権平さんによる伝吉ライブレポート

「よりアンサンブル集団へ」
 6/12に本当に久々のデンジャラス・キッチン(以下伝吉)のライヴが行われた。
長い間ボーカルとギターを担当してきた小松崎氏が抜けた事により、新しく迎
えられた生井氏が、このバンドにどう溶け込んでいるのかが、今回最も興味を
持っていた点だった。最初に言ってしまうと、氏は好ましい形で伝吉のメンバーと
なったのではないか。まず演奏の中でもちゃんと声が通るのが良い。
歌詞が明瞭に客席に聞こえる分、多くの歌モノの仕上がりが良くなったし、自信
に満ちて歌う姿を見るのは観客として大変気持ちがいい。また演奏スタイルが、
変にザッパや前任者に似せようとせずに、氏の若さを率直に表した溌剌たるもの
だった事も好感が持てる。やたら煩いファン(自己批判です(笑))のついたハイ
テク・バンドの後釜だけに、実は少し心配していたのだ。

 従来からのメンバーは、半年以上のブランクをものともせず難しい演奏を生き
生きと繰り広げていく。久々に高難易度の"Moggio"を演奏したのも、現在の脂の
乗り具合を象徴する選曲に思えるし、"RDNZL"での4ビートの崩しのお遊びなど憎らしいくらいだった。今後生井氏が更に溶け込んでいけば、ますますテクニカル
な難曲を我々は生で聴く恩恵にあずかることが出来るだろう。またドラムの土屋
氏が、ちょっとパトリック・オハーンに似た美声だったことを再発見したのは個
人的に嬉しくなってしまった。もっと氏の歌声を聴きたいと切に願う。
 

 ところが、こんなに素晴らしいところを発見していながら、実を言うと私は昔
の伝吉の方が好きなのである。何故なら、今の伝吉には「黒さ」が希薄だからだ。
前任者の小松崎氏は、魅惑のバリトンボイスを持ち、自由に弾くギターソロは何
故かザッパっぽいと聴く人に思われてしまう、全く以て羨ましい特徴を自然に体
得している逸材だった。その氏と内田氏が伝吉の「黒さ」を担ってきたのだが、
今回の交代劇で、素晴らしい可能性を得た一方で今まで有していた大切なものを
残ったメンバーは維持できなかったように思えてならないのである。「黒さ」に
執着するだけがザッパの音楽を再現する術ではないし、この要素を排除しても、
ザッパの作品は楽しむべき点が尽きない懐の深いものである。だがそれには「見
せ方」と云うものがある。今回の選曲やバンドという形態を伝吉がとっている点
からも、決してこれは伝吉にとって、おざなりにしてはいけないポイントだと強
調したい。
 

 お手軽な点しか挙げられなくて恥ずかしいのだが、私なりに物足りなかったと
ころを考えてみる。まず中低音が聞こえてこない。ギター/キーボード/声で中
域以上は密度が感じられるが、それらとシンベを繋ぐ音域の音が聞こえてこない。
ザッパの声を思い出していただきたい。あのネットリしたスケベったらしい声。
あれを想起させるような音が入ると、条件反射で頭の中にあるザッパの「黒さ」
が合成されて、印象はグンと違ったものになるのではないか。名手、内田氏のボーカルの比重が少なくなったのは解せない。 "Advance Romance"はどんなことをしてでも氏がリードをとるべきだった。それに生井氏がファンキーな音を演出するアイテムであるワウ・ペダルを使いだした"RDNZL"以降はやっと安心できたが、それ
以前の曲、とりわけ 84年版の"Bamboozled By Love"では、正直に言うと、アンサ
ンブルがあまりに巧すぎるが為に「演奏だけが上滑りを起こしている」と内心冷
や冷やしながら聴いていたのだ。仮に今、伝吉にもう一人メンバーを迎えるとし
たら、ブルージーな音を紡げる人、それも現メンバーと干渉しない様に選ぶなら
ば、ホンカースタイルを嫌味にならずにこなすサックス奏者など如何なものだろ
う。伝吉は、アマチュアのアンサンブル集団としては、最早天下一品であり、下
手をするとプロを脅しかねない位置にまで着けていると思う。残るは音楽性のバ
ランスの問題だ。
 

 以上、好き勝手なことを書いてきたが、実際の所、こちらの感想を凌駕した素
晴らしい演奏をいつも伝吉は突きつけてきた。つまり最後にやっつけられるのは
いつも私の方なのである。次回の演奏を聴きに行った時、又も恐れ入りましたと
真っ赤になっているに違いない。実はそれは私にとっても嬉しいことなのだ。
 

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