そして幻想飛行は続く・・・

2014/10/09


 014/10/09(木)、実に35年振りとなるBOSTON奇跡の武道館公演。この日はワールドツアーのファイルでもある。

 まさか死ぬまでにBOSTONを観られる日が来るなんて思ってもいなかった。過度な期待はガッカリの元・・・とは分かっていても、このムクムクと湧き上がる期待感を止められるはずも無かった。BOSTONのライブステージ。それはもう、長らく夢見ていたのだ・・・

 BOSTONとの出会いは1986年の大ヒット作「Third Stage」の頃。世の中的にはCD(コンパクトディスク)が普及期の始まりの始まりで、僕が最初に買ったCDがJourneyの「Raised On Radio」でこれが1986年の5月、「Third Stage」は同年9月だから、CDを買い始めた最初期の一枚だった訳だ。

 当時のCDは1枚当たりの単価が高かった(\3,000超)こともあって、それはもう大事に大事に、何度も何度も繰り返し聴いてたっけか。突き抜けるようなハイトーン・ボーカル、計算されつくしたギター、スペイシーなサウンド空間に酔いしれた、青春時代のワンシーンであった。

 で、あれから28年。すっかりオジサンになっちゃったのだが、それでも積年の想いをタップリ乗せて、意気揚々と武道館へ向かった。

 場内。予想通りに年齢層が高めである。もとい、今までに行ったコンサートの中でダントツで年齢層が高い。というか白髪率が高いのだ(苦笑)。おじさん、というより初老。BOSTONというバンドの広過ぎるファン層の成せる業。僕なんか完全にひよっこなのである。

 今日のコンサート、ちゃんとロック的に盛り上がれんのかしら?少し不安が過る・・・

 さて、開演時間を少し押して場内暗転、スポットライトに照らされたトム・ショルツ御大が舞台に登場。焦らすようなギター・インタープレイを導入部として、恒例のオープニングナンバー"Rock & Roll Band"のイントロが武道館の大空間を切り裂くと、続くドラムフィルと銅鑼の大号令で場内のボルテージは一気に最高点へ到達する。

 「ご機嫌」としか形容しようのない心地良いロック・サウンド、気がふれそうなぐらいに興奮している僕。これぞ正にロックン・ロール・バンド!。幻想飛行のラスト・フライト、始まった途端に最高なのであった。

 続く2曲目は"Smokin'"。躍動するオルガン・ソロが武道館という空間をグラインドさせてくる。怒涛のキラー・チューン2連発を食らって心臓バクバクの大興奮、楽しくて死にそうである。

 "Peace of Mind"では華麗でピースフルなツイン・ギターソロをステージでも見事に再現。綿密なスタジオ録音のサウンド構築美と、ステージ演奏ならではのドライブ感が奇跡的な共存を見せる。やはりBOSTONは世界的にも稀有な存在なのだ。

 そう言えばボーカルのトミー・デカーロ。初代ボーカルのブラッド・デルプの死後、追悼Youtubeで歌っていた彼をトム・ショルツに偶然に発見され、そのままボーカルに抜擢されたというアメリカン・ドリームなエピソード。普段はオフィス・デポで働いているそうな。良い話。

 ステージでは時折、トム・ショルツのMCも挿入される。天井人であるトム御大がたどたどしい日本語を話している図は、どうも現実感が希薄である。でも今回、実際に観て分かったのは、トム・ショルツは生粋のギター少年だって事。正に「そのまま大人になっちゃった人」なのである。ギター楽しい!っていう無邪気な姿勢と、MIT卒の理系頭脳が融合された結果、世界最高レベルの技術を駆使した唯一無二のロック・サウンドができちゃったのである。振れ幅が凄すぎて凡人には想像すらできない。

 終盤の"Something About You"。こんな2番手3番手の曲ですら、目の前で演奏されると、自分の中の何かが発動するのが分かる。人生のどれだけの時間をBOSTONに費やして来たのだろうか? 自分の習得の深さに驚いてしまう。

 そして気が付けばコーラス部分を会場で大合唱。この場にいる観客の多くも、僕と同じような体験を通してきたって事なのだ。名も知らぬこんなにも多くの人々と、かの国アメリカのロックバンドの2番手3番手の曲のコーラスを大合唱している・・・というこの瞬間の奇跡性に、またもや胸を打たれてしまう。そして落涙。ロック最高!

 アコースティックで演奏される"Amanda"。この曲が無ければ、今日この場所の僕は無かったのだろう。この曲を、今日この瞬間に、これだけ多くの人と同時体験できているという事だけで 僕の音楽人生のハイライトになった。本当に幸せな空間である。

 "The Launch"、"More Than A Feeling"、"Foreplay/Long Time"と夢のような至福の時は過ぎ、アンコールの"Party"で大団円を迎える。楽しく、心躍り、感動し、サウンドの完成度と自由奔放なライブ感を同時に堪能。ロックという音楽のある種、究極の完成形とも言えるだろう。

 僕の音楽的なバックグラウンドを考えると、この先これを超えるライブ体験にはちょっと出会えないような気がする。そんな事を考えつつ、BOSTON号に乗った僕たちは、これからも宇宙の彼方へ幻想飛行を続けるのであった。無理して行って良かった。

追記:

 後日、この日の公演を収録したBoot CDを購入。なんとその音源、会場で隠し録りした所謂「オーディエンス音源」と、ステージ上の演奏者がモニターしている無線イヤホンを傍受&録音した「モニター音源」を絶妙なバランスでミックス・ダウンした驚愕の代物なのである。

 広い会場に特有の心地良いエコーな響きと、モニター用の究極のライン音源の革命的な融合。壮絶に素晴らしい出来栄え。オフィシャルでもこの臨場感を超えるのは難しいかも知れない。海賊版史上でも屈指の作品と言えるだろう。これを聴くと、今でもあの日の事が鮮明に思い出される。

 こういう海賊盤も、深く静かに、でも確実に進化を遂げていて、時としてクオリティーでさえオフィシャルを横臥する可能性を持ってしまったのだなあ・・・と高校生の頃に西新宿で糞ブートを山ほど掴まされた記憶が遥か遠くに。



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Y.YAMANAKA(yamanaka@os.rim.or.jp)