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■蘭の会2004年5月号 死紺亭 柳竹さんからのおてがみ■■■■■■

 『オールウェイズ・ルック・オン・ザ・ブライト・サイド・オブ・ライフ』という名曲がある。最近、と言っても時間は経ってしまったけれど、あるスポーツメーカーのコマーシャルに採用されて、メジャーリーガーたちが、曲名と同じサビのフレーズをくちずさんでいたので、ご記憶のむきもいらっしゃると思う。

 この歌は、存在の大きさでは、まさにビートルズに匹敵するコメディチーム『モンティ・パイソン』のメンバーの喜劇人エリック・アイドルに拠るものだ。(ちなみにジョン・レノンは、あるインタビューで、「生まれかわったら『モンティ・パイソン』に入りたいよ」と言っているらしい)。

 この歌は、キリストの受難を、真正面からパロディにした超問題作の映画『ライフ・オブ・ブライアン』の主題歌だ。作ったのは、もちろんモンティ・パイソンの面々。題材が題材だけに、思いっ切り資金難におちいってしまうが、なぜか助け舟を出したのが、ジョージ・ハリソンだったりする。その映画のラストシーンが好きだ。主人公ブライアン(キリストの役どころですね)は、砂漠で十字架のはりつけとなり、途方に暮れる。死を待つしかない。そこへ同じくはりつけになっているのだが、なぜだか陽気な男が、語りかけてくる。「よう、兄ちゃん、どうせ死ぬんだから、めそめそしなさんな。どうせだったら、お日さまのほうを向いていようぜ!」 

 そして、主題歌が、流れる。

 グループのリーダーでもあり、ブライアンを演じたグラハム・チャップマンは夭折しているが、彼のお葬式では、メンバー全員で泣きながらこの歌を斉唱 したという。

 なんて詩情の溢るる人たちなのだろう。ぼくは、この話を想い出すたびに、詩と喜劇に壁なんかないのを、確認する。人生は、愛と笑いの過渡期。どちらが欠けてもダメなんだ。どちらも、ね。

 花として、生まれて、咲いていくのには、根の部分での暗く辛いことなんて、いくらでもある。それでも、忘れてはいけないことがあるんだ。
 

 「さあ、いつでも、人生のあかるいほうだけを、見つめていこう!」
死紺亭 柳竹さんって、どんなひと?■■■■■■■■■

 1973年生まれ。詩人×芸人=喜劇人。SSWS(新宿スポークンワーズスラム)第4次チャンピオントーナメント優勝。これについては『blast』2004年6月号に詳しい。
 詩人・松下真己としては、『詩学』2004年3月号に作品掲載。詩誌などの即売会『TOKYOポエケット』運営。
 SPOKEN WORDSレーベル『過渡期ナイト』主宰。ポエトリーを、実作・実演だけでなく、冷静に“考える”ためのワークショップも開催している。


写真提供 SSWS


■松下 真己(死紺亭 柳竹)さんの詩を読んでみよう■■■■■

 ブラジリアン・カウボーイ
                          松下 真己

 征夷されるべきロケーションの
 アクセントのない「平野」部
 自分がそこで育ったという事柄に
 もっと迅速に 気づくべきだったのだ
 だから自分は この街から
 モールス信号で キワの言霊を送信しても
 外側からの応答を得られなかったってわけさ
 きみの声の「水」は
 まず水質よりもシステムが瓦解していて
 それに気づくのに きみは
 自分が死ぬのよりも速く管理できる。
 素晴らしいこの未来は、何故か「ブラジル」。

 「萌野」と名付けた赤ん坊を
 さて、何と読ませましょう。
 返答次第では
 もう既に 両親という「過去」に成りおおせた
 きみ(自分)を
 怒りやすい老小説家が
 否応なしに ぶん殴る。

 この街を取り囲む高い壁に
 いまや もうきみは 手をかける
 壁は「明日」のように簡単に崩れ去って
 観光地にしかならない おだやかな闇がきみを待つ
 それが(その答えが) きみに架ける 金牛の炎


(完全限定私家版詩集『アメリカ小説全集』1999年刊行より)



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著作権は作者に帰属する/更新日2004.5.15/サイトデザイン・芳賀梨花子