音楽という魔物 (3:Beatles Best)



 ビートルズにはまったことがある人は絶対に自分なりのベストアルバムを作った事があるはずだ。カセットテープに自分の好きな曲を集めて、自分で聴くのはもちろんそれを人に無理やりあげたりもする。「自分はこう選ぶ」ということでその人のビートルズに対するスタンスや趣味が滲み出てくるので意外と人の作った独自仕様のベストアルバムって面白かったりする。

 もちろんビートルズには通称「赤盤・青盤」と呼ばれるオフィシャルなベストアルバムが存在する。赤盤には比較的初期の音源が、青盤には後期の音源がLP・CDともに2枚分に詰め込まれている。何を隠そう僕が最初に聴いたビートルズのLPは「赤盤」だったのだ。ベストアルバムだとは知らずに「駄作が一つも無い!」と呑気に思っていた事を思い出したりもする(^_^;)>。このベストアルバム、これはこれでそれ相応の選曲になっているとは思うのだが如何せん選曲者がジョージ・ハリスン(!)だったため「?」と思うような曲がこっそり入っていたりする。なんで「Old Brown Shoe」が入っているんだ? とか。

 ビートルズナンバーから数曲を選びだすということはファンであればあるほど困難な作業である。はっきりいって捨て曲なんて殆ど無いし、全曲好きなんだから。独自のベストアルバムを作るという事はあえてそこから切り捨てていくことなので、最終的にその人なりのコアなビートルズ像を浮かび上がらせる事ができるのである。で、さっそくコアなビートルズマニア(笑)の僕なりに独自のベストアルバムを作ってみる事にするのだが、今となっては客観的にビートルズを捉える事が出来ない体になってしまっているので、選曲に際してはちょっとずるをして以下の制約を設けることにした。

  1. 各アルバムから1曲ずつ選択(計15曲)
  2. 可能なかぎりメンバー全員が参加している曲を選択
  3. 同点の場合はポールマッカートニーを優先する<(_ _)>。
  4. 曲順は作品(アルバム)が発表された順番とする。

さあ(笑)、さっそく曲目の発表に移りましょう。(これを"なし崩し的"という)

Please Please Me(Please Please Meより)

 これは僕が一番最初に聴いたビートルズナンバーである。そういう意味でも思い入れは強いが、それ以上にポピュラーミュージックとしての完成度もアルバムの中で群を抜いている。わずか3分弱の中に音楽として最高の威力を発揮するための幾つもの技が巧みに盛り込まれている。ハーモニカを使った斬新なイントロ、経過音のぶつかりをスピード感に変える巧妙さ、印象に残るオブリガード、サビの掛け合いに絶妙にからむドラムフィル、抑制を効かせながらもメロディアスなブリッジ部、そして圧倒的な説得力をもつエンディング。それまでのポップスとは明らかにレベルが違うのだ。そういった意味ではこのアルバムからの選曲は比較的楽であった。が、しかし苦しみがなかったわけではない。このアルバムはデビュー作にして既に王者の片鱗を窺わせるような曲がいくつも収録されているのだから。"I Saw Her Standing There"のうねるベースラインや"Twist and Shout"のライブ一発録り等はもはや伝説的ですらある。

It Won't Be Long(With The Beatlesより)

 実を言うとこのアルバムにはそれほど思い入れが無い(笑)。全体的に今一つまとまりに欠けているような気がするのは僕だけだろうか? 勢いと才能に任せて余裕で作ったという趣を感じてしまう。僕にとっては一番聴いた回数が少ないアルバムである。むしろ印象に残っているのはその斬新なカバーデザインのほうかも知れない。かといって各曲が良くないという訳ではない。おなじみの"All My Loving"、ジョージ・ハリソン"初の自作曲"Dont Bother Me"、ただのうるさいロックバンドで無い事を証明した"Till There Was You"マーラーの「大地の歌」に匹敵する(!)と言われた"Not a Second Time"など見どころはたくさんある。

 この曲を選択したのは、そのインパクトのある導入部や絶妙な掛け合いもさることながら、この時期のビートルズスタイルというものを最も良く表している曲だと思ったからである。あのハーフシャドウのジャケットを見る度に、僕の頭の中ではこの曲が流れる。

A Hard Day's Night(A Hard Day's Nightより)

