悲歌

原発近くの悪臭漂うドブ川のほとり、 それでも春には溝蕎麦が咲き。 眠る卵は来る年を夢みる。 やわらかな殻をもつカナヘピの卵、 泡をかためたカマキリの卵、 優しい網にくるまれたクモの卵、 米粒より小さなうすみどりの真珠は、 あれは、きっと、白い蝶の卵。 溝蕎麦は強い植物である。 それは汚染に耐え、 土壌を浄化し、 ほのかに赤い花を咲かせる。 だから卵は夢みていられる。 原発近くの悪臭漂うドブ川のほとり、 冬枯れの木を見上げて、 溝蕎麦の種子は来る年を思っている。 また春はくるのだと思っている。