電子書籍の夢〜再び

2011/05/06


  やっとの事で電子書籍が注目を集めるようになってきた。僕が明確に電子書籍のイメージに触れた最初は学生時代だろうか?。今で言う所の「情報キオスク構想」みたいなヤツだったと思うけど、毎朝の通勤時にキオスクの前を通りすぎると、その日の朝刊が自動的に電子ブック装置にダウンロードされて・・・みたいな。その後、電子ペーパー技術のE Inkなど、ハード的な進化も伝えられる中、その期待はどんどん膨らんでいたのだが、所謂「ブレイクスルー」はなかなか起こらなかった。

 で、やっぱり技術革新は黒船に乗って来るのであった(笑)。AmazonがKindleを発表したかと思えば、続けてAppleがiPadを発表。一気に電子書籍が注目を集め始めると、その他のメーカも「いやいや、実はウチも出そうと準備してたとこなんですよ!」みたいな顔をしてシレーっと新端末・新サービスを次々と発表。あれよあれよと言う間に、電子書籍が注目キーワードに祭り上げられちゃった感じだ。なんかこう強引に「ブレイクスルー」が起こったって事にしちゃえ、みたいな。

 個人的にはどこのメーカーが勝ち残っても構わないのだが、この端末ではコレが買えるけど、あの端末ではコレは買えない、みたいな状況や、一旦購入した電子ブックがどこかの時点で全部ゴミになる(サポート打ち切り→読めない)みたいな事だけは勘弁して欲しい。鳴り物入りで発表して、ものの数年で人知れず終了してしまうサービスのなんと多い事か。こんなのとか、こんなのとか・・・兵どもが夢の跡。

 一方、音楽配信はiTunes Music Storeの登場で一気に市民権を得たが、現時点においても「世界中のあらゆる音楽をワンストップで提供」というゴールには到達していない。レコード会社(って言い方、もう古い?)の利権構造と言うか、SONYが意地を張ってるだけと言うか(笑)。そういう意味では未だ迷走中とも言えるが、数年前にAppleがスコーン!と「ブレイクスルー」を起こしてから、あっという間に世界が様変わりしたのは間違いない。逆に。昨今の電子書籍にまつわる「ブレークスルーが起こったって事にしちゃえ」な雰囲気は、とちょっと不穏な未来を感じさせなくも無いのだが。

 前置きが長くなった。日本を代表するメーカ2社が満を持して発表した電子ブックリーダを実際に触ってきた。以下、そのインプレッションのまとめ。

 最初はSONYの「Reader」(えらく名前が単純だよな)。SONYはかつて、前述の電子ペーパー技術(E Ink)を採用したLIBRIe(リブリエ)を世界に先駆けて市場に投入、そして見事に玉砕(!)という悲しい過去がある。その経験が今回のReaderに上手く活かされているか?が個人的な注目ポイントである。腐っても鯛とは言わないけれど、そこはやっぱり「世界のSONY」である。電子書籍がブレイクスルー仕掛けている昨今、ここで本命登場か?と唸らせてくれるような端末を期待していた。やっぱ、少なからず「おー!SONYやるねえ」って言いたいもの。

 がしかし、結論は「がっかり」であった。失望。まず、E Inkの電子ペーパー、とにかく反応速度が遅すぎる。ボタンを押してから反応するまでのタイムラグが長過ぎて「あれっ?今、操作したよな?」と思っちゃう。で、ワンテンポ置いてからやっと動き出して「遅っ!」って感じ。こんな風にユーザを惑わせちゃダメだと思うのだ。。ユーザー・インターフェイスの基本。これこそ人間工学とかで、操作してから反応するまでのユーザが違和感を感じない時間、みたいな研究をすべきだと思うんだが・・・。とにかく、レスポンスの鈍さから来る違和感を拭う事ができず、ものの1分ぐらい触ってこりゃダメだと分かっちゃう感じ。使ってて心地良く無い。使いたいと思わない。思わせてくれない。世界のSONYが・・・う〜ん。

 あと、ページ切り替え時に全画面が暗転→ページ表示っていう電子ペーパー(E Ink)に特有の目に良くなさそうな挙動。これってどうしようも無いのかね?。ページ静止時の見やすさは非常にイイのだけれど、ページ切替時の全画面点滅(目がチカチカする)でそのメリットも台無しである。電子ペーパーって技術が登場してから結構経ってるはずなんだけど、この挙動が未だに改善されないってのは電子ペーパーの技術的な限界なのだろうか?。もちろん、これがSONYのせいじゃないってのは分かるんだけど、このスペックをSONYが許容している、って事ではあるよね?(商品化してんだから)。個人的にはこのヘンテコな挙動が改善されない限り、電子ペーパー方式(E Ink)がデファクトを取るとは思えない・・・がしかし、AmazonのKindleは電子ペーパー方式(E Ink)なんだよねえ。個人的には、この辺が良く分からない。案外、見慣れちゃうと違和感ないのかな? アメリカ人はそんなこと気にしないのか?。

