ヒトラーズウォー
Hitler's War / Avalonhill
ショートコメント
●第二次欧州大戦を技術開発のイフまで入れてハーフマップでプレイする野心的なコンパクトビッグゲーム
●大爆撃機編隊でロンドンを空襲してイギリスを降伏に追い込む夢も、アメリカを大西洋で艦隊戦で打ち破ることも夢ではない?
Compact big-game which covers all the Euro front of WW2 including R&D.
Now it is not only a dream that bombing London by gigantic bomber squadron or beat the US naby on the Atlantic ocean.
published designed players time
1984 K. Gross 2-4 4-8 hours
ヒトラーの野望、兵器マニアの妄想
 「ヒトラーズウォー」の元は、1981年にメタゲーミングのメタヒストリーのシリーズとして出た同題のームです。これをアヴァロンヒルがデベロップしなおして1984年に発売したものが、このアヴァロンヒル版の「ヒトラーズウォー」です。
 どこがどうのように変わっているかはオリジナルを見たことがないのでわかりませんが、恐らくメタのシリーズであればこんなに長文のルールブックも、ボード上に描かれた種々のチャートやプレイエイドのシートなどもこうは揃っていなかったのではないかと思います。
 ただ、メタゲーミングの作品をアヴァロンヒルがデベロップして再発売したと言うことは、このゲームの掴みが多くのウォーゲーマーの心をしっかりと捉えたからに違いありません。
 「ヒトラーズウォー」は、第二次欧州大戦の全貌をハーフマップでプレイすることのできる戦略級のゲームです。これと近い内容のものとしては、アヴァロンヒルには既に定評があった「第3帝国」がありました。
 けれども、「ヒトラーズウォー」には、決定的に違う部分があります。それは、R&Dの要素です。
 具体的にはゲームに登場する様々な兵科は、その技術レベルごとのコストが違っており、技術が進むほど安く作れるようになります。
 たとえば装甲戦力は、技術レベル0では6コストですが、技術が1に上がるとコストは4に下がります。2に上がれば3に、さらに3に上がると2になります。
 ゲームは、ドイツ陣営、ソビエト陣営、西側陣営に分かれていますが、このそれぞれの陣営ごとにR&Dがあり、各陣営の各種の兵科がどのくらいのコストで作れるかはプレイエイドに一覧で示されます。
ファイナル・コメント
 実際にプレイすると、様々なアンヒストリカルなことが起こり、まさにオルタネートヒストリーもののSFゲームのようです。
 特にR&Dのところで、意図的に歴史と逸脱した自分の好みの方向へゲーム展開を持っていくことができるのが、このゲームならではの魅力でしょう。
 ドイツはゼーレーベもできれば、ロンドン大空襲もできます。V2に核弾頭を付けて次々と打ち込むことさえできるのです。
 こうした展開は序盤で攻勢であるドイツがリードしており、その意味でタイトルの通りまさに「ヒトラーの戦争」のゲームです。
 これがメタゲーミングの着想に、さらに定評あるアヴァロンヒルのデベロップメントで磨き上げられて発売されたのですから、歴史的な作品と言って良いと思います。
 ただ、「サードライヒ」ほどには日本での世評は高くありません。さらに、日本では「ヒトラー帝国の興亡」というR&Dこそないもののやはりプレイアブルな欧州大戦ゲームが出たこともあって、今となってはこのゲームは忘れられつつあるようで残念です。
 余談になりますが、こうした開発や部隊購入のマネージメント部分での選択肢を組み合わせたウォーゲームというのはメタゲーミングの持ち味でした。
 戦略級で成功したものとしては、SFゲームでは「エアイーターの侵略」があります。戦術級では、メタゲーミングの記念碑的作品である「オーガ」があります。
関連ゲーム
●ヒトラー帝国の興亡
エアイーターの侵略
●オーガ
●アイスウォー
