エイジア最終決着

2007/03/12


 エイジアの来日公演に行って来た。な、な、なんと今回はオリジナル・メンバー勢揃いなのである(再結成エイジアの公式ページ)。現在も活動中の本家「エイジア」は一時的に活動を休止し、オリジナル・メンバーによる再結成ツアーなのである。エイジアを知る者にとっては「わはははは!」であり「むむむむむ?」なのである。

 21世紀も数年が過ぎて、今この時期にオリジナル・メンバーってのが感慨深いと言うか、根拠が薄いと言うか、明らかにロートルファン向けの荒稼ぎツアーと言うか、それでもこの面子での演奏はこれが最後だろうし、様々な意味を含めて良くも悪くも複雑な心境ではある。大事件だ!って意識はあるのだが、手放しで喜べないのもこれまた事実。せめて10年前なら、少なからず意味が違ったであろうこの再結成。面倒くさいので説明は端折るが、この4人がエイジア結成までに辿って来た道、エイジアの辿った道、そしてエイジア解散・・・ってか解散はしてないのか。主要メンバーが抜け、復帰し、また抜けて、ゲストで参加して、そんなプログレ人脈にありがちな経歴を振り返って、そして改めて今この4人なのである。

 そういう21世紀のエイジアについて、「存在意義が全く感じられない」という思いと「これを観ずして何がエイジア・ファンか!」という思いの死闘、葛藤の末、結局行く事にした。チケットが取れちゃった、ってのもあるのだが、あの作品群が持つカタルシスをオリジナル・メンバーの演奏で味わってみたいという気持ちが最後の一押しになった。もちろん、怖いもの観たさもある。題して「エイジア祭り」。良いじゃないのそれで。なんで自己納得の理由を考えなくちゃならんのだ?(苦笑)。

 会場は渋谷C.C.Lemonホール。昔の渋谷公開堂である。ネーミング・ライツのシステムそのものには賛同しないでもないのだが、サントリーもよりによって、なぜ「C.C.Lemon」を選んだのだろう?。「伊右衛門ホール」とかの方がよっぽどマシだと思うのだが。

 閑話休題。開場30分前にホールに到着。予想通り、観客の平均年齢は異様に高い。たぶん20代は皆無、30代も少なそう。圧倒的に管理職クラスの「昔、ロック大好きでした」系のオジサマが多い。ネクタイ着用率も高い。そうそう、今日は平日なのである。一人客も結構な比率に見える。なんだろな、各人各様の思いで、エイジアに落とし前を付けに来たのだろうか。

 開演時刻を少し過ぎ、「威風堂々」のBGMの中エイジアのメンバーがステージに登場。第一印象は、メンバー4人それぞれの容姿への違和感だ。

 ステージ向かって左側にギターのスティーブ・ハウ。僕は学生時代にイエスとエイジア(ゲスト参加)の来日公演でハウを目撃したのだが、その時から既に容姿の鳥類化と言うか、仙人化が進んでいて、その流れは今も確実に進行中であった。ギターを抱いた死神博士。

 ステージ中央後方にはドラムのカール・パーマー。この人、70年代後半(Worksの頃)から容姿が全く変化していない。曰く、短髪で筋骨隆々。確か柔道か空手を嗜んでいるんだっけか。ドラムキット一帯だけがタイムスリップしている感じ。ハウとの遠近感が凄まじい。

 ステージ右側はキーボードのジェフ・ダウンズ。なんつーか、体系も顔付きも陽気なオジサマといった感じ。シンプルな半袖シャツをラフに着ていたからかも知れない。前回の来日時はもう少しマシな格好をしてたように思うのだが・・・。必要以上にキーボードを並べてくれてて嬉しい(笑)。

 そして中央はボーカル&ベースのジョン・ウェットン。はて?ウェットンはどこだ?と思わず目線を彷徨わせてしまう程、ウェットンは太っていた。激太り。学生時代のELPの来日公演で、グレッグ・レイクの激太りにショックを受けた事があるのだが、イギリス風テナー・ボイス且つベーシストはかくもこういう運命なのだろうか?。結局、その容姿と僕のイメージの中のウェットン像があまりにも違いすぎて、コンサートの最後までその違和感が頭を離れなかった。あの人はホントにウェットンだったんだろうか?(苦笑)。

 そんな僕の混乱を無視するかのように、一曲目「Time Again」の濃いイントロが始まる。手堅い演奏、しかし(当たり前だが)全盛期のドライブ感はそこには無い。ステージ上のメンバーの容姿がどうしてもエイジアに見えない(カール・パーマーを除く)事も手伝って、いまひとつ心から乗り切れない自分がいる。

 一方、会場は一曲から総立ち。がしかし、立ったは良いがどう盛り上がれば良いのか分からない風のサラリーマンの姿が目立つ。棒立ち。恥ずかしそうに手拍子なんかしちゃったりして。でも、決めのフレーズはほぼ全員が理解していて、2曲目「Wildest Dreams」の掛け声"they fight!"や"for king!"は100点満点。そして、ウェットン(らしき人物)がMCでこう言う。

