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■蘭の会2004年3月号 うみねこさんからのおてがみ■■■■■■

「ジェラスの海」

どうして女流詩人の会、なんてものがあるんだろう。

最初にこの会を知った時の感想は、そんなふうだった。
フリーアクセスとは程遠い。
土俵に女性をあげるのがどうのとか、それとはまた違った地平。
自由であるための奇形。あるいは、異形。

パソコン通信の時代から、この世界の片隅にいる。
その頃出入りしはじめた詩の投稿掲示板に、
まだデビューする前の田口ランディさんが、いた。
ちょうど彼女がその掲示板を去ろうとしているところだった。
ささいな揶揄が傷となり、ひび割れていく過程。
彼女の憤慨。あきらめ。蔓延する無関心。(これが詩を書くということか。)
それは、すべてテキスト化して保存してある。忘れないために。

自分は、詩を書くということ以外、
ネット上に個人情報をほとんど流していない。
性別も実はオープンじゃないんです。
ハンドルだって動物だし。だけど人嫌い、とかじゃないんですよ。
むしろ無防備といっていい。
ただ、当時圧倒的だったランディさんの筆力をも遮断できるほど、
ことばは、強い。その認識は、慎重になるに十分な記憶。

だからすごく不思議だった。
どうしてこの人たちは自分の性をオープンにするんだろう。
自分が閉じている部分に、どうしてこの人たちは胸を張れるんだろう。
何かとんでもなくイイコトがあるとか。
それなら、自分は相対的に何かを失っているのかもしれない。
そう思うとなんだかそわそわする。貧乏性だし(笑)。

これは非常によろしくない見方かもしれないけれど、
このスペースで、なんだかみんな楽しそうだ。
ふだんよりもどこか、解放されてる感じがする。
これはいったいどういうことなんだろう。
世界には男性と女性のふたつの性しかないのに、
半分を遮断した方がリラックスするってこと?

たぶん男性諸氏は違うと思うよ。
男性はね、オスですので、女性の評価が存在価値のコア、なんだ。
女性から褒められ認められればいい。
それがたとえオフィスの片隅でも、気分は百獣の王様さ。
遠いサバンナの崖の上から、世界に向かって高らかに吠える。
なんて単純で、依存する存在。

だいたい男子だけでつるんでる時って、ロクな状況じゃないし。
基本的に、『今からオレらルール破るから』って場合だから。
会社で、学校で、こそこそしゃべってるオトコどもは、
たいていアヤシゲな相談だ。
少なくとも、街角クリーンキャンペーンでないことだけは保証する。

女性たちは寄り添いあう。寂しがり屋だから?か弱いから?
ITという男性社会で、いつのまにかマイノリティだから?
耳にするそんな風評は、どれもどこかにたどり着けない。

私は、わたし。

集団の中でも埋没しない強さ。肩を寄せても溶け合わないこと。
その暗黙があるからこそ、ひとつのフィールドに集まれるのだ。
男たちが小さな部品になっていく隣で、
きらきらと宝石になること。
時には清楚に、あるいはしたたかに。

女性たちは寄り添いあう。
なぐさめるように出会い、踏みしだくように旅に出る。
それを評価していいのか、あるいは批判すべきなのか、
正直、よくわからない。
ただぼんやりと、自分の中でうずまくものがある。

たぶんそれは。嫉妬に近い。

■うみねこさんって、どんなひと?■■■■■■■■■

うみねこ

球速:遅め
球種:少なめ
球春:待ち遠しい
勝負球:実はまっすぐ
フットワーク:羽毛の軽さ
フランチャイズ:ひろしま

胸にカナリアを飼っている。
息苦しい時には歌わない。空が晴れて。風がそよぎ。カナリアは歌いはじめる。
哀しいソプラノで。

【Club Seagull's】http://homepage1.nifty.com/seagull-k/





■うみねこさんの詩を読んでみよう■■■■■■■■■



「ポートレイト」

哀しい事件の起こるたび
想像せずにいられない
あの崩れ落ちる父の母の
それが
自分だったらと

私はまだ失ったことがないから
あるべきものを
まだ失ったことがないから

もちろんいくつかの
出会いは私の手を離れ
しかしそれは一方で
予兆していたことだから

どんな熱い涙もキスも
やがて消えゆくものだったから

――私はまだ失ったことがない
君を
まだ未熟な遺伝子を
   

哀しい事件の起こるたび
想像せずにいられない
その偶然が自分へと降る
突然の午後の電話を

その夜
フラッシュの放列を浴びて
私は見知らぬ男に向かい
憎悪のこぶしを振り上げたのち

真夜中
目につくあらゆる事象に全て
君の名前をかぶせよう

そうして
君の横顔を
写真立てから切り抜いて
片端から貼ってゆくのだ

目に映るすべてのものが君だ
思い付くすべてのものが君の名を呼ぶ

ホームページの表紙にも
ぺたぺたと君を張り付ける
どんななぐさめも拒絶するほど
ぺたぺたと張り付ける

もう君を傷つけるものはないから
もう君を守る必要はないから
世界中の誰よりずっと
君は安全な場所にいるから

そうして
私は君になる
私は君の名前を名のる

人は私を狂っているとささやくかもしれない
そうかもしれない
それはとても自然なことだ

私は狂ってしまうかもしれない
そうかもしれない
それはとても自然なことだ

君の横顔をじっと見つめる
人は私を廃人と呼ぶかもしれない

そうかもしれない
         


■ふみばこ■

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著作権は作者に帰属する/更新日2004.3.15/サイトデザイン・芳賀梨花子