蘭の会11月号



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三周年記念企画
新連載>サルレト



□蘭の会2004年11月号おてがみ 川村透さんより

『あなたへ手紙を書かなくてはならない』 川村 透



−おはようございます。


彼女は朝のことばを話す
僕は夜の体で受け止める

 さあ、手紙を書かなくては。僕は今、どこにいるのか?僕は戦場にいる。僕のいるところが戦場だ、戦場になってしまう。僕はどうしようもなく、オトコ、でしかない。
 あなたへ、手紙を書かなくてはならない。斃れる前に。今も目の前が鉛色になって際限のない吐き気を友に、一点を見つめているのだ。詩は、それでも傍らにいてくれる。あなたは僕のそばにいてくれる、のに、僕は「不在」という暴力でずっと、あなたを傷つけてきた。申し訳ないと思う。いつかは還るだろう。けれどそれは「今」ではない。今の僕は目に見えない銃弾がこめかみをかすめてゆくのを感じることができるようになった。この国、「植民地の夜は更けて」。いとおしい爆弾どもとワルツを踊る。僕たちは「見ない」ようにすることでたやすく人殺しをすることのできる国で育った。それでもその国は美しいあなたを育んでくれたふるさとでもあるのだ。どうしようもなく僕はふるさとに惹かれ、憎むように愛している。あなたは清らかでいてほしい。汚れ仕事は、僕、がやるから。

彼女は朝の、涙を流す
僕は夜の汗にまみれる


 あなたから、手紙が届けられても僕には返事を書く資格もない。僕の手は泥まみれであなたの髪を梳くことはできない、今は。いつ、いつまで。いつまでかかるの?今って、いつまでのことなの?あなたは問う。僕は応えない。応えられない。ふざい、と、ふあん、を撒き散らしながら僕は駆けている。今夜は駆けに駆けて、ずた袋のようになってCRTの前に座り、鬼、をもてあましている。夜は世界だ。夜は僕だ。夜は虎だ。夜は、詩、だ。
 あなたは朝の匂いがする。僕がベッドに倒れこむと同時にあなたの朝は始まる。僕たちは永遠にすれ違う。意識を失くしつつある僕の指と、目覚めつつあるあなたの指とが、ほんの一瞬、いとしい卍を描いてからみあい、緩やかに離れてゆく。あなたの朝が好きだ。僕は夜のまま、あなたの朝をささえる黒子の生を、生きよう。

彼女は朝の、愛を実践する
僕は夜の香りに恋していた


 あとどれくらい生きていられるだろうか。胸の奥から、しんしんと問いかけが染みてくる。僕は僕の幽霊の夢を見る。鎖に縛られた塊が、魂をこじあける、これが世界、か、これが、詩、か。死、か。あまりにも過剰で野蛮で粗野で、ただ、うずうずとしている。息ができない。僕は断末魔の金魚のように声をあげる、これがコトバか、これがうた、か、これでほんとうにしあわせになれるのか?僕たちは世界を弾劾する。僕は骨のような音を立てて絵本を閉じる。これで終わりです。確かに終わりました。世界が、見えました。世界は、こっち、でした。あなたと、あなたの娘たちが、朝の世界から僕に手をさしのべてくれているのに、僕にはどうしてもそれを、受け取ることができないのだ。

彼女は、朝に、微笑む
僕は夜にウインクする


ある朝、あなたからの手紙がとどく、また別の朝、暖かい飲み物が机の上に置かれている。深夜、つめたくなった食べ物が丁寧な手紙とともにつつましくおかれている。微笑んでいるあなたは、いつにも増して冷たい目で僕を見ている。僕は息子たちと一緒に暗い目をして、朝を憎んで見せる。不健全な生活は神々への異議申し立てだ。喫煙と、コ−ヒ−の焦げる匂い、甘ったるいチェリ−なリ−ゼントとバラ色の頬。僕たちはいつになったら一人前になれるのか?僕たちはどうやったら父を超えられるのか?あなたたちはみんな僕の母のようにふるまうのだ。僕のまえで誰がほんとうに、より正しく、僕の母であるのか、女神たちの聖なるいさかいが雅やかに繰り広げられていても、低次元の世界に住まう僕たちには、うかがい知ることもできない。

