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ダークエンペラー
Dark Emperor / Avalon Hill Games

一言で言えば‥‥

鬼才コスティキャンが,異世界らしい異世界創出を目指した力作

かつて人類の団結の前に敗れた強大なネクロマンサーが復活する

こんなゲーマーにお薦めしたい

創意を凝らして作られた異世界を興味を持って鑑賞できる方に
 
コスティキャンの大ファンであるSFゲームフリークの貴方に

プレイ人数 2人
プレイ時間 2−4時間
ルール難度 中級ファンタジーウォーゲーム
デザイナー グレッグ コスティキャン
入手状況 絶版,AHにしては中古出物も少なく入手難

「ダークエンペラー」の設定

ダークエンペラーのボックス
「ダークエンペラー」は,SFゲーム界の鬼才 グレッグ コスティキャン が作ったオリジナル設定のファンタジーウォーゲームです。

第3次魔法時代の流血の大戦の末に,強大なネクロマンサーであり人類征服の野望を抱いていた パドレック ダー コイム は,皇帝 パドローム3世のもとに団結した人類により暗黒界へと突き落とされて地上から消滅しました。

しかし,地上から消滅したものの彼の存在が根絶されたわけではなく,荒涼とした暗黒界で彼は再起の時を窺っていたのです。彼は力を再び蓄え直し,新たな同盟者を得ることに成功しました。ヴァンパイア貴族の トル モーン と,戦慄と恐怖の未亡人 メザール です。

時代は移り変わって人類の帝国は,幾多の王国に分裂して,その抵抗力を弱めてしまいました。そんな時,ダー コイム は,吸血鬼軍団に地上への進撃をついに命じたのです。

右がこのゲームの箱絵ですが,表紙を飾るのは人類の英雄ではなく,問題の ネクロマンサー,パドレック ダー コイム です。ボックス裏の説明書きにも,プレイヤーは強大なネクロマンサーとして幾多の王国を臣従させねばならぬ‥‥という記述が,人類のリーダーとしてという記述よりも先に,しかも長めに記載してあります。

このゲームの主役は,悪役である ダー コイム なのです。見果てぬ夢を性懲りもなく追いつづける悪の権化が,今度こそはその野望を果たせるかどうか‥‥という視点なのですね。コスティキャンのゲームでは,他のゲームでも,どう見ても怪獣側が主役だったり,BEM側が主役だったりするのですが,ここでもまたネクロマンサーが主役なのです。

ロスロンという世界に篭められた創意
ダークエンペラーのマップ
「ダークエンペラー」の最大の魅力は,その背景世界 ロスロン の作りこみあると言えます。

ルールブックのデザイナーズノートに書かれたコスティキャンの文章からそのことは窺えます。コスティキャンは地学者だそうなのですが(初耳です),その観点から見たときに多くの異世界を扱ったボードゲームの地形は,想像力に欠けるか,奇をてらうばかりで説得力がないと思えるというのです。

そこで,このゲームにおいて,コスティキャンは創意に溢れていると同時に,もっともらしさのある世界を作ることを第一に目指しました。われわれの住む地球は,プレートテクトニクス(日本沈没のときに有名になった地学理論)で作られたもので,その地形はプレートテクトニクスに照らしてもっともらしい(当たり前ですが‥‥)ものです。

そこで,コスティキャンは架空世界 ロスロン の地形形成作用としてプレートテクトニクスではない作用を想定しました。それは太古に大小様々な隕石に打たれたことによって形成された地形というものです。

左上がその地形の一部です。大小様々なクレーターが重なりあっており,そこに水が満ちて海を形成しています。陸地はわずかにクレーターの周部分に限られており,このため船舶がこの世界の重要な交通手段となっています。クレーター湖の分布したマップは,そうしたコスティキャンの思いを知って眺めると,なるほど非常に異質でエキゾチックであると同時に太古の隕石雨を想起させるSFマインドも感じさせます。

コスティキャンは,こうして作り上げた世界の仕上げに当たって,もう一つこだわりました。それは地名です。大抵のファンタジーボードゲームの地名は,それらしい名前が付いていますが,しばしば命名に一貫性がありません。ラテン語から引っ張って来たり,英語から引っ張って来たり,架空の言語から引いてあることにしてあったり,それらが一貫性なく混在しています。

コスティキャンは,このロスロンの地名を命名するに当たって古代帝国語というものを設定し,それに基づいてそれぞれの地形にふさわしい命名を実施し,それに経年変化による訛りを少し加えて異国的でかつ全体が一貫したトーンになるよう地名を命名しています。

