このページは、古代戦ゲームの面白さに目覚めた筆者が、資料とゲームで学習したことをまとめたものです。
筆者は古代戦はもちろん軍事技術についても門外漢ですので、頓珍漢なところなどありましたら、心優しくご指摘いただけるとありがたいです。


Rise of the Roman
Republic


by ancient world


with History of the art of War


ハンス・デルブリュック「History of the art of War」の英語版(Bison book 1990)の第1巻、第4章「Ancient Roma」となっている。

第3節「Roman Drills, Campcraft, and Discipline」から筆者が理解したところでは、ローマの強さについて以下のように記述されている。

「ファランクスには訓練が必要である。とりわけマニピュラーファランクス、そして訓練が好きなローマ人とあればなおさらである。マニピュラーファランクスでは前列の空隙を後列が埋めることが重要で、行軍ではインターバルを維持することが重要である。しかし実際の行軍は容易ではなく、スタンダードの前進によって方向が明示されるのは良いとして、真の試練はハスターテの空隙にプリンキペがタイミング良く踊りだせるかどうかにある。同様にトリアリイが前に出る必要も生じるのでその訓練もあったに違いない。

キャンプについてもギリシャとローマは異なっている。ギリシャではキャンプのことをほとんど聞かない。アレクサンドロスでさえ特別なとき以外は防御されたキャンプを設営していなかったようだ。キャンプ準備の手間を掛けるより、ギリシャ人は天然の地形を利用していた。ローマはこれと異なり古代からキャンプを形成する原則を持っていて柵のある塁壁を作っていた。ローマ軍はいつもそのための装備を持参しており、ギリシャ軍より長い作戦行動に耐えられた。イタリアの統一はこの要素によって可能になった。

キャンプでは各ユニット、各個人の位置が決まっており、全体は四角で中央に司令官テントがあり、通路が明示されダイレクション表示まであった。このため、緊急時も混乱しなくて済んだ。キャンプは勝者の休息所であり、敗者の避難所であり、そして戦地にあって兵士たちの家であった。
キャンプのための資機材を運んでいたローマ人は偉大である。ギリシャのホプリテスは従者がいたが、ローマのホプリテスは5人に付き二人の従者しかおらず、武装に加えて資機材を運んでいたのだ。ローマ人がイタリアの勝者となった理由として、「勇気、労働、武器」の3つがあるというが、その2番目はこのような部分でも発揮されていた。

ギリシャとローマの差は軍規に起因する。アテネでは軍事罰はほとんど問われず、戦後に裁判されることがある程度だった。指揮官の命令はしばしば反発された。理由はリーダーが必ずしも戦術を理解しておらず、またスキルが自分より低いものに従うことを良しとしない気風があったからである。
スパルタの権威重視と団結は有名だが、よく見ると教育的なものであって軍事システムというわけではない。また指揮権は世襲制の王に帰属し、その権限はスパルタでは限られていた。スパルタでも王に対して反論し、その場で罰せられなかった事例もある。
ギリシャ傭兵が出てきたときには、全く異なる軍規が生まれた。クセノフォンは部下が敵よりも彼を恐れるようにしていた。
マケドニアでは強い王の下、良い軍規が普及した。傭兵に依存したディアドコイの時代も必要により軍規は厳しかった。結局、ギリシャ人は本当の軍規を学ぶことはなかった。ローマのキャンプの雰囲気はギリシャ軍にはついになかったのである。

命令権は王から二人のコンスルに移ったが軍規は守られ、6人のリクターが即時執行官として歩き回った。ローマ軍では最初から、給与、サービス、命令などがきちんと管理され、そのための書記が軍にいた。持ち場を外したり眠っていたものは翌日には裁かれた。護民官が杖に触れ有罪となると人々は石を投げ始め、運良く投石から逃れられても故郷へは帰ることはできなかった。部隊全体が有罪の場合は10人ごとに1人が処刑されるデシメーションが実施された。コンスル・マンリウスは不服従の罪で息子の首を切り落とした。命令違反して勝利したファビウスが裁かれたとき、父である有力者が嘆願を行ったがローマ法廷はこれを退けたばかりか、逆にその父をも訴追したのである。
ギリシャではこうしたことは考えられず、等しい参政権を持つローマの機構的な強さを感じさせる。これがローマの軍規の源であり、その果実がマニピュラー戦術であり、要塞化されたキャンプなのである。



「RRR」こと「Rise of the Roman Rrepublic」はGMTの話題の新作で、同じスケール、システムで古代戦の広い範囲をカバーしようという「The Ancient World」シリーズの第1作です。リチャード・バーグのデザインということもあって、その完成度やルールの読みやすさには不安を感じましたが、アイテムとしては非常に面白そうなところで期待も大きいものがありました。