 このアルバムからはこの曲を選ばざるを得ないのではないだろうか。なんてったって曲名がアルバムタイトルになっているのだ。もちろん曲自体の完成度も高いし、一度聴いたら忘れられない不協和音のギターコードから始まるイントロ、印象的なギターソロ(倍速録り!)、見事なブリッジ展開など個人的にも大好きな曲ということで、なし崩し的に決定する。このアルバムの特筆すべき点は初めて「全曲オリジナル曲」で占められたということだろう。"If I Fell"、"And I Love Her"、"Can't Buy Me Love"、"Things We Said Today"など忘れちゃいけない曲がたくさん収録されている。メンバー4人とは別に「ビートルズ」という5人目の人格が確固たる地位を獲得したアルバムと言えるだろう。ジャケットの「煙草をすうジョージ・ハリソン」は当時かなりの衝撃を与えたらしい。アイドルが煙草を吸うなんて事は考えられなかったのだ。

No Reply(Beatles For Saleより)

 「ビートルズ売ります」というアルバムタイトルが自虐的で面白い。クリスマスセールのためにレコード会社からせっつかれて大急ぎでつくったアルバムである。やっつけ仕事で作ったということもあってファンの間ではあんまり人気のないアルバムだが、いやいやどうして結構楽しめる内容になっている。一応選曲としてはこの曲を選んだこの頃から格段に作曲が上手くなるのだが中でもそれが最も某緒に表れているこの曲を選択した。そういう意味でも次点はもちろん "I'm a Loser"である。

 しかし、このアルバムの隠れたお楽しみはカバー曲にある。"Rock And Roll Music"、"Mr. Moonlight"、"Kansas City/Hey Hey Hey Hey"など図らずも基本的なロックバンドとしても一流であることを示す結果になっているのである。

Help!(Help!より)

 このアルバムは悩んだ。お察しの通り"Yesterday"とこの曲と迷ったのだ。でもやはり曲名がアルバムタイトルになっていること、映画のメインタイトルとしては"A Hard Day's Night"よりも格段に作曲が巧みになっていること、"Yesterday"はポールのソロに近いということでこの曲になった。

 ビートルズ音源のCD化に際して、プロデューサのジョージ・マーティンがすべてのアルバムのリマスタリングを行なった。CDではこのアルバムからステレオ収録となる点も見逃せない。マスタリングと同時にビートルズ音源の世界統一化もなされた。それまでは世界各国で勝手に編集盤が作成、販売されていたのである。編集盤ならまだしも、アルバムの曲順、ジャケットを変えたり、アルバム未収録や先行発売されていたシングルを勝手に付け加えたりして「ビートルズのオリジナルアルバム」として流通されていたのだ。つまりアメリカにしかないアルバム、日本にしかないアルバム、ブラジルにしかないアルバムといった感じである。(今やこれらはコレクターズアイテムとして高値を呼んでいる)今から考えると信じられない事だがビートルズ程のバンドでも自分たちの思いどおりの形でアルバムを発売する事ができなかったのである。それが実現するのは(全世界共通の形でのアルバム発売)もう少し先の話である。

Norwooden Wood(This bird has flowm)(Rubber Soulより)

 個人的にこのアルバムは大好きなんである。初期のビートルズスタイルとこれ以降のアバンギャルドなスタイルの混ざり具合が絶妙である。少なくともただのロックバンドというカテゴリーには収まり切れなくなったころの名作である。ここから一曲を選ばなければならないというのは非常につらい。正にドライブ感と言った感じで超カッコいい"Drive My Car"、ほのぼの感と独特の世界観が秀逸な"Nowhere Man"、"Michelle"、"Girl"、"In My Life"などのバラードの逸品、"If I Needed Someone"、"Think For Youself"、"Run For Your Life"などジョージ・ハリスンの大躍進などどこを切ってもおいしいアルバムである。最終的には「メロディーだけでどこまで通用するか」ということを基準にしてこの曲を選んだ。この曲はピアノで弾こうが、オケで演奏しようがその美しさは変わる事が無い。まさにスタンダードナンバーと呼ぶに相応しいし、ジョン・レノンの一面を的確に表現していると思う。(そういえばこのアルバム、あんまりポールは活躍してないなあ)

Taxman(Revolver より)

 このアルバムに関しては意外にもすんなり決まった。個人的にこの曲がめちゃくちゃ好きなのである。ほとんどそれだけの理由。ジョージ・ハリスンの最高傑作は Something でも Here comes the sun でもなくこの曲だと僕は思う。クラプトンと来日したときにも当然演奏されたのだがこれが異常に恰好良かった。こんなにライブ映えする曲はなかなか無いのではないだろうか? この曲をライブで聴けただけで僕は大満足であった。(Let It Beからは一曲も演奏されなかったのは何故?)

