Sword of Roma
by card-driven game

 いつもと趣向を変えて、共和制ローマの勃興期を扱った3つのゲームの視点の違いやカバーする範囲の違いに注目していきましょう。

 先ず取り上げるのは、GMTの新作「ソードオブローマ(以下、SOR)」です。カードドリブンのマルチの新作として注目されていましたが、プレイしてみたところ非常に面白いです。ポイントとしては、
 ●プレイアブルなカードドリブンマルチ
 ●共和制ローマの発展期の流れがとても良く分かる
 ●各勢力の個性が際立っていて面白い
という点が挙げられるでしょう。特に2番目の部分が個人的にはポイントが高いと思います。
 この時期のイタリア半島および関連するギリシャでは非常に多くの戦争が同時多発的に起こっていて、その全体の流れと言うのがどうも良く分かりませんでした。わたしが不勉強なのもあるでしょうが、全体の流れをダイナミックに掴んで説明してくれる資料があまりないような気もしています。
 塩野七生さんのローマ人の物語だと、第1巻の後半部分に当るのですが、これを読んでも同時期にあちこちで多くのことが起こっている中の一部しか見えず、特にまだイタリア中西部の一勢力でしかないローマにとっての視点だけで見ると、ギリシャとの関わりは本当に最後にならないと出て来ないので全体図がもう一つ見えません。
 ローマ人の物語の巻末年表や、関連ゲームのヒストリカルノートを参考に、以下の年表をまとめてみました。

 SORの扱う期間は、左から2列目のコラムの黄色の部分になります。
 エトルリアが末期ながら健在で、旧ギリシャ勢力はマケドニアの台頭で影が薄くなり、ガリアはローマ占領から引き上げたところからです。正にこの時期からローマはイタリアを制圧する新興勢力としての劇的な発展を始めるというタイミングです。
 そしてピュロスとの戦いを終えてルビコン川以南のイタリア半島を統一するところまでが本ゲームの終了するところになります。その後、6年で大勢力となったローマは、アフリカの大国カルタゴとシチリアを巡って争うことになるのですが、そこからの三次に渡るポエニ戦争はこのゲームのカバーする範囲ではありません。
 そういう意味では、旧勢力であるギリシャやエトルリア、バーバリアンであるサムニテやガリアがローマと拮抗するマルチプレイを展開できるマルチゲームの題材にふさわしい時期をきっちり切り出してあります。
 この切り出しの成功がゲームの成功に繋がっているでしょう。

 第二の成功要素として、諸勢力の個性付けが面白くできているところが挙げられます。
 ローマは、確固たる意思による計画性、人的資源の豊富さ、共和制による指揮官の交代に特徴付けられています。
 エトルリアは衰退勢力ですが資金が豊富で金の力でことを治めることができます、エトルリアだけでは1プレイヤー分に満たないためサムニテとセットになっています。サムニテは、中央イタリアの山岳民族でゲリラ戦的な粘り強さを持っており大決戦ではローマに勝てないものの、山岳部を根城にしぶとく抵抗し続けます。
 ギリシャは衰退したと言えどもマケドニアが東に進んだためゲーム開始時点においてはローマを上回る軍事力を持っており南部では強大です。しかし、その兵力は傭兵であり信頼性がなく獅子身中の虫に悩まされます。
 ガリアは、計画性のなさ、野放図な故の行動力、他のプレイヤーと異なり略奪で得点を得られるという強烈な個性を持っており、北部を蹂躙します。
 ベースシステムがシンプルに抑えられていることもあり、こうした個性を彩るルールが適切に散りばめられていることはプレイを面白くしていますが、プレイアビリティを極端に下げたりはしていません。
 こうした個性を描くためにも4勢力はそれぞれ固有のデックを持つカードドリブンになっているのですが、これも成功要因でしょう。各勢力の特殊なイベントが盛り込めたと同時に、良いカードを他人に引かれると利害得失でバランスが傾く難点がありません。自分の専用デックですからマネージメントしていけば悪いときがあれば良いときも来るわけです。