一つの地形図の背景に,その地形の形成科学や,言語学的命名まで含まれているかと思うと,また鑑賞の仕方も異なりましょう。コスティキャン,こだわりの一作と言えます。

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リプレイ:闇の皇帝,ついに還る‥‥

以下は,97/2に,わたしがこのゲームをプレイした時に書いたリプレイです。

 闇の世界に葬られし皇帝が,ついにその正統なる地位を取り戻さんと,今,この世界に帰還したのであった。文明世界の東方の礎である ahautsieron の都のそばの森に,今,次々と闇が形をなして彼らがやってきたのである。ヴァンパイヤと,そのリーダーである tol morn。そして,彼らを同盟者として,世界を邪悪な支配の手に握ろうとする闇の皇帝 padrech dar choim その人であった。

 tol morn 率いる一軍は,ahautsieron の首都 sier lor を破城列車で攻め,いま一軍は dar choim の指揮により crumpied city を攻めたのである。ahautsieron の支配者である silfaron は懸命の指揮で首都を守ろうとしたが,平和に慣れた世界への奇襲の威力を跳ね返すことはかなわず,戦場に散ったのであった。

 闇の皇帝のもう一人の同盟者である mezal は,現在の世界の大勢に不満を持つ tal pletor へと赴き,恐怖の呪文の恫喝も加えて彼らをこの世界での最初の暗黒勢力の同盟者へと引き入れたのであった。

 ahautsieron の南方の有力者である narmoren は,世論に敏感で義に厚い国情
の kelaron oiret へと助けを求めに馳せるのであった。

 かくて,闇皇帝の再来襲による第二次暗黒戦争が始まったのである。
 まだ,世界の過半は,平和を貪っているのであったが‥‥。

 闇の皇帝と,tol morn 率いる部隊は,合流して ahautsieron を南進して行った。彼らの手勢は,若干のヴァンパイヤの脱落はあったものの,意外にも増えていた。それは,先の戦いで倒れた ahautsieron の兵たちが,その先頭にアンデッドとなって並んでいたからである。彼らは,困難な道を切り開き,闇皇帝の吸血鬼部隊の前衛として文字通りに身を粉にして働くのであった。それこそは,闇皇帝のもっとも恐るべき能力の死のルーンの呪文,raise dead の所産に他ならなかった。

 途中の古戦場で,そこに眠る屍を甦らせんとする闇皇帝の呪文は不発に終わったが,tol morn は南方の戦場でも勝利を収め,今や英雄を欠く ahautsieron は風前の灯火となった。

 一方,mezal は傭兵集団の中で現体制に不満を持つ fernan conniver を味方につけんと交渉に励むが,今一歩のところで色好い返事を得損ねるのであった。だが,意外にも闇皇帝は思わぬ同盟者をも得たのである。それは先に闇陣営についた tal pletor の野心家 stmmarren が silwer flagriel を口説き落としたのである。彼らの軍勢は,闇皇帝とは別におのれの野望のために動き始めたのである。

 対して人々もまた闇から世界を守るため,ついに動き始めていた。kelaron の三人の為政者たちは,兼ねてから星の巡りの予見する危機を懸念していた starkeep の keeper たち,そして衰えたりとは言え依然として世界の核である帝国本体,西方の雄である ferlarie へと散っていったのである。既に退廃と策謀の日々に溺れていた帝国は耳を貸さなかったが,残る2者は直ちに危機に立ち上がったのである。

 一方,narmoren は,kelaron を去った後,自らと同じメタルのルーンを持つ傭兵 lord montoy の元を尋ね彼に助力を求めることに成功していた。今や,世界を守ろうとする人々の数は闇皇帝の勢力を上回る数になろうとしていた。だが,それは世界に散り散りなっており,個々には闇皇帝の精鋭吸血鬼師団には到底かなわぬ状態であり,依然として危険な状況は続いているのであった。

 tol morn はさらに南方を西進してついに ahautsieron で残るのは fontenay の街だけとなってしまった。闇皇帝は,古戦場の兵を立ち上がらせ,自らの尖兵として募ることに成功した。そして,mezal もついに conniver を説き伏せたのだった。しかしながら,血気にはやった flagriel は ferlarie への侵攻に失敗して敢えなく一命を落とすのであった。

 starkeeper は帝国へと走った。予言されていた危機がついに現実になったことを皇帝へと告げたのだ。偉大な予言者の言葉についに帝国は動いた。その動きは,さらに世界を動かした。loymarech,lammarech の2つの兄弟王国が参戦し,西方の果てロックライダーの里 schtye も動いた。英雄 cos dol cos も ahautsieron の存亡の危機に馳せ参じることを申し出た。今や南方の stavror など一部を残して世界は暗黒大戦に参加したのである。

 tol morn は広い ahautsieron の国を縦断する形で最後の戦場へと赴いた。吸血鬼の脱落者の数は夥しくなり,彼の軍勢は最初の衝撃力を失いつつあった。だが,彼は此処でも勝利した。ついに広大な ahautsieron を闇皇帝の領土とし,吸血鬼の狩り場とすることに成功したのである。dar choim はさらに北の古戦場でも死人を募り,mezal は死の力を持つ魔剣をこの国の東方で見いだした。敵の動き,特に帝国の立ち上がりは早かったが,それでもまだチャンスは残っていると tol morn も,dar choim も思っていた。