 気を取り直して、続いてシャープのGALAPAGOS。日経新聞との提携、大量のテレビCM、TSUTAYAとの提携、ファミリーマートでの販売など、シャープの並々ならぬ力の入れ方が感じられる今日この頃。画面が液晶という点では、対向はAppleのiPad。現時点ではGALAPAGOSは「電子書籍の専用端末」と謳っているが、間違いなくその先を見据えているはずだ。Zaurusで一世風靡した会社である。目の付けどころがシャープなはずである。電子書籍に対するシャープの本気振りを見るに付け、その根幹となる端末に個人的にも期待は膨らんでいた。

 で、結論。え〜っと、まあ、なんつーか・・・モッサリだね(苦笑)。でも、ちょっと惜しい。ギリギリ我慢できないぐらいの感じで気になるモッサリ。えーと、性根が悪いって訳じゃなくて、本人も全く悪気は無いんだけど、いちいち行動がちょっとだけムカつくヤツっているじゃない?。ああいう感じ。UIデザインも、意気込みとか努力みたいなモノは感じるのだけれど、今ひとつ結実できてていない感じ。惜しい。何かが足りない。

 このタイミングで製品投入するんだから、本気でiPad対応の図式を狙ったんだろうけど、ちょっと触った感じだけで、明らかに負けてる部分が露呈しちゃうって状況を、どう捉えれば良いのだろう。本当に本気でiPadに勝負を挑むのなら、圧倒的に勝ちまくりの優位性(圧倒的に安いとか圧倒的なコンテンツ充実とか)を考える前に、まずは明らかに劣っている部分、それも目立つ劣勢の部分ぐらいはクリアしてこないとダメだろーって思うのだ。

 なので、ユーザが最初に振れる部分、初期画面から本を読むまでの操作、これがサクサク動作するってのは第一印象も含めてクリアしなきゃいけない最低ラインだと思うのだ。特にGALAPAGOSは電子書籍の「専用端末」だって言ってるんだから、圧倒的にサクサク動かないと話にならない。そうじゃ無かったらiPad買うよ。GALAPAGOSを買う理由がないもの。う〜ん、意気込みは感じるだけに残念ではある。

 閑話休題。言うまでもなく電子書籍の最後の砦は、誰がなんと言おうとコンテンツの充実である。Kindleが成功した要因は、間違いなく圧倒的なコンテンツの勝利である。もちろん、日本のメーカーも必死こいてコンテンツの充実に取り組んでいるようなのだが、聞こえてくるのは「3万コンテンツを用意」とか、コンテンツの数の話ばかり。ハッキリ言って、総数なんかどうでも良いのだ。既にオンラインで電子書籍を販売しているサイトは多数あるのだが、全てに共通して言えるのは「買いたい本が無い!」なのだ。なんだこりゃ。

 書籍数をどれだけ揃えられるかってのも大事だけど、それよりも例えば、週刊少年ジャンプなどコミック誌や人気作家の新作がタイムリーに買えるとか、過去の名作(特に全集のようなかさばる&高価なモノ)が普通の書籍の半額以下で買えるとか。物理的な書籍ではなく、わざわざ電子書籍を選択する「明らかなメリット」が無いとダメなのだ。ちょっとのメリットじゃダメ。圧倒的な「明らかなメリット」でないと。でなきゃ普通の本で良いんだもの。

 例えば僕の場合、月刊誌の「レコードコレクターズ」が、バックナッンバーも含めてGALAPAGOSだけで半額で買えるんだったら、今すぐGALAPAGOSを買うね。押し入れにしまってあるバックナンバーを廃棄して、GALAPAGOSを「レココレ」専用端末にしたって、これならお釣りが来るよ。「明らかなメリット」ってのは例えばこういう事。

 という訳で、国内メーカー発の電子ブックリーダー2機種。残念ながら及第点をクリアできてない、ってのが僕の評価。端末スペックがお粗末なのは目を瞑るとしても、それ以上に問題だと思うのは電子書籍に対しての「思想」が欠落しているように見える事。繰り返しになるけれど、現状システム(本屋で本を買う)と新システム(電子書籍)を比べた時に、システムを移行する手間を超える「明らかなメリット」がなければ、物珍しさだけの新システムは絶対に普及しないのだ。

 電子書籍が「ブレークスルー」仕掛けている今、そのスタート地点で「買いたい本が無い!」ってのは何よりも致命的だ。権利交渉が難しいとか、著作権が複雑だとかって話を聞くけれど、少なくともAppleは音楽業界と対峙して、iTunesで世界を変えたんだよね。世界を変える気があるのかどうか。とどのつまり、そういう事なんだろうと思う。

さて、電子書籍の黎明期のメモとして、この文書を数年後に読み返すのが楽しみだ。



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Y.YAMANAKA(yamanaka@os.rim.or.jp)