ケータイっていったい・・・(怒涛編)



 整理してみよう。ことの発端は3月21日の午後3時頃、友人と共に白馬へスキー旅行へ行った帰り道の車中であった。この2日間、僕のケータイは宿泊先(スキー場)において完全に電波圏外であった。当然、この状態では電話をかけることもかかってくることも無い。それがこの旅行の帰り道、ケータイの圏内に入るや否や電話のベルがけたたましく鳴ったのである。慌てて受けると留守番電話に3件のメッセージが入っていた。日付はその日のお昼頃、全て僕の両親からの伝言であった。内容は3件とも「会社の****部長から至急連絡が欲しいとの電話があった」というものであった。この3件が比較的短い間隔で録音されていることから、ひっきりなしに自宅に電話があったようである。ちなみにこの「****部長」というのは僕が所属する部の部長ではなく、その隣の部の部長。面識はあるが一緒に仕事をしたことはない。よって当然電話を受ける義理も無い。僕の頭の中に「?」が大量発生したのは言うまでもない。

 基本的に僕は休日には仕事の電話を一切無視することにしている。仕事を家に持ち込むのが嫌だ、などと格好良いことを言うつもりは無い。ただ、勤務時間外に仕事をする程、勤勉なサラリーマンになるつもりが無いだけである。仕事は勤務時間内に限定される、というのは契約上もそうなっているし、給料もそれに従って給付されている。単純に僕はその規約を純粋に全うしたいだけなのである。もし勤務体系が変わるような仕事に携わるのであれば、それ相応の契約を結ぶべきだと考えている。 クリアにすべきところはクリアにする。すべてはそれからのはずである。「甘いこと言ってんじゃないよ」という人もいるかもしれないが、これが絶対に譲れない僕の仕事に対する考え方である。僕は仕事ために人生を送る気はさらさら無い。そんな人は必要無いというのであればいつでも解雇していただいて結構、なし崩し的に泣き寝入りさせられるのは御免である。

 この考えが前提にありつつ、受けた****部長の電話。それも休日に、明らかに僕を名指しで探しているようなのである。状況から判断して「これは余程のことだ」と考えるのが普通であろう。なので僕は瞬時に、誰かが事故にあったとか、不幸があったとか、何がなんでもその人に情報を伝えなくてはならない「緊急事態」が起こっているを想定した。あわてて車中から会社に電話を入れると早速****部長が出た。開口一番、馬鹿でかい声で「***のシステムが上手く動いてないようなので君の方から直接客先に連絡を入れくれ」と言われた。緊急事態でもなんでもない。純粋に仕事の話である。 もしやの緊急事態で無くてホッとしたが、それと入れ替わりにムクムクと怒りが込み上げきた。

休日に仕事の電話をしてくるなんて、一体どういう了見なんだ!

会社員は勤務していない時間帯は如何なる拘束も存在してはならないはず。だから「休日」なのである。もし何らかの拘束が発生するのであれば、それは立派な「勤務時間」である。その大前提を無視してのこの電話である。おまけにその主が隣の部の部長。完全にルール違反である。常識が無いにも程がある。こんなアホが部長だから、あそこの部はいつも火を噴いてるんだな。よーく分かったよ。

 そこで「今日は休日なんだよ! ふざけんな!」と言い残して電話を切ってしまえば良かったのだが、そこまでする根性も無い僕は(苦笑)結局、客先に電話を入れることになる。本当のことを言えば、どんな理由があろうとも僕が携わったソフトに関するトラブルには違いない。自分が送り出したものには最後まで責任を取らなければならないだろう。信頼性には絶対的な自信を持っていたが、それでも何が起こるか分からないのがWindowsの世界。万が一、何かあったら間違いなく僕の責任である。そういう後ろめたさというか、責任感というか、後ろ髪を引かれる重いというか、何とも言えない妙な感覚が「まあ、電話するぐらいならいいか」と僕を妥協させたのである。我ながら意志の弱い男である。

 で、車中から客先に電話を入れる。真っ先に出たのは「切れ者」と評判の某F社****課長である。こっちが名前を名乗るか名乗らないかのうちに、不具合の状況を怒涛のごとくまくしたて、こちらの話など全く聞いていない様子である。自分で自分を「切れ者」と思っている人はどうしてこう質が悪いのであろうか。まあ、それは置いといて、それでも訳の分からん話を必死で聞き取り、僕なりに不具合の状況を冷静に分析してみる。どうやらうちのソフトの問題ではなく連携して動いている他社のソフトが悪さをしているようだ。その旨を説明しようと話を切り出したところで、プッツリと電話が切れた。

トンネルである。

 白馬へのスキー旅行の帰り道である、当然その道のりは山また山。トンネルが連続するのは必然なのである。「あ、切れちゃった。電波が届かないもんはしょうがないよなあ(笑)」「僕は長野にいるんだよ。どうしろっつーの?」「大体、休日に電話してくる方がおかしいんだよな」僕のこの発言で車中は俄然「イケイケモード」で盛り上がる(笑)。かといってこのまま放っておく訳にもいかないので、断続的に続くトンネルが終わって、電波が安定する場所まで行ったら、再びかけ直すつもりでいた。

 しかし5分も経たないうちに(トンネルとトンネルの狭間で)またもや携帯のベルが鳴り響く。早速出てみると、なんと馬鹿でかい声の****部長であった。客先から会社に「電話が途中で切れてしまったのでもう一度電話して欲しい」と連絡があったようである。しかし、なぜ****部長が僕の携帯の番号を知っているのであろうか?

