夢の個人情報携帯端末



近頃はPDA(Personal Degital Assistant)の業界は花盛りである。PDAとは日本語では個人情報携帯端末などと記述される。ちょっとしたメモを取ったりスケジュールや住所録の管理などを行うことに特化した小型コンピュータ。(大昔のポケコンとかゲームボーイとかは別だけど)ものすごく大ざっぱに言えば「電子的なシステム手帳」みたいなものである。

日本のPDAという分野では長い間シャープのザウルスが一人勝ち状態だったのだがマイクロソフトによる小型端末専用のOS「WindowsCE」が発表されてからというもの各社一斉にCE対応機種を投入してきた。また、普通のパソコン(Windows95搭載)の小型化を進めた東芝のリブレットのようなマシンも登場。まさにPDA戦国時代の幕開けである。分厚いシステム手帳とノートパソコンの隙間の新しい分野が確立しつつある時期なのだろう。

元々PDAという言葉はAppleが開発した小型携帯端末「Newton MessagePad」の発表の時に初めて用いられた言葉である。残念ながらこのマシンを実際に触ったことが無いのだが、その機能、特に専用OSは非常に洗練されているように見えた。普通ならすぐれたGUIであると評判のMacOSをそのまま(もしくはサブセット化)して搭載しようと考えるのが普通だと思うのだが、Appleはデスクトップ用のOSを携帯端末に使用するのはやはり操作に無理があると察して(それを察しなかったのはWindowsCEである)携帯端末用に最適化された全く別のオペレーティングシステムを一から開発したのであった。このあたりのエピソードには全盛期のAppleらしさを感じる。最初にぶち挙げた目標としてのNewtonは非常に魅力的なマシンだったのだが、発表当初はあまりにも動作速度が遅く、特に日本語処理ではかなりのストレスを感じざるを得なかったようだ。正式には日本語版のマシンが発表されなかったこともあり、僕個人としては購入するまでには至らなかった。

しかしながらその後、Newtonは少しずつ進化を遂げて、数年後ついに「Newton MessagePad 2000」というある意味でNewtonの完成型とも言えるマシンを発表した。OSのメジャーバージョンアップ、マシンスペックの大幅な改善、筐体デザインの見直し等、やっと当初の目標に近い「使えるマシン」になって帰ってきたのだ。日本語処理においても(ソフトウェアでの対応ではあったが)ストレスを感じさせない操作性を実現したということだったのでわくわくしながら日本語版の正式発表を心待ちにしていた。もちろんすぐさま購入するつもりだったのだ。

しかしその直後、ご存じのようにApple社内部で大異変(もうくわしくは書きませんが)が起こりすったもんだしているうちにNewtonの開発部署ごとAppleからスピンオフ(というよりは切り離された)させられてしまった。Newton開発専門の会社として独立したのである。しかしまたその直後、すぐさまその会社はAppleに連れ戻されてしまった(なぜ?)。元の鞘に収まってしまったのである(素人目に見てもよくわからん行動であった)。しかしまたまたその直後、突然に「今後、Newtonの開発は取りやめる」という発表がなされた。いったん切り離され、すぐに連れ戻され、そして潰されたのである。何がなんだかわからないうちに元祖PDAはこの世から無くなってしまった。何なんだ一体これは? 結局、僕はNewtonの購入を断念せざるを得なかった。

僕はヒューレット・パッカード社のHP200LXという小型端末を使用している。これを購入した当時は余程の好き者でない限り個人用の携帯端末なんて持っていなかった。ノートパソコンでさえまだ珍しく、IBMのThinkPadが登場して話題を振りまいていた頃である。そんな中、僕がHP200LX購入に踏み切ったきっかけは、とにかく「分厚いシステム手帳を持ち歩くのが嫌」だったからに他ならない。どんなに立派な(牛革製の高価な)手帳でも、中身はどうしたって紙である。当然の事ながら、そこへ書き込む為には何かしらの筆記用具が必要になる。これがボールペンなどの一端書いたら消せない物で記入した場合、間違えてしまったら斜線引いて消すか紙を取り替えるしかない。また、これが鉛筆のような消せる物であった場合でも、消しゴムなども持ち歩かなくてはならないし書いたり消したりしているとどうしても紙がヘナヘナになってしまう。個人的な用途として、ちょっとした時間などに書き込む事が多かったため、どうしても乱雑な走り書きになってしまう。おまけに小さい面積に小さい字で書かなければならないので、その内容は最終的には収拾が付かなくなってしまう。ときどき物凄く小さな字できれいにびっしり書き連ねている人(とくに若い女性)を見かけるがあんな神業は到底できない(一体何を書いてるんだろうか?)。要は情報を格納する媒体が紙であったこと、ネグロポンテ風に言うなれば、システム手帳に含まれる情報が「アトム」であることがどうにも満足がいかなかった。