「キミタチサイコーダヨ」

やっぱ盛り上がる会場。不思議な光景である。

 スティーブ・ハウの定番アコースティック・ソロのコーナーを挟んで、ウェットン(らしき人物)のMC。「かつての僕らは・・・」みたいな昔話に、うんうん、そうそう、随分と昔の話だよねえ・・・と耳を傾けていると、話の終わりに「ランバウ!」と叫んだ。むむむむむ?と思うや否や、ハウがイエスの「ラウンドアバウト」のイントロを演奏し始めた!。あわわわわわ・・・と泡食ってる暇もなく、そのまま4人全員で演奏。もちろんウェットン(らしき人物)がボーカル、ドラムはパーマー、キーボードはダウンズなのである。なんなのだこれは〜・・・思考停止。

 「ラウンドアバウト」完奏。続けて、今度はパーマーのMC。この人が喋る姿をあまり見たことが無かったけど、なんかイイ人っぽさが溢れている。そして予想外に声が高い(笑)。なんてニヤつきながらボンヤリしていると、今度は「庶民のファンファーレ」のイントロが!。およよおよよ・・・と慌てふためく僕を残して、これまた4人全員で演奏。ハウのギターソロまでフューチャーされてる。なんなのだこれは〜・・・思考停止。

 「庶民のファンファーレ」完奏。再びウェットン(らしき人物)のMC。目の前で起こっている現実に、思考が追い付いて行けてない僕ではあったが、この流れならきっと次はクリムゾンの「スターレス」あたりが来るんだろうなと想像する。がしかし、始まったのは「クリムゾンキングの宮殿」!!!。おいちょっと待て、この曲がリリースされた頃のクリムゾンには、この4人の誰も関係していないじゃないか!。繰り返しで恐縮だが、ボーカルはウェットン(らしき人物)、ドラムはパーマー、ギターはハウ、キーボードはダウンズなのである。なんなのだこれは〜・・・思考停止。こ〜とぶくりむぞんき〜ん。

 「クリムゾンキングの宮殿」完奏。さて、人間とは面白いもので、あまりに自分の理解を超えた出来事が続くと、世の中そういうモンかなあという気持ちになってくる。そういう訳で、最後に「ラジオスターの悲劇」が出てきた時には、すっかり楽しんじゃってる自分がいた。ダウンズは80年代風のキンキラ・ジャケットとサングラス姿で登場。ウェットンは歌出だし部分のラジオ風を再現するため、拡声器を持ち出してきた(個人的には「リンゴ・スター方式」と呼んでいる)。もちろん、会場は大ウケ。おぅ〜わっ!おぅ〜わっ!の大合唱。クドいようだがボーカルはウェットンで、ギターがハウで・・・ってもうイイか。エイジア祭りである(笑)。あとで気が付いたのだが、要は各メンバーがエイジアの前に所属していたバンドの楽曲を順に演奏していたのであった。客層を考えてみれば、実に的確なマーケティングではある。

 「Don't Cry」のアコースティック・バージョンや「Cutting It Fine」「One Step Closer」「Without You」などの演奏が続き(結局、1stの楽曲は全て演奏!)、盛り上がり必須の「The Heat Goes On」そして「Sole Survivor」となだれ込んで、ラストは「Heat Of The Moment」で会場大合唱(ホントに歌わされた・・・)で幕を閉じる。最後、メンバー4人が肩を組んで挨拶をするシーンを見て、やはり最後まで容姿の遠近感を抱きつつ、何か解決できないモヤモヤを感じながらも、訳も無く「あー良かったなぁ」という思いがムクムクと膨らんできた。よく分からないけれど、たぶん僕はそれなりに満足したのだろう。なんだかんだ言っても、エイジアの楽曲群はすっかり僕の体に染み付いていて、ミュージシャンとしての現役感覚とか、音楽的な方向性とか、そういうシャラくさいモノを度外視したところに、今回の公演の意義があったのだろうと思う。いいじゃん、それでも。

 確かU2のボノだったかな。ポール・マッカ−トニ−が過去のビートルズ・ナンバーを、それもさほど有名で無い楽曲ですら演奏する姿を「ショパンが自分の曲を自分で演奏する光景」に例えて、コンポーザーが自ら演奏する体験をファンに提供しているのだろうという感想を述べていたっけ。今回のエイジア来日公演も正にこれだろう。ロートルファン向けの荒稼ぎツアーであっても、演奏にドライブ感が無くても、容姿に違和感が合っても、それでも僕はこの機会を与えてくれたエイジアのメンバーに、そして数々の素晴らしい楽曲に対して「ありがとう」と言いたい気持ちでいっぱいだ。



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Y.YAMANAKA(yamanaka@os.rim.or.jp)