2005年06月号「そこはかとなくミステリー」茜 幸美


はじめまして。茜 幸美(あかねさちみ)と申します。
蘭の会のお仲間に入れてもらって幾星霜。ひたすら読ませてもらうばかりだった私に、突然ふって沸いたコラム執筆のお話。
以前、一体どういう順番で執筆してるのかしらと、疑問に思ったことがあったのですが、まさか自分に順番なんてまわってこないだろうとのんきにサイトを楽しませてもらっていました。
執筆者が次の人を指名する制度だということを、自分が指名されて始めて知りました。
埋没していた謎がひとつ解けたわけです。
最近よくミステリー小説を読むのですが、日常の中にもささやかなミステリーがいくつもうもれているかもしれない。そんなわけでテーマは「ミステリー」です。
とはいえ、コラムなんて今まで書いたことがありません。
さて、どうしよう。せまりくる締切。
そうだ。困ったときはまず季節の話題などから。

初夏のような雰囲気をちょっとずつかもし出しながら、過ごしやすい季節になってきました。
緑がしげり、さわやかな風も心地よく、自転車通勤の私にとっては気持ちのよい道のりです。
けれど、今年の春はしばらく肌寒い日々が続いていた北海道。
私の職場は幼稚園なのですが、園庭には芝生になっている一画があり、天気のよい日にははだしで遊んでも気持ちがよいものです。ところが、その芝生の育成も今年はちょっと遅れました。雪解けが遅かったせいもあるようで、なかなか芝生で遊べない。天気がよくても芝生に入れなくて、お外遊びはおあずけ状態。
造園業者の方によると、しっかり芝生が育つまでなるべく踏みつけない方がよいとのことで、大きな杭とロープで芝生をくぎり、しばらくは立ち入り禁止となってしまいました。
そんなわけで、お部屋やホール(体育館のような場所です)で、思い切り体を動かして、なるべく発散して遊べるように心がけていました。外であれ、お部屋の中であれ、おもいきり遊んだあとは、子ども達の気持ちも体も落ち着くもので、そのあとに絵本を読んだりすると、とても集中して見ています。
先日「おおかみと7匹のこやぎ」の絵本を読みました。
おかあさんやぎがでかけている間におおかみが来て、子やぎの兄弟たちを次々と食べてしまう…というあの有名なお話です。おおかみは、ガラガラ声で手も足も白くない。おおかみが来てもドアを決して開けないように、よーく子ども達に言いつけて、お母さんやぎはでかけていきます。
どうしてお母さんやぎは、そんなにも厳しく子ども達に言いつけたのでしょう。どうしておおかみが来るかもしれない危険な状況の中で、出かけていったのでしょう。
その謎を先に解き明かしたのは、子ども達でした。
物語にはいっさい出てこないのに、絵本の絵の中にだけ出てくる登場人(?)物がいたのです。
やぎの家の中のシーン。食器棚のかたすみに、ひとつの写真たてが描きこまれていました。
「これはだれだろう?」
「おとーさんだ!」
「おとうさんはどうしたのかな?」
「おおかみに食べられたんだよ!!」
なんともすごい発想ではありませんか。
おおかみがどれだけ怖い生き物なのか、お母さんやぎはすでに経験から知っていたのです。お父さんやぎをおおかみに食べられてしまっていたのですから!
だから幼い子ども達を留守番させて、でかけなければならなかったのですね。
絵本から読み取る力は、大人の私なんか足元にも及ばない。子ども達の観察力にはいつも脱帽です。

こんな事件もありました。
4月のとある土曜日。子ども達はお休みですが、教師は交代で土曜出勤をしています。
わりあいぽかぽかとした日だったのですが、そこは北海道。4月といえどストーブをつけなければやはりちょっと肌寒いのです。
出勤後、ストーブのスイッチを入れたのですが、全然暖かくならない。
おかしいなぁと思って、職員室の隣の部屋のストーブもつけてみるけど、ちっとも暖かくならない。
きちんと稼動しているし、エラーメッセージも出ないのです。ただひたすら、暖かくならないだけ。
そこで、原因究明に乗り出しました。ちょっとした探偵気分。
とはいえ、他に心当たりといえば、灯油のタンク。燃料がないのでは燃えるはずがない。
外にある灯油タンクを見に行くと、ほとんどからっぽ状態でした。
難事件かと思いきや即解決だなと苦笑しつつも、業者さんへ電話を入れて灯油を入れてもらいました。
がしかし、その業者さんは毎回灯油を入れにきてくれている方で、
「4日くらい前に入れにきたばっかりなんだけどなぁ」と首をかしげています。
4日前?
真冬のさなかならともかく、春先のこの時期にたった4日で空になってしまうなんてちょっとおかしい。
さっそく納品書を調べてみると、確かに4日前に入れていたのです。
再び事件の匂いがしてきました。
どこかで灯油が漏れているのか、はたまた灯油泥棒の仕業か?!
業者さんまで巻き込んで、園内をくまなく点検したのですが、どこにももれている場所がありません。
灯油が通っている管が、壁や地中に埋め込まれている箇所もあるのでその段階で全部を調べるわけにもいかなかったのですが、徐々に泥棒説が有力になってきたのです。
ならば犯人は防犯カメラにて捉えられているはず。園にある防犯カメラは、1週間分の映像を保存してあるのです。
動かぬ証拠にて一件落着! ……かと思われましたが、犯人は意外なところにひそんでおりました。
外部犯ではなかったのです。
いったいどうして灯油は消えてしまったのでしょう。
謎を解く鍵は、すでに私の目の前に提示されていました。
そう、「おおかみと七匹のこやぎ」のお父さんのように、自ら語ることなくひっそりとそこにあったのです。
一体なんだったと思いますか?
立ち入り禁止となった芝生に打ち込まれた杭が、地中の灯油の管に亀裂を作っていたのです。
謎はまさに埋没していたわけですね。
灯油が入れられた日から土曜日までの間にあった、園内での変化を省みればすぐにわかることで、名推理とはいかず、迷探偵の名をほしいままにしてしまいました。

日常の疑問は、あまりにも日常的すぎてさらりと流れていきがちですが、目を向けるとなかなかにニヤリとさせてくれるそこはかとないミステリーもあるようです。
推理小説を読まずとも、名探偵が登場せずとも、ミステリーな体験ができるものだなぁというお話。
知らないうちに埋没したミステリーはありませんか?



コラムというよりも、エッセイに近くなってしまいました。
乱文失礼。

 茜 幸美
「Colorful Box」 http://pucchi.net/sachimi/


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参考文献
「おおかみと七ひきのこやぎ」 福音館書店 
 フェリクス・ホフマン 絵
 瀬田貞二 訳



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