2038 タイクーン オブ アステロイドベルト
2038 Tycoons of the Asteroid Belt / TIMJIM/Prism
ショートコメント
●傑作鉄道ゲームシリーズ「1830」、ついに宇宙に出る
●アステロイドベルトを舞台に宇宙船野郎の時代から企業参入時代、企業再編の時代までを満喫できる一作
Best seller railroad game series "1830" now goes into the space.
Players can enjoy all the era from adventurers' age via companies' age to regrouping age around the asteroid belt.
published designed players time
1987 David Ladyman 3-6 6+ hours
 「1830」の成功は、舞台を他の国や地域に移した幾多の後続鉄道ゲームの登場により裏付けられました。
 完成度の高さという点ではアヴァロンヒル全盛時のデベロップメントを経ている「1830」が一歩長じているのではないかと思いますが、地元の地図をプレイしたい、あるいはいつもとは違うマップでプレイしてみたいという向きも多く、後続のゲームもそれぞれ成功を収めています。
 こうした大人気の鉄道ゲームシリーズが、ついに宇宙に出たのが「2038」です。舞台はアステロイドベルトに移り、列車の代わりに採掘輸送船を走らせます。ゲームシステム的に重要な変更点としては、ランダム要素が盛り込まれたことがあります。「1830」では最初の座席決定の他にはまったく偶然の要素がありませんでした。「2038」ではアステロイドベルトのどこにどんな資源が埋まっているか探検してみないと分からないシステムになっており、タイルをランダムに引いて決めます。このため、「1830」を慣れたプレイヤーで対戦すると非情に煮詰まったゲームになるのに対して、「2038」はエクスキュースの余地のある気楽なゲームになっています。
名作1830シリーズ、宇宙に出る

 「2038」は、ティムジム/プリズムのアステロイドベルトを舞台にした経済シミュレーションゲームです。
 その基本システムは、鉄道ゲームの名作シリーズ1830の流れを汲んでいます。少し「1830」について説明しておきましょう。このシリーズの第1作は、イギリスのメーカの作った英国での鉄道シミュレーションゲーム「1829」です。このゲームは英国で人気があり、北部拡張キットなども発売されていました。
 このゲームシステムに目を付けたアヴァロンヒル社が、アメリカ東部を舞台にした新たなゲームを作ったのが「1830」です。元システムもさることながら、アヴァロンヒルのデベロップメントが素晴らしく、この「1830」は「1829」を越える傑作となりました。
 「1830」の要点を敢えてまとめるなら、
 1:ゲームの大きな枠組は「根拠のある」株式投資ゲーム
 2:その根拠の部分が緻密な作戦の要求される鉄道会社経営部分
 という特徴があります。鉄道ゲームの多くは、自分の鉄道を持っていて線路を延ばして貨物や乗客を運んで収益を上げるものです。ところがこの「1830」では鉄道会社はプレイヤーに帰属しません。プレイヤーがある鉄道会社をコントロールするのは、最大株主として社長を務めているときだけなのです。このため会社の収益性が落ちてくると高値で株を売り抜いて社長の業務を他のプレイヤーに押し付けたりすることがゲーム全体の戦略で重要な選択肢になります。それが故に「1830」の本質は株式投資ゲームだと言えます。
ファイナル・コメント
 基本的には「2038」は「1830」の系譜に並びますが雰囲気はかなり違います。
 決定的に違うのは「2038」では各社の経営環境が良く、会社が苦境に陥ることが少ないということです。このため、どの会社も大きな失敗をしさえしなければどれもそれなりに儲かります。つまり、「2038」の社会は、アステロイドという新開拓地を得て右肩上がりの経済状況だということです。
 「1830」ではゲームのフェイズの移り変わりで旧式車両が廃車になるときに、経営状態の悪い会社は危機に陥ります。このため株を売り抜いて夜逃げする社長が出たり、押し付けられて破産するプレイヤーが出る可能性があります。ところが「2038」ではそれなりに経営して、みなそれなりに儲かるのです。
 このため株式の売却ということが起こりにくく、プレイヤーや持った会社をそのまま育て続けるという傾向が強くなります。結果として、株式ゲームというよりは各社が各プレイヤーに所属している普通の鉄道ゲームに近い印象があります。
 この傾向に輪を掛けているのがゲームの序盤から中盤を支配するプライベートカンパニーの重要性が高いことです。プライベートカンパニーは、1プレイヤーによって所有されているので正にプレイヤーに所属しています。このプライベートカンパニーが活躍する期間が比較的長めで、そこでの収益格差が勝敗に与える影響もそれなりに大きいのです。
 またアステロイドタイルのランダム要素があることも違いです。

 一言で言うと、「2038」は「1830」のシステムを使ってはいるもののテイストとしてはオーソドックスなアステロイド開拓ゲームだと言えます。ゲームとしての厳しさとキレは「1830」に及びません。その分、気楽に楽しめます。ただ、気楽に楽しむにはルールの分量、プレイタイムとも重過ぎるところが難点です。
 このため客層の焦点が合っていない感じはあるかも知れません。
関連ゲーム
●1830
●アウトポスト
●ベルター
●ルナーレールズ
アシモフのスタートレーダー
 ゲームは、インデペンダントと呼ばれる個人の宇宙船野郎どもが探検と鉱石ビジネスをスタートするところから始まります。このゲームではアステロイドベルトを開発する体制が時代と共に入れ替わっていきます。インデペンダントの後はプライベートカンパニーと呼ばれる小企業が参入してきます。このプライベートカンパニーの共同会社として、最初の大企業TSIが登場します。
 TSIの登場でインデペンダントたちは規模で押されることになります。この状況を打開するために、グロウスコーポレーションと呼ばれる大企業に衣替えしていくこともできます。しかし、元が一匹狼の宇宙船野郎ですので既存ビジネスを持っている強みはあっても、株式市場ではベンチャー扱いで株価はゼロに近いところからのスタートとなります。
 その一方で新しい時代にTSIに習って新たな大企業を資本集めからスタートして起こすこともできます。これはパブリックコーポレーションと呼ばれ、株価を設定してその価格で株主が付くことにより中程度の株価から一定の資本金を持ってスタートできます。しかし、逆に既存ビジネスを持っていないという弱点もあります。
 参加企業が増えてくるにつれ、終盤ではアステロイドリーグが編成されます。アステロイドリーグは、当初からアステロイドベルトで事業を行っているプライベートカンパニー、アステロイドエクスポート社が呼び掛けて未だグロウスコーポレーションに衣替えしてないインデペンダントをまとめて編成します。高い株価と大きな資本金、参加したインデペンダント各社の既存ビジネスを基盤に、遅れてやってきた巨人として振舞うことになります。
 「2038」も「1830」と同じシステムですのでゲームの最終的な勝者はプレイ終了時のプレイヤー資産の合計で争われます。プレイヤーの資産の源泉は、所有株式の時価と、現金です。現金はプレイ中に得られる各社からの配当が中心ですので、いずれもアステロイドベルト各社の経営から株主に対して与えられるものです。各社の会社資産はプレイの勝敗には全く関係ありません。