ポールとの接近遭遇(自分史上最短距離)

2015/05/12


 2014年05月18日(日)。数か月前から仕事のトラブルでデスマーチ行進中だったのだが、何とか無理くりこの日だけは休みを奪取。とにかく睡眠不足だったので、午前中は泥のように漠睡。昼過ぎからいそいそと出かける準備を始める。落ち着かず、少し時間の余裕を持って、嫁と一緒に会場となる国立競技場へ向かう。快晴。日本公演では初の野外ステージに心が躍る。

 しかし前日はポールの体調不良により予定の公演が急遽中止になっていて、今日の公演も開催も危ぶむ声が少なくなかった。大丈夫なのか?。情報が錯綜するTwitterのライムラインを横目で見ながら、有楽町線から大江戸線に乗り換えて16:00ちょっと前、目的地の国際競技場駅へ到着した。

 駅のホームに降りた直後、構内アナウンスで「本日のポール・マッカートニー公演は中止となりました」が流れると、駅のあちらこちらから目的地が同じであったろう人々から一斉に悔恨の声が漏れる。「え〜っ」「うっそ!」「ほら〜」「マジか!」など。ここ数カ月間「もうすぐポールに会えるから!」と頑張っていた僕はその瞬間、ヘナヘナヘナ〜と萎んでしまったのであった。ポールの野外コンサート、観たかったなあ・・・

 で、時は流れて2015年4月27(月)。満を持してのリベンジ公演、東京ドーム3日目へ参戦なのである。万全を期すために有給休暇を取得。更に万全を期すために、かなり早めに東京ドームに向かう。

 15:00過ぎ、東京ドーム着(開演は18:30)。幾らなんでも早く来過ぎだろっ!!と自問自答していたその時、ドーム脇の車道、遥か彼方から大歓声がこちらに近付いてくる。なんだろ? 目線の先には黒塗りワゴン車、窓から手を振っているのは・・・

 な、な、なんと、ポール・マッカートニーその人ではないか!!!

 どんどん車が近付いてきて、僕とポールとの距離およそ5メートル。ファン歴30年、こんなに接近したのは初めて。後光というか、オーラが凄まじかったよ・・・。と同時に、僕がよく知ってるポール・マッカートニーまんまな感じの人でもあった。いやはや、会社休んで良かった(笑)。

 さて入場。ドーム3塁側スタンドに座って、ついさっきの接近遭遇の感動に浸っていると、いよいよ開演!。オープニングは華々しくMagical Mystery Tour!。前回公演のEight Days A Weekよりこっちの方が好みだ。


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さあ皆さん、マジカル・ミステリー・ツアーの始まりです。
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 しかしまあ、なんとオープニングにピッタリな曲なんだろう・・と改めて思う。正にマジカルなひとときへの誘いである。そして自然と涙が溢れてくる・・・。

 この公演、基本的には一昨年のツアーの延長線上のモノ。セットリストも大枠は同じなのだが、それでも去年のドタキャン事件が功を奏した(お詫びの気持ち?)のか、少しずつ曲目が変更されてるのが嬉しいじゃないの。

 それにポールの声。一昨年は「いよいよ終わりの始まりか?」と思わせる程に声が出てない箇所が痛々しくも目立っていたのだが、今回は少し違う。もちろん昔のような痺れるハイトーンは望むべくもないけれど、それでも出ないなら出ないなりの発声法というか、その部分をカバーする技術というか、要するに今の有り様で「歌が上手くなってる」のだ。これには驚いた。ポール御年72歳。未だ上達し続けているのである。いやはや、恐れ入りました。

 アンコールにはI Saw Her Standing Thereも。なんてったって1st アルバムの一曲目。1,2,3,4のカウント、ブンブン唸るベースライン、5万人の会場全体が首を振りながらHoo〜!。どうやったって盛り上がる。とにかく最高なのである。

 そしてGolden Slumbers〜Carry That Weight〜The Endで感動の終演へ。これを超えるクロージング・ナンバーはあり得ないので、毎度お馴染みではあるのだが、それでもこうやって聴くたびに、心にジーンと来てしまう。ポールのコンサートは今回で5回目(1990/1993/2002/2013)。とある曲が作者本人によって演奏され、その曲を周囲の5万人が全員知ってる(且つ大好き)という状況は、何度経験しても身震いするし、どうしても泣けてしまう。

 60年代から現在までを駆け抜けてきたポール・マッカートニーその人、そして曲があり、僕がいて、僕と同じようにポールの曲を愛し共に過ごした時間が人生のハイライトとなっている多くの人々がいる。その全てが今日ここで一堂に会し、その曲を演奏し、聴き、共に歌い、そしてまた新しく同じ時間を共有している事の奇跡。時代を超えた共感の大洪水が東京ドームを包み込む。冷静に考えれば考えるほど、目の前で起こっている出来事と、それが意味することのあまりの大きさに、僕の思考は許容量を遥かに超えて、零れ落ちる感情を抑えきれなくなってしまうのだ。血沸き肉踊り、じっくりと落涙、そして多幸感。

 いろいろツッコミどころはある。でも、そんなのはどうでも良いと言うか、そういう問題じゃないと言うか、それぞれの立ち位置、抱えてきたもの、それらが一気にひとつになる瞬間。そしてそれを成し遂げる音楽の力。音楽は世界を変えられないが、人々の想いは変えられるのだ。何物にも代えがたい感覚。再びあの感覚を体験する機会は来るだろうか。終演後にポールが言った「マタアイマショウ」の言葉を信じたい。



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Y.YAMANAKA(yamanaka@os.rim.or.jp)