ペンタンタスター
Pentantastar / Adventure Game
ショートコメント
●指輪物語を髣髴とさせる光と影の二大勢力が魔法のクエストと武力衝突で競い合う意外な本格ファンタジーウォーゲーム
Straight Fantasy-wargame in which light side and dark side fight in both magical quest and military situation.
published designed players time
1983 David, Alexandra and Kit Megarry 2 3 hours
意外な正統派ファンタジーウォーゲーム
 「人は見掛けによらない」というように「ゲームも見かけによらない」という事例がときとしてあります。
 鳴り物入りの広告をして登場した有名メーカーのゴージャスコンポのゲームが、案に相違して(?)全然つまらなかったり、逆にひっそりと発売されたチープなコンポーネントのマイナーメーカーの作品が意外なほど面白かったり‥。
 SFゲームにおける後者のもっとも顕著な例は、サンダーヘブンゲームズの「レッドクリスマス」でしょう。最近はそれなりに知名度が上がってきたかも知れませんが。
 そのファンタジー版と言えるのが、このアドベンチャーゲームズの「ペンタンタスター」かも知れません。
 アドベンチャーゲームズは、比較的日本でも知名度のあるゲームとしては、「レールズスルーザロッキー」という鉄道ゲームを出していました。
 この「ペンタンタスター」は、1983年の発売で、右の画像のようなボックスアートで発売されました。見たところ荒野を旅する一行が狼に襲われているところとしか見えず、これだけを見て、中身が指輪戦争並みの本格派ファンタジーウォーゲームだと思う人はまずいないでしょう。
 しかし、意外なことに「ペンタンタスター」は、本格派のファンタジーウォーゲームで、あの指輪戦争を髣髴とさせる(ちょっと誉めすぎかも知れません)本格派なのです。
 しかも、ウォーゲームとしても非常に斬新なシステムを持っていて、カードドリブンの始祖とも呼べる要素を持っています。
 右の画像がカードの一例です。
 デックは黄色のイースト陣営と赤のウェスト陣営に分かれていて、最新のカードドリブン同様に専用デックになっていることで、ドローの公平性が保証され、計画的な運用もできるようになっています。
 左は人類、エルフ、ドワーフとともに肩を並べて戦うイーグルです。飛行ユニットは相手の退路を断つ上で重要な存在です。
関連ゲーム
●ドラゴンパス
●ディヴァインライト
ウォーオブザリング
●ソーズアンドソーサリー
オリジナルの詳細な設定
 「ペンタンタスター」の箱を開けると2冊の冊子が入っています。
 1冊はルールブックです。ルールの分量は80年代前半ですからそれほど多くはありません。A4の2段組で正味7ページと言ったところです。もう一冊の冊子が「ペンタンタスターの物語」です。こちらはルールブックよりも多い正味8ページです。オリジナルの設定に非常に力を入れていることが判ります。
 物語編は冒頭しか読んでいないのですが、プロローグとしてはかつての5人の古き大魔法使いのことが語られています。この世界の西方に位置するルグ・バローアには誰も姿を見たことのない恐るべき存在、アーコンが巣食っているのです。東方に住む人間、エルフ、ドワーフたちは、5人の古き大魔法使いたちの時代から西方と戦い続けてきました。その戦いは一進一退でしたが、アーコンが呪われた盲目の毒蛇、ヴォートを戦場に投入したことでバランスが崩れてしまいました。
 いまや秩序の版図は侵食され、人々の平和は脅かされています。人々は版図を守るために戦い続けると同時に、古の5大魔法使いのチャームを集め、その力を結集してルグ・バローアの本拠を討つことを目指します。
先進的なゲームシステム
 「ペンタンタスター」は、設定だけでなくゲームシステム的にも力作です。
 特に2つの大きな試みがなされています。この2つは連携して機能しているので、順を追って説明していきましょう。
 ゲームは基本的には魔法ターンと、移動/戦闘からなる軍事ターンとで進みます。魔法ターンでは、両軍の魔力を比較し、魔力に勝る側が古の魔法使いの力を探す旅のイニシアチブを握ります。両陣営のクエストの一行は互いに競い合って並行して進んでおり、次にどの地に赴いてどの魔力を見出すかは毎ターンの魔力の勝る側が決めていくのです。