 ビートルズとしてはこのアルバムからの曲をライブで演奏することはなかった。しなかったというよりはできなかったのだろう。どの曲も当時のステージ技術では再現できないくらいにありとあらゆる仕掛けが組み込まれている。料理で言うならば「こってり」しているとでも表現すれば良いだろうか。とにかく中身の濃いアルバムである。

Lucy in the sky with diamond(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band より)

 このアルバムでは逆の意味で選曲に困った。曲単位でどうこうというものではなく、アルバム全体を通して素晴らしい作品という気持ちが強いからである。どの曲も完成度についてはこれまでにないほど高いものがある。悩んだ末、仮想消去法(新語か?)で選択した。つまり「この曲が無くてもこのアルバムは成立するか?」という観点から見た場合の、その「不可欠度」で選んだ訳です。そういう意味でこの曲がアルバムの雰囲気を最も伝えていると僕は思ったんですがどうでしょうか? (次点は A Day In The Life)

 世界初のコンセプトアルバムとかサイケデリッックの創始者とか言われているこのアルバムなのだが、前者で言うとベルベットアンダーグラウンドの「バナナ」アルバムやフランク・ザッパ、プリティー・シングの方が時期的にはいし、早いし内容を聴けばわかるのだがそれほどサイケデリッックといった雰囲気を全面に押し出している訳でも無い。このアルバムの凄いところは、それでもその偉大さが語り継がれているというところなのではないだろうか。因みに宇宙探索船ボイジャーはこのアルバムを搭載してついに太陽系を離れた。

Strawberry fields forever(Magical Mystery Tour より)

 このアルバムはそれ自体がベストアルバム的な要素を持っているのでここからさらに選曲するというのもなんだか妙な気分である。個人的には "Your Mother Should Know" が好きなのだがベストアルバムとなるとやっぱりこの曲か。逆に言うとこの曲が入っていないベストアルバムなんて考えられないということです。ある意味ビートルズの代表曲といっても過言じゃないのではないだろうか。

 世界で初めて(本当の意味で)プロモーションビデオが作成されたのもこの曲である。今となってはビデオなんて作られて当たり前の世の中になったがMTVも無かった時代に自らの力で自曲に映像を付けたということはビートルズの讃えられるべき一面である。クオリティーもなかなかで、下手な最近のビデオなど顔負けの斬新な映像世界が繰り広げられている。

Helter Skelter(The Beatles より)

 ホワイトアルバムから一曲を選曲するなんてそんな無茶な事・・・ビートルマニアの間では良くこのアルバムを一枚のアルバムとして完成させていたらどういう選曲になったかといった話題がやりとりされます。2枚を1枚にまとめるだけで喧々囂々のやり取りになってしまうのに1曲を選ぶなんてどう考えても無謀である。曲数が多い事もそうだがこのアルバムはこれといって抜きんでている作品がないところがいいところなのだ。多種多様な曲が混沌としてるところが良いのである。

 でも、あえて選ぶとすればこの曲か(ポール優先の法則適用)。そのインパクトは計り知れない。ポールをバラード歌手と決めつけている輩にはこの曲をお見舞いしてやるのだ。このパワフルなボーカルは僕を熱烈なポールのファンにした最大の理由である。そう、ポールはシャウトすると、めちゃくちゃにかっこいいのだ。後々のハードロックに多大なる影響を与えたということでこの曲を選択する。

 ちなみにこの曲のマスターテイクは7分にも及ぶ大セッション大会であった(アルバムでは巧みに省略されている)。それはもうお祭騒ぎといった言葉では形容できないほどのものでジョージ・ハリスンは途中で演奏をやめ、炎が燃えたぎる灰皿を頭の上に乗せてスタジオを駆け回ったという逸話が残っているくらいであるからその異常さたるや想像を絶する。

Let It Be(Let It Be より)

 発売順でいけば、このアルバムがラストアルバムであるジャケット写真は奇しくも葬儀を思わせるような黒枠で囲われている。「アルバムタイトルになっている」、「ポピュラーミュージックとしての完成度」、「メロディーだけでどこまで通用するか」、「この曲が無くてもこのアルバムは成立するか?」、「この曲の入っていないベストアルバムなんて!」 といった複合技での勝利と言える。今でもこの曲を聴くとしんみりした気分になってしまう。死に瀕した白鳥の最後の叫びのように、荘厳かつ神聖な響きをもつこの曲こそこの偉大なバンドの幕切れを飾るに相応しい。「スタンダードの代名詞」とはこの曲のためにあるような言葉である。僕は「ビートルズの中でどの曲が一番好きですか」と言う質問にはこの曲を答えることにしている。大抵の人はその答えで納得する。