 だが,彼らの予測以上に人間の反攻は力強かった。starkeep 海軍の支援を受けた cos dol cos は,ahautsieron の港に上陸作戦を展開して成功を収めたのであった。並行して ahautsieron 軍の残存兵力は,kelaron 一の策士である plety'y の指揮の元,まさかの首都奪回を達成したのである。

 tol morn にとっては,このままでは済まされなかった。狩り場を得た吸血鬼は,増員を果たして兵力はやや回復した。彼らは,首都奪回などと言う不届きな真似をする人間どもを倒して,逆にアンデッドとして手勢に加えるべく再び首都 sier lor 上空へと飛来したのであった。だが,彼らはおごったわけでもあるまいに,なんと人類に不覚を取ってしまうのであった。mezal と,dar choim はモンスターの召還を目指したが,成果は幾つかのアーティファクトだけであった。ようやく最初の領土を得た勢いは,一転して完全に停滞したかに見える。

 さらに帝国がついに ahautsieron 奪回へと乗り出してきた。帝国一の軍師farnon の率いる6個師団は,fonteney を造作もなく奪回してしまった。さらに,マジカルヘクス探訪を続ける dar choim も kelaron 軍の追っ手に追われあわやという事態も発生した。

 大国 ahautsieron を握った闇皇帝にとって,その隣国の kelaron oiret と,starkeep の2つを落とせれば引き分けには持ち込めるはずなのであるが,今や各国の準備は整いそれは難しくなったように思われる。闇皇帝は再び時を待つべく,次元の彼方へと姿を消すこととしたのであった。

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「ダークエンペラー」の難点

「ダークエンペラー」は,鬼才コスティキャンの力作と呼んで差し支えないでしょう。デザイナーズノートを見てからゲームを眺めると,その思いは非常に強いです。

ただし,それは飽くまでデザイナーズノートを読んで,こちらがデザイナーの意図を汲んでゲームと関わってこそという感じがあります。

単にルールを読んでプレイする分には,中規模の特殊な地形を使っているため陸海が密接にリンクしているファンタジーウォーゲームという印象です。魔法や外交のルールなどもあり,このテのゲームにあって欲しい要素は一通り含まれています。それでいてユニットの密度が低くて,またターン数が全体で14ターンと限定されているため,非常にプレイアブルです。

その一方で,単にゲームとしてプレイすると,プレイアブルである一方で,非常に「軽い」印象があります。世界の存亡を賭けて戦っているという印象が薄く,物語性もこちらから踏みこんで言ってやらないとゲーム側からはあまり強く語り掛けてきてくれない気がします。

たとえば同じコスティキャンの「ソーズ アンド ソーサリー」や,この分野の傑作として著名な「ドラゴンパス」などと比較すると,プレイした時に感じられる世界のヴィヴィッドさ,原色感という点で「ダークエンペラー」は劣るように思います。

これと密接に関連していますが,ゲームとしてダイナミックさに欠けるということもあります。部隊密度が低いのに加えて,行軍による損耗が手痛いことなどもあり,サーガに謳われるような大行軍,大戦闘が起こりにくいのです。

AH社の発行するサポート雑誌 GENERALに掲載された記事でもこうした点が指摘され,改造ルールが提案されたようです。わたし自身は試していないので,この改造ルールがこのゲームに活を入れたかどうかはわかりません。ただ,問題指摘の部分は読ませてもらって妥当な気がしたので,もしプレイされた方があればご意見を伺いたいところです。

関連ゲーム / 類似ゲーム

同じコスティキャンのSPIからの名作ソーズ アンド ソーサリーは,マルチシナリオで歴史を描き出した傑作ファンタジーウォーゲームです。マルチプレイのシナリオが多いのが特徴でした。

ファンタジーウォーゲームとしては,AH/HJの
ドラゴンパスが往年の CHAOSIUM版の赤い月と白い熊以来,傑作として評価が定着しています。

この他で近いスケールのゲームとしては,SPIのARES誌の付録ゲーム
アルビオンがあります。

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