 移動/戦闘は通常のウォーゲームと同じように進められますが、他のファンタジーゲームでも見られるように最初に盤上に展開している勢力は両軍の一部でしかありません。カードプレイによって召還していくことで兵力を増強していくのです。
 このときに使用するカードが曲者で、カードはスプリットになっていて、臨時の魔力として使用することと、部隊の召還に使うことができますが、どちらか一方しか選べません。
 また、カードによってはプレイに影響を与えるイベントとして使えるものもあり、つまりは近年のカードドリブンと同じ構造になっているのです。ただし、1ターンに使用できるカードは1枚だけなので、毎ターン、手札を応酬して進行する近年のカードドリブンほどには「カード駆動」ではありません。
 しかし、このカードプレイは極めて重要な役割を担っており、たった1枚しか使用できないだけに、どれを使っていくかで戦略の大きな選択をすることになります。
 カードデックはリシャッフルするのですが、ゲームを収束させる大きな仕組として、召還カードは最初の一回りでしか使えません。二順目以降は魔力としてしか使えないのです。これによって部隊の総枠が決まってしまい、部隊消耗によって局面は収束するようになっています。
 もう一つのこのゲームの斬新なシステムは、戦闘解決に一切、ダイスを使用しないことです。攻撃は目標とする防御エリアの防御戦力を上回っていれば成功、下回っていると不成立という単純で一刀両断なシステムになっています。防御効果のある地形では防御力が加えられます。防御側は敗れると後退しなければならず、後退できないと全滅になります。
 さらに、このゲームではプレイ中に相手のユニットを見てよいことになっているので、戦力を数えるとどこでどう攻撃すると勝てるのかが明確です。ある地域で彼我の戦力差が開くと、そこは押される一方になります。だからこそ増援が重要で、これによってどの地域を増強するかで進行が左右されるのです。
 また、戦闘が明示的でデジタルなだけに、これを左右することのできるカードイベントは相手の目論見を打ち崩すものとして大きなインパクトを持っています。
 このため、たった1枚しか使わないカードが、毎ターン、極めて重要な意思決定になるのです。この重みは、まさにカードドリブンの感覚に近いでしょう。
 次はイースト陣営で比較的容易に召還できる魔法的な存在であるリトです。リトは一旦召還すると定常的な魔力源となるので非常に重要です。
 その次はトロールです。トロール自体はそこそこ強力ですがユニット数が少ないのでそれほど決定的な存在ではありません。しかし、彼らのもっとも重要な点はヴォートを操って移動させることができる点です。最後が毒蛇ヴォートです。ヴォートによる攻撃は戦力に関わらず必ず相手を後退させ、逆に攻撃されたときには相手に必ず消耗を強います。
 このヴォートの存在が狂言回しになって、どちらかと言えばステイルメイトになりやすい戦闘システムを動かしていきます。その一方で、ヴォートは火の魔法が発見された段階で火山が活動に入ると一掃されてしまいます。このため、魔法のクエストの動静と戦況が連動して考えねばならないものになっています。この他にもいくつもの綾があり、ゲームをいかにもファンタジーらしく彩っています。
ファイナル・コメント
 やってみなければわからないもので、この「ペンタンタスター」は意外な掘出物でした。
 独創性のあるファンタジーウォーゲームという点では、かなり高く評価できると思います。
 また、カードドリブンの醍醐味を先取りしていたと言う点で、ゲームシステムの進化史の中でも再発掘されるべき作品だと思います。
 逆に言えば、このゲームが過去にあったのであれば、マーク・ハーマンの「ウィーザピープル」によるカードドリブンの創造は過大評価されすぎかも知れません。
 一方、難点もあります。
 最たるものは、低速の歩兵やヴォートなどの移動力が1しかないために戦線の移動速度が遅いことです。これにミスが言い訳のできないデジタルで決定論的な戦闘システムが、長考に導きがちです。実際に終わりまでプレイしていないのでなんとも言えませんが、プレイ時間は見掛け以上に長くなりそうです。