iMacに対する公式見解



 今更だとは思うが、個人的な確認の意味も含めてiMacについての公式見解をここに記しておくことにする。

 僕が、初めてiMacの存在を知ったのは去年の夏の頃だったろうか。それはニュースサイトでも雑誌の記事でも無く、たまたま米Apple社のホームページを覗いていたときのことだった。フロントページが現れるや、以前見たときには無かった変な青い物体が右上の方に小さく掲載されていることに気が付いた。こりゃなんじゃらほい、とその部分をクリックするとページが切り替わり、画面に大きくiMacの筐体が表示されたのであった。その時点で「Hello Again」とか「Whoa」などのコピーがあったかどうかはもう覚えていない。とにかく青くて丸っこいパソコンのようなものを、そこで初めて目の当たりにしたのである。

 この数ヶ月前まで、Apple社は創設以来最大のピンチに陥っていた。市場予測を誤ったための大量の不良在庫と慢性的な品不足、インターネット時代への明らかな乗り遅れ、MacOSは不安定度を増し、次世代OSと称されたCoplandはあいかわらず発表される気配が無かった。そんな中、Apple創設者の一人である伝説のわがまま男、スティーブ・ジョブス氏が暫定CEO(なんじゃこの役職?)としてAppleに電撃的に復帰、かつての黄金時代を蘇らせるべく最後の奇跡を起こそうとしていた。ジョブスが就任してからの新生Appleは今後の企業戦略として以下の4つのコンセプトを打ち出してきた。

  1. プロシューマ用デスクトップマシン
  2. 最強のノートブック
  3. 安価なコンシューマ向けマシン
  4. より軽量なポータブルマシン

 以上の4つにターゲットを絞り、生産ラインを簡素化、効率的に開発を進めていくという方針である。上記のうち(1)(2)はこの時点で、PowerMac G3、PowerBook G3によって既に結実していた。生産ラインの簡素化は、Apple集落の一要因となっていた膨大な不良在庫と慢性的な品薄状態を解消するという狙いがあった。過去のモデルを逐次生産中止にし、複雑怪奇なまでに膨れ上がったマシンのラインナップを整理統合していった。これに伴い、長らくコンシューマー向けマシンとして親しまれてきたPeformerシリーズは完全に姿を消した(確かNewtonを切り捨てたのもこの頃のような・・・)。

 その結果、当時市場に流通していたマシンはPowerMac G3とPowerBook G3だけになっていたと言っても過言では無い(というか実際そうだったのだ)。もちろんG3マシンは順調に売れ続けていたが、それはあくまでもPowerMacシリーズの後継機種としての存在。誤解を恐れずに言えば単にCPUが早くなっただけであって、Apple社にとっての「ブレイク・スルー」という程の物では無かった。

 そんな中、Peformerに代わる次世代のコンシューママシンへの期待は日に日に高まる一方であった。ネット上では毎日のように、そのマシンについて夥しい数の情報が乱れ飛んでいた。しかし、それらはすべて推測もしくは未確認情報ばかりで、核心を突いていそうなものは殆ど無かった。そんなこんなで詳細は分からないものの、とにかく何かしらのコンシューマ向けマシンが投入されるらしい、という噂だけは常々耳にしていたのである。

 そこで突然発表されたのがiMacであった。発表直前になっても半ば恒例となっているリーク情報は殆ど無かったので、そのインパクトたるやかなりのものがあった。出るぞ出るぞと言われ続けていたAppleの隠し玉が、ついに放たれた瞬間であった。しかし、僕がiMacを初めて目にしたときの第一印象は

「なんじゃこりゃ?(溜息)」

 であった。その登場は確かに斬新であった。特に、その画期的なデザインは今までのパソコンのイメージを覆すに充分であった。ボンダイン・ブルーと呼ばれる美しい青色で彩られた半透明の素材はそれだけで人目を引き、丸みを帯びた可愛らしいボディは、ただ単に奇をてらっただけの産物ではなく、コンシューマ用パソコンとしての操作性とデザインとの調和を可能な限り追求した結果の現れである。それは初代MachintoshやPowerBook100、IBMのThinkPadやNextCubeに並ぶほどのデザイン的インパクトであった。近年、ここまでデザインにこだわったマシンは無かったであろう。一目見ただけでこれは「大ヒットするマシン」であることは明白であった。

 しかし、見た目以外は特に画期的では無かったというもの事実である。発表された詳細を少しでも読めば、結局これは既存のG3マシンをカラフルな筐体でラッピングしたものに過ぎない、ということはすぐに分かる。もちろんUSBの採用やフロッピードライブの廃止、CHRP技術を元にしたROMイメージファイルなど、あちこちに進歩的な変化は見られる。しかしこれらはすべて既存技術であり、非常に無難な進歩であると言える。

 iMacのキャッチコピーは「Hello Again」だった。これは初代マッキントッシュのキャッチが「Hello」だったことに由来している。世界初のユーザフレンドリーなコンピュータ、今ではすっかり伝説となっている初代マッキントッシュが登場したときの衝撃はかつてスティーブ・ジョブスが言っていた「めちゃくちゃすごいマシン」という表現に集約されるだろう。そのコンパクトな筐体、洗練されたGUIによる直感的なインターフェィス、何よりも真の意味での「パーソナルなコンピュータ」という概念それ自体が画期的だったのだ。このマシンの登場でコンピュータ業界の様子は明らかに一変した。これが無かったら(たらればではあるが)、今のコンピュータ業界も様子が違っていただろう。とにかく目ん玉が飛び出るほどのインパクトがあったのである。Machintoshの登場はAppleにとっても業界にとっても真の意味での「ブレイク・スルー」だったのである。再び「Hello」という言い回しを使うことによって、初代マッキントッシュの再生、あの栄光をもう一度、という思いの表れだっだのだろう。

 そういう意味では(比較しちゃいけないのかもしれないが)やはりiMacは「ブレイク・スルー」という程の物では無かった。もちろん発売以来、爆発的な売り上げを記録している(発売以来15秒に一台が売れている)のは事実だし、今、パソコンを購入したい人がいるとすれば、僕は間違いなくiMacを勧めるだろう。このマシン自体には殆ど文句の付けようが無い。素晴らしいマシンである。しかし、僕は初めてiMacを見たときに反射的に「なんじゃこりゃ?(溜息)」と思ってしまったのある。ハード的にもソフト的にも非常に無難にまとまっているということが、何となく「見た目で上手くごまかされている」ような気がした。要はびっくりしなかったことにびっくりしたのである。SunのCEOであるスコット・マクネリー氏はJiniの発表をした際、iMacを「アイ・キャンディー (見た目がきれいなだけのマシン) 」と評した。独自のNC路線を目ろんでいる真っ最中だということもあるが全く的を外した発言でも無いだろう。はっきりしている事はiMacは優れたマシンだが、「めちゃくちゃすごいマシン」では無いということだ。

 カラーバリエーションも5色になって、今後もしばらくiMacの人気は続くだろう。iMacを購入したうちの23%が初めてパソコンを購入した人、との調査結果もある。これはもう「Macもいよいよ家電になっちゃったのだ」ってことなんだろう。そういう時代なんだと言われればそれまでなのだが、個人的には「そんなこと本当に実現できるのか!?」っていうような夢のような計画をぶち上げていた(そして実現しない)頃のAppleが懐かしかったりもする。基本的に馬鹿げたことを真面目にやってる人が好きなんだな、僕は(笑)。OpenDoc、CyberDog、ProjectX、Copland、Gershwin、Knowledge NavigatorやPinkOSなんてのもあったな。報われなかった夢の技術に合掌。