■片野晃司さんって、どんなひと?■■■■■■■■■
片野晃司
「現代詩フォーラム」(http://po-m.com/forum/)管理人。
現在、妻と二個人誌「Tongue」刊行中。
■片野晃司さんの詩を読んでみよう■■■■■■■■■
「舌」
鉛の薄板を何枚も重ねて
空は明るくなるでもなく暗くなるでもなく
湾へ向かって低く伸びる丸みを帯びた舌状台地の乾いた庭、
庭の縁の椎の崖を下ると谷津または谷地、そしてまた舌状台地、
いくつもの舌状台地の庭を横切り、
八重葎
葦、薄、
黒い泥、
いくつもの谷津川または谷地川を渡り、
椎の崖を上るとまた舌状台地、
並行する数百の舌状台地が
砂丘へ向かって座礁する
そのあたりから
舌先を削り
谷津または谷地を埋め
数百組の僕および彼女が住みはじめる
背高泡立草を掻き分け
枕木を並べ
駅を作り
ホームで待つ
数組の僕および彼女
鉛の薄板を何枚も重ねて
空は明るくなるでも暗くなるでもなく
列車はいつまでも来ない
線路が錆び細り
枕木が土に還っても待っている
川はどちらが下流かわからないから不安なのだと
僕および彼女は思う
枝を放り投げ
水面に円を描いて枝が浮く
水は再び静まり
何日経っても
枝はそこにある
何もない場所には
そこにある枝さえも救いだ
並行する数百の舌状台地が
座礁した姿のままで乾いている
数百組の僕および彼女が住みはじめ
数組の僕および彼女が不安になる
叫び声は怖い
声がないのはもっと怖い
台地の舌先を切り
家を建て
坂道の上から三分の一あたりを
僕および彼女がいつまでも登っている
空は明るくなるでもなく暗くなるでもなく
元に戻るのは怖い
戻らないのはもっと怖い
だから
登っているままの姿で
いつまでも坂道にいる
何年でもそこにいる
初出 二個人誌「Tongue」2号
■ふみばこ■
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