ツァヴァンドルの王笏
Das Zepter von Zavandor / Lookout Games
ショートコメント
●幻の名作「アウトポスト」が競技性と戦略性を増してリメイクされた、2004クリスマス商戦の話題作
Famous but rareseen game "Outpos" is back as magic learning game with more competetive and starategic system.
published designed players time
2004 Jens Droegemueller 2-6 2-4 hours
名作「アウトポスト」の進化形
 ティムジム/プリズムのデビュー作にして宇宙植民地開発ゲームの傑作「アウトポスト」については以前に紹介しました。このゲームは素晴らしいゲームでしたが、早々に入手困難になってしまい幻の名作リスト入りしてしまっていました。
 2004年のクリスマス商戦に、この「アウトポスト」が装いも全く新たにリメイクされるという嬉しい情報が飛び込んできました。それがこの「ツァヴァンドルの王笏」です。
 モチーフは宇宙植民地の開発から、魔法の習得と研究に変更され、ゲームシステムにも様々な追加や工夫がされています。
 けれども「アウトポスト」をプレイしたことがあれば、「ツァヴァンドル」をプレイすると、「ああ、なるほど‥(^o^)」と思うことでしょう。オリジナルゲームの醍醐味を上手に生かして新しい時代のゲームシステムの進化を取り入れた良いリメイク作品だと思います。

 ゲームは、様々な種族/職業の魔法を習得しようとする立場でプレイをスタートします。この世界では宝石を魔方陣に置いて活性化することで魔力を取り出すことができます。
 この魔力を用いてさらなる宝石や、様々な能力を持つアーティファクトを購入したり、魔法の基礎知識を身につけたり、自らのステイタスを高める守護者を入手したりすることができます。
 ゲームは11種類ある守護者の内、5種類が獲得されたターンの終了時までプレイされ、その時点で勝利得点が最大のプレイヤーが勝利します。
ファイナル・コメント
 「ツァヴァンドル」での大きな改善点として、トップ独走が起こりにくくなったという点があります。
 基本的に拡大再生産型の経済ゲームですから、上手く雪だるまが転がりだしたプレイヤーが、それをどんどん大きくして勝ちやすくなっています。「アウトポスト」ではこの点を阻む要素がありませんでした。
 「ツァヴァンドル」では勝利得点順に順位を毎ターン決定して、上位になると入札時に追加徴集を、下位になると逆に値引きを受けるようになっています。これは分かりやすい防衛策で十分に機能していると思います。