 あとで分かったことだが、****部長は客先から電話を受けた後、僕の自宅に再度電話をかけ、両親から携帯の番号を聞き出していたのである。すんなり番号を教えてしまった両親も軽はずみではあった。しかし自分の息子が勤めている会社の部長から直接電話がかかってきて「大至急連絡を取りたいので息子さんの携帯の番号を教えてください」と言われれば、誰だって教えてしまうだろう。いくら大至急と言えども所詮仕事の話である。他人の携帯の番号を聞き出すとは一体どういう神経をしているのか? もちろんこの携帯はプライベートな持ち物である。電話番号を公開する相手を選ぶ権利は僕にある。それを会社の上司(それも隣の部だぞ)だからという理由で、仕事だからという理由で勝手にそんなことをしても良いと思っているのだろうか?

 当然の事ながら自宅の電話と携帯電話では番号の扱いが大きく異なる。自宅の電話は(特に指定しない限り)電話帳を調べれば、または番号案内を使うことで簡単に調べることができる。会社に提出、公開してあるのも自宅の電話番号である。ある種これが「公開されている電話番号」と言える。一方、携帯電話は基本的に個人の持ち物である。自宅の電話が家族のものだとすれば携帯電話は僕個人のもの。この両方を同じように扱ってもらっては困るのである。****部長はこの辺りの認識が全く無いのであろう。「電話だからおんなじだろ」。そういう意識なのだ。常識が無いのにも程がある。久しぶりに心底頭にきた。

 結局、最寄りのサービスエリアに車を止めてもらい、改めて客先に電話をした。まあ、いくら騒いだところで僕は長野にいるんだから究極的にはどうしようもないんだな、これが。だからあくまでこれは客先に「対応する姿勢」を提示したに過ぎないのである。個人的には、何でこんな意味の無いことをしなくちゃならないのか甚だ疑問ではある。帰宅後、携帯の電源を切ったのは言うまでもない。

 ここから後日談である。翌々日、会社に出社してみるとそれまで知る良しも無かった事が徐々に分かってきた。

 まず、なぜ関係の無い****部長が僕に電話をしてきたのか?これは客先のほうでトラブルが発生したとき、最初は直属の部長に連絡を試みたが捕まらず、次にプロジェクトのリーダを探したがこれも駄目、いろいろ探してみたのだが関係者は誰も捕まらず、たまたま別件で客先と面識があった****部長に連絡が行ってしまったそうである。それも自宅に・・・(苦笑)。そしてわざわざ会社まで出向いて、僕と連絡を取ろうとしたのであった。そうか、そうだったのね。ちょっと言い過ぎました。そういうこととはつゆしらず、その件に関しては誠に申し訳ないことをした。でも、携帯の件は全くの別問題。僕は絶対に許さんからね。

 そして、なぜか部の同僚(このプロジェクトには関係無い人)の自宅にも連絡が行ったらしく、なんと休日であるにも係わらず客先まで出向かされたというのである。どうやら「鶴の一声」でこんなアホな事になったようなのだが、ちょっと考えればプロジェクト要員で無い人が行ったところでどうなるもんでは無いことは分かりそうなもんである。これも客先に対する「ポーズ」のつもりなのであろうか? 逆に失礼に当たるんじゃないのか? こんな当たり前のことも分からんような人が命令を出す立場にいる僕の会社。全く情けない話である。なんで、僕に負い目を感じさせるような事ばっかりやってくれるかなあ。

 また、****部長は社内の誰それ構わず僕の連絡先を聞きまわっていたようで、突然の事に驚かれた方もいたようである(そりゃ何事かと思うわな)。そんな中、僕の携帯の番号を死守していただいた方には慎んでお礼を申し上げます。携帯の番号を公開する人を見極めた僕の目は節穴じゃ無かったのです。この世知辛いご時世、まだまだ信頼すべき人がいるということに涙を禁じ得ません(涙)。ありがとうございました。

 ご迷惑をおかけした方々には慎んでお詫び申し上げます。今度、みんなでパッとやりましょう。ね、ね、ね。

 結局、今回の不具合はこちら側の問題ではないことが判明した(ほら見ろ!)。しかしこの騒動が引き金になったのか、土/日曜日もサポート体制を整備するようにとの要請が客先からあった。勝手に大騒ぎしておいてそんなことを言う方も勝手だが、それを承諾したうちの上司も勝手なもんである。休日に電話がかかってくるだけで不愉快なのに、こんな用件に僕が「OK」を出す筋合いは全く無いのだが、この話を聞いた時点で既に「NO」とは言えない状況にまで話が進んでいたのである。仕方なく(罪滅ぼしの意味も込めて)一ヶ月だけ、交代で土/日を会社待機とすることにした。以前あれだけ「勤務時間外の拘束」について意義を唱えたにも関わらず、ちっとも学習してくれていないんだね。一人で怒って馬鹿みたいである。

 一ヶ月、一ヶ月だけである。それ以上は絶対やらんぞ! 延長なんて話が出ても知らんからね。僕はサポート業務をするためにこの会社にいるんじゃないのだ。どうしても強要するのであれば、こちらにも考えがある。働き口なんて選ばなければいくらでもあるんだよ。はっきり言ってこんな馬鹿な上司にはほとほとウンザリである。

とりあえず、近々に携帯電話を買い換えなければ・・・