音楽を持ち歩かなくなる日

2007/10/13


 引っ越しやらなんやらでバタバタしている間に、iPodの新しいラインナップが発表されていた。目玉は「iPhone - 電話」とでも言うべきiPod touchなのだろうけれど、iPod nanoが平べったくなって且つ動画に対応したって事も、後々を考えると大きい意味を持つだろう。

 国内での動画配信はまだまだお寒い状況ではあるが、iPod nanoは主要シェアを担う普及機なので、結果として動画の再生環境が先行して整っていくってのは重要な事なのかも知れない。動画コンテンツの販売が軌道に乗ってくるのはもう少し先になるだろうから、まずはPodcast等で草の根的に広がて行くんじゃないかと思う。ラジオ局が音声Podcastに注力しているのと同じぐらい、テレビ局が動画podcastに注力してくれるともっと楽しくなるんだけど。

 かく言う僕は、つい半年前ぐらいまでは動画に対応した大画面iPodの登場を心待ちにしていたのだが、実はまだiPod touchを購入するに至っていないのであった。手持ちのiPod nano(今となっては旧機種)で音楽再生は全く困ってないのと、iPhone登場で痺れを切らした結果、動画再生をPSPで楽しむ環境(もちろんゲームもできる)を整えちゃったので、取り急ぎ買い換える必然性が薄れてしまったのだ。もちろん、今のiPod nanoが壊れたりしたら即、iPod touchを購入しますよ。でも、まずは現物を見てみないとね。近々にApple Storeにでも行ってみるか。

 閑話休題。あんまり大きく取り上げられていないのだけれど、iPod touchには「iPodからネット接続して直接、音楽を購入できる」という機能が提供されている。無線LAN経由で、専用アイコンをクリックするだけでiTunes Wi-Fi Music Storeにダイレクトに接続できるインターフェイスが素晴らしい。携帯電話で着うたをダウンロードする手順とは雲泥の差である(もちろん無線LANが使える範囲でのみの話だが)。動画対応よりも何よりも、実はココにはとてつもなく大きなパラダイムシフトの始まりが潜んでいるような気がしてならない。キーワードは「音楽を持ち歩かなくなる日」である。

 数年前、iPodが登場した直後ぐらいに「将来のiPodのあるべき姿」というような内容を書き留めた記憶がある。今、振り返ってみてもその予測は我ながらイイ線行っていたと思う。当時の予測とこれまでの結果を踏まえ、更なる未来の姿をここで今一度、整理しておきたいと思う。そして5年後、10年後に再度読み返したときにどうなっているか。非常に(僕個人は)楽しみである。

第一段階:搭載ハードディスク容量の増大

 最初に発表されたiPodのHDD容量は5GBであった。当時はこれでも、どこまでも広がる荒野のように無限の大容量に思えたのだが、それから時は流れてあっと言う間に160GBまで拡張された。僕が保有する1000枚強のCDを全てリッピングしたデータが凡そ50GB位だから、音楽データに限って言えば160GBでも足りないって人は殆どいないだろう。「音楽を持ち歩く」というポイントについては、既に進化のゴールを迎えているのだと思う。

第二段階:iPodからネット経由で自宅PCのiTunesにアクセス

第三段階:iPodからネット経由で音楽データを購入

 ここの予測は、実現された順番がちとハズれてしまったのだが、この2つに共通するのは「音楽データを持ち歩かなくて良い」というスタイルの始まりの始まりであるという点だ。自分のiTunesの音楽データを、インターネット経由で別のPCから鑑賞できる機能が一時期発表された事があったのだが、その機能が必然的に指し示してしまう余りにも大きなパラダイムシフトにApple社も音楽業界もビビってしまい、まるで「AKIRA」の如くに大慌てで地下深くに封印されてしまった経緯がある。iPodからネット経由で自宅PCのiTunesにアクセスする(故にiPodに音楽データを格納しなくても良い)というスタイルの実現は、音楽業界の反発や無線LAN等のインフラ充実も含めて、実現にはまだ少し時間がかかりそうだ。

 一方、第二段階のその先にあると思っていたiPodから直接に音楽を購入するスタイルは、「専用端末にて専用サイトのみにアクセス可能」というガチガチの仕様にて実現に漕ぎ着けて来た。結構、力技ではある。通信速度の問題もあって、今はまだ「買う事もできる」というオマケ的な位置付けに見えるのだが、このちょっとした始まりが指し示しているのは気が遠くなる程の巨大な未来像なのだと思う。

 今、流通しているiPodの全てに無線LANが搭載され、いつでもどこでも気軽にネット接続できるようになり、個々が再生プレイヤーとして動き始めるならば、これはもう立派なメディアであり、ラジオやテレビに続く新たなブロードキャスト・システムになり得るか乗る可能性がある。携帯電話での着メロ、着うたの活況は、こんな未来像のほんの一部を垣間見せてくれているだけなのかも知れない。

第四段階:iPodからネット経由で音楽データを再生

 ちょっと話が大きくなり過ぎているような気もするが、「音楽プレイヤーとしての究極の形」というポイントから見たiPodの最終形態(個人的な予測)について。

 まず「なぜ人々はCDを購入するのか」という素朴な疑問を考えてみる。答えは「自分の聴きたい音楽」を「自分の望む場所(自宅とか)」で聴きたいからである。逆に言えば、この事が何らかの別の方法で実現できてしまえば(物体に対する所有欲という観点は置いといて)CDを購入する必然性は無くなるのである。

 自宅に巨大CDショップが出来たかのように、膨大な音楽データにいつでも好きな時にアクセスできるようにならないか?。その解の一つとして考えられるのが以下のスタイルである。

 iTunes Store並の膨大な音楽データがiPodに入っている、という状態を想像して欲しい。聴きたい時に、聴きたい場所で、聴きたい音楽をいつでもどこでも聴くことができる。CDをリッピングする必要もない。自宅のPCを母艦とする必要もない。これが僕の想像する「音楽を持ち歩かなくなる日」である。

 もちろん、ここまで進化して来るとこれまでの「音楽を購入する」という概念がかなり希薄になってくるはずである。音楽を所有するのではなく「音楽を聴くためにお金を払う」という・・・あれれ、演奏してお金を稼ぐというミュージシャン本来の姿に近くなってくるから面白い。



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Y.YAMANAKA(yamanaka@os.rim.or.jp)