 作ることのできる兵科はバラエティに富んでいます。それぞれゲームの中での役割が異なっており、どんな戦略を立て、そのために必要などんな兵科を積極的に開発していくかはプレイヤーの自由なプランに任されています。このため、プレイヤーの作戦によっては史実とは大きく逸脱した勢力の個性付けができあがり、それによって夢のような(悪夢のような)展開が起こることもありえます。たとえば、大爆撃機編隊を作り上げたドイツ軍が、ロンドンの恐怖爆撃に成功してしまうというようなこともあり得るのです。
 このゲームに出てくる兵科と、その役割を紹介して見ましょう。
●歩兵:技術レベル0でコスト3で作れる戦力の基本です。技術レベルを上げるごとに1ずつ安くなり、技術2でコスト1になります。
●装甲:歩兵は1ターンに1マスずつしか前進できませんが、装甲は大突破を可能にします。コストは上述した通りです。
●戦術空軍:スタック制限を越えた戦力の集中ができ、ファーストファイアーできます。コストは意外に安く、技術レベル0で4、順次下がって最後は1になります。
パラシュート:空挺降下部隊です。1ターンに1回ここぞというヘクスへの進撃で成功率を大きく上げてくれます。訓練が大変なようで開発でコストがほとんど低下しません。技術0で6、技術1止まりで5コストです。
●上陸部隊:1回だけ上陸の特殊戦で使用すると歩兵になってしまう部隊です。上陸では必須です。技術0で6は空挺と同じですが、開発して上陸支援装備を充実することができるようで最終的には技術3でコスト2まで下がります。D−DAYに向けてちゃくちゃくと準備されることでしょう。
●要塞:要塞は防御効果を増します。コストは不変の5です。
●Uボート:連合軍の輸送部隊を襲って西側のロジスティクスを苦しめます。初期コスト6ですが、開発するとどんどん安くなり、最後は技術4で1になります。
●ASW:Uボート対策です。技術0でコスト8です。Uボートより高価ですが一方的にUボートを消耗させていくので、最後にはUボートを駆逐することでしょう。それまでにどれだけの損害を受けてしまうかが問題です。
●主力艦:敵の海上移動に対するリスクとして立ちはだかります。コストは高いですが消耗しにくく、制海権は容易に奪回されません。技術0で11、最後は5まで下げられるのですが、ここに開発費を投じられるかどうか。
●爆撃機:技術0では作れず、対戦開始後に開発されて登場します。意外に開発速度が早く技術3でコスト3になるので、ドイツ爆撃機編隊はヒトラーの妄想ではなく実は有力です。
●対空砲:対空砲は技術0ではコスト8、開発効果が最初は薄いのが特徴であるところから急速に下がり、最後は1/3まで行ってしまうという独特の開発曲線を持ちます。これがゲームでは曲者で爆撃機の開発と絡んでロンドン制空権の問題となるでしょう。
●護衛機:対空砲に対する対抗手段ですが対空砲より開発速度が遅く使いにくいところです。 
●ミサイル:色物のようですが、このゲームならではでしょう。技術3までは基礎技術開発でユニットを作れません。ところが技術4になるといきなりコスト3で登場するので、成功すれば一気に局面が変わるかも知れません。わたしはまだ実物を見たことがありません。
●原子爆弾:ミサイルよりさらに遅く実に技術5まで基礎技術です。ところが技術6ではコスト2で登場するので、成功すると大変なことになるのは必至です。

 左の図がプレイの画像です。西側陣営で北側に座っている状態で取ったので地図の天地が逆になっています。左手の赤い領土がソビエトです。
 手前のプレイエイドの特に手前側がR&Dエリアです。その奥が部隊の編成表です。
 このゲームでは、1枚のユニットが示す軍の中に、様々な兵科の戦力が何戦力ずつあるかをマーカーで表してあります。
 マップを見るとわかるように、地図はごく小さく、ドイツ国境からパリまではたったの2ヘクス、ポーランド国境からモスクワまでも4ヘクスでしかありません。
 この小さなマップに陣営ごとに12ケしかない軍ユニットが置かれ、これでプレイします。
 ところが、この凝縮された数ヘクスが実際にプレイすると遠く、一見すると1ユニットが1ユニットと戦っているだけの戦闘が実際には様々な兵科が含まれていて激しい戦闘を演じるのです。