さらにいうと、システム手帳って以外に重いのである。たかが紙だと侮る無かれ。ちょっと手にした時はそれほどでもないのだが、いつも持ち歩くとなるとそれなりにドッシリしている、という微妙な重さなのだ。鞄の中に入れっぱなしにして、常時持ち歩くとなるとそれなりに頑丈な作りも要求される。頑丈なシステム手帳は必然的にその素材が重いものにならざるを得ない。逆に軽い物はどうしても柔ということになる。軽い金属製(アルミ、マグネシウムなど)システム手帳を探してみたがなぜかそういう物は存在しないようで、だいたいが革製かプラスチック製である。

そんな不満を払拭するために思い切ってシステム手帳から携帯端末に乗り換えることにした。このとき数は少なかったが、数社からいくつか(機能の差はあれど)の個人用携帯端末(のようなもの)が発売されていた。当時は正にザウルス一人勝ち状態の時期。無論、リブレットもCEマシンも無かったころである。

購入の条件として挙げていたのはまず、システム手帳以下の重量であること、PIM機能(時間になるとアラームなどで通知してくれる)が使えること、価格は10万円以下、電池の駆動時間(最低でも24時間)、そしてできるだけ見た目が格好良い物(笑)といった項目であった。そんなこんなでいろいろ考えた結果、満点では無かったものの重量、電池駆動時間、機敏な動作という点で一歩先(一昔前?)を行っていたヒューレット・パッカード社のHP200LXに決定したのである。全然関係ないがヒューレット・パッカードの本社が家からあるいて5分のところにあったのも理由の一つかも知れない。なんとなく親近感を抱いていたのは事実である。

このHP200LXが他のPDAと圧倒的に違うのは、純粋にパソコンであるということ、つまりDOS互換マシンであると言うことである。基本的にDOSのソフトならなんでも動いてしまうというわけである。もちろんDIRやCOPYなどのDOSコマンドが使えてしまう。少しでもDOS時代を知っている人なのであれば、その取っつきやすさは格別な物がある。1から操作を覚えなくても良いのだから。

感心(感動)したのは内蔵ソフトの素晴らしさである。アドレス帳、スケジューラ、メモ帳、ファイラ、計算機といった驚くほど単純かつシンプルなものなのだがその割り切り方、むやみに高機能を追わない姿勢はことごとくツボを得ていた。もちろんシンプルな分、動作も機敏である。ソフト屋のはしくれとして、この潔さにはほとほと感服した。ここまでくるとある種の芸術である。いつの日か、こんな「シンプル・バットビューティフル」なソフトを作ってみたいものである。

おかげさまで今ではどこへ出かけるにもこのマシンを持ち歩き、これ無しでは生活に支障をきたすほど使い倒している。正に携帯情報端末としての役割を遺憾なく発揮しているのだ。そんなこともあり最近のWindowsCEマシンには全く触手が動かない。余計な機能ばっかり豊富で、肝心の「使いやすさ」はないがしろにされているような気がする。どんなに高性能、高機能でもマッチポンプじゃ意味がないのだ。

そんなことを踏まえて、自分勝手に「こんなマシンがあったらいいなあ」というものを考えてみることにした。まず初めにHP200LXを補足していくことにする。

HP200LXの最大の長所であり短所であるのは「旧式のDOSマシン」であるということである。今や世間はインターネット時代、取り扱う文書ファイルはプレーンなテキストファイルからHTML形式に移行しつつある。残念ながらHPの環境ではHTMLファイルを閲覧することはできない。時代がそうなったとはいえ、これはちょっと残念な部分である。

例えばこんな環境が理想である。デスクトップパソコンに接続されたドッキングステーションに小さな携帯端末を置くとパソコン側で端末がドライブとして認識される、つまり外付けディスクと同じ感覚である。もちろんこれはダイナミックにマウントしなくてはダメ、再起動が必要だなんてもっての他である。で、パソコンが休んでいる時間(会社の昼休みとか)にブラウザの自動巡回機能で時間になると指定したWEBページ(ニュースサイト等)が自動的にダウンロードされる。ページごとダウンロードすれば携帯端末側でインターネット接続する必要がなくなる。端末には必要最小限度の機能に絞った滅茶苦茶高速なブラウザ(というかビューワ)が搭載されていて電子ブック感覚でその日のニュースなりを閲覧することができるこうすれば退屈な通勤時間の間にオフラインでWEBページを見ることができる。毎日の情報をオンラインでチェックする時間をとるのはなかなか難しいのでこれは便利だとおもうのだがどうだろうか?ついでにドッキングステーションに接続時に自動的に充電されているとうれしい。