今回、その初プレイということになり、練習編の「Thunderbolt : Hannibal's invasion of Italy 218-216 BC」と、いちばん大きな「The Eagle has landed : The invasion of Pyrrhus, king of Epirus 280 BC」をそれぞれ冒頭部分プレイしてシナリオの概要とゲームの仕組みを確認しました。

RRR全体の現時点での感想

ポイントとしては、
●プレイアブルなキャンペーン級古代ローマ戦ゲームとして合格点
●戦闘が煩雑で書き方が悪いが実際プレイすると大変ではない
●スタック数が少ないこともあって比較的プレイアブルに進みそう
●ルールの細かい不明点は多く、その確認作業に時間を取られる

と言ったところでしょうか。
ゲームシステム的には大きな仕組みとしてはチット引きとコンティニューエションの組み合わせで、往年のドルイド系システムの進化した末裔と言った印象を受けます。古代戦のキャンペーン級のゲームシステムとしては、往年の名作の血を引いていて古代戦のこのクラスをいろいろプレイしてきた人であれば違和感なく入れると思います。

スケールの割には戦闘ルールまわりは非常に要素が多くルールの分量が多くなっています。実際には手順を整理してチャートを順に参照すればそれほど大変な訳ではなく、知っている人に手にとって教えてもらえば理解は容易だと思います。ただ、自分でルールを読解するとなると書き方の要領が良くなく、エラータも少なくないのでちょっと辛く感じるかも知れません。

個々のシナリオでは重要な大部隊は各軍で数個程度に限られます。チットで動かせるスタックが決まってしまうと、あとは勝利条件からやることの指針も決まってくるのでプレイ自体は難しくなく、むしろサクサクと進みます。ルールの不明点の確認作業に時間を取られさえしなければ、いちばん大きなピュロスのシナリオでも普通のゲーム会の一日でプレイできるのではないかと思います。

ただ、懸念していた通りルールの書き方は良くなく、エラータも多いので、そこは辛抱して付き合う必要はあります。とは言ってもできないほどひどい訳ではなく、古代戦好き同士であれば合議で問題を解消できることも多いかと思うので、あまり敬遠する必要もないかと思います。

「Thunderbolt : Hannibal's invasion of Italy 218-216 BC」

ポイントとしては、
●ハンニバルの力量が圧倒的
●緒戦でローマにハードパンチが連発で入るかどうかがカギ
●ローマが回避できるかどうかはチット引きの僥倖次第
●一旦ローマが分散するとカルタゴも分散して違う展開になるのか?

このシナリオは3年間で、1ターン1年であることからたった3ターンしかなく、しかも1ターン目はハンニバルはアルプス越えにチットを既に使ったことになって始まるので実質カルタゴは2ターン半でローマの過半を制圧しなければなりません。
しかし、ハンニバルの力量は圧倒的で、のこのこ北部に迎撃に出てきたローマ軍主力を緒戦で撃破できれば後は押せ押せの展開になってしまうようです。
ローマ軍としては主戦力でまともに殴り合ってはカルタゴの効率が良くなるばかりなので分散してみたいのではないかと思いました。とは言え、これはチットとコンティニュエーション次第なので思ってもできないときはできない作戦です。その意味でローマとしては成す術がない部分もあるような気がして、基本的には練習シナリオなのかなと感じました。

「The Eagle has landed : The invasion of Pyrrhus, king of Epirus 280 BC」

ポイントとしては、
●ピュロスは強いがハンニバルのような圧倒的な力はない
●ピュロスの同盟者タレンティンの日和見、シチリアの情勢など政治要素が重要
●サドンデスで勝つとすればピュロスはやはりローマ進撃か?

このシナリオは10年間のシナリオで開始時に中立のシラクサとカルタゴも含めて、構図がかなり大きくなっています。基本的には南端に上陸したピュロスがローマに進撃するのが本線で、政治的な状況によって他の選択肢も睨みながら進んでいくのかと思いました。
今回は最初のターンでAuguryイベントでシチリア半島の情勢が決まり、ローマ&カルタゴ 対 ピュロス&シラクサに構図が定まってしまいました。そのため外交ルールの実際の運用は次回以降の課題として積み残しになりました。
ピュロスは日和見タレンティンの全面的な協力を引き出すために大きな戦果が必要で、このためにカプアを攻城戦で落としました。対するローマはこれを二部隊合流して反撃し、ほぼ互角(わずかにピュロス有利)に戦って見せました。動員力ではローマが勝ると思われるので続けていくとローマが落ちそうで落ちずにピュロスが疲弊していくのではないかという懸念が感じられました。

いずれにしても開戦1年目しかプレイできなかったので、またやってみたいと思います。
このシナリオは前のサンダーボルトと異なって選択肢もあり、プレイヤーのスキルや考え方が出そうで面白そうです。