彼女は朝の窓を開ける
僕は、夜の帳を、開く

あなたへ、手紙をかかなくてはならない。伝えなくてはならない。僕は今、どこにいるのか?僕は戦場にいる。僕のいるところが戦場だ、戦場になってしまう。僕はどうしようもなく、オトコ、でしかない。
あなたへの手紙を締めくくるときが来た。最後に、これだけは、伝えなくてはならない。もう心も体も限界を超えかけている。もう意識が、   途切れかけている、いそいで
ほんとうのことを言おう。僕は詩人のふりをしているが詩人ではない。一輪の虎、が
海の見える丘公園に咲いている。それが僕、かもしれない。憎むべきいとしい鳥羽に噛みついているちっぽけな虫。それが僕、かもしれない。ただ、
−おはようございます

彼女は朝のことばを話す
僕は夜の体で。

ただ、鬼のように青く、


2004/11/12 Remix 「彼女の朝」
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=263



□川村透さんって どんなひと?
詩人、のふりをしているオトコ。ただの虎、実は猪。1959年生まれ
■現代詩Forum 川村 透のPage
http://po-m.com/forum/myframe.php?hid=25
★はてなダイアリ―★sukeruのコラム
http://d.hatena.ne.jp/sukeru/
■詩集
第一詩集のオンデマンド出版(楽天市場)
『川村透詩集』〜Sukeru 詩 Source 『Blue Kid』〜
http://www.rakuten.co.jp/book-ing/402373/402374/
発行:本の風景社
販売:株式会社ブッキング
編集:現代詩フォーラム 片野晃司 氏
■代表作
ぷらちな銀魚さんの「上野詩展」のコーナーへどうぞ
http://www.janis.or.jp/users/megumi/uenosijinten_top.htm
■朗読
1.第二回詩のボクシング 三重大会チャンピオン
2.ウエノポエトリカンジャム2001出場
3.その他主催者の想いや心意気に共感してしまって断りきれない時だけ、ステージに立つ。
■NPO活動
NPO法人伊勢志摩NPOネットワークの会
事務局次長 協働コーディネート担当
http://www.po-npo-n.com/
★協働コーディネーターの職能の確立を目指すことを決意。
■お仕事
一級建築士(構造設計、耐震診断)
協働コーディネーター
■生きている意味
たったひとつの動詞を選ぶなら?
『ささえる』



□川村透さんの詩を読んでみよう

『鬼のように青く、』

 なぜ、こんなにも
 鬼のように
 空は濃く、青い
 まま
 なのか

 なぜ、こんなにも
 鬼のようにふるえる
 肉、である
 のか?

 体の芯から
 肉の底から
 こがれるように甘く
 甘く、ただ
 鬼のように
 男、
 である。

 なぜ、こんなにも
 鬼のように
 男、
 なのか



 鬼のように空は濃く青く
 そしてその青は
 曖昧な手つきで日々
 塗り込められてゆく、
 ばかり。
 塗り込められてゆく、
 ばかり。
 塗り込められて
 ゆく、

 けれど、

 鬼のように青い空の下で
 樹々はきしみ、ゆがみ
 それでも、なお
 天空を押しのけてさえ
 生えてのけるのか
 ただ
 生えてのける
 のか

 そして鬼のように濃く
 青い空の根から
 今日も
 人、ひと、ヒトからの、糸が育つや
 貴人の髪めいて
 ひとふさ、ちぎれ飛び、
 梢にからむ鬼、鳥に
 因われても
 なお
 因われても
 なお
 ひとふさ、また、ひとふさ
 生まれ、浮き
 ちぎれ、飛び
 もだえては、
 きるきると中空の風に鳴る、
 きるきると中空の風に鳴る、

 のだ。



 なぜ、こんなにも
 鬼のように
 ヒト、
 なのか

 なぜ、こんなにも
 鬼のように
 オレ、
 なのか

 なぜ、こんなにも
 鬼のように、きるきると
 甘やかに肉の底の底から
 こみ上げる、
 まま
 うずうずと走りつづける
 修羅ビトである
 のか。
 修羅ビト
 である、まま
 な
 のか。



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『川村透詩集』〜Sukeru 詩 Source 『Blue Kid』〜より

過去ログはふみばこでお読みいただけます

会員随時募集中/著作権は作者に帰属する/最終更新日 2004.11.15/サイトデザイン・芳賀梨花子