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■蘭の会2003.11月号ちょりさんからのおてがみ■■■■■■

11月5日夜半、ひどい胃痙攣で病院にかつぎこまれる。
点滴と投薬でとりあえず回復し、帰宅する。
この夏から半年以上の通院記録がゆっくり伸びていって、
もらった薬はそろそろ15種類にとどこうとしている。
先月、足をはこんだ都道府県の数、ななつ。
イベント主催がふたつ。出店がひとつ。
友達とよべる人間がみんな去って行ったことに気づく。

「田村さん、あなたは詩というとき、死に近い発音をした」
と、飯島耕一が『浦伝い、詩型を旅する』のあとがきに書いている。
そして飯島さんといえばぼくのなかでは『ゴヤのファースト・ネームは』から、
「生きるとは、ゴヤのファースト・ネームを知りたいとおもうことだ」
ただただ、そのことばにつきる。
生と死の生を最期までほうりださなかったのは山乃口獏だ。
これまでは326や銀色夏生や魚武くらいしか持っていなかったくせに、
最近は、なにかにあせりながら現代詩をすこしだけ読むようになった。
6月から、熱やからだの不調で起き上がれないほどだったのが3回。
もともと標準以下だった体重は8キロ落ちた。
詩はひとの生死をすくうことができるのだろうか。できないとおもう。
けれど、ひとの気持ちをすこし軽くしてあげることはできるような気がしている。

10万人をすくえるのは音楽であって、詩ではない。
だけれども、ひとりをすくうなら詩でもじゅうぶんだ。
ただ、このふたつの発言は、異なる位相にあるということ。
めっきりつめたくなった京都の晩秋の夜気をかきわけながら、
11月9日午前3時、Club Metroから丸太町通りをふたりで歩いて帰る。
このさきがひとつの部屋ならいいのになあ、とおもう。
歩いて1時間ほどの距離でおれとそのひとのあいだは隔てられていた。
またねー、と軽く手をあわせて別れると、そのさきはただの帰り道になった。

ふりかえってみれば、世の中に詩は意外とありふれているけれど、
くそったれな詩に対して罵声をあびせる勇気はどこへいったんだろう。
誰もが一緒になって手をたたきたがる時代になったのかもしれない。
京都という、えいえんの距離感をもった街でも、そこに住むひとは変わってゆく。
「東京へ出てきたら?」という声をよくかけてもらうが、
おれは東京へ行く気はあっても、東京に住む気はないのだった。
この街がじぶんの家なんだとおもう。
死に近い発音で詩といった田村隆一が、「詩は家」と書いたのを読んだ。
やっぱり田村さんは死をなぞるようにその文字を書きおろしたのだろうか。
「生」に「し」という振り仮名をつけてみる。
詩で自分をすくえない人間は、詩なんか書くべきじゃないともおもう。
すこし霧が出てきた。

11月10日、19歳になった。
何年かまえのように「詩が好きだ」とはもうおもっていない。
けれど、おれの行く道も、帰り道も、かならずどこかで詩とつながっている。
そして、すべての道のどこかしらで、あなたと会えたらいいな、とおもっている。



■ちょりさんって、どんなひと?■■■■■■■■■





19歳。京都生まれの、関西弁がしゃべれない関西人。

2002年4月より、若手詩人のコミュニティ「くぐもり」代表。
Verse-Verge賞、ark現代詩大賞、ネット詩コンクールなどの受賞歴をもつ
10代の詩人たち数人によって運営されている。
http://www.fides.dti.ne.jp/~s-sen/

同年10月より、ことばとアートのイベントプロデュース組織「Paorett」代表。
これまでに4種類のイベントを6回主催する。
11月29日(土)には展示とライヴ「KYOTO ART JAM」を開催。
http://mypage.naver.co.jp/paorett/

また、個人としては、47都道府県すべてにことばをとどけるプロジェクト、
「コトバオンザラン」(第一回・東京、第二回は山口を予定)を行ったり、
来年3月末に京都で一週間、個人サイト「かえりみちのはて」と連動して、
インスタレーション個展を開催するなど、関西から企画を発信しつづけている。
http://mypage.naver.co.jp/paorett/chori/


■ちょりさんの詩を読んでみよう■■■■■■■■■

「素晴らしい世界」


「生きててよかった」も
「死んだほうがまし」も
あんまり変わんないよ

道しるべがなさすぎて
おれらは迷うことを知らない
うちに帰ったら裸でねむり
ファーストフードで飢えをみたす
放り出された惑星の気分

コンバースのスニーカー履いて
ワンダフルワールド
コンバースで音、もっと鳴らして
ワンダフルワールド

I wanna be...
そんなたいしたことは望まない
バイトから帰った部屋に明かりが点ってて
あんたがいてくれたら
別に喧嘩しようが
「とりあえずそれが最高だ」って
錯覚でもおもわせてくれるから

おれは世界で起こってることを知らないまま
ゆっくり、間違ったやり方で
大人になっていく
あんたの真似をしておぼえたタバコ
トイレで二回くらい吐いた

ほら、バラエティで人生の大逆転とかあるけど信じない
信じれないんじゃなくて
信じないのが、辛い

コンバースのスニーカー履いて
ワンダフルワールド
コンバースで音、もっともっと鳴らして
ワンダフルワールド
うるさいくらいに
ワンダフルワールド


地下鉄に飛び込む人が増えても
地下鉄に乗ってる奴が悲しむわけじゃない
セカイは当たり前以外の選択肢を与えられていないから
そんなに、悲しむようなことじゃない

ワンダフルワールド
あんたは普通に生きてる
働き、メシをつくり、ゴミを出し
それと同じようなスピードで
明日、自分の胸を刺すかもしれない
おれを刺すかもしれない
知らない誰かを刺すかもしれない

I wanna be...
ワンダフルワールド
イメージワールド
それは嘘
道しるべを塗りつぶして
みんなで遊んでるだけ
ワンダフルワールド
マインドゲーム
しあわせが適当に分けられますように
あんたに、おれに、知らない誰かに

ワンダフルワールド
おれもあんたらも
たまたますれ違うだけの役割
疲労も絶望も悔恨も回答も
朝になれば忘れ去られる
きれいさっぱりとではなくて
なんとなく曖昧に

世界は誰かのために回ることをしない

おれはまた地下鉄の窓から真っ暗闇をにらみつける



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著作権は作者に帰属する/最終更新日2003.11.15/サイトデザイン・芳賀梨花子