 以上のように全体として見てオリジナルの醍醐味を生かして、新しい時代のゲームデザイン技術を導入して戦略性と競技性を増した素晴らしいリメイクだと思います。
 ただし、多少の難点もあります。
 まず、要素が増えて戦略性が増したので、敷居は確実に高くなりました。ゲーマーでない人は、説明段階でどうして良いのか諸要素を消化しきれないと思います。
 あと個人的な好みの問題もあるかも知れませんが、「魔法」という神秘の体系を極めようとするゲームとしては、あまりに金勘定がせちがらい気がします。その意味では植民地建設というオリジナルのモチーフの方がシステムにマッチングしていたと思います。
関連ゲーム
アウトポスト
●マジック・ザ・ギャザリング
●ウィズウォー
4つの投資対象と「アウトポスト」との違い
 このゲームを俯瞰するには上述した4つの投資対象の違いを説明するのが良いでしょう。
 また、そこから「アウトポスト」からの変更点を分析することができます。
@宝石:宝石はこのゲームの通貨にあたる魔力を生み出すゲームのキャッシュフローの基盤となる要素です。新しい宝石を買うことで、毎ターンの基本収入が増えることになります。宝石には、種類と、持つことの出来る上限個数があります。種類は、ゲームで最初から買えるオパールとサファイアから始まって、より高価でより多くの収入を生むエメラルド、ダイアモンド、ルビーの5種類があります。ただし、後の3種類を手に入れられるようになるには特別な段取りが必要になります。入手する資格さえあれば宝石はいつでも買うことができ、また半額で売ることもできます。
Aアーティファクト:特殊な能力を持つ魔法の道具です。これはカードデックになっていますが、その内のプレイヤーの人数分だけが公開されていて入札によって買い付けることができます。能力は様々ですが、重要なものとしてエメラルドを買う資格をもたらす呪文書、ダイアモンドを買う資格をもたらすエリクシア、宝石の数の上限を増やす魔法のベルトと魔法の杖、大きな勝利得点をもたらすタリスマンなどがあります。アーティファクトは効果が重要ですが、同時に勝利得点にもなります。また、さらに別のものを購入する際のクーポンとして働くものもあります。
B魔法の基礎知識:6つの知識体系があり、これらは基本的にゲーム中に誰でも好きなものを身につけていくことができます。ただし、大きな制限として1ターンには1つの知識だけを1レベルだけを身につけることができます。このため、急に方向転換したりすることができません。また、プレイヤーの最初の設定によっていずれかの知識のレベル1を持っており、これによってプレイの方向性が与えられています。どの知識でも身につけられますが、全く新しい知識を学ぶための初期投資が大きくなっており、絞り込んだ体系を深く学ぶように動機付けられています。
C守護者:ゲーム終了時に大きな勝利得点を与えるものです。11種類が1つずつ用意されており、特定の宝石を持つことでボーナスが与えられたり、特定のアーティファクトを持つことでボーナスが与えられたりします。プレイヤーのプレイ中の指針によって噛合う守護者を持つことで大きな勝利得点が得られます。逆に言えば、そうなるようにプレイ指針を持ち込むことも必要です。問題は1種類1枚ずつしかないので早い者勝ちだと言うことです。ゲーム中もっとも高価で、勝利得点は生みますがプレイ中のキャッシュフローなどは改善しないので、終盤どこのタイミングで購入していくかが問題になります。
 画像はアーティファクトですが、左から順にエメラルドを購入する能力を与えてくれる呪文書、手持ちの宝石の上限を2個増やす魔法のベルト、エメラルドが1個埋め込まれている護身の水晶、ダイアモンドを購入する能力を与えてくれるエリクシア、守護者を買うときのクーポンとして働く仮面、勝利得点8とボーナスの知識2レベル分を与えてくれるタリスマンです。左上の数字が最低入札価格で、右下の数字は勝利得点です。

 「アウトポスト」と比較すると、宝石=工場、アーティファクト=技術革新カードという構造になっています。
 「アウトポスト」ではこの2種類をどんどん進化して登っていくというイメージでした。
 これに対して「ツァヴァンドル」では、宝石の種類が5種類に限られている代わりに、新しい要素として知識と守護者が加わりました。
 知識は全てのプレイヤーに機会が常に開かれているという点でアーティファクトのもたらす特殊能力とは少し趣を異にしています。特にもっとも効果で多くのエネルギーを生み出す宝石であるルビーを入手するための炎の知識があるのがゲーム展開上は重要です。呪文書とエリクシアをオークションで買い損ねても、高価でしかも時間が掛かる(1レベルずつしか上げられないため)けれども、第3の手段が常に全員に残されている訳です。
 守護者の存在も重要です。「アウトポスト」では高レベルの技術革新カードが、そのまま最高レベルの工場を与えてくれると同時に勝利得点も与えてくれたのに対して、「ツァヴァンドル」ではゲーム中のキャッシュフローの改善と勝利得点は別々に考えなければならなくなっています。ただし、両者には守護者の能力による密接な関連がある訳です。
 全体として「アウトポスト」に比べると、ゲームの選択肢が増えて戦略性が増しています。
 その一方で、「アウトポスト」では終盤になると手札が大量になってきて、その管理や計算が面倒になると言う問題がありました。この点は「ツァヴァンドル」では同じ宝石4枚分のカードの代わりに額面が大きくて丁度の数字になっている高集積エネルギーカードを取るようになっていて改善されています。
 こうした工夫があるので、いたずらに複雑になったと言う印象はなく、プレイしやすさは十分に維持されていると思います。