できれば最低限の通信機能、つまりメールの送受信ぐらいは自動的にできないだろうか?専用のメールチェックボタンを押すと、自動的にダイアルアップ接続し巡回したら自動的に切断してくれる。送信もボタン一つでできる。もちろんモデムや電話機能はマシン内蔵。ケータイとPCカードモデムを接続して不細工なケーブルを繋ぐなんてことはしたくない。通信機能はメール限定ということで十分だと思う。赤外線通信はいるかなあ?

マシン筐体の大きさはB5の半分ぐらいが欲しい。厚さすばりは1.5cm以下。これ以上大きくても小さくてもだめ。リブレットの超薄型版と考えてもらえればイメージが沸くだろう。これはディスプレイとキーボードの大きさを考慮した大きさである。

画面はモノクロでも良いが表示面積が大きいこと。マシン幅いっぱいの画面のほうが見た目もすっきりして格好良い。(リブレットの画面なんて冗談かと思ったよ)

キーボードは何とかブラインドタッチができる程度の大きさ、キーピッチが望ましい。モナイルギアのキーボードなどそれに近いかも知れない。

あと、各種ソフトを一発で起動するためのショートカットボタンなんかがあったら便利だ。これはHP200LXの受け売りの機能。使う用途なんてだいたい決まっているのだから。

あとポインティングデバイス(マウスカーソル)は実装しない。トラックパッドとかボールとかいろいろあるけどキー入力で全部操作できるのが好ましい。この辺は携帯用として完全に割り切る。ドラッグ&ドロップ機能なんて絶対必要ない。ザウルスみたいなペン操作タイプも悪くはないが必ず両手が必要になるのであんまり好きではない。片手でもなんとか使えるというのが理想である。

動画処理、音声処理、その他余計な拡張機能も不要。WORDやEXCELを使いたいという人もいるかも知れないが、そういう人はノートパソコンを使えばよろしい。あくまでも個人の情報を管理するものに特化すること。テキストファイルとHTML形式ファイルの閲覧、それに基本的な機能が使えればそれだけでかなりのことができる。

重さは500g前後が限界。材料はできれば金属がよろしい。アルミかマグネシウム合金かそのあたりだろう。鞄の中に入れておくって事はかなり頑丈でなければならない。落としたぐらいでは壊れては行けないのだ。

電池駆動時間は一回の充電で最低でも24時間は必須だろう。もちろん長く使えるに越したことはない。あと、単三乾電池でも駆動可能であること。これなら緊急時でもコンビニなどで購入することができる。

内蔵ソフトはシンプルでツボを押さえた物にする。アドレス帳、スケジューラ、メモ帳、簡単なデータベース、高速エディタ、HTMLビューワ、ファイラ、電卓、時計、これだけで十分である。

搭載するOSは完全に携帯端末専用に特化したものを開発する。そしてOS、内蔵ソフトのソースコードは完全公開し、ソフトの開発キットも無料で配布する。ソフト開発者に啓蒙することができなければ、そのプラットフォームは絶対に繁栄することはない。

あ、あと洗練されたマシンデザインであること。VAIOはなかなか頑張ってると思うけどまだまだ改善の余地はある。格好良くないマシンなんてそれだけで使いたくなくなるからね。

まとめると、筐体は金属、大きさはB5の半分で厚さ1.5cm以下、重量は500グラム以下、マシン幅いっぱいのディスプレイと操作性の良いキーボードを搭載、内蔵ソフトは機能を絞った軽いもの、HTMLファイルを閲覧でき、通信機能はメールのみ。モデム、電話機能は内蔵、独自開発の専用OSでソースコード、開発環境は公開する。そしてイカしたマシンデザイン。さあ、どうだ。どこでもいいからこんなマシンを作ってみないか?

IBMよ、安易に妥協した小型マシンを作る気はないと言ったな。ならば「妥協しない小型マシン」を作ってみたらどうか?今のままでは、VAIOへの負け惜しみにしか聞こえないぞ。えっ? PalmPilotをOEM供給するからいいってか!

そりゃないでしょ。