Repubric of Roma
by multi-player cooperative cardgame

●ローマ内部の勢力抗争のマルチカードゲーム
●ローマの内部事情をひしひしと感じさせてくれる

 AHの「共和制ローマ」は、かなりの異色作です。マルチのカードゲームなのですが、プレイヤーは全員がローマの有力勢力なのです。プレイヤーは全体としてイベントカードの外敵と戦っていますが、同時にローマ内部での勢力争いをしています。
 うっかり足を引っ張り合っているとローマ全体が崩壊してしまうと言う危うい橋を渡りながらも、呉越同舟、互いの首を狙っているのです。
 ローマの内側の視点のゲームという意味で、塩野七生の「ローマ人の物語」に一番近いのはこのゲームだと思います。
 ソロプレイ1回、マルチプレイ1回をTACTICS誌の和訳掲載当時にやったことがあるだけで、10年以上も前の話しになります。
 烏鷺覚えではあるのですが、非常にバランスが厳しく、ちょっといがみあっていると外敵が処理しきれずにたまってしまってローマが崩壊してしまいます。止むを得ないので強い指揮官を差し向けて応援して処理するのですが、彼が帰国すると圧倒的な人気でローマ国内での勢力争いでは目障りになります。そうすると次の戦争に行かせてローマから出してしまうとか、あるいは適当な戦争がないと暗殺してしまおうか‥というような話しになってくるわけです。
 このゲームをプレイすると、四度も凱旋式を挙行しながら執政官には一度も選ばれなかったカミルスのような存在が、ひしひしと理解されてきます。
 このゲームの扱う範囲は、年表の左から3番目のコラムで、第一次ポエニ戦争から始まっています。ですから、カミルスは出てきません。そして、共和制が事実上終了したカエサルの終身独裁官任命の年で終わることになります。
 ローマの内部事情を痛感させてくれるという意味では右に出るもののないゲームでしょう。
 しかし、抽象的なカードゲームでローマ内部視点なので、この時代の周辺勢力も含めた諸勢力のダイナミズムを見て取るという訳には行きません。

Rise of Roman Repubric

●ヘクスウォーゲームで個々の戦役にフォーカス
●イタリア半島全体を扱うマップでいながら戦術色もあり、それでもプレイアブル

 このゲームについては以前にRise of Roman Republicに書いたので、今回は他作品との比較でごく簡単に。
 このゲームは古代戦版オイロパシリーズになるのではないかとも言われるGMTのアンシェントワールドの第一作です。カバーする範囲は個々のシナリオごとになるのですが、大雑把には三次のサムニテ戦争全体を扱うシナリオと、その直後のピュロスとの戦いを足したくらいです。これに練習シナリオで第二次ポエニ戦争のハンニバルの侵入が加わると言う形になります。年表の4コラム目になります。
 このシリーズは、ヘクスウォーゲームのレベルで古代戦のキャンペーンを個々に詳述し、その総和として古代史全体を俯瞰しようと言うのです。当然ながら全体としてのプレイアビリティなど想像するだけ野暮と言うものです。
 とは言え同じシステム、同じスケールで古代戦の世界全体が記述され、連結や比較ができるようになるとすれば、それはそれで非常に興味深いことだと思います。その意味でこのシリーズに期待している人が多いのは肯けるところです。
 ただ、現在の刊行ペースからすると、本当にどこまでやれるのかは「?」ですし、バーグの最近の作品に多いのですがルールの記述が甘く、出版後にインターネット上でのディスカッションを踏まえてエラータが増殖していくという展開となっており、時間や空間の制約のある日本のサラリーマンに付き合えるかどうかは考えさせられてしまう部分もあります。

 とは言え、SORをプレイしてみると全局が見えてくるので、その理解の上にRRRの個々のシナリオをプレイするとまた違った知見が見えてくるのではないかという気がします。次回作の「カルタゴ」では第一次ポエニ戦争が扱われることになり、これも期待させるものがあります。



 今回は共和制ローマの勃興期ということで3つのゲームを扱いましたが、SORの直後にはポエニ戦争というビッグテーマがあり、共和制の後半はカエサルのガリア戦記も含まれ、これらもまた興味深い作品がいくつかあります。
 また、共和制ローマの前半期にも並行してマケドニアのアレクサンダーの遠征が行われ、さらにディアドコイ戦争が起こっており、こちらもまた古代戦のビッグテーマです。
 古代戦の個々のバトルを扱うGBOHシリーズにもこの時代の会戦が少なからず扱われています。また、このシリーズ以外にも個々の会戦を扱ったゲームが少なからずあります。
 共和制ローマとその時代は古代戦の中でももっとも興味深い時代だと思います。