I Feel Fine (PastMasters Volume1 より)

 パストマスターズをオリジナルアルバムとするかどうかについては意見がわかれるところかもしれない。正直な話、発売される直前までは寄せ集めてきな印象しか持っていなかったのでそれほど期待もしていなかった。むしろThis Boy のステレオバージョンがやっと聴けるぞ!とかそういった楽しみの方が優先していた気がする。でも、いざ通して聴いてみるとなんとなくアルバムっぽくなっているから面白い(笑)。ビートルズのオリジナル曲をきちんと残そうという姿勢が感じられて思ったより好盤だった。(その他の編集アルバムは酷いものが多い)

 初期の作品を集めたVolume1からは、キャッチーなこの曲をセレクト。ビートルズとしての作曲活動の中でターニングポイントになった曲と言えるのではないだろうか。Volume2の最初に入っていても全然おかしくない完成度を持っている。(パストマスターズの肝はVolume1と2の狭間にあるような気もする)その成長ぶりはデビュー曲の Love Me Do と比較すればどのくらい作曲が上手くなっているかがはっきりわかると思う。

 だたしこのアルバムには次点がある。I'm Down がそれだ。この曲が録音されたのは奇しくも Yesterday と同じ日。あの静かな名曲とこんな荒々しい曲を同じ日にレコーディングするなんてまったくどういう神経をしているのだろう(笑)。ビートルズ東京公演の最終曲にもなった大ロックンロールナンバーである。僕は1東京公演(966年6月30日)のI'm Downがロック史上最高のライブ演奏だと今でも思っている。(そのくらいすさまじいものがあるのだ)

Hey jude(PastMasters Volume2 より)

 Volume2は結構粒揃いだったりするので選曲に悩むところ。Let It Beはもうセレクトしたので今度はこの曲か(ポール優先の法則適用)。ビートルズの歴史の中でも光と影の頂点を象徴していると思われる曲である。7分半というシングルでは前代未聞の収録時間と7週連続No.1という快挙。ここでも「ビートルズは特別」という認識のもと、歴史的なレコードとなった。しかしそんな華やかな活躍にも係わらず、自らのマネジメント会社であるアップルは腐りはじめていたし、それを誰も救うことはできなかった。4人がそれぞれの道を歩きはじめ、 ビートルズは解散、そして伝説となる。ベストアルバムの最後を飾るに相応しい。

 このアルバムにも次点がある。Revolution はぜひともビデオクリップを見て欲しい。他のビデオはマイムだがこれだけは生演奏を収録していて、レコードよりも全然迫力がある。

選曲を終わって

----- SIDE:A -----

  1. Please Please Me
  2. It Won't Be Long
  3. A Hard Day's Night
  4. No Reply
  5. Help!
  6. Norwooden Wood(This bird has flown)
  7. Taxman

----- SIZE:B -----

  1. Lucy in the sky with diamond
  2. Strawberry fields forever
  3. Hey Bulldog
  4. Helter Skelter
  5. Oh! Darling
  6. Let It Be
  7. I Feel Fine
  8. Hey jude

 面白い事に最初に決めた規則に則って選曲すると全然ベストアルバムっぽくないものになってしまう(笑)。やはりアルバム毎に一曲というのが無理か? そういった意味ではジョージの選曲した「赤盤・青盤」はある意味、見事な選曲に思えてくる。(文句を言って申し訳なかった)これからビートルズを聴こうと思っている人は上記の選曲ではなく素直に「赤盤・青盤」を購入する事をお勧めする。あれは良いベストアルバムです(苦笑)。

はっきり言ってこの企画失敗でした。

 とにもかくにも選曲してみたわけだが、あらためて見直してみるとやはり偉大なバンドだったんだなあと思わざるを得ないですねえ(笑)。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴが一つのバンドに在籍していたってのは殆ど奇跡に近いのではないだろうか。オールスターだよねこれって。このうち誰が欠けても(その割合に違いはあるが)ビートルズとは違うものになっていたに違いない。偶然や奇跡が折り重なった絶妙な化学反応の結果だったのだ。解散してから30年近くになろうとしているが、そのクオリティーは色あせる事が無い。その秘密について星の数程の分析がなされているが、本当の理由は本人たちにも わからないだろう。ビートルズとは歴史的なアクシデントみたいなものだったのだから。

音楽という魔物

 できれば他の方が選曲したベストアルバムも掲載したいと思いますので、興味と時間のあるかたは本サイト宛までお送り下さい。よろしくお願い致します。