強の仕事術
イーサンMラジエル
嶋本恵美/田代泰子
・マッキンゼーの仕事は問題解決である
・問題解決は事実から始まる
・当初仮説を立てる
・与えられた問題が本当の問題かどうか深く掘り下げる
・初めての問題など存在しない
・最大の障害は内部政治
・30秒プレゼンを練習しよう、ポイントは3つまで
・低い枝の実を先ず取ろう
・定期的に大きな絵を眺めよう
・面接テクは、聴いていることを伝える、言いたいことがありそうなら必要なだけ沈黙する、コロンボのように別れ際に一つ聞く
・ブレーンストーミングは、準備する、悪いアイデアはない、紙に書き落とす、辞め時を知る
・完璧を求めて失敗するな
・事前報告を関係者にして置く
・滝グラフでストーリー的に結果を説明する
・メッセージは完結で完全で構造があること
・出張を楽しむ、仕事を完全にしない日